アルチザン・プロジェクトは日々が「オープンゲンバ」であるほか、月イチの頻度でものづくり現場の見学やものづくり体験ワークショップといたイベントを開催していきます。7月のイベント「泥コン屋さん見学」と「スーパー土練りワークショップ」に参加していた模様をレポートします。

前田優人さん 前田興業
祖父は大工。父の代で泥コン業を始める。よりよい練り土を、と試行錯誤しながら、今日に至る。乾式工法がほとんどになっていく中、土壁の家づくりを背後で支えるかけがえのない存在。

7月19日(日) 泥コン屋さん見学

愛知県豊田市の郊外に前田興業さんを訪ねました。ここでは、荒壁土、棟瓦や熨斗瓦を積む時に使う屋根土をつくっています。集合時間が近づき、何台か連なってやって来た車を、中学3年になる息子さんの樹成(たつなり)君が、駐車場へと誘導。みんなが作業場に集まると、前田さんと奥さん、息子さんの3人が出迎えてくださいました。まずは、このご家族に、感動。

はじめに、この地域でとれる特徴のある「サバ土」とよばれる、花崗岩が風化した、鉄分の多い土を触らせてもらいました。見た目には赤く、触ってみると粒子が粗く、ポロポロと崩れる感じです。「粒子の粗いサバ土、より粒子の細かい粘土や作土、水、そして、藁とを混ぜ合わせて荒壁土(泥コン)をつくります。藁の繊維が発酵して出てくる粘りと分解された藁の細い繊維でつながって、強い壁土になります。粒子の細かい砂と粗い砂利とをセメントやアスファルトといった糊材でかためるコンクリートと同じ原理やと思います」と前田さんは言います。

土に混じった藁が発酵しながら分解していく過程で、土は赤っぽい色から灰色になり、匂いを発しながら、粘り気と強度を増していきます。土と藁と水とをパワーショベルで混ぜ合わせ、ミキサーにかけ、出て来たものをベルトコンベアーですでに発酵の進んでいる灰色っぽい沼に落とす。新しい藁を足しては混ぜ、発酵させるという工程を何度も、時間をかけて、繰り返します。この工程の作業を、前田さんが、実演しながら見せてくださいました。

灰色の沼の表面には、ボコボコと泡がわいていて、太陽の光を受けて虹色に光っています。「足がはまったら抜けませんから気をつけてねー」と奥さんが声をかけてくれます。工場には、古畳の藁床が積まれていました。「稲藁でないとダメ。麦藁や草ではうまくない」稲藁が圧縮されている藁床畳は貴重な材料源。藁床の畳が少なくなり、スタイロ畳に取って代られている現状が頭をよぎり、ちょっと心配になりました。

お父さんがパワーショベルを操っている間、樹成君が「こっちがまぜて日が浅いもの、こっちが日が経ったのです。触ってみてください」と土の固まりを二つ、手のひらにのせてくれました。色、匂い、伸びなどの違いを、観察していると、パワーショベルを下りた前田さんが、「塗ってみる?」と、竹小舞を張った木枠を出してきてくれました。参加者の何人かがコテ板に土をとってもらい、まだ赤い土と灰色に発酵した土とを塗り比べ。まだ赤い土はさらさらした感じで、のびがありません。小舞の表面にはのるものの、向こう側にはみ出すヘソの部分は少ない感じです。灰色に発酵した土はより匂いが強く、コテへの吸い付きがよく、塗ってもコテの動きに沿ってすーっと延びる感じです。小舞の向こうに飛び出す量も多いようでした。うまく表現できませんが「違いがある」ことはよく分かりました。

