居間の片隅にあるサツキの勉強机。かわいいランプシェードがついている電気スタンドは、この家の数少ない電気製品のひとつ。ランドセルも昔のデザインですね。  

  押し入れの襖をすーっと開けると、中には布団や本、おもちゃが。サクマ式ドロップは、小さなサイズのものが、同時上映の「火垂るの墓」に出てきましたね。  

  なげしの上をさぐると、小さなフックが出てきました。これは蚊帳を引っ掛けるためのもの。  

  建具の上には、細い竹で組まれた欄間(右上の壁)がありました。  

  これが木造軸組、真壁づくりの家の室内。柱や鴨居が見え、その間は土壁か障子・襖、窓といった建具が入っています。  





  居間からの外の眺め。こうしてサツキとメイは、庭で踊るトトロを見たのです。  

  居間と台所の中間にある茶の間。ご飯はここで食べるので、食器を収めた水屋箪笥(みずやだんす)が置いてあります。奥に見えるのは裏の井戸。  

  水屋箪笥の中。質素だけれど上品な食器が並んでいます。下の段のガラス皿が歪んでいるのは、撮影時のレンズのせいです。ゴメンナサイ。  

  茶の間の造り付けの箪笥の引き戸を開けたところ。お菓子やアイロンが入っているのがわかります。(クリックすると拡大します)  
  内と外との境がゆるい家

映画「となりのトトロ」では、現代の家では起きないようなシチュエーションが生まれ、それが映画の魅力ともなっています。たとえば、夜、蚊帳(かや)を吊って寝ているサツキとメイが、庭で踊っているトトロに気がつくシーンがあります。あれは、部屋が蒸し暑くならないように、雨戸をひとつ開けて寝ていたから起きたことでした。他にも、お母さんの仮退院が延期になることを知り、サツキとメイががっかりして畳の上で寝ているときに、洗濯物を取り込んでくれたカンタのおばあちゃんが縁側から声をかけてくれるシーンもありました。

そんなシーンが成り立つのは、「サツキとメイの家」が外に向かって開いているからです。月明かりが蚊帳ごしに射し込み、トトロたちが跳ね回るかすかな音を聞いてサツキが目をさまします。そしてメイを起こしていっしょに蚊帳から抜け出し、縁側からはだしで外に出て行くのでした。内と外との境がとってもゆるいのですね。同じ木造でも、丸太を積み上げたログハウスだとしたらどうでしょうか? 家のほとんどが壁で、ところどころに窓やドアがつきますが、どこからが内でどこからが外かという区別はもっとはっきりしています。家で寝ているのに外のかすかな気配を感じたり、中にいる人に外からそっと声をかけることなんて、できないでしょう。


「ピーターパン」と
「となりのトトロ」のちがい


寝ている間に子どもに起きるファンタジーとして「ピーターパン」がありますが、あれは親たちとは別に寝る子ども部屋の窓から親が知らない間に一夜の冒険に飛び出すのでした。それも、家のすぐそこにではなく、遠くはてしないネバーランドへ。「となりのトトロ」はもっと外とのつながりがゆるい中で、いつも遊んでいる庭にひょいと飛び出してトトロと踊り、空を飛び、オカリナを吹きます。夜なべ仕事をしているお父さんも木の梢でオカリナを吹くこどもたちを「見たような気が」したのでした。

日本のご先祖様は遠い天国にでなく「草葉の陰に」いて私たちを見守り、トトロも私たちが生きている世界とすぐ隣り合わせに生きているのかもしれません。これは「サツキとメイの家」だけが特別ということではなく、昔ながらの日本の暮らしをしている人には、誰にでも起きそうな物語です。内と外とがゆるやかなつながる空間で、四季や時間の移ろいや人の気配を感じながら、暮らす子どもたちには「となりの」出来事なのです。


