天災と人災による木質基準の変遷

日本は地震国。地震被害があるたびに、建築や都市計画を規制する法律が施行されてきました。その流れを山辺構造設計事務所 山辺豊彦先生が緑の列島ネットワークMOKスクールの講義資料として整理されたものを、ご厚意により転載させていただきました。(一部、木の家ネットで編集を加えてあります)

立法化以前 大工棟梁の伝統的技術により強度は確保される
1891(明治24)
濃尾地震M8.0
レンガ造、石造の被害大→木造の耐震研究始まる
1897(明治30) 鉄骨造、鉄筋コンクリート造が伝来
1894(明治27)
「木造耐震家屋構造要領」
1) 基礎構造に注意する
2) 木材の切欠きを出来るだけ避ける
3) 接合部には鉄材(金物)を用いる
4) 筋違い等の斜材を用いて三角形の架構を造る
1920(大正8)
「市街化建築物法」
高さ制限(15.2m以下、3階建て以下)
木材の防腐措置
ボルトなどによる継手・仕口の緊結
掘立柱の禁止、柱下への土台の設置
土台・敷桁の隅部への火打ち材の使用
柱の小径の規定
柱の切欠きに対する補強
筋違いの使用(3階建のみ)
張付石(基礎)の厚さと軸部への緊結
1923(大正12)
9.1 M7.9 関東大震災
火災による2次災害
レンガ、石造:倒壊率80%超
下記の問題点を持つ木造倒壊
・地盤が悪い
・基礎:石積み、玉石
・壁、筋違い不足
・柱細く、少ない
・柱、梁、土台の緊結不十分
・土台、士口の腐朽
鉄筋コンクリート造の開発
1924(大正13)
関東大震災を受けて「市街化建築物法」改正
柱の小径の強化
筋違い、方杖の設置義務付け(3階建て)
高さ制限(12.6m以下)
1926(大正15)
剛柔論争始まる
強固な骨組みと壁で対抗する西欧型「剛構造」派と、
五重の塔のような「柔構造」派との間で「剛柔論争」(〜昭和11)
決着はつかなかったが、流れは剛構造派寄りに展開
1934(昭和9)
室戸台風
木造小学校の被害大
計算方法の見直し
・長期と短期の2段階
・終局強度型の計算
1948(昭和43)
福井地震M7.1
直下型地震
木造家屋の被害甚大(軟弱地盤)
1950(昭和25)
「建築基準法」
筋違いの必要量の規定
梁中央部下端の切欠き禁止
1959(昭和34)
「建築基準法」一部改正
必要壁量の強化
1964(昭和39)
新潟地震M7.5
液状化現象
1968(昭和43)
十勝沖地震M7.9
鉄筋コンクリート短柱の破壊
1971(昭和46)
「建築基準法施工令」改正
基礎を鉄筋コンクリート造とする
木材の有効細長比<150
風圧力による必要壁量の規定
ボルト締めにおける必要座金
防腐防蟻措置
1978(昭和53)
宮城沖地震M7.4
ピロティーの破壊
偏心の影響
ブロック塀の倒壊被害
1981(昭和56)
新耐震設計法
軟弱地盤における基礎の強化
必要壁量の強化(変形角の制限)
風圧力の見付面積算定法の変更
1983(昭和58)
日本海中部地震M7.7
津波
液状化
1987(昭和62) 柱・土台と基礎をアンカーボルトで緊結する
集成材の規定
3階建ての建物の壁量、計算規定
1995(平成7)
兵庫県南部地震M7.2
大都市直下型地震(活断層、上下動)
ピロティーの破壊
中層建築の中間層破壊
鉄骨極厚柱の脆性破壊
木造(軸組)建築の破壊
2000(平成12)
「建築基準法」改正
耐力壁の釣合いの良い配置の規定
柱、筋違い、土台、梁の仕口緊結方法の規定
基礎形状(配筋)の規定
2000(平成12)
住宅の品質確保促進法
耐震・耐風・耐積雪の等級を示す
性能規定が追加される
2003(平成15)
12月 土壁告示
土塗壁の壁倍率1.0と1.5が追加になる!

