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photo 差鴨居を見直そう!
 
構造材として利く「差鴨居」
西澤さんが後世につないでいきたいと強く思っている技術のひとつに「差鴨居」がある。



鴨居とは和室の障子や襖など開口部の上部に設けられる溝を付けた水平材のことだ。現代の鴨居は構造的な意味はもっておらず、建具を開け閉めするために取り付けてある、薄い材料にすぎない。これは差鴨居ではなく薄鴨居だ。

差鴨居とは、柱にせいの高い太い鴨居をホゾ差しで組み込むことを言う。伝統構法の建物ではよくお目にかかる。西澤さんのこの現場では、二間の開口部に見付(高さ)1尺見込(幅)4寸厚の差鴨居が入っている。構造材としてしっかり利いているので、通常の鴨居とは区別が必要だ。

「せいが高くて太い差鴨居が入っているのが、目立つでしょう? 差鴨居が構造的に利いてくれているから、これだけ大きな開口部を取れるんです。これこそ、木質ラーメン構造と私は思っています。」ラーメン(rahmen)はドイツ語で「額縁」という意味。耐力壁や筋交いといった補強をしなくても、地震などの横揺れに耐えられる構造なので、壁のない自由な空間を作ることができる。

「柱がすっ、すっと立っていて、開口部が広い家。二方に縁側のある家。風通しがよく、庭が見えて、いいものです。そういう大きな開口部は鉄骨でしか得られないと今では思われていますが、そんなことはない。しっかりと施工した差鴨居でなら、そういう開放的な家でも丈夫につくれるんです。そのことを住まい手の皆さんにも伝えたいですね。」
西澤工務店 西澤政男さんに聞く
 
 
一本の柱に四方から横架材が差し込まれるところを、四方差しと呼ぶ。金物に頼らずに四方差しを実現するには、複雑な仕口の加工が必要となる。横架材の先端の長ホゾが柱の向こう側の横架材に刻まれた「ヒツ」というくぼみに入り、長ホゾとヒツの周囲とを車知栓で引きつけるのが、通常のやり方だ。二組の横架材の刻みは、互いに上下を逆にした対称形となる。たとえば、南北の横架材のヒツが北側の上面に来るならば、東西の横架材のヒツは東側の下面に来るといった具合である。とすると、南北、東西をひきつけるための車知栓は、片方は上、片方は下に来ることになる。

ところが、建具の上端の鴨居の溝をついて、建具を開け閉めできるようにしなければならない差鴨居の場合には、車知栓が下に来るのでは、具合が悪い。「そこで先人が工夫考案したのが『眼鏡(めがね)ホゾ差し車知引き胴栓打ち』です」

眼鏡ホゾ差しでは、二組の横架材の仕口は対称ではない。片方の組で、ヒツに入る長ホゾの断面を広くし、その中央に孔をあけておく。もう一組の長ホゾはその孔を通した上で向かいのヒツに入れる。こうすることで、車知栓はどちらの組でも上面に来ることになる。「差鴨居の四方差しの場合、下端はどの方向も化粧(見える面)になりますから、眼鏡ホゾ差しでないとまずいのです。それでも、昔はこのようにしていたのです。」
 
  左/西の眼鏡ホゾを東のヒツに入れ、眼鏡の孔に南北の仕口を貫通させる。
   

ホゾに孔をあけるのだから、差鴨居そのものの断面も大きくなければできない。太い差鴨居を四本受ける柱が、さらに太くなければならないのは言うまでもない。「太い材をがっちり組み合わせた木組み」とは、こういうことなのだ。柱の断面積が奪われる「断面欠損」が大きいという四方差しの難点も、柱そのものに十分な太さがあれば、ウィークポイントにはならない。しかも、眼鏡ホゾ差しであれば、片方の組のホゾがもう片方の眼鏡ホゾを貫通することにより、ホゾ同士が柱とは独立して互いにがっちり組み合う形にもなる。ホゾの加工にも、柱側の削り込みも複雑で、手間も余計にかかるが、組み合い方はより強固になるのだ。

さらに西澤さんの現場では長ホゾとヒツとを貫く形に胴栓(引手方向に断面を太くした長方形の栓)を打つことで、抜けなくする工夫がしてあった。これによりすべての引合部が固められることになる。「伝えられて来た正しいやり方はこうなんです。忘れてはならない工法です。」この胴栓打ちを省略しないことがいかに大事か、西澤さん重ねて念を押された。この先人の知恵を多くの人に知ってもらおうと、西澤さんは眼鏡ホゾ差し車知引き胴栓打ちの実物大模型と、組んだりはずしたりできる縮小模型をつくり、展示する機会があるごとに大学や木造関係のイベントで自由に触ってもらっている。
  中/車知栓を上から差してホゾとヒツを引きつけるだけでなく、ホゾとヒツとを貫く胴栓も打っている。
右/差鴨居でない場合の四方差し(胴差し)の仕口。二組の仕口は、上下をひっくり返した同じ形であり、車知栓は片方が上側に、片方が下側に来る。
   
  こちらが室内側。柱の左側が欄間、手前側が土壁になる。手前側は長押より上になる分差鴨居を削り込んで、土壁をつけて塗り込んでしまう。左側では差鴨居の上部に欄間の敷居をつくり、長押と欄間敷居との間になる部分には土壁を塗る。
   
差鴨居の見え方を変える
建物にはこの太い差鴨居の高さがそのままに見えてよい場所と、そうでない場所がある。本堂の右側は、法事などで訪れた人がくつろぐ部屋になっている。和室の座敷には鴨居の上に長押がつくが、差鴨居をそのままあらわしにしてしまうと、鴨居が太過ぎて武骨に見え、繊細さに欠ける部屋になってしまう。