昔ながらの日本の家は
「木造軸組、真壁づくり」


「サツキとメイの家」は手前にしゃれた洋館が突き出したりもしていますが、基本的には日本の昔ながらの家です。相手が自然でも人間であっても、内と外との境が曖昧で、家族や家族以外の人とやわらかにつながっています。お父さんが仕事場にしている洋館部分でも、南側のガラス扉は開け放たれていて、庭にいるメイが机に向かっているお父さんに「お弁当まだ〜!」と叫んだり、そおっとそばまでやってきて、机の端に花を並べ「お父さん、お花屋さんね」と、ちょっかいを出したりできます。この「ゆるやかなつながり」の感じが、昔ながらの日本の家の最大の特徴ではないでしょうか。

「日本の家」と言わず「昔ながらの日本の家」と言ったのにはわけがあります。現代の新築住宅の主流を占めるのは「サツキとメイの家」のような家ではないからです。外とのやわらかなつながりは、木と木を組んで家の骨組みをつくりその上に屋根を載せる「木造軸組」、そして、柱と柱の間が壁で埋め尽くされるのでなく、障子や襖、雨戸などで開けたり閉めたりできる「真壁づくり」という日本の住まいの構造から生まれていました。

「サツキとメイの家」を例にとると、光が注ぎ込む南側に対し、家はいつも開いています。日中は開かれている雨戸の内側はガラス戸、縁側、障子、室内と空間がつながっています。朝起きれば、雨戸をしまい、障子をあけますから、外の様子がいつも見えています。ガラス戸まで開いていれば外の風が室内にまでサーッっと吹き込むでしょう。縁側に腰掛けて外を見ながらお茶をすることもできるし、縁側から外へは沓脱石(くつぬぎいし)からつっかけを履いてすぐに出ることができます。「木造軸組の真壁づくり」の家では、内と外と絶妙につながるのです。

あなたの住んでいる家では、柱が見えていますか? 「障子や雨戸をあけると柱だけになる」ような家でしょうか? 今の建て売り住宅やマンションなどでは、柱や梁が見えていることはあまりなく、パネルや壁紙で覆われています。このようなつくり方を「大壁(おおかべ)づくり」といいます。縁側もなく、玄関でブザーを押してドアをあけてもらうことではじめて中に入れてもらえます。空調で室内の暑さ寒さをコントロールするため、外との境がはっきりしている家が主流です。「サツキとメイの家」とは大分雰囲気がちがいますよね。


家は、自然や人との
つながりをあらわす形


人間はずっと昔から家をつくってきました。そして家は人々の精神風土を育みました。

夏は高温多湿になる日本では、風通しをよくして湿気を防ぐことで家を長くもたせ、かつ、寒い冬もしのげること、というのが住まいの条件でした。豊富にある木の性質を十分に生かした「木組み」の構造に屋根をかける軸組構造が、気候風土の中に生きる知恵として長い時間をかけて育まれてきました。同じアジアでも、より暑い国では柱と柱の間は抜けたままであることも多いですが、日本の冬は寒いので障子や襖、雨戸などで何重かに開け閉めできるようになっているし、日のあたらない面には土壁をつけることもあります。暑いところ、寒いところ、雪の多いところ、少ないところなど、地方によって屋根の形、寒さや台風のしのぎかたなどにさまざまな工夫がみられますが、電話やFAXなどがない時代から、日本中がほぼ同じ「木造軸組の真壁づくり」だったというのはおもしろいことですよね。

そして家のつくりが、自然とのつながりかた、自然に対する構え方をも育んだのです。「ゆるやかに自然とつながる」というのが、このような家をつくり、住まい続けて来た日本人の精神風土の特徴です。たとえ家のつくり方がガラッと変わってしまったからといって、人々の心や感じかたが一朝一夕に変わるのものではないでしょう。だからこそ、今でも「となりのトトロ」のような物語が「なぜかとてもなつかしいもの」として広く深く愛されているのではないでしょうか。 


 
 
         
   
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