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古川 保の熊本市川尻町 震災日誌


熊本市川尻町で、造り酒屋の築100年の土蔵を改装し、設計事務所を営む古川保さん。今回、熊本地震で、震度6弱を2回と震度6強を1回を受けました。古川さんは、facebookを使っていち早く現地から情報発信を始め、その貴重な内容は多くの人の注目を浴びました。今回の特集では、ご本人の許可を得て、古川さんの投稿を4月18日から6月30日まで、およそ2ヶ月半分、転載します。

古川さんが長年携わってきた川尻町の復興のために、支援口座を開設しました。ご支援頂ける方は、下記口座までお振込ください。

ゆうちょ銀行
【口座名義】川尻まち復興の会 代表古川保

(ゆうちょ銀行から振り込む場合)
【記号】 17160
【番号】 36897301

(ゆうちょ銀行以外の銀行から振り込む場合)
【店名】 七一八(ナナイチハチ)
【店番】 718 
【口座番号】 普通 3689730

酒好きの貴方に

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「瓦屋根は地震に弱い」「古い建物の被害がひどい」という報道が多い。伝統的工法は柔らかい構造要素が多いので、漆喰壁、貫、骨組み、基礎と被害がすすみ、漆喰被害だけでは軽微なレベルなのだが、実際、漆喰壁が落ちると大被害に見えてしまう。揺れて地震エネルギーを吸収することが、言葉では分かってはいるのだが…。
では、耐震性を確保した伝統的工法の建物はどうだったのか? 壊れた建物はどう直せばいいのか? 地元の川尻町や、これまで手がけて来た家の被災状況を、場所や個人情報が特定できないよう配慮しながら、日々、報告していきます。
すまい塾古川設計室 一級建築士 古川保

6月30日(木)

ガラス
地震時の飛散防止のために、どうしたらよいか

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台風対策には雨戸をつける。雨戸を付けない場合は厚みのあるガラス、強化ガラス又は網入りを採用する。最近、ペアガラスが普及していて、5ミリガラスより3ミリ+3ミリの仕様が多い。台風時は事前に雨戸を閉めるが、地震前に雨戸を閉めることはできないので無防備となる。危険防止のためには、カーテンより内障子の方がガラス飛散対策には良い気がする。

強化ガラスを採用した家で、割れないようにとガムテープを貼っているお宅があった。気持はわかる。

6月29日(水)

梅雨期の問題
「仕事」というのは難しい

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断層近くや川沿いの家の屋根には多くのブルーシートがかかっている。よくもあれだけの量のシートを短時間で掛けたものだと感心する。専門家でないボランティアの人たちは、労働安全基準を無視して屋根に上ったのだ。屋根からの落下事故は聞かなかった。(あったかもしれない)。建設業界には足場をかけるようにと行政指導がある。深刻な梅雨が始まった。更に台風シーズンも迎える。風でシートがめくれ雨漏れ起こり、シートを掛け直しの依頼が来ている。あの時の勢いや緊張感は無い。関係ない家に、良しと思い掛けてやったシートからの雨漏れでクレームになると工務店の社長が嘆いていた。シートの掛け直しでも足場が必要となると、20万円近くの費用がかかる。困ったもんだ。

6月28日(火)

瓦を要りませんか
震災を生き抜いた瓦です

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解体を決められたHさんから連絡があった。三州の56型、セメント型、昔の土ぶき64型が乗っている。56型は2階(10年前に施工)、セメントは1階、64型は1階だ。小数枚が必要な方はいませんか。自分で取ったら差し上げるとのこと。場所は南区富合。

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6月27日(月)

震度7にも幅がある
計測震度6.5以上は、全て震度7

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規準法の2倍の壁量設置の家は被害が少ないと報じられた。今度の地震は最高震度7だった。歴代最大だから、壁倍率を2倍にすれば絶対安全と思っていないだろうか。日経アーキテクチャー掲載の計測震度表を見てほしい。震度7とは計測震度6.5以上である。益城町の震度計は6.56を指していた。よってぎりぎり震度7なのである。

この表は今回作ったものではない。2013年の資料であるが、計測震度6.5で1981年基準の建物の全壊率15%とほぼ当たっている。しかし、計測震度7の地震では新耐震対応の家でも全壊率は55%となる。壁倍率を上げたから安心ということはないみたいだ。建物強度をあげるより逃げ方を考えたがよいのかもしれない。

6月26日(日)

[古い家は弱かった]は間違い
時間が経つと弱くなるのではない

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「古い家ほど被害が多い」のは事実である。土壁は古い、漆喰は古い、瓦屋根の家は古い。古いと家の耐力が低下すると思っている人が多いが間違いである。日経アーキテクチャーの記事を見て欲しい。壁倍率という耐震壁の計算式がある。1階の延べ面積に29という係数を掛けた数値が壁の量である。現在では「軽い屋根」の1階の壁量係数は29である。1980年は21だった。その前の1960年は12だった。なんと昔は現在の4割の必要耐力である。お解りと思うが、家が古かったのでない。古い基準を採用していたから弱かったのだ。墓石でいえば、古い墓石だからといって被害が多くはない。古い墓石も新しい墓石も縦長は倒れているし、横長は被害が少ない。

6月25日(土)

梅雨
除湿器の効果はいかに?

