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大工・西澤政男さん(西澤工務店):きちんとつくってこそ、伝統構法


大工棟梁 西澤工務店 西澤政男さん

昭和19年4月11日 大工職人の長男として生まれる 昭和40〜45年 飛島建設建設(株)に勤務 昭和45〜49年 父の元で大工見習修業 昭和50〜53年 滋賀県文化財保護課大工に従事 昭和53年 西澤工務店に大工として勤務 平成1年〜現在 (株)西澤工務店 代表取締役 平成12年 日本伝統建築技術保存会を立ち上げ、会長に就任

インタビュー:2005年10月31日 取材執筆:持留ヨハナエリザベート

平成時代にすぐれた木造建築を!

上/彦根城天守・附櫓及び多聞櫓 保存修理工事 下/多賀大社神楽殿 新築工事

「私は社寺建築を主にてがける滋賀県彦根に続いた大工の三代目です。幼稚園の頃からいつも現場で遊んでいました。木ずり打ちをして小遣いをもらったりしてね。

京都府と奈良県では役所の文化財保護課で今でも伝統的な寺社の修理などのために木工機械を所有し、技術職員や、嘱託員大工を抱え直営工事をしています。滋賀県も文化財が多く、昭和53年まではこの直営のしくみがありましたので、父の元での大工見習いを終えて後、滋賀県の直傭大工として働いていました。そのしくみがなくなって西澤工務店に戻り、引き続き、県が発注する文化財修理工事をはじめ、一般社寺の改修工事や新築工事などもしています。」

会社概要には営業方針として次のように掲げる。「益々高度化し規格化しつつある建築産業の中で、千年以上をかけて培われてきた先人の努力と叡智の結晶である木工技術が忘れ去られ、消滅しようとしています。われわれは社寺建築を通じ、これを研究、習得、伝承し、平成時代に優れた木造建築を後世に残すことにすべての情熱を傾け、少しでも古の工人の域に近づけるよう毎日精進努力をしております。」

彦根城、多賀大社、日吉大社等・・滋賀県でも歴史のある建物の多くが、西澤さんの手にかかって直されている。その技術を後代に伝えるために同業の親方衆と「NPO法人日本伝統建築技術保存会」をつくり、曲尺(さしがね)などを自在に用いて部材に墨付けを行う、大工職に伝えられて来た立体幾何学「規矩術」などを実地で学べる講義と実習をも行っている。「よほどしっかりした技術をもった人でないと、正会員にはなれません。若い大工にはまず準会員で参加して勉強してもらい、それぞれに経験を積んでいって、ゆくゆくは正会員になることをめざしてもらいます。」

蓮台寺に案内していただく

そんな西澤さんに、木の家ネットのインタビューに載せるのにふさわしい現場を、とお願いすると「今、お寺と庫裡の新築工事をしていますから、そこへ行きましょう。」と、奈良県にほどちかい京都府精華町の高台にある蓮台寺の新築工事現場に案内してくださった。庫裡とは、現在では寺のお坊さんの家族が住む住宅のこと。「住宅と寺社とが並んでいると、違いがよく分かっていいでしょう?」との西澤さんの配慮だった。

傾斜地にある現場は、そう広くはない。敷地の入り口に立つと、本堂と庫裡とが同じ視界に入る。「なんといっても違いが分かりやすいのは屋根でしょう? 同じ瓦屋根でも住宅の屋根は桟瓦葺きで素直な直線になります。それに対し、寺の屋根は反りの入った曲線を描きます。絞るところはきゅっと絞り、強調するところはうんと強調し、メリハリをつける。瓦の葺き方も、一枚一枚の平瓦の間を丸瓦でかぶせる本瓦葺きです。見上げた時にいい感じの角度になるよう、大工も瓦屋も寺社の屋根には特に力をふるうんです。」

柱と梁が直交する美しさと力強さ

本堂に入ると、無垢の檜のいい香りに包まれる。かすかに青みを帯びた木肌も美しい。「いいでしょう? オール檜です。」開放的な空間に、どーん、どんと太い柱がそびえ立つ。大木の林だ。内法よりも高いところに太い梁がかかり、柱とがっちり組み合っている。あれだけのボリュームのある屋根だ。重量は相当なものだろう。太い柱と梁で、それをしっかりと受け止めている。

「丸柱は一尺一寸径(およそ33cm)、あとは八寸(およそ24cm)角がメインです。どしーっとしてて、あぶなっかしさがない。安心感をもって見てもらえるでしょう?」壁面ではなく、組み合う柱と梁が家を支える木造軸組の基本形。その力強さを目の当たりにする。

「伝統建築は元来、水平垂直の直交構成なんです。直立する柱に対して、足固め、差鴨居、梁と、いくつも横架材がかかる。しっかりと組み合った籠のようになっていて、その全体でもってしなやかに力を分散しているんです。壁にする場合も太い貫を入れ、斜めの筋交はなるべく用いません。基準法上強制される筋交や金物類は仕方なく入れますが、それに頼ることはありません。金物でかためてしまうことがなく、解体しやすいため、補修、移築、再利用も容易です。」

戦後間もない昭和25年の建築基準法施行以降、伝統構法が簡略化された形で建てられる「在来軸組構法」の家のほとんどには、足固めも差し鴨居も貫もない。中間の水平つなぎ材のかわりに斜めの筋違いを入れ、抵抗が集中する筋交が引き抜かれるのを押えるために金物に頼る。伝統構法と在来軸組構法とは「似て非なるもの」である。