2008年1月31日:少人数で国交省との直接交渉

前回のセミナーでは未回答の項目について回答を得るために、5団体からそれぞれ2〜3名ずつ出席して、霞ヶ関の国土交通省に出向きました。建築指導課の小野田さん、木造住宅振興室の天田さん、そして大橋好光先生が回答側として出席。

大橋先生は今、伝統構法の要素を建築基準法にのせる根拠となる実験を推し進めているキーマン。土壁の耐力を壁倍率として位置づけた仕様規定を策定するにあたっても、大橋先生の実験がその元データとなりました。(木の家ネットの第三期犬山総会では、土壁告示を出すに至ったいきさつについて、講演会をしてくださいました。その時の記録はこちら)昨年末にも「伝統的な要素を組み込んだ壁実験をするので、要素出しをしてください」という呼びかけをいただき、木の家ネットからも現場としての提案をするなど、コンタクトを取り続けています。

詳細な回答は速記録を整理ができ次第掲載しますが、小規模な木造2階建て程度(4号物件)の建物に限界耐力計算法を用いる場合に使える簡易式をつくっていこうと考えている、ということでした。これができると、ピアチェックにまわすことなく、石場立てなど、限界耐力計算法を用いて構造安全性を証明することができるようになるので、期待したいところです。

「問題は、みなさんが考えておられる伝統構法とはなにか、ということです」と大橋先生は言います。伝統構法といっても、基礎ひとつをとっても、基礎のない石場立てから、基礎あり土台敷きでアンカーボルトで基礎と建物を緊結させる在来工法までさまざまです。地域性や施工者の考えによる幅もあり、かなり多様です。とはいえ、簡易式をつくるには、なにかをモデルにしなければなりません。「どんなモデルをつくってもみなさんは『これは違う!』とおっしゃるのではないかと危惧しています。せっかくつくるのですから、みなさんからモデルをあげてください」というのが、大橋先生から5団体への要望でした。

4号物件のための、ピアチェックにまわすことなく、現場の実務レベルでで使える簡易式ができるまでには、モデルをつくり、実験をし、解析の上で法案化する、というステップが必要で、早くても2年ぐらいはかかりそうです。特に大橋先生が実験のための前提となるモデルをつくるまでに現場からの要望をどこまで形にできるか、伝統構法を未来につなげるためには、現場側の責任も大きいのです。

2007年12月7日:第二回セミナー

住宅新聞071215
第二回セミナーは、民家リサイクル協会、緑の列島ネットワーク、伝統木構造の会、曳家協会との5団体共同で開催しました。国土交通省側は、木造住宅振興室からは越海室長と天田さんが出席。建築士指導課からは出席予定だった小野田課長補佐が急遽来られなくなり、竹原さんが代理で出席。基準法改正問題の余波があって対応に追われているのか、国土交通省からの出席者は予定より短時間で入れ違いに退席されるようなとてもバタバタとした情況でした。

そんな中でも、5団体からの質問をまとめた統合質問書に沿って早足での質疑応とがなされ、いくつかのことは、確認されました。
(住宅新聞の記事をご覧ください)



※5団体からの統合質問書のPDFファイルはこちらにあります。

  1. 12月に予定していた確認の特例廃止については、もう少し時間をかけることにした。
  2. 特例廃止にともなう提出図書の内容については、現場に負担をかけすぎないように配慮する。
  3. JAS材でないとダメになるのではないか?というのは風評
  4. 古材にも、新材と同じ早見表による樹種ごとの強度を認める

など。

ただし次の点は確認されないままに終わったので、後日、セミナー形式ではなく、5団体の代表で国交省に赴き、文書での回答を得ることになりました。

  1. 4号物件で限界耐力計算を用いる場合に、ピアチェック送りでなく地方の審査期間でできないか?
  2. 既存不適格建物の増改築がしにくくなると「古い建物は壊すしかない」という認識が広がりかねない。社会的ストックの重視、町並保存といった点から、いかがなものか?

