topページへ つくり手インタビュー
   
木住研 宮越 喜彦さんに聞く
photo 五感と知恵を活かして住む。
 


ひょうたん棚の下で納涼の図。
一昨年の秋、地元入間市の一軒家に事務所を引っ越しました。市役所の真ん前ですが、築30年の古い木造平屋。自宅から自転車通勤しています。



 木住研の事務所


夏は西日がガンガンあたって、暑いんです。よしずぐらいの日陰じゃあ、とても対抗できない、日陰のかたまりをつくらねば。ということで、事務所前の塀との間に、4畳半ほどのパーゴラをかけ、へちまの苗を植えました。と、思ったら、同じ150円で買ってきた苗を取り違えたらしく、実際に育っていたのはひょうたんの苗。今、たくさん成っています。外壁にはインターンシップで勉強に来たものづくり大学の学生さんと一緒に格子をつくって、アイビーをハンギングしています。

朝は水やりをしてから仕事に入ります。日中の暑いときでも水を撒いてやると室内気温が、1度から1.5度低くなることは実証しました。最近、ネットで浮世絵を見るのに凝っているんですが、そんな中で、だんなとかみさんとこどもが、ひょうたん棚の下で夕涼みしている絵に出会いました(納涼図屏風:東京国立博物館所蔵)。空には月。知恵をはたらかせて、季節のきびしさをやり過ごす、さらに積極的に楽しむ。そんなメッセージが伝わってきます。やっぱりこういうのが自然とともに生きていくって感じじゃないでしょうか。

快適環境で失ったもの、知恵と工夫で取り戻せるもの。
ちょっと前までは、家の気密性も、今のような冷暖房設備もなかった日本。それでも、人の体は、きびしい暑さ寒さも適応していました。それだけ、ガマン強かったのでしょうか? いや、むしろ、きびしい情況におかれた体は、本来、自分で体温を調節できる機能をもっていたのに、快適と思える環境におかれることでそれを失っているかもしれません。 自律神経失調ぎみの現代人の姿を見るにつけ、そう思えてなりません。

暑い。寒い。それをしっかりと五感で受け止め、環境を操作するのでなく、自分の生命体としてのはたらきや知恵で乗り切る。そんな術がたくさんあるはずです。クーラーに頼らず、日中の暑さを、生活の工夫で乗り切ってみと、不思議なことに、熱帯夜でも風さえぬければ涼しいと感じられるものです。生活の仕方や工夫、日差しや風のコントロールをすつことによってクーラーなどは必要ないですね。実は人体そのものがセンサー付き環境コントロール装置を持っているんです。

ひょうたんやへちまを植える。お金がかからない上に、植えてから後の「待つ時間」がなんとも楽しいのです。不思議だったのは、暑くなりはじめたな、という頃と、苗がぐんぐん生長しはじめた時期がちょうどシンクロしていたことです。おかげで、本当に暑くなる頃には、立派な日陰ができました。「今、暑い。ガマンできない。スイッチを入れてすぐ涼しくなりたい!」ひょうたんはそういう性急な解決とは、違います。夏に涼しいようにと、初夏から苗を植え、水をやる。時間を先取りし、手間をかけているのです。その結果、自分たちがどうなるかが分かる。それが楽しみ。そんな生き方って、機械で環境を調節するより、ずっと豊かだと思いませんか。しかも収穫後は何を作ろうかという楽しみのおまけつきです。
 
  要望をかなえることに生き方の提案をプラスする。  
  事務所をこの一軒家に移し、実際に自分で汗を流し、暑い夏をしのぐための工夫をあれこれしてみて、実際にここを訪れてくれる建て主さんと「五感を活かして住まう」なんていう話を、しやすくなったように思います。実感もこめてね。それを実現するのが、日本の気候風土にあった、木と土壁の家なのではないでしょうか? 一年中快適室温にするために、家をわざわざビニールで包んで、いらない換気扇をまわす。そんなにエネルギーを使わなくても、もっと着心地のいい家がある。季節に合った暮らし方、住まい方を含めて、家なんだ。そんなことを理解してくれる人が増えました。

どんな家に住みたいですか? と建て主さんの要望を訊いて、実際に建てる家にそれを実現していくのがぼくの仕事です。でも、最初のうちは「何畳の部屋が欲しい」とか「台所はこうしたい」という表面的な希望しかあでてこない。それに対して「こういうことができたら、さらにいいよね」という提案を出していくのが仕事だ、と思っています。生活のスタイル、生き方まで含めた提案をしながら「建てたい家はこれだ!」と最終的に思ってもらう。「望ましいように思えても、自分の生活とは合っていない」モデルルームのような提案ではなく、こうありたい生活と家とをつなぐ。そのための応答には時間をかけます。建て主さんとの会話から、納得できる家をいっしょにつくっていくのです。ぼくができるのは、そのためのアドバイスだったり、技術面での協力だったりするのです。 あくまでも建て主さんがつくる家のね。
   
  職人さんのやる気を喚起する図面を書くこと  

建て主さんの要望を、しっかりした木の骨組みに起こしていく。それが技術者としてのぼくの仕事です。木拾いや材木の発注も自分ですることが多い。材料まで把握することで、見えてくるものがある。気も引き締まります。伏図や骨組み模型もつくり、継手のイメージも書き込んで、現場の棟梁にぶつけます。そうすると、現場で話し合いが生まれます。ここはもっとこうした方がいい、なんていうもうひとつ上の提案が出てくる時はうれしいですね。

 
「図面が細かい」と言われることがあります。図面は、現場でベストな解決を導き出すための媒体だから、こちらの意図をしっかり書くのです。特に骨組みは、自分が納得できるところまで、よく書き込んでいきます。書いた図面を板図がわりに大工さんがベニヤに貼って使ってくれるのを見ると嬉しくなります。これなら使えると思ってくれていると思うからです。「図面どおりにやって」とは言いません。ぼくの意図を、実際に材料に触れてつくる職人さんに伝え、この図面以上の答えを出してもらうためのたたき台だと思っています。図面を見て、大工さんが「ここはもっとこういうことをやりたい」と思ってもらえたら万々歳です。

板図:材の刻みに先立って、大工が1/50程度の縮尺で平面図や伏図の部材情報を板に書いたもの。

木拾いリスト込みの屋根伏図
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