四郷の家 設計:丹羽明人アトリエ
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改正省エネ法で、土壁はどうなる?

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改正省エネ法 予習篇
その2 一次エネルギー消費量

もうひとつ、平成25年省エネ基準から始まる新たな基準として「一次エネルギー消費量」が加わります。一次エネルギー消費量とは、暖房+冷房+換気+給湯+照明+家電のエネルギー消費量の総和で、それを「基準一次エネルギー消費量以下に設計する」ということを求められます。基準一次エネルギー消費量は、120㎡ぐらいの家で大体80GJぐらいとなります。

一次エネルギー消費量計算(国土交通省発行:「住宅・建築物の省エネルギー基準 平成25年改正のポイント」より)

「設計一次エネルギー消費量」は、机上で、設計図や設備図から、暖房、冷房、換気、給湯、照明の1次エネルギー消費量を算定した総和として求めます。実際の「一次エネルギー消費量」は、支払ったガス代、電気代、灯油代で計算すれば正確に算定できるのですが、設計時点ではどのような生活実態になるのかがわからないので、このように計算するわけです。

前ページでもご紹介しましたが「設計一次エネルギー消費量」を求める簡単なソフトがこちらに公開されていますので、これを、キノちゃんとイエモンくんに試しに触ってみてもらいましょう。

空気をあたためない暖房に
そこまで必要?「室温20℃」

暖房1次エネルギー消費量計算の画面

採用する暖房器具を選択することで「この外皮性能をもつ家で、冬の暖房使用時に室温を20℃以上に保ために必要なエネルギー量」が求められるようになっています。

キノちゃんこの「室温20℃以上」というのがクセものね。

イエモンくん木の家ネットの温熱調査では、冬の室温は16-18℃ぐらいで、寒さを感じないで心地よく過ごしてる人が多かったよ。

キノちゃん暖房には、エアコンなどの対流暖房と輻射暖房とがあるけれど、輻射暖房は風が起きないから、室温は低めでも、体感温度は高くなるのよね。

暖房のいろいろ

方式で分ける対流式風をおこす
輻射式熱を発して周囲をあたためる
エネルギー源で分ける直火ガス、薪、石油
電気
使用範囲で分ける全体暖房
スポット暖房
局所暖房

イエモンくん湿度が高くなれば、気化熱を奪われにくくなる分、体感温度は高く感じるらしいよ。無垢の木や土壁の家では、調湿機能のおかげで、冬の室内湿度が高くなるから、きっとそれであたたかく感じるんだろうね。

キノちゃん前に木の家ネットの温熱環境調査で「冬、快適な室温は?」と訊いたら、16〜18℃という答が多かったわ。

イエモンくん一律に20℃という温度設定は、ちょっと高すぎるのかもね。暖房の種類や、家そのもののつくりによって、ある程度目標設定を替えられるようにしてもいいんじゃないかな。

キノちゃん目標とする室温が下がれば、当然、一次エネルギー消費量は低くなるはずよね!

コタツや薪ストーブの扱いがない?

ラインナップに暖房家電はありません。建築時に取り付ける暖房設備がずらりと並んでいます。エアコン以外は、高スペックな、寒冷地仕様のものばかり。建物に暖房設備を組み込むことを前提とするあたりにも「ドイツ並み」を目指している感じが表れているようですが、日本でも関東以南では、コタツや石油ファンヒーター、電気カーペットといった暖房家電だけで冬を過ごせている家も多いので、生活の実感とはかけ離れているように思えます。

キノちゃんうち、薪ストーブなんだけど「使用する暖房設備」で選べないよ!?

イエモンくんうちもだ。コタツなんだけど。あ・・「その他」を選べってことかな?

キノちゃんその他を選ぶと・・「特に省エネルギー対策をしていない(高効率ではない)ルームエアコン」と同じ数値が入ってくるヨ!

イエモンくんえ〜!? コタツとエアコンがおんなじ値? つける時は「低」、こたつぶとんがあったまれば切ってるから、そんなにエネルギー使ってないはずだけど??

キノちゃん薪ストーブなんて、そんなにどころか、一次エネルギー消費量でカウントする電気も灯油もガスも使わないんだから、ゼロでいいはずよね??