※第二回セミナーの速記録のPDFファイルはこちらにあります。

総会の詳しい報告は、第七期総会 徳島大会報告をご覧ください。

2007年11月9-11日:木の家ネット第七期徳島総会、第二回セミナーに向けて話し合い

セミナー開催の一ヶ月半後、第七期を迎えた木の家ネットの総会が徳島で行われました。総会で第一回セミナーの報告をし、セミナーに出られなかったメンバーも合わせて深く話し合い、第二回セミナーにむけての質問事項をとりまとめていこう、ということを総会の目標のひとつに据えました。

総会は総会前日の徳島林業試験所での杉材の破壊実験とTSウッドハウス協同組合の山での伐採を見学するオプションツアーを含めて3日間の行程でしたが、第一回セミナーに出席した大工の宮内さん(滋賀・宮内建築)の呼びかけで、オプションツアーには大勢の大工が集まり「大工サミット」で前回のセミナーで話されたことの情報共有、意見交換が夜を徹して行われました。(これは前々週に山梨の木の家ネット事務局に数名の大工が集まって下準備をした上でのことでした)

法律関係のことになるとどうしても設計士まかせになりがちなところ、大工も主体的に考えていこう、ということで、基準法改正問題に端を発した基準法における伝統構法の位置づけを求める気運が、木の家ネット全体に広がったという感のある総会となりました。

総会の詳しい報告は、第七期総会 徳島大会報告をご覧ください。

2007年9月14日:住宅研修財団にて、5団体共同での第一回セミナー

2007年6月の基準法厳格化改正について、国土交通省に意見を伝えようという動きは、木造関係の諸団体に広がっていきました。そして、9月14日(金)、民家リサイクル協会、緑の列島ネットワーク、伝統木構造の会、大工塾、QBC優良工務店の会との共催で、QBCの元締めであり、大工育成塾を推進している住宅研修財団(松田妙子理事長)で、国土交通省との担当官とのセミナーが開催されました。木の家ネットからの参加者は30名。総勢では70名を越える参加者が席を埋め尽くし、会場は熱気にあふれました。

事前に国道交通省に届けられた各団体からの質問事項に対して、建築指導課の今村課長補佐が応答していくという形でセミナーは進みました。はじめのうちは、厳格化ということが耐震偽装がこれ以上出ないように必要であることを強調しながら、厳格化による混乱は収拾する必要があるものの、方向性自体は変わらないという説明が主でしたが、時間が経ってやりとりが深まって行くうちに、今回の厳格化が伝統構法の存続を左右するものでもあることが、伝わっていったようです。時間の最後には、水流建築指導課長が「今後もこういったセミナーを続け、伝統構法を先につなげるための議論を深めましょう」と次回の開催を約束する、というよい流れになりました。

セミナー終了後、その場で他団体との交流の時間を少しもち、各団体の連携をはかるために、団体間の有志によるメーリングリストを組むこと、次回のセミナーにあたっては、質問書を一本化することが協議されました。その後、場所を航空会館に移して、木の家ネット内で、これからどうしていったらいいか、という意見交換をしました。

そこで決まった主なことは、次の通りです。

住宅は国民のもの。
2階建木造(4号物件)程度だったら、
どんな工法であっても、地域の大工・工務店が不自由することなく
申請でき、審査してもらえる仕組みがあってよいはず。
(伝統構法がその例外とならないようにしてほしい)
伝統工法を法律に適合させる方法については、性能規定(限界耐力計算)と仕様規定との両輪で考える必要がある。

【性能規定(フリースタイル いまのところ限界耐力計算が必要)】

  • 仕様規定では建てられない、石場立てや足固めでも解ける
  • ただし、こんどの法改正でピアチェックにまわされることになってしまった。
  • 4号物件程度だったら地域の確認審査機関で確認をおろしてもらえるようにする。
  • せめて全国ブロックごと(関西、関東、中部・・)4号物件を審査する専門機関をつくっては?
  • 地域の審査機関が限界耐力計算が分からないことが原因なら、ともに勉強会を行ってもいいのでは?

