掛川総会2


掛川で行われた第16期総会報告の続編です。前回は、それぞれに魅力のある会員個々人の発表を中心にお届けしましたが、今回は、進行しつつある重要なテーマをめぐって交わされた意見交換や議論をお届けします。
ひとつは、熊本地震後の調査や大工たちによる石場建ての家戻し活動について。もうひとつは、建築省エネ法が一般住宅に適用されることについて新たにつくられた「気候風土適応住宅」という枠組みについて。いずれも「職人がつくる木の家」にとって、最先端の話題です。

壊れない家ではなく
直せる家、戻せる家を造りたい

熊本地震直後に、足元が移動した石場建ての家を元に戻すため、全国各地から10人の大工たちが駆けつけました。その「家戻し」に参加した大工の宮内寿和さん、金田克彦さん、増田拓史さんの3人が「あらためて思うこと」をみんなの前で自由に話しました。

熊本での「家戻し」に参加した大工たち:左か増田拓史さん(三重)、金田克彦さん(京都)、宮内寿和さん(滋賀)

家が長持ちするとはどういうことか。頑丈な壊れない家をつくったとしても、それを上回る自然災害があるかもしれない。人間の力にはかなわないことが起きた時にでも、まずは人命を守れること。そして、なにかダメージを受けた場合でも、回復できること。それが大切ではないか、という話になりました。

壊れても、直せる。動いても、戻せる。そんな家であるために、大工としては、直しやすく、戻しやすく作ることを心がけたい。今回の家戻しでは、家をジャッキアップして持ち上げ、すべりやすい材料を足元に入れて移動する、という方法で家を元の位置に戻しました。

土間コンと足固め、テフロンシート
反力の確保が成功要因

どうして「戻せた」のか。3つの要因があげられました。

構造柱の足元の石の下には、それぞれ独立基礎があるのですが、床下全体に土間コンクリートが打ってありました。そのため足固めにジャッキをかませて家を持ち上げることがやりやすかった。それが一つ。

2枚の白い紙のようなものがテフロンシート

二つ目は、家を移動する時に、摩擦係数の小さい「テフロンシート」を使えたこと。持ち上げた上部構造と、礎石との間にテフロンシート2枚と板をはさみました。家の重量はおよそ40tもあります。そのままの重さではなかなか動かないですよね。接し合うのが礎石と柱でなく、間にはさまったテフロンシート同士なら、滑りやすくなって、動くかも?というわけ。重機を使わず、レバーブロックなどの手道具で、およそ10tの力で動かすことができました。

引っ張るための反力の確保 (イラスト:増田 拓史)

三つ目は、反力をとる工夫ができたこと。レバーブロックで家を引っ張るためには、支点が必要ですが、それがなかったので土間コンに「ケミカルアンカー」を打ち込み、そこに家に結びつけたワイヤーを引っ掛けました。「石場建ては動くこともある、という前提で、こういう支点をあらかじめ作っておくのもいいかも」という話になりました。押す時の反力は、ブロック塀でとることができました。「押す場合はここ、引く場合はここ」とあらかじめ備えておけば、素早く対応できます。

仲間たちで気持ちよく
協働作業

初めての現場の条件をすばやく読み取り、みんなで「こういう工夫で行こう!」という意図を共有し、お互いを見ながら、自分の持ち場で動ける。そんな「阿吽の呼吸」は、それぞれの地域でがんばってきているから、そして、総会などで顔を合わせる機会が多いからこそでしょう。素敵な3人のすばらしいトークでした。

地震調査に行った
二人の設計者のトーク

同じく、家戻しの前に熊本地震の調査に入った川端眞さんと和田洋子さんが、印象に残ったことを語りました。

共通していたのは「2000年耐震基準を守っている(と思われる)建物は、大きな被害が見られなかった」ということです。1981年に建築基準法は「新耐震基準」と呼ばれる改正をしました。その後、阪神淡路大震災を受けて2000年に定められた基準では、木造住宅の基礎の仕様や、柱頭、柱脚、筋交いなどの接合部の接合方法について、地震の教訓を生かして具体的に仕様規定を加えました。

確認申請の必要がない地域では、建築基準法で定められた仕様を守らずに施工してしまうケースもなくはありません。けれど、今回の被害状況を見て「2000年以降に建てられたと思われる住宅は被害が少ない。同じ確認申請を要する地域でも、2000年以前の建物と以降の建物では被害状況が違ったそうです。「基準や構造計算は単に法律や計算ではなく、実効性がある」と実感したとのことでした。

川端眞さん(滋賀):「石場建てだから地震の時に必ず動く、というわけではないんです。動かないで済むなら、そりゃ、その方がいいでしょ?」

川端さんは、石場建ての建物で、同じような揺れを受けながら、足元が動いたものと、そうでもないものとがあることについて、なぜなのかを考えたといいます。上部構造がやわらかめの建物は足元がほとんど動いていない、逆にかたい建物は足元が大きく動いていると見ています。江戸や明治に建てられて残っているような石場建て建物では、揺れて元に戻っているようで、柱は足元の基礎石から動いていない状況を観察することができたそうです。

