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建前から見えた家の姿


原稿:木の家ネット事務局 持留和也

屋根の上から見た風景

左足に重心を移動し身を乗り出すと、足が想像以上の傾斜を感じて、滑り落ちるのではないか、と少し腰が引ける。それを乗り越えて一気に屋根に登ると、見慣れたわが家の庭を4mほどの高さから見下ろすことができ、その視界の開放感と新鮮さに驚いた。庭には30人ほどの見知った顔が笑顔でこちらを見上げている。生まれて初めて体験する場面。

今か今かと待ち構えている人たちに向けて思いっきり声を張り上げる。「そっち行くよ!受け取って!」 半紙に包んだもちを放り投げると、子どもたちが歓声をあげながら右へ左へと動く。屋根に登るのを怖がっていた次男を抱えて棟木の上にあげると、棟梁を先頭に、家族全員が屋根の上に揃った。まるでバースデイケーキのロウソクが並んだよう。笑顔に向かって餅を投げ終えると「ありがとう〜!」と妻がお礼を言った。「建前(たてまえ)」という、上棟祝いの儀式での、施主にとってのクライマックスでした。


古民家に暮らすということ

庭に3坪の小さな小屋を建てています。農機具小屋兼仕事小屋兼ゲストハウス。大きな古民家に住んでいるのに、なぜわざわざそんなことをしているのか、少しご説明します。

わが家が吉祥寺から山梨県の八ヶ岳南麓に越して来たのは5年前、2003年の11月。築80年の古民家を部分的に改修して住み始めました。木の家ネットの何人かの会員を始め、大勢の人に協力してもらって行ったリフォームには、おおむね満足しています。

移り住んでからも、寒さ対策に家の真ん中にペチカをつくったり、縁側を改修したり、台所の暗さをいくらかでも和らげるようスリット窓をつくったりと、古民家特有の問題を解決するために毎年のように手を入れてきました。リフォーム前と比べると、その暮らしやすさは雲泥の差です。

けれども問題が全て解決したわけではありません。わが家はWebサイト制作が本業で、山梨に越して来てからは自宅兼事務所で仕事をしていますが、建具でゆるやかに仕切られただけの古民家では落ち着いて仕事ができる状態を確保することが難しく、作業に集中しにくい状況が5年間続いていました。本当に仕事が立て込んでいる時はインターネット接続があるホテルにノートパソコンを持って籠りにいっていたほどです。

家がどのようなものであって欲しいか

壁をつくって部屋を細かく仕切れば静かな場所をつくることはできますが、それではこの家の開放的な良さが台無しになりそうです。それならば、いっそのこと自宅とは別に仕事場を借りたら?という意見もありましたが、それでは子どもたちが学校から帰って来た時に家にいつも両親がいて、のぞめばすぐに話ができる、という、田舎暮らしをはじめてやっと得られた家庭環境が失われてしまいます。考えた末に出た結論が、離れとしての仕事小屋の建設でした。

仕事のためだけでなく、お客さんが来た時のゲストハウスとしての性質ももたせられるのでは、という想いもありました。せっかく人が泊まりに来てくれても「困った時に居られない家」というのは、僕が考えるに「家」ではありません。現状では我が家の母屋は冬とても寒くなるし、外トイレだったのを居間のすぐ脇に建具一枚で仕切って室内にもってきたトイレは音漏れの問題などもあり、使いよいとはいえません。我が家を寒い人、体調の悪い人をも受け入れられる場所にできないだろうかと、ずっと思っていました。

そこで、普段は仕事に使う小屋であっても、机を折り畳んで布団を敷けばゲストハウスにできるように考えました。そうすれば、赤ちゃんを静かに昼寝させたり、寒がりな人が冬に寝泊まりするのにも使うことができます。母屋のトイレの使用をためらわれる場合は、小屋のトイレを使えばよくなります。

石場立て、二重屋根、インフラ独立の小屋

小屋のおおまかなスケッチは僕が描き、それを環境共生建築を数多く手がけているビオフォルム環境デザイン室の山田貴宏さんに専門家としてのアイデアをたくさんもりこんだ上で、設計図書としてまとめてもらいました。それを元に、「八ヶ岳家造りの会 木の香」の鈴木工務店に施工を依頼してます。予算の問題で悩んでいた時、最後には「この小屋は是非つくりたいから、やらせてくれ」と、引き受けてくれたのは鈴木直彦親方の心意気です。鈴木工務店の若手ホープで、家具から大工に転向してきた28歳の安崎さんに初めての棟梁をはらせたい、ということで、安崎さん、ことヤスさんが、建築期間中、うちのもう一人の家族のような存在となりました。

小屋は、自然石の上に丸太の柱の石場立てという伝統的なつくりかたです。板葺き屋根にしたかったので、雨漏りの心配がないよう屋根は二重にしました。二つの屋根の間を風が抜けることによって、夏場でも屋根からの熱が伝わらず、涼しいはずです。

パソコンと照明程度にしか使わない電気は、ソーラーパネルから給電します。トイレはバイオマストイレを利用して糞尿を堆肥化するので、下水配管はしません。手洗いの水も雨水タンクのため水をつかいます。電話は母屋の親機からのコードレス子機、インターネット接続も母屋の光ファイバー回線から無線LANでとばすので、独立インフラの小屋ということになります。

板葺き屋根や外壁の土塗りなど、自分たちでできることは施主側で施工することで、部分的にセルフビルドの要素も取り入れました。

鈴木親方(左)と、安崎さん

母屋に住みながら、進行する小屋づくりのおもしろさ

普通の家づくりと違うのは、母屋の庭先に現場があることです。おかげで石場立てのひかりつけや、加工場で刻んできた構造材を一気に組み立てる「建て方」など、工事の一つひとつの工程を間近に見る事ができました。

これまで10年近く伝統的な木の家づくりのWebサイト制作をしてきましたが、取材してきたのは家づくりのごく一部の場面でしかなったことがよくわかります。職人さんたちといっしょにお昼ご飯やおやつを食べたり、施工上の疑問にその場で答えたり、わからないことをすぐに質問できたりと、体験できる密度がまるで違います。

大工さんが工場で刻んできた材料を数日かけて組上げ、屋根を支える棟木がおさまった瞬間が「上棟」です。家の骨組みが一気に見えてきたことを感謝し、その家に住む者の幸せを祈願する儀式と、それに続くのがお祝いごとを「建前」と言います。

住みながら建前を迎えるというのも、めずらしい情況でしょう。仮住まいや引っ越し前の住まいから離れた現場であったら、建前の時のごちそうも仕出し弁当を頼んだり、別に宴会場を借りてしまうところを、母屋の台所で調理したできたての手づくり料理を振る舞ったり、母屋の居間でそのまま宴会をすることができました。次のページでは、そんな建前の様子を、時間を追ってご説明します。





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