【仕様規定】

  • 誰でも簡単に使えて便利だけれど、地域差のあるさまざまな工法を仕様規定化するのがむずかしい
  • 基礎の上に土台が乗る、という基準法の前提ははずれない
  • いったん仕様規定が法律化すると、なかなか動かしがたいものとなるおそれもあるので慎重さが必要

    できていく仕様規定が使えるものになるように、国や研究者に対して現場からの情報提供をする。データをとるための実験に際して「試験体をつくる」などの協力をしよう。

2007年7〜8月:木の家ネット会員からの意見の吸い上げとまとめ

2007年6月、耐震偽装防止を目的に建築基準法の適用が厳格化されたことにともない、これまで建築主事の判断でおりていた確認申請がおりにくくなり、着工が滞るなどの混乱が起きました。木の家ネットでも、メーリングリスト等での情報共有、意見交換が活発に行われました。厳格化の動きを木の家ネットのつくり手メンバーは次のようにとらえました。

  1. これまで建築確認等がいい加減過ぎた部分もあるので、住まい手の利益を守るためには、ある程度の厳格化は受け入れるべき
  2. しかし、厳格化によって、伝統構法の建物が建てにくくなったり、既存建物の改修ができなくなるのは困る。

2)について、会員間での意見集約をし、その結果をまとめて、国土交通省にもっていこう、ということになりました。
主な論点は、次の通りです。

4号物件の限界耐力計算について

限界耐力計算を用いる場合は、小規模な木造2階建てであっても、ピアチェック(構造適合性判定)にまわさなくてはならなくなった。(各県ではなく中央送り。費用も時間もかかる)2000年以来、性能規定が認められるようになり、せっかく限界耐力計算で伝統構法の家の構造安全性を証明できるようになったのに、ピアチェックとなると施主負担も大きく、伝統構法の家づくりを進めるという点では、後退している。

既存不適格建物の増改築について

2006年の改正以来、既存不適格建物の増改築がしにくくなっているが、厳格化でそのしにくさがますます硬直する。古民家の改修などができなくなるのでは?

確認の特例の廃止について

2008年12月に予定されている「確認の特例の廃止(建築士が確認申請をする場合には、建築士が出しているという信頼のもとに、詳細な図面等の提出を求めないとする特例)」にともない、確認申請の書類作成作業が膨大になるのでは、と懸念する。

以上の論点を質問書としてとりまとめ、8月30日に国道交通省木造住宅振興室に提出しました。

質問書をダウンロードする

2007年6月:住宅瑕疵保証制度義務づけの法律が可決される

施工者は不良建築に対して、どう責任をとるのか?
2009年10月から、瑕疵担保責任が義務づけに

建てられた住宅に問題があった場合、誰がどのように保障するのか、といったことは、以前から問題になっていた。2000年に品確法により、施工業者は、新築住宅の主要構造部分や雨漏りに関して引き渡し後10年の保障を義務づけられていたが、その施工会社が倒産してしまえば、消費者は、瑕疵部分(=傷、不良などの問題点)が10年以内に発見されても保護されないという事態に陥っていた。

2006年12月、改正建設業法では、すべての建設工事を請け負った者が、瑕疵担保責任を果たすための保険や第三者保証に加入しているかどうかを請負契約書に記載することを義務付けられるようになった。また、改正宅建業法では、瑕疵担保責任を果たすための保険などに加入しているかどうかを、重要事項説明書の対象に加えることが、決まった。施工業者が瑕疵担保責任をどのようにとっているのか、明らかにしていく流れの延長線上で、2007年5月はついに、新築住宅の売り主や施工した業者に瑕疵担保責任を義務づけるための法律「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」が国会で可決成立した。