エアコン設置してなくても
省エネタイプでないエアコンと同じって?!

冬はコタツ、夏は扇風機しか使ってなくても「効率の悪いエアコンをつけたのと同じ」エネルギーを使っていると見なされる計算になります。もっとおかしなことに、扇風機すら使っていなくても!高効率エアコンを使った場合よりも、エネルギー消費量は大きく盛られてしまいます。「あとからつけるかもしれないから」ということらしいのですが・・

キノちゃんあ、見て、冷房の方もそうなってる!うち、エアコンつけてなくて、窓あけて風を通してるだけなんだけど、「使わない」を選ぼうとすると「効率の悪いエアコン」を選んだのと同じ値が入って来るよ!

イエモンくんうちは、扇風機だけだけだから・・その他になるんだな・・あれ?同じように「効率の悪いエアコン並」の数値になってる!

キノちゃん使わないことが最大の省エネなはずなのに、なんでそうなっちゃうの??

イエモンくん扇風機の使用電力は、たったの40W。環境省でも推薦のエコ家電なのにな〜

キノちゃん使ってないのに使ってるのと同じと見なすなんて・・盗んでないのにドロボウよばわりされてるようなものよね。

イエモンくん前に換気扇義務化の時に同じことがあったような・・

キノちゃんそう、そう。新建材や合板を使っていなくても、換気扇はつけなさい、っていうあれね。

イエモンくんその時も「あとからホルムアルデヒドを出す家具を買うかもしれないから」っていう理屈だったよな。

キノちゃんう〜ん、性悪説にもほどがある!

イエモンくんなんか、省エネのため?というより、省エネ製品を買わせるため?と思えてきてならないんだけど・・

ほんとに手をつけなきゃいけないの
家電には、ノータッチなのよね

「原発に頼らない暮らし」特集をした時にも触れましたが、家庭用の消費エネルギー量を押し上げているのは、家電です。しかし、一次エネルギー消費量の計算のうち、家電には、基準値としても設計値としても、「21GJ」が定数として割り当てられています。

キノちゃん日本の場合、1980年から今までの間で、暖房エネルギーはそんなに伸びてない。家庭のエネルギー消費が伸びている原因は、家電なのよね。

グラフ上:家庭内でのエネルギー消費の伸び グラフ下:家庭内のエネルギー消費の内訳。石油製品は微減、都市ガスは微増に留まっているが、電気使用量の伸びが著しい。

イエモンくん「省エネ家電」って言ったってさ、前より使ってる台数が多かったり、大型化してたりすれば、そうなるよな。

キノちゃん前は、エアコンなんて、家に一台しかなかったのが、今では高効率エアコンを各部屋につけている家も結構あるみたいよ。

イエモンくんテレビだって、地デジになった時に、大型のに買い替えてる人、多いよね。

キノちゃん食洗機とか暖房便座も、普通に使ってるし・・

イエモンくん使う生活になっちゃうと、元に戻れないんだよね。

キノちゃん木組み土壁の家に住んでる人って、ライフスタイルとして、あんまり家電に走らない人、多くない?

イエモンくんだよね。省エネタイプだから、じゃんじゃん使っていいっていうより、シンプルな生活を志向する人、多いと思うよ。

キノちゃんたとえば、うちは電子レンジ使ってません、テレビありません、ご飯も鍋で焚いてます・・っていう風にして、ひとつひとつ、この21GJから差し引いてくことってできないのかしら?

イエモンくんほんとに省エネが目的なんだったら、エネルギー消費量が少なければ、それでいいはずだもんな。

キノちゃん 室温を20℃にすることよりも、省エネ家電をずらっと揃えることよりも、それが大事なはずよね?

イエモンくんそこ自体がアヤシイような気にさえなってくるんだよね〜 むしろ、断熱工事需要、省エネ家電需要の喚起が真の目的なのかと思えてくるよ。

キノちゃん「足るを知る」「必要ないものは使わない」暮らしは、排除されていく? としたら、これが義務化されては、困ってしまうわ。

木組み土壁事例を
実際に計算してみました!

