写真上:手前が地方型のA棟、奥に見えるのが都市近郊型のB棟

2つの試験体は、どう違うの?

家は間取りが決まっていても、敷地にどれくらい余裕があるのかなどの条件、地域性、棟梁の個性などにより、まったく違う風につくることができます。間取りからだけでは、どのようにその家をつくるのかは、ひとつにはなかなか決まりません。

今回の実験に使う試験体について、まず現代の生活を送るのに必要と思われる条件から間取りを起こし、それを二つの違ったタイプの木組みの家として計画しました。ひとつは部材断面の大きな「地方型」(A棟)、もうひとつはA棟より部材断面がやや小さい「都市近郊型」(B棟)です。部材断面以外にも、さまざまな点で違いがあるので、下記にまとめましたが、まずそれ以前に、2棟の共通点をあげておきます。


左がA棟、右がB棟。B棟足元の土台より一段上にぐるっとまわった足固め、A棟2階の丸柱の太い地棟が特徴的。

共通事項

両棟のちがい

A棟(地方型)B棟(都市近郊型)
部材断面部材断面の大きい、地方に多いつくり部材断面がやや小さい、都市近郊に多いつくり
主要な柱外周は15cm角、中央の2本は21cm角の通し柱(四方差し)外周は15cm角の通し柱、中央の2本は15cm角の管柱(二方差し)
特記事項二階に末口38cm長さ12mのマツ丸太の地棟あり
差鴨居外周・内部とも主要な開口部すべてにある南面と中央桁行方向の開口部にのみある
柱脚柱に土台が差さる「柱勝ち」土台に柱を長ホゾ差しする「土台勝ち」
足固めなし。ただし開口部の一部に台敷あり主要柱間にすべてあり
柱脚の水平移動拘束方法鋼製のダボ(直径3cm突出長さ15cm)で柱を基礎に拘束土台をアンカーボルトで基礎に固定し、柱を土台に長ホゾ(長さ12cm)差しして拘束
柱の接合部柱脚柱頭ともに込み栓打ち柱頭のみ込み栓打ち
土壁の土京都の土(深草土)埼玉の土(荒木田土)
貫の厚み15×105mm(やや薄め)27×120mm(厚貫)
貫の段数一階は4段、二階は3段一・二階とも4段

※より詳しくは、住木センター発表の両棟の建物仕様表をご覧ください。

2棟の違いがよりよく分かったところで、2棟横並びの公開実験映像をもう一度ご覧になってください!

足元は固定の実験だったけれど、それでよかったの?

伝統木造の中でも、建築基準法の厳格化以来もっとも建てにくくなっているのが、柱や土台を基礎の上に置くだけで、基礎と建物とを固定しない「石場立て」です。今の基準法では、基礎に緊結しない建物はつくれないことになっています。(このあたりのいきさつについては、2008/7/12に行った「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる?」シンポジウムの古川さん綾部さんのスライド発表をご覧ください)


建物が水平方向に動かないようにするためのピン(左)と、それが差し込まれるよう、柱の下にあけられた穴(右)。上下方向には拘束していないので、地震波が加えられた時には家全体が浮き上がることもある。

ところが、今回の実験は2棟とも「柱脚は上下方向にはフリー、水平方向には固定」という試験体でした。そのことについては「足元フリーの場合の扱いこそ、どうするか考えてほしいのに!」という声もありました。

仮に、横方向の滑りも許したら、土壁や軸組の損傷は、遙かに抑えられたであろう。
今回の実験で足元の水平移動が出来ない事による胴差しや差し鴨居廻りの破壊が進んだ事が考えられるのではないかと思います。昨年中越沖地震を視察し、足元移動によって倒壊を免れている事例があります。

なぜ今回「上下方向のみフリー」ということになったのかについては、プレス発表の時に実験の主査である大橋好光先生と朝日新聞の論説委員との間でもやりとりがありました。せまい敷地条件、設備配管の問題などもあり、建物の水平移動はすぐには許容できるとはいいがたいこと、将来的には解析していくつもりであることなど、発言がありました。詳しくはこちらをご覧ください。

土壁の施工がよくなかったのでは?