和田洋子さん(岡山):「柱は太ければ太いほど丈夫っていうわけじゃない!ってことを実感しましたね」

和田さんは、通し柱の太さと被害状況との相関関係について考えました。通し柱が太ければ太いほど、地震に耐えるように思われがちですが、構造計算では不必要に太すぎる柱はNGとなりますが、実際の被害でも、太い柱が折れる被害があったそうです。和田さんは、通し柱の樹種や太さに応じて、耐力や破壊する力がどのように変化していくかをシミュレーションして発表してくださり、興味深かったです。

当日、総会に出席していた新会員の山下大輔さんは、鳥取県鳥取市からの参加。総会の前の日に、震度6の揺れを観測した鳥取中部地震を体験されています。入会して初めての総会で、生身で体感したことと重ね合わせて発表を聞いておられたようです。

山下大輔さん(鳥取):地震の翌日に、よく来てくださいました!ありがとうございます。

瓦、土壁・漆喰塗壁の
再評価キャンペーン

次に、実際に被災された古川さんから、調査や家戻しに駆けつけた木の家ネットメンバーへのお礼の挨拶がありました。

古川保さん(熊本):「伝統的な家は地震に弱いかのように報道されてしまっている。土壁や漆喰は塗り直せる。瓦はガイドライン工法でやり直せば、その後は大丈夫。そういうことを広めていきたいですね」

古川さんは地元で「瓦屋根や土壁・漆喰壁が地震に弱いのではない」というキャンペーンを張っています。2000年に瓦組合で定めた「ガイドライン工法」を守って施工した瓦屋根にはほとんど被害はありませんでした。それ以前の土葺きの古い瓦屋根が多く落ちていたことから、あたかも「瓦屋根そのものが地震に弱い」かのように思われていますが、そうではないのです。また、費用面から考えても、予備の瓦材を常備しておいて、壊れた部分だけ葺き直す方が、瓦屋根を全面的に軽量屋根に取り替えるより費用も少なくて済みます。

応援にかけつけた大工たちが、ずれたり割れたりした瓦をおろし、新しい瓦を葺き直している様子

土壁や漆喰壁は、1/90(柱の上端で3センチ程度)傾くとヒビが入ります。しかし、中の貫や柱・梁は被害を受けていないことがほとんどです。真壁の家は、構造が直接見えているので、どこをどう直せばいいかわかりやすい。むしろ、大壁でふさがれていて、中の構造を確認できない家の方が、被害の度合いを把握できず、怖いのではないでしょうか。また、高断熱の家では断熱材が大壁内部に充填されますが、地震で防湿層が寸断された結果、内部でカビが発生したり、充填された断熱材がズレて「隙間無く施工」という状態でなくなるため、断熱効果が著しく下がってしまうことも懸念されます。

「地震に強い家を求めるのでなく、修繕のしやすい家を造る方が正解なのではないか」と古川さんは言います。そのためには、構造が見える真壁構造、部材の交換がしやすい作りや地盤沈下した時の嵩上げがしやすい作り、屋根が部分的に破損した時に瓦を取り替えられるよう予備を備えておくことが大事だということがよく分かりました。

震災後の建物対応を考える
京都での報告・意見交換会

総会には来られなかった鈴木有先生から、2016年5/19、6/10と2回にわたって、京都建築専門学校 よしやまち町家校舎で開かれた「2016年熊本地震 被災の現状と震災後の建物対応を考える」という会合の論点のまとめが配られました。表紙、目次をのぞいて24ページにわたる、充実した冊子となっています。

『2016年熊本地震 被災の現状と震災後の建物対応を考える』の紙面

会合は、熊本入りした実務者からの報告と、それをめぐっての討論という形で行われました。初回5/19の会合では、これまで新潟での地震以降、各地での地震後の修復や復興に携わってきた長谷川順一さん、伝統木造建物の被害状況を視察した川端眞さん、熊本での相談支援活動をされた「まち・コミ」メンバーの堀田典孝さんと田中嘉之さんが報告をされ、会場のメンバーとの間で、応急危険度判定の問題点、大量にでた建築ゴミの処理の問題が語られました。

6/10の会合では、初回にあげられた問題点を受けて長谷川さんが被災建物への対処上の問題、応急危険度判定の課題、非指定文化財や歴史資料の救出について、川端さんと宮内さんが滑動した石場建ての「家戻し」プロジェクトについて、田中さんと堀田さんが引き続き被災者に寄り添い、人と人とのつながりを大切にした支援について、報告されました。

その後の討論では、復興に至るまでの道筋と公的制度のあり方、ボランティアによる支援活動のあり方、伝統木造建物の建物被害の評価や石場建ての滑動への対処、災害に備える家づくりのあり方など、多角的な論点が展開されました。