この新法では、構造計算偽装問題を契機に一歩踏み込んで、売主、施工業者の瑕疵担保責任を履行させることになった。具体的には、2009年10月1日以降に完成引き渡しする住宅については、その売り主、施工業者は、法務局に保証金を積むか、保険に加入するかのどちらかによって、瑕疵担保責任を果たすための資力、つまりなにか建物に不備があった場合にそれを保障するだけの資金を確保しておきなさい、という法律である。

施工不良がなくても、
積まなければならない保険金

法務局に保証金を供託する制度を利用できるのは、資金的に余裕のある大手ハウスメーカーなどの大企業ぐらいで、資金的に余裕の少ない中小零細企業は自動的に保険に加入させられることになる。瑕疵担保責任の履行を義務付けられるのは、施工業者の場合、建設業許可を取得している業者だけだが、前項で紹介したように、保険加入の有無を明らかにする制度がすでに導入されているので、すべての業者が対応しなければならなくなる公算が大きい。延べ床面積150平米以下の木造住宅は建設業許可がなくても工事できるので、消費者とひざをつき合わせて実直な家づくりをしている町場の工務店や職人の中には、建設業許可を取得していない業者も少なくない。しかし、彼らにも負担はのしかかるのである。 

消費者をだまして、いい加減な建物を建ててきて、売った分譲住宅会社や建設会社のために、ちゃんとした建設会社や工務店まで、保険に加入させられて、問題を起こさなくとも、保険金だけは分担させられるというわけで、真面目に施工に取り組んできた会社にとっては、いかにも腹立たしい法律である。消費者保護の観点から施行されるというのだが、結局のところは消費者が間接的にその保険料を負担させられる恐れすらある。 

無垢の木材が
不当な差別を受けないように 

保険の内容はこれから明らかになってくるので、現段階では何ともいえない部分もあるが、こうした制度が導入されることによって、無垢の木材が不当な差別を受けることになりかねないという
懸念もある。 

瑕疵担保責任を果たすための保険というのは、既存のものがいくつかあって、その中には対象となる住宅に使われる材料に条件を設けているものがある。具体的な例としては「無垢材の場合は含水率20%以下」でなければ加入できない保険がある。今回導入された新しい制度では、保険加入者に不当な条件付けを行ってはいけないことになっているので、建築基準で認められているものであれば、使用する材料の種類で保険に加入できなくなるということにはならないだろう。だが、材料の種類によって保険料に差をつけるという措置が取られる可能性がないとはいえない。 

例えば、集成材や含水率20%以下の人工乾燥材は保険料が安く、含水率が20%を超えるが質的には何ら問題のない天然乾燥材の場合は保険料が高くなるといった形にでもなればどうなるか。2000年に品確法が導入されたときには、製材を使うことで不利な評価に甘んじなければならないというような不具合を避けようとするあまり、集成材へのシフトがすさまじい勢いで進み、無垢材を生産している国産材業界は大きな打撃を受けた。今回の制度に基づく保険の内容次第では、同様のことが起きる恐れがある。良質な無垢の木材を市場に提供している業者やそれを使っている大工や工務店が、これからも木の家づくりに携わっていけるような制度であるべきだと強調したい。 


瑕疵保障責任制度は
住宅の質をあげるのだろうか?

