梅田さん(写真左)の住まいと工場のある、八代市泉町は、九州山地の山里。(旧・泉村)平家の落人伝説のある五家荘への入口のすぐ近くだ。泉茶の産地でもある。
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大工・梅田忠臣さん(梅田建築):風の抜ける足固めの家


部屋ごとにちがう、落ち着き、味わい、雰囲気、品格。

梅田さん

熊本県八代市に「足固め構法」の実践者として知られている大工棟梁、梅田忠臣さんを訪ねた現場レポートをお届けします。

同じ和室に見えても・・

典型的な新築の和風住宅の例。

今回見せていただいた家はすべて平屋。新築でも昔ながらの間取りを守った家も多かった。玄関をあがった廊下の左手には二間続きの座敷と奥座敷。南と西を縁側に取り巻き、せいの高い差し鴨居に襖、障子の入った開放的なつくり。右手には茶の間、その奥に台所、というのが基本だ。今の新築だと、畳の部屋はあってもひとつ、という家が多い。平面図にはただ「和室」と書いてある。・・おばあちゃんの部屋?それとも布団を敷いて寝るための部屋?家に入っていきなり和室が3つも並んでいるのはなぜ?・・・と疑問に思う人も今では多いかもしれない。

玄関をあがると、廊下のつきあたりにガラス戸の向こうに光庭。左が二間続きの座敷、右が茶の間。

同じ「和室」としか見えなくても、それぞれの部屋には使い道があり、使用頻度もちがう。座敷は、親戚の集まりなどに用いる接客の空間で、普段ほとんど使われない。床の間や書院、仏壇などがとりつけられているほかは、すっきりと畳が見えている、家族は、ひとりひとりが自分の部屋に下がらない限りは、家にいる時間のほとんどを茶の間で過ごす。そこが食堂を兼ねる場合もあるし、食事は台所に置いたテーブルでとることもある。

部屋の表情や性格を木の使い方ひとつで演出する

二間続きの和室。手前の座敷は、太い差鴨居と節のある材をつかった格天井。

どの和室も木と土壁、そして畳と建具でできている。一見同じようでいて、それぞれの部屋にはその性格に応じた雰囲気がある。奥座敷はあらたまって、居ずまいを正したくなるような感じ。手前の座敷は奥よりも少しラフで、すっきりとした感じ。ふだんあまり使わないとしても、こうした清々しい、片付いた座敷空間があることは、不意の接客に対応できるという以上に、精神的なゆとりや安堵をもたらしてくれる。そして、新聞を読み、テレビを見、お茶を飲んだりみかんを食べたりしながら話などする茶の間は家族団らんのあたたかい、人が居着いている密度や、ごく内輪のなじんだ感じがそこにはある。案内された家では、そうした部屋ごとに、物語のように伝わって来るのだ。

奥座敷は天井が一段高く、格子も細かくなっている。長押がまわり、ご先祖の写真が飾られている。

もう一軒の別の和風住宅。この家は2004年に、くまもの杉の家づくりプラン優秀賞を受賞した。

なにがひとつひとつの部屋の異なった雰囲気や味わいをもたらすのだろうか? つくりつけてある造作やおかれた調度品だけでなく、梅田さんが工夫する木の見せ方、使い方の粋に大きく因るようだ。天井の張り方、木目や模様の組み合わせ方で、部屋ごとの雰囲気や格式が表現されている。今風の家のように壁紙や塗装で見せるのでもない。現代風の木組みの家のように吹抜けやあらわしの梁といったような大きな変化があるわけではない。木そのものの材質感だけで見せる梅田さんの語彙は繊細で豊富だ。それが、同じような「和室」にもそれぞれの顔をたせる。木の表情を知り尽くす大工棟梁自身の設計ならではのデザインだ。


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左/二間続きの座敷。抹茶色の土壁に茜色の杉材のコントラストが美しい。 右/左から書院風の床の間、違い棚、枝折り戸付の仏壇。