2020年問題は
「気候風土適応住宅」で乗り切る

一方で、2020年からは一般の小規模な住宅にも適用されるようになる「建築物省エネ法」についても、どのように対応していったらいいのか、綾部孝司さんと古川保さんから報告がありました。

綾部孝司さん(埼玉):「気候風土適応住宅という枠組みができて、伝統木造住宅の省エネ性を評価することに一歩近づきました。「外皮基準に適合させることが困難だから」というのでなく、むしろ環境負荷の少なさにおける優位性を示していけるようになるといいですね」

当初は「省エネ法が義務化すると、土壁や縁側、木製建具などを使った家づくりができなくなるのでは?」というほどの危機感が高まる状況でした。しかし、ここ数年、パブリックコメントへの意見を提出したり、木の家ネットのつくり手がJIAや建築研究所による伝統木造の温熱環境性能や一次エネルギー消費量実態調査に施工事例に関するデータを積極的に提供してきたことなどが効を奏し、明るい兆しが見えてきました。

具体的には、伝統的木造住宅が「気候風土適応住宅」としてその価値が認められることによって、省エネ基準で要求される数字、温暖地にあっては「0.87以下」を満たさなくてよいことになります。これまであきらめずに動いてきて、よかったです。

各地での実務者から
特定行政庁へのはたらきかけを!

何をもって「気候風土適応住宅」と認定されるのかについては、地域ごとに気候風土が著しく異なるため、国が認定のためのガイドラインは示すものの、認定基準については、各都道府県の建築主事の居る特定行政庁に任されることになります。建築士会連合会では、全国各地で、それぞれの地域の気候風土に合った家づくりを継続できるよう、各都道府県の建築士会から特定行政庁に対して積極的にはたらきかけて、地域に合った認定基準作成にむけて恊働するよう呼びかけています。特定行政庁と実務者とで意見交換をしながら、その地域らしい認定基準を作っていけると良いですね。

国が基本方針を示したガイドラインでは、外皮基準に適合させることが困難と想定される要素の例として「縁側、小屋組+野地あらわし、土壁塗り、板壁両側真壁、石場建て」など、職人がつくる木の家で施工している要素が多く列挙されています。

国土交通省住宅局住宅生産課 発行資料

綾部さん、古川さんからは「それぞれの地元で認定基準策定に関与していけるよう、木の家ネットのメンバーも建築士会や特定行政庁に対してアプローチをしてほしい」とのメッセージがありました。

京都、熊本、埼玉など、すでに動き始めている地域の進捗状況に注目しながら、お互いに情報交換して「先行事例」を作ったり、追ったり、改変したりしながら、全国でそれぞれの気候風土や生活様式に合った家づくりができるようにしてきましょう!木の家ネットでも、こうした動きをフォローアップしていくコンテンツを発信し続けていきます。

参考資料

■ 所轄行政庁が地域の寄稿及び風土に応じた住宅であることにより外皮基準に適合させることが困難であると認める際の判断について(技術的助言)
http://www.mlit.go.jp/common/001126016.pdf

■上記の具体的な例示は、一般社団法人 日本サスティナブル建築協会 H28.9月発行「気候風土適応住宅認定ガイドラインの解説」にあります。
http://www.jsbc.or.jp/document/files/house_kikou_guideline.pdf

宴会で会員同士が親しく交流

初日の夜には、恒例の大宴会。一年ぶりに顔を合わせるメンバー同士が酒を酌み交わし、楽しく話に花を咲かせていました。

宴会場の片隅では、総会プログラムの延長で、込み栓角ノミをはじめ、手刻み用の電動工具に触れながら、松井鉄工所の社員の方と意見交換を深める場面も見られました。

親子での参加も一定数ありました。高いところに登る子あり、スイートポテトやイナゴの佃煮を売って小遣い稼ぎする子あり・・一緒に走り回ったり、笑い合ったり。どんな大人に育つのか、楽しみです。

次回総会は倉敷で!

二日目の総会の最後には、次期総会が岡山県倉敷市で2017年10月21日(土)ー22日(日)に開催されるとの予告がありました。石場建てや古民家改修などでいっしょに家づくりをしている岡山の会員の和田洋子さん、山本耕平さん、ジョン・ストレンマイヤーさんの3人が、会場となる大原美術館の中にある「新渓園」の素晴らしい日本家屋の写真を見せてくれながら、参加を呼びかけました。

ジョン・ストレイマイヤーさん(岡山):倉敷は素晴らしいところです! 皆様のおいでを心よりお待ちしています。

次期総会のテーマは「改修・再生事例」とのこと。互いに事例を発表し合う中で、情報交換をし、議論を深めることができそうで、期待が高まります。5月末をメドに事例を持ち寄れる有志を募っていて、発表者が続々と集まりつつあります。楽しみですね。