このような法律が施行されることは、反面、保険があるから手抜きや不良工事をしてもいいか、という安易な考えから、いい加減な家や10年しか持たないような低寿命低質な住宅がより増えることも懸念される。喜ぶのは、まずは、新たな保険の創出で当分の間は忙しい保険会社の営業マンと安売りハウスメーカーかも・・・住宅の質の低下の歯止めになるはずもない。

(職人がつくる木の家ネット運営委員/大江忍・赤堀楠雄)

2007年6月:厳格化を旨とする改正基準法施行

性悪説にもとづく「厳格化」に向かった
2007年6月の改正基準法

2006年に姉歯事件が起こった。この耐震偽装問題に対処しなければならないと、国土交通省は国民の安心安全をうたい文句に、建築基準法改正をおこなった。改定の大きな柱は、建築確認における審査の厳格化と構造計算適合性判定の新設だった。

以前は、建物の安全性については、国が資格を与えた専門家である設計士にある程度の信頼と裁量とが与えられていた。だが、無条件な信頼の裏で、大切なことをごまかすつくり手があらわれた。姉歯事件をはじめとする耐震偽装問題がそうだった。そのようななことが二度とおきないよう、これからは性悪説でいこう。それが厳格化のもとにある精神だ。

審査の厳格化:つくり手にとっては
書類作成の負担が増えることに

厳格化はまず、チェックする必要のある事項を書類として提出させ、チェックしやすくする書類主義として、あらわれた。ひとにぎりのいい加減なつくり手のために、良心的なつくり手にまで、書類作成の負担が増える結果となった。

書類主義は当初、誤字脱字の修正をも認めないほどで、改正当時には大混乱が起きた。後日、修正程度は可能という通達が出たものの、審査のための書類作成の負担は重いままだ。

審査の厳格化:審査側が判断をおそれる中で
「グレー」な伝統木造は建てにくくなる

チェックする側の専門家である建築主事にも「厳格化」はふりかかった。それまで、現場の「主事判断」としてある程度の裁量が認められていたのが、改正以来、不備をチェックしのがした者にも厳格な処分が下るようになり、建築主事は判断することをおそれるようになった。

物事には白・黒・グレーが存在し、事象のほとんどはグレーである。明らかな白以外は黒にしておかないと、まずいことになりかねない。そのようなおそれが判断を硬直化させ、白以外は黒、ということが増えた。つくり手の創意工夫もは認められなくなることが増えた。

建築基準法の仕様規定にはのりにくい伝統木造はもともと「グレー」な対象であることが多い。それでも改正以前は「主事判断」で柔軟に対応されてきていたのが、硬直化してしまったため、建てにくい状況が続いている。

「性能規定」でせっかく開かれた道が、
「構造計算適合性判定」でまた険しくなってしまった

改正基準法では、厳格化を実現するために「構造計算適合性判定」というしくみを新設した。姉歯事件で問題になった耐震偽装を見破れなかったことの反省として、限界耐力計算のような特殊な構造計算をする場合には、たとえそれが2F建ての木造住宅であっても、大規模建築物と同等の「指定構造計算適合」の扱いにする、ということにしたのだ。

「構造計算適合性判定」となると地方の判定機関では審査を行うことができず、ほとんどの地域で、東京の日本建築センター送りになる。費用は23万円がプラスとなり、審査期間も70日である。たかが住宅なのに、ビルやマンションと同じ扱いだ。これだけ費用や審査期間がかかるとは、木造住宅の施主となる個人にとっては、あまりにも高いハードルだ。2000年に性能規定ができ、伝統構法による運用マニュアルが2004年に出て、全国で木造の限界耐力計算の学習会が始まったばかりなのに、せっかく開かれた道を歩ける人がいない。

改正基準法が施行されて半年以上も経つのに、木造住宅の限界耐力計算の建築確認はまだ全国でたった1件しか下りていない。伝統構法を愛する大工職人にとって、かすかな光が見えてきたと喜んでいたのに、その光がまた、消えようとしている。

(職人がつくる木の家ネット運営委員/古川保)

2007年2月:E-ディフェンス伝統的建物の実大振動実験(京大防災研)

2005年の京町屋実験に続く
伝統木造建物の実大振動実験

これまでつくり手の経験の上では分かっていたものの、科学的・客観的な検証がなされてこなかった伝統構法木造建築物の性能をどう評価したらよいのか、ということが阪神大震災以後、研究者の間でもようやく課題となってきはじめた。