川越の綾部工務店さんによる施工例をご紹介しましょう。

小路にただずむ家(設計施工:綾部工務店)

歴史を感じさせる川越街中のから、小路を入った先にある住まいです。間口4m奥行き40mという細長い敷地条件から、主家をうなぎの寝床のように配置せざるを得ない中で、どのようにして日照や風通しを得、家事動線・隣地からの視線を組み立てるか。大きなデッキ甲板の上に建つ2階建ての船室のようにしてうまく工夫された、伝統的な構法を採用しながらもシンプルモダンなたたずまいを持つ都市住宅です。埼玉県産木材住宅コンクール2010最優秀賞を受賞しました。

地元の西川材を使った木組みの軸組構造に、竹小舞を編み、土壁をつけ、外壁は1階部分は杉板を横に張った大壁として、2階部分は漆喰塗りの真壁として仕上げています。居間の南面は、開口部いっぱいのガラス戸を介して、大きなデッキに面しています。

土壁づくりの工程

室内は床に無垢材の杉厚板を張り、吹き抜け、簀の子状のキャットウォークとで、1階と2階とを分けてしまえば狭くなるところに、開放感と広がりのある空間を作り出しています。

断熱状況としては、床は杉板のみで無断熱。屋根には発泡系の断熱材を施工。壁は土壁なので、基本的に断熱材は入れていませんが、立地により、土壁から柱面までの間の約30ミリ厚分だけ、木質系の断熱材を入れる場合もあります。保守性を考え、建て主と協議の上、必要ない場合には入れません。

 
 
 
 

外皮性能としては、U値で見ると、土壁+板壁は2、土壁真壁+漆喰塗りは4、開口部のペアガラスの引き戸は4.6。南面はデッキにつながる1Fも、バルコニーに面した2Fも大きな掃き出し窓ですから、UA値を実際に計算をしてみたところ2.18ですから、基準値である0.87の2.5倍。この時点で、改正省エネ法基準を満たしていません。

一次消費エネルギーと計算してみると、設計一次エネルギー量:256.1 GJ/年にもなり、基準一次エネルギー量の119.1GJ/年の2.2倍もエネルギーを使う「省エネ性能のとても悪い家」という位置づけになってしまいました。

しかし、住んでからの光熱費から積算してみると、実際には、一年間のエネルギー使用量はわずか67.8GJ/年。基準一次エネルギー量の0.52倍しか使っていないことが分かります。設計一次エネルギー量と比べてみると、なんと、設計値が実測値の3.7倍にもなっています。

住まい手の声

土壁の調湿性能のおかげで、夏は涼しくさらりとした空気。エアコンの使用頻度は真夏の暑い盛りの数日間に間欠的につける程度で、ごく低いです。 冬は、外からの日射を直接受ける部分の土壁がじんわりあたたまり、夕方以降、ある程度ペレットストーブの温風暖房を入れることで、十分快適に過ごせます。冬場の暖房室温は16度程度です。

エネルギーを使わないように、寒くても我慢して暮らしている、ということではなく、改正省エネ法で基準としている20℃以下でも十分あたたかいと感じて暮らしている様子が分かります。

この家のつくり手であり、建て主の暮らしの様子も見てきている綾部さんは、次のように言っています。

綾部孝司

綾部孝司 綾部工務店(埼玉県川越市)

高機能型の住宅の場合は省エネルギー化を押し進めるべきであろうが、伝統木造はもともと低エネルギーである。暮らしの知恵がセットになる事で環境に負荷を与えない様にしてきた点は、伝統木造の評価するべき重要な項目ではないだろうか。

エネルギー消費の少ない生活が
実現されていれば、それでよし!
それが原点だったはず。

これまでの木の家ネットの調査でも、一部の例外をのぞいて、外皮性能は低くても、実際の一次消費エネルギー量は、標準よりも低い家が多いことが分かっています。

一次エネルギー消費量の設計値はあくまでも建物と設備のハード面の評価ですが、実測値は「暮らし方」にも大きく左右されます。暮らし方には個人差がありますから、土壁の家に住んでいるからといって必ずしも実測値が低く出るとは一概に言えませんが、少なくとも、木と土に住むことを選ぶ人と、低いエネルギーで満足する暮らし方、ライフスタイルとの間には、なんらかの相関関係がありそうです。設計値と実測値とのズレが出る原因は、そのあたりにありそうです。