試験体の土壁の落ち方を見て「なぜあんな落ち方をするのか!?」と疑問に思い、損傷を実際に観察して「これでは土壁本来の粘りが発揮されない」と残念がるつくり手もいました。


土壁が中塗りと荒壁ごとボード状に剥落した瞬間(左)と、残った小舞。

土壁は本来、あのように簡単にパカッと剥がれてしまうような壊れ方はしないので、施工に問題があったのでは。遠巻きに見ても、明らかに竹の隙間が狭いようでしたし、剥がれ落ちた面を見ても、土のオーバーハングの形跡が見受けられません。(小舞竹の間を抜けて反対側に土がはみ出すことで、土が小舞と一体になる)このことで、土壁の粘りと強度に大きな差が出たと思います。
古い民家を解体すると、大きく掻かれた小舞が出現します。大きく“へそ”を出し、それを潰す事で土の面としての強さが発揮できると思うので土壁をつける時には、古い建物同様、小舞の空隙率を50%近くまで上げるようにしています。今回は小舞の間隔がせますぎる。

(左)貫に竹小舞が格子状に編まれたところ。(中)表塗り。竹格子の空隙の向こうに土がはみ出す。(右)裏返し塗り。はみ出した土が突起状になった「へそ」をつぶさないように塗るとしっかりかみあい、強い土壁になる。

これからの展望は?

今回の実験では、土壁の施工のこと以外にも、A棟、B棟それぞれに「ここをもっとこうしたらよかったのでは?」ということがたくさんでてきました。今回の実験を踏まえ、2010年にもう一度、実大実験が行われる予定です。また、それまでの間、2009年には、さまざまな要素実験が行われます。今回の反省点や学んだ点が集約され、要素実験の結果も踏まえた上で、次の実大実験では、今回以上に少ないエネルギーで高い耐震性を発揮できる設計の伝統木造住宅が実験台に載ることに期待しましょう。

細部の検討ももちろん大事ですが、建物の全体計画をどうするのかという大きな視点でのとらえなおしが必要となるでしょう。今回の実験を通して、つくり手ひとりひとりの中でもさまざまな想いがめぐりはじめてます。今後の設計法構築へと向けて、さらに意見交換、情報共有ができたらと思います。

間取りと柱の太さの関係や差し鴨居の配置などを始めとして、柱脚のこと、土壁のつくり。建物のプロポーションなど。全ての要素がバランスよく計画されてこそ、伝統工法の強さが発揮できる建物になるんだと、つくづく感じました。
壊れて行くプロセスを設計の中に組み込む事の必要性、各部の納まりや、適正な材寸や材種の選択もいろいろと検証する必要があるかもしれません。
「鷹取波」のようなすさまじい破壊力に耐えるには、金物を多用した建物ならばさらなる補強が可能かもしれませんが、伝統構法のように木や土を使って建てるとなると、ある強さ以上の仕口や継ぎ手は不可能です。ですから、そもそもその仕口や継ぎ手に破壊に達する力が及ばないようにつくることが大事ではないでしょうか。損傷の大きな1階部分に損傷を起こさせない方法は、1階部分を強くすることですが、それには限界がある。とすれば、2階を小さくし、1階に大きな力を入れないことのほうが明らかに簡単なことです。現代構法やツーバイフォー、鉄骨やRC造、その他の構法の建物と無理をして強さ比べをするのではなく、伝統構法の特質に向いた建物づくりをするべきだと思います。
震災クラスの地震に耐え、修復も不要という家は、今なら世の中にいくらでもあるでしょう。でも、自分達が作っている家は、それとは少し違うような気がする。それは、家とは丈夫さだけで語られるものではないからだと思います。
最高のバランスとはまず壁が1・2階の壁が同時に壊れていき、ついで仕口/架構という具合じゃなかろうか? 1階と比べて2階が重量もあるし、強過ぎた。もっと全体のバランスをよくできないか?たとえば二階は板倉式の軽い壁、一階は土壁というような仕様も構造的に十分合理的なものになるか?なんて思ってる。
地震力に抵抗する要素というのはまだいくつもあります。たとえば外壁の板壁や主要構造部を取り囲む下屋などはどうでしょうか。甲州では縁や水回りといった下屋が取り囲んで支えていることが多いのですが、そのような仕上げ材の効果、構造体の効果も実験で検証していただけたらと思います。
過剰な装置を必要とせず、自己を段階的に破壊しながら人命を守るその姿を私達は次代に残さなければならないと強く感じます。
今回の見直しが、伝統建築の火を消さないためのものなら、今すでに建っている、昔からの既存の民家をまとめて「不適格」にするのではなく適切に評価していく仕組みも、同じように必要だと思います。
残り時間は2年強。答えになるものをもう一度振動台に載せるまでに、1年ほどしかないと考えると、みんなの総力を挙げないと難しい!と感じます。


実験終了後の記念撮影。国と研究者、それに実務者が協力し、伝統構法を未来につなげるための事業をすすめていることを示す記念すべき一枚。
  • はじめに
  • 実験報告
  • なぜ実験は行われたの?
  • どんな建物を揺らしたの?