お寺に特有の「虹梁」と「蟇股」

「お寺では、化粧の繋ぎ材として虹梁(こうりょう)というゆるいカーブを描いた梁を使います。湾曲させるのは、水平だと目の錯覚で中央部が垂れて見えるからです。どう見えるかを計算してのことなんですよ。」

虹梁には美しい彫刻がほどこされ、「蟇股(かえるまた)」と呼ばれる部材が載る。蟇(ひきがえる)が脚を広げてふんばった姿と似ているところからそう言うのだ。もともとは上からの荷重を受ける意味があったのだが、時代につれて装飾性が強くなり、蟇股には凝った彫刻などがほどこされるようになる。西澤工務店の職人さんが板にその曲線を描いていた。

「見ていただけますか?」その職人さんが声をかけると、西澤さんが鉛筆をもった。わらわら、と人垣ができる。一人が「おーい」と庫裡の2階に声をかけると、もう二人ほどが仕事の手を止めておりてくる。西澤さんが、外側のカーブを直す。「こうした方が格好(かっこ)がええ。」

夕方、工務店の作業場を訪ねると「原寸場」と呼ばれる広い場所があった。壁には蟇股をはじめ、過去に西澤工務店がつくったさまざまな部材の原寸型板がたくさんかかっている。「ここは服でいえば、型紙をつくるところです。加工する形を板に原寸で書いて切り抜きます。」過去の型板を広げ、先人のデザインを見ながら、今つくる寺社にふさわしいデザインを生み出すのだ。蟇股の曲線ひとつにも時代が、その人がうつしだされる。

「過去そのまんまでもいかんのですわ。過去の物に学びながら、その時代の息吹を吹き込む。そうでなくてはいかんのです。」

本堂の中心にある「折上小組格天井」。格天井の格子のひとつひとつに、さらに小組が組み込まれている。

天井を見上げると、正方形に区画された美しい格子模様の「格天井(ごうてんじょう)」になっていた。普通、天井というと、竿縁(さおぶち)の上に直交する方向で薄い杉板が置かれるが、格天井では、格縁(ごうぶち)を縦横に組んで格子をつくり、そこに正方形の鏡板を一枚一枚はめこむ。鏡板の木目模様が隣り合う格子で互い違いになるように配列する。竿縁天井と比べると、何倍も手間がかかり、重厚で格調高い天井として、寺社や書院の座敷などに用いられる。

小組の桟の断面が「猿頬(さるぼお)」になっている場合の原寸模型。斜めに削り落とされている面同士が、ぴったりと合うようにするために、削る作業の精度が要求される。

竿縁天井よりも格の高い格天井だが、その中でもさらに凝っているのもある。本堂の中心で仏様が座られる上の天井がそうだ。カーブを描いた亀の尾という部材でもちあげられている。

「折上小組(おりあげこぐみ)格天井といいます。ここだけで、今の家一軒分の手間がかかりますわ。」一段もちあがった天井には、太い部材で格縁が組まれており、ひとつひとつの格子の中が、さらに細かい格子(小組)になっている。中くらいの単位の中に、さらに小さな単位が入れ子になっていて、絵こそ描かれていないが、曼荼羅のようにも見える。

昨年完成した多賀大社神楽殿では、さらに手をかけ、この小組の一本一本を断面を45度以上の角度で面取りする「猿頬(さるぼお:削り落とした断面の仕上がりが猿の顔に似ているところから「猿頬」と呼ばれる)」にした。その模型を手に取って「このように見上げた小組や側面の蛇骨の桟を斜めに削ることで、遠近感がつくんです。」そのために小組の一本一本、蛇骨(じゃほこ)の一本一本を斜めに削りすべての組手を留にする(木と木を直角に合わせる時に双方の木口を見せないで斜めに合わせること)いう途方も無い手間がかけられる。「どう見えるか」に対する徹底したこだわりがそこにはある。ただ漠然と見ている人にはそこまで手がかけられていることは分からない。気づく人、解る人にだけ分かるすごさなのだ。解る人にだけ解るのでもいい、それでもきちんと手をかける。無心の手仕事は祈りに近いものかもしれない。

建物の中でももっとも大事な部分に、高い技術のいる手仕事を集約させる。仏様が祭られる空間を、仏様にふさわしい場所としてつくり込む。同じ無垢材の空間といっても、その質は均一ではない。濃さや密度があり、それが空間の求心力を生んでいるのだ。

優雅に泳ぐ白鳥の水面下

野物(天井裏に隠れて見えなくなる)の梁組の力強さと、繊細な格天井の格縁とが対照的でおもしろい。

ちょうど無垢の格天井を張っているところで、格子の間から、小屋組が見えた。屋根や軒に反りを与えるために、屋根裏ではいろいろな角度で木が複雑に交差している。すっきりとした格天井の板一枚裏側は、まったくちがう世界だ。

水面を優雅に泳ぐ白鳥を思った。悠々たる姿の水面下では、両足を絶え間なく動かすという営み。見えないところ、人が気づかないかもしれないところに手をかけ、気を使う。その場所がもつべき意味にふさわしい技術をふるう。

この蓮台寺の新築工事は、信徒でつくる建築委員会が施主となっている。何百年かに一度の大工事だ。今回新築される蓮台寺が「平成の」蓮台寺として後代に残る。そのために結束し、建築費を工面した人々の思いの強さに応える、そんな職人技術の充実を見たような気がした。


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