住まい手が満足する温熱環境が得られていて、かつ省エネが実現できている。そうした暮らし方は、評価がよくていいはずです。そのあたりまでも見据えた評価方法が、必要でしょう。 もっとたくさんの伝統木造の事例にあたって精査する必要があると思います。

綾部孝司

綾部孝司 綾部工務店(埼玉県川越市)

ネット上の商品ユーザーレビューでは各項目の評価点が低くても総合評価が高い場合がある。これは、評価軸に重要な項目が含まれていないためだ。それと似たところが伝統木造にはある。つくる途中の幸せ度や住んでからの幸せ度も大切な事。住宅は、人が住むための器である事を忘れてはならない。

たしかに、木組み土壁、無垢材、木製建具でつくる伝統木造の施工例には、省資源性、環境性、長寿命性、省力性、町並や文化への寄与など、断熱性能以外で、環境的にすぐれた点が、たくさんあります。

まず、家の周辺だけをみても、自給自足的暮らしのステージ、植栽による微気候の形成、身近なもので得るエネルギーなどさまざまな環境性能を実現するポテンシャルに満ちています。

さまざまな環境評価要素。(作成:ビオフォルム環境デザイン室 山田貴宏)

また、まわりの自然との関わり、地域経済、地元の職人技術との関わり、「結い」による作業での人と人との結びつきなど、伝統木造はさまざまな「つながり」の真ん中にあります。

伝統的な木の家づくりには、人が関われる場面が数多くある。(ビオフォルム環境デザイン室 山田貴宏)

断熱性・気密性以外のさまざまな環境性能や文化的歴史的価値も、評価されるべきではないでしょうか?

伝統木造の環境性能(作成:綾部工務店 綾部孝司)

伝統木造が有する、多様な環境性能

<省資源>貴重な素材を無駄無く活かし、末永く使うことができる
丸太を使い切る、山を守る、古材・古土を使い回す、 適材適所など<長寿命>
長持ちさせる納まりや工夫が備わっている
<低エネ>自然のままの素材と手工具だけでも造れる
大規模な設備や電気が無くても造れる、災害時にも有用
<健康性>多少の暑さ寒さは季節感を養い
たくましい健康な心身を育てる
そのためには実現する室内環境は「ほどほど」でもよいのでは
(冬の室内温度16度ぐらい)
<町並み・文化>美しさは継続し、味わいを増す
町並みがコミュニティーの拠り所となり文化を生む

環境性能は
断熱性と省エネ機器だけでなく
より総合的に判断するべき

山田貴宏さんは、設計一次消費エネルギー量と実測値との間のズレが生まれている物理的なひとつの原因として「今の計算などでは、温熱環境性能の評価にのってきていない項目があるのでは。また温熱性能だけではなく、環境面での評価を省エネ性にフィードバックすることも必要では。」と指摘します。

ゴールに至る道はひとつではない
(作成:ビオフォルム環境デザイン室 山田貴宏)

改正省エネ法で評価されているのは環境性能のほんの一部

もりこまれている温熱/エネルギー面での性能省エネ機器
断熱性/気密性
湿度環境
通風性
欠けている性能
蓄熱/パッシブ性
体感/輻射環境
湿度環境
通風性
評価に入っていない環境性能
木質資源
廃棄物(4段階の評価:再利用、再資源化、燃料化、埋め立て)

温熱環境性能のゴールは、省エネで、環境に負荷をかけず、心地よい快適な生活が送れて、健康にいい、ということでしょう。そのためのアプローチは、さまざまあっていいはずです。そのような多様性が認められる社会であってほしいです。

たしかに、古い家は「寒くて」「すきま風があって」現代の生活のクオリティーには及ばないという面はあるでしょう。しかし、今、作られている木組み土壁の家は、施工性にもすぐれ、住まい手の希望する温熱環境を満たすための工夫がこらされています。「外皮性能」という一点で、それが切り捨てられることのないようにと、強く望みます。

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自然と共生する和やかな暮らし。(藤野の風の家 設計:ビオフォルム環境デザイン室)