京都大学防災研究所の鈴木祥之教授は、限界耐力設計法で伝統構法木造建築物の構造安全性を証明できないかというテーマの研究をしている。教授は2005年11月、兵庫県三木市にオープンした、実大建物を乗せることのできる大きな振動台で、実際の地震波と同じ力を加える実験をできる「E-ディフェンス」という施設で京町家を試験体とした実大実験を行い、その耐震性を検証するためのデータを収集した。

さらに2007年1月から2月にかけて、京町家の実験で未解明な部分に特に焦点をあて、石場立ての伝統木造建物の実験を行った。

実験で確かめたかったこと、
収集したデータ。

  • 木造建築物の柱脚仕様の影響(柱の足元を固定せず石の上に乗せただけの「石場立て」は、基礎の上に敷いた土台に柱を固定した「土台仕様」と比べてどうなのか)
  • 建築物の水平構面の影響(かためた床とかためない床とでは、どう違うのか)
  • 鉛直構面の偏芯の影響(耐力壁の配置の偏りは、どのように影響するのか)
  • 小屋組仕様の影響(屋根の方向性や重さは、どのように影響するのか)

以上の内容を確かめるために、実験体は石場立て仕様3体、土台仕様を3体作成し、水平構面がそれぞれ剛、中、柔で作成された。また、小屋組の影響を確かめるために、柱脚の仕様は石場立てとした、屋根が妻入りおよび平入りの2タイプの実験体が作成された。

実験は5日に分けて行われたが、最初の3日間では石場立て仕様と土台仕様の2体を並べ、各日ごとに床の仕様を変更し、同時に地震波を加え、耐力壁の位置を変更しながら、偏芯の影響や柱脚仕様の違いによる挙動の違いなどのデータを収集した。後の2日間では、実際の建物に近い屋根付の試験体の振動実験が行なわれ、最終日の2月2日には多くの見学者に見守られ、一般公開された。

先に行なわれた京町家の振動台実験と比べ、やや地味に見える実験だったが、かなり詳細な研究解析用データが得られたようだ。

床や屋根の仕様で、地震の影響は違う。
石場立てでは柱の足元が滑って地震力を低減する。

この実験では床や屋根などの水平構面の仕様が異なれば建物の応答に影響があること、土台を設けない石場立ての場合、柱脚が滑ることより地震の影響が低減される効果が確認できた。ただし、柱脚の滑りが生じる条件や滑り量をどう制御すればよいかという課題は残されたようだ。

実験結果の詳細については、伝統構法木造建物振動台実験研究会(代表 京都大学防災研究所 鈴木祥之)が平成2007年7月に発行した報告書にまとめられている。

伝統構法の建物にも
それなりの安全性がちゃんとある。

私は、研究会の一員として滋賀県の木考塾(木造在来工法住宅を考える会)から参加させていただいた。「昔の建物は地震に弱いのでは?」と言われることも多いが、実際に目の前で実物大の建物が加振された時の振る舞いを見て「結構、伝統木造の建物も、それなりに大丈夫なんだ」ということがよく分かった。「それなりに」というのは、現代工法の建物とは振る舞いはまったく違うが、それでも大丈夫なのだ、という意味だ。耐力を重視する建築基準法の基準にはおさまらないような変形を起こしてはいるが、結果としては復元する。偏芯していても、石場立ての柱が滑ることによって、バランスをとる。長い間築かれて来た知恵でつくられたものには、それなりの道理があるのだな、ということを実感した。

現代工法の建物が地震に対して「かたく」耐えるのとは違い、伝統構法の建物は「やわらかく」地震力をやりすごす。どちらがすぐれているということではなく、双方は「別もの」であり、それぞれに一長一短がある。それぞれの問題点に、それぞれの性質に添った答があるはずだ。ところが、基準法では「かたく」耐える、耐力重視の基準しか位置づけられておらず、伝統構法のような耐力型でない方法は、切り捨てられてしまっている。それとは別の地震に対する構え方が、確かにある。「やわらかく」やり過ごすという性質に合った、建物の良し悪しを判断する基準が、今後つくられていいはずだ、と思った。