「測定した強度、数値がどうなっているかは分からないけれど、きちんと寝かせた土の方が強度は増しますよ」と前田さんは言います。「数値は分からないけれど」という言葉の背後には、色、におい、照り、伸び、粘り・・・など、感覚を総動員して認識し、判断する、実感をよりどころとした基準があります。「自然素材は工業製品とちがって、ばらつきがある。均質性がないから数値であらわしにくく客観的な基準がつくりにくい」と言われます。同じ土でも、刻々と状態が変化していくのですから、たしかにそうです。生きた素材は変化していく。その中で「これでいい」という瞬間をつかまえて、土壁は施工されてきました。練り土の善し悪しはそれを体感した人にしか分からないことなのでしょう。数値にできることは、土の状態のほんの一部なんだろうな、ということを実感しました。

親父の代からやっていることなので、はじめのうちはあたりまえのように仕事してきました。けれど、土と関わるうちに、土の性質を吟味し、よりよい練り土をつくろうという思いが強くなっていきました。土壁を塗る家づくりをする方たちがいて、支えてくださるおかげ、ここまでがんばってこられました。今、やめたら誰がするんだ、という思いです。必要としてくださる方がいる限り、いいものづくりは続けていきたい」と語る前田さんは、中村さんが言う真のアルチザン、仕事を愛し、その質を高めることを追求しつづける職人です。

「土づくりに古い壁土を混ぜるといいと聞きましたが」という質問に前田さん「たしかにそうなのですが、戦後につくられた壁土は、冬にかけて施工され、不凍材を入れられていることがあってね。そうすると、再利用できないのです」循環できるはずの素材である土も、不凍材を足したことで、循環できなくなるのですね。「土壁はゆっくりとしか乾いていきません。だから乾くまでに凍るおそれがあると、不凍材を入れてしまう。昔はそんな冬にかかる時期には土壁塗りはしなかったものなのですが」たった一つの便利や都合のために、循環の輪っかが壊れてしまうのか、とびっくりしました。

この例ひとつからも、今使っているものが再利用できるのか、土に還るのか、という視点をもつことの必要性を感じさせられます。前田さんの奥さんは「この仕事を通して、産業廃棄物の実態をまのあたりにしてきました。自然な土を使った家は、からだにもいいし、将来こどもたちの世代に土に還せないようなツケをまわすことがないということを感じます。そもそも、きちんとつくられた家はちゃんと長持ちしていますしね」と語られました。

乾式工法があたりまえとなり、土壁の家も泥コン屋さんもどんどんなくなっていく中、踏みとどまってがんばっておられる前田さんご夫婦は、しっかりとした価値観と確信をもって仕事をされています。それは、中三の息子さんにも受け継がれていました。「こういう仕事に役に立つ勉強のできる高校に行って、家業を継ぎたいです。土壁の伝統を守っていけたらいい」と、晴れ晴れと笑顔で語る樹成君の笑顔がステキでした。

7月20日(日) スーパー土練りワークショップ

前田興業さんを訪ねた翌日は、名古屋工業大学の一角で「スーパー土練りワークショップ」。木枠の内側にビニールシートを張った畳6畳ほどの「壁土プール」に、一ヶ月前に土と藁と水とを混ぜ合わせたものが、入っています。一ヶ月経過して発酵が進み、匂いを発しています。

ズボンをまくり、裸足になり、水を足しながら練り返します。田んぼに入るような、足の裏の感触。足の下にある藁まじりの土を手でつかんでは返し、足で踏みます。前田興業さんではパワーショベルやミキサーがしていた仕事を、手足を使ってするわけです。足に吸い付き、まとわりつく泥は、これからより発酵し、粘り気を増していくのです。いつのまにか、2時間近く経っていて、全身がよろこんでいるような、原初に還るような感覚、充実感あふれる心地よい疲労とが残りました。


昨年、TBS『情熱大陸』で、大工の宮内さんを取材した映像ディレクター石谷岳寛さんが、アルチザン・プロジェクトの映像記録を撮ってくれています。上の映像は、6/19に行われた「土づくりワークショップ(前編)」の際に中村さんの語りを撮ったもの。ほかの映像もここで観ることができます。