「長押の上に差鴨居の余分の太さが見えるとおかしいでしょう? そこで、柱に入っているのはせいの高い差し鴨居でも、長押の上の部分は表面を削って、そこに土壁をつけて仕上げます。そうすれば、差鴨居プラス長押分として見栄えのいい寸法の高さしかないように見えるでしょう?」

四方差しになっているところを、いろいろな方向から眺め直す。同じ差鴨居が一方からは柱より細身の差鴨居と長押打ちに見え、もう一方からは差鴨居そのものの高さで見える。同じものの見せ方を使い分ける気遣いがそこにはある。
  こちらは廊下側。差鴨居の高さがまるごと見えている。
   
千鳥格子

織物のように編み込まれているが、材料は木だ。「厚みの3分の1を切り込んだ材、3分の2を切り込んだ材とを組むことでうまくすきまをつくって、材で材を縫うんです。」左甚五郎の考案と伝えられる。





岐阜県荘川村指定文化財
左甚五郎作と伝えられる「千鳥格子地蔵堂」

伝統構法と建築基準法
「早く差鴨居が正当に評価されるようになってほしいですね」と西澤さんは語る。今の建築基準法では、建物の変形について1/120rd(ラジアン)までしか層間変位角を認めていない。層間変位角とは、力を加えられた時に傾く角度のことで、「各階に生じる水平方向の層間変位の当該各階の高さに対する割合」と規定される。

「1/120rdのしばりが、伝統構法にとってはきついんですよ。差鴨居によるラーメン構造では、力を加えられた時に1/120rdより大きく変形します。でも、倒れかかっても、倒れないで粘る。そして踏ん張って、また元に戻る。1/60rdからが本領発揮なのに、その手前でゲームオーバーみたいなことになっているんです。」差鴨居が耐力要素とみなされない分、本来必要のない施工が必要になってしまうというおかしなことになっている。

「現代工法の家は金物を使ってかためたり、筋交を入れたりしてかたくつくってありますから、そんなに傾きません。ある程度までの力が加えられても、1/120ラジアン以内の小さな変形にとどまります。けれど、かたくがんばっていてもそれより大きな力がかかると、筋交が折れる、はずれる。金物の接合部が壊れるなど、いっぺんに耐力をなくして倒壊してしまうのです。伝統構法の建物はその逆です。やんわりと力を受けて多少は傾いても、土俵際には強いんです。」

今の建築基準法は、すべての建物に等しく適用されるものになっている。パネル住宅も在来構法も伝統構法も、「同じものさし」ではかられる。しかし、現代工法とはまったくちがう力学が、伝統構法にはある。そして、きちんと施工された伝統構法の建物はきちんと長持ちしている。それならば、伝統構法の特徴を踏まえた建築基準法ができてきてもよいのではないだろうか? 

伝統構法見直しの動きがさかんだ。学者たちの間でも伝統構法の力学を実験などを通して数量的に評価する研究が進んできている。その成果が土壁告示などの形で実を結んで来てもいる。次は差鴨居、という声も聞かれる。

平成17年11月、西澤さんは国土交通省で行われた「伝統的な木造軸組工法に関する意見交換会」に呼ばれた。会を主催した国土交通省住宅局木造住宅振興室からの文書には次のようなくだりがあった。「当室では、伝統的な木造軸組工法(原則として接合金物を使用せず、伝統的な継手・仕口により架構を組み上げる工法)を我が国の貴重な財産であると認識し、改善すべき点は改善しながら、それを望む人達が過度な時間的・金銭的コストを強いられることなく活用できる構法として時代に継承すべきであると考えています。」(*過度な時間的・金銭的コストとは、個別に認定を得るための構造実験や複雑な構造計算などを指す、と西澤さんは考える)「感動しましたよ。ようやくここまで来たか、と。
 

丁寧な施工があってこそ発揮される伝統構法の粘り強さ
 
  眼鏡ホゾでは、上から差し込む車知で引きつけるだけでなく、側面から打ち込む胴栓で締めるのが肝腎。車知栓が二組とも差鴨居の上側になり、建具の溝とぶつからないのも利点である。
   
インタビュー:2005年10月31日
取材執筆:持留ヨハナエリザベート

「ただし、これからが一番大事なところなんですけれど、伝統構法の粘り強さは、横材や差し物がきちっと入って、栓打ちがきちんとされていて・・というひとつひとつの丁寧な施工が集まってはじめて発揮される力なんです。だから、伝統構法を実践するみなさんには、手を抜かないできちんとした仕事をしてほしいんです。」と西澤さんは言う。

「筋交に頼らなくてもよい差鴨居ラーメン構造をつくるには、まず、材料の太さ。二間の開口部には4寸(12cm)×1尺(30cm)、一間半なら4寸(12cm)×8尺(24cm)、一間でも4寸(12cm)×6尺(18cm)の断面は欲しいですね。それから、柱に差し鴨居を差した後は、車知栓だけでなく、必ず胴栓も打つことを実践してほしい。ここは省略してはいけない、建物を丈夫につくるための肝腎なところですから、手を惜しんではいけません。せっかくの差鴨居でも、車知栓だけでは、ぐったぐたにゆるんでしまい、差鴨居と柱とでラーメン構造になるという想定が崩れてしまいますからね。」

伝統構法の形を大雑把にまねるのではなく、細かいところ、見えなくなるところまできちんとやること。それが職人仕事の神髄にちがいない。あたりまえのことかもしれないが、「見えるところだけきれいに、あとはどうでもいい」「なるべく早く、簡単に」という現代では、希少価値になってしまっている。どちらの精神が、長持ちする建物をつくれるのか、言うまでもない。
 
       
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