多くの人の協力と地道な蓄積の上に
なりたってた実験

なお、この実験は京都大学防災研究所をはじめ各地の大学の研究機関だけでなく、組合等の諸団体の協力により行なわれている。職人がつくる木の家ネットのメンバーの何人かも、材料提供、施工、データ収集などの面で協力している。

実験を遠くから見たり、報告書を読んだりするのではなく、実際の実験の手伝いをすることで、実験の目的や経過、結果などが良くわかり、非常に勉強になった。また、実験は公開実験にどうしても目が行きがちだが、準備は半年以上前から開始され、さまざまな予備実験なども行なわれており、地道な蓄積があって初めて成立するものだと感じた。

(職人がつくる木の家ネット運営委員/岩波正)

2006年9月:住生活基本法 閣議決定

時の政府が国の方向性を決めるのが基本法である。2006年9月「住生活基本法」なるものが閣議決定された。最低限の基準を決めている建築基準法ではとりあげられていない「伝統的な技術の継承や向上」や「地域材、再生建材の利用」まで触れられているすばらしい内容。この基本法をベースに、大工育成塾や木造住宅の耐震性能や耐火性能の検証などの予算が組まれている。

まずは、全文を読んで味わってみてほしい。

基本理念
国民の豊かな住生活の実現を図るため、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、その基本理念、国等の責務、住生活基本計画の策定その他の基本となる事項について規定するもの。

良好な居住環境の形成
住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、地域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、環境の調和に配慮しつつ、住民が誇りと愛着をもつことのできる良好な住環境の形成が図られることを旨として、行わなければならない。

国及び地方公共団体の責務
国は、基本理念にのっとり、住宅の品質又は性能の維持及び向上に資する技術に関する研究開発を促進するとともに、住宅の建設における木材の使用に関する伝統的な技術の継承及び向上を図るため、これらの技術に関する情報の収集及び提供その他必要な措置を講ずるものとする。

住宅の品質又は性能の維持及び向上
○地球温暖化問題や廃棄物問題等の環境問題に対応して、省エネルギー性能をはじめとする住宅の環境性能の向上を図るとともに、住宅における自然エネルギーの利用の促進、森林吸収源対策としての住宅への地域材利用の促進、再生建材の利用の促進や住宅の建設・解体等により生じる廃棄物の削減を図る。
○地域の気候・風土、歴史・文化等に応じた良質な住宅の供給を促進する。

国民の多用なニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備
○良質な住宅の生産・供給体制及び住宅の適正な管理体制を確立する観点から、技術開発、建材等の標準化、技能者の育成等による木造住宅に関する伝統的な技術の継承・発展、地域材を活用した木造住宅の生産体制の整備等を推進する。

環境性能
自然エネルギーの利用、断熱性の向上やエネルギー効率の高い設備機器の使用などエネルギー使用の合理化、断熱材のノンフロン化等について、適切な水準を確保する。また、建設・解体等の廃棄物の削減、解体処理・リサイクルの容易性、地域材・再生建材の利用、雨水・雑排水の処理・有効利用、敷地内の緑化等について、適切な水準を確保する。

日本の伝統木構造を継承しようという基本法の内容はすばらしい。やっと国も、伝統や日本の山を大事にすることに力を入れはじめ、民家再生にも本腰をいれるものだと思った。しかし、建築基準法などで運用される段階にくると、利害や既存法との整合性がからみ、残念ながら基本法の原型は消えてしまいがちだ。

住生活基本法にうたわれていることが現実のものとなるよう、木の家ネットのメンバーは今、がんばっている。

(職人がつくる木の家ネット運営委員/古川保)

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