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エアコンも壊れ、コピー機も壊れた。パソコンが急に動かなくなった。5年目なので、震災被害ではなく寿命だろう。修理が不可能なので買い替えた。最近の家もそうなっているのではないだろうか。

本日はエアコンの話。

梅雨時は湿度が高い。心地よい風が吹くとき、窓を開けるべきか、閉めるべきかと迷う。気温30℃、湿度65%の体感温度は29.5℃である。窓を開けたら、風速1㎡の風が入ってくるが、湿度が80%に上がった。体感温度は30℃とあまり変わらない。どちらでも良いのかなと思う。エアコンがないので、除湿器を持ってきた。除湿器の熱で室温が上がってしまう。除湿器のタンクは満杯になっているので確かに除湿はしているみたいだ。しかし、どこからか湿気はまた入ってくる。良くわからない。

6月22日(水)

紙は硬い
紙には変形しにくい方向がある

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地震により障子紙は結構破れている。障子枠は変形しても障子紙は変形せず破れている。では、紙クロスはどうだろうか。下地の石膏ボードは揺れに追随しているのに、紙クロスは変形できず裂けている。障子紙は、湿潤と乾燥で伸び縮みするのに、石膏ボードより変形しないのだ。

6月21日(火)

被災建築物応急危険度判定
謎の類似ステッカー

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震災後の二次災害を防ぐために「被災建築物応急危険度判定」がある。市町村が建物の危険性だけでなく、ブロック塀や樹木やガラス、土間の踏みはずしなど、総合的に判断し「危険」「要注意」「調査済み」のステッカーを張るのだ。「危険」「要注意」にはその理由を書くようになっている。

非常に類似したもう一つの「危険」のステッカーが存在することを知った。「JIA建築物相談会」で、相談者からなんですかと質問を受け初めて知った。ステッカー表示の内容は、「専門家により調査結果―危険―UNSAFE-この建築物に立ち入ることは危険です」だ。主催者名も無い。貼ったのはどこの組織だろうか。市町村のステッカーより頑丈に貼ってある。誰が貼ったかどなたか知りませんか。リフォーム詐欺の事前撒き餌に思えてしまう。この家のり災証明は「一部損壊」だった。

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6月20日(月)

湧水
水前寺公園の水脈

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地震で水前寺公園の水が枯れた。水前寺公園から1キロ離れた場所に土地を所有していたが、その土地から湧水が出だした。25年前、湧水自噴していて枯れてしまったものが、地震で水脈が変ってしまったのだろう。水前寺公園の水脈がこちらにきたのだろうか。返してやりたい思いだ。

6月18日(土)

量販家具
監督省庁の違い

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台所用収納家具が被害を受けたので、量販店からカップボードを買った。扉の中はすごいホルマリン臭である。建築業界はシックハウス法で規制をかけ、ある程度のVOC濃度は落ちた。しかし、家具業界は無法地帯である。家具の扉を開けたら部屋中に臭いが拡散する。ホルマリン漬けになったみたいだ。この仕様で棺桶を作れば死体は腐らない。家具の管轄は経済産業省である。国土交通省は、経済産業省との軋轢を恐れ、家具には規制を掛けず24時間換気扇を義務化した。シックハウス症候群は減っていないという人もいるが家具のせいだろう。厚生省と経済産業省と国土交通省の方々も、同じ人の子であるのに。

6月16日(木)

広範囲の液状化
起きる前に予測ができただろうか?

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液状化が起きる場所は海や川の近くが多い。熊本地震では、150年も以前に川だった場所が幅100m、4キロの長さで液状化が起こったことを誰も予想しなかった。更に阿蘇の山奥でも200か所で液状化が起きていたと報じた。湧水の水位が高いからだと理由を説明しているが、熊本平野は堆積地で6月はどこでも水位は高い。後出しじゃんけんのように、液状化が起きた場所は、堆積地で、水位が高かったからだと言えるが、起きる前に予測ができただろうか。震度5強の地震では今まで通りの液状化候補地で起こり、震度6強の地震では、あらゆる地域に液状化が起こるのではないだろうか。ますます液状化問題は根深くなる。

6月15日(水)

柱のヒビ 2
乾燥法の違いがポイント

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柱のヒビ 1」は自然乾燥材に限っての話だ。自然乾燥と人工乾燥がある。木材屋さんが柱にヒビがあると売りにくいから、ヒビが表にでない人工乾燥が始まった。人工乾燥の場合、表面ヒビではなく、内部にヒビがはいっている。人工乾燥木材が地震で外部に割れが発生した場合は、内部と外部の割れがつながっている可能性があるので、安易にヒビは大丈夫だとは言えない。打音で判断するが微妙音なので、素人には判断がむつかしい。

6月14日(火)

柱のヒビ 1
柱の強度測定法

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柱や梁にヒビがはいって大丈夫かとよく質問を受ける。

木は乾燥すると収縮する。柱の中心部を含んでいる木材を芯持材というが、芯持材は乾燥収縮でほとんどヒビが入る(人工乾燥は入らない)。今回の地震でヒビが早まったことが起きている。乾燥収縮の場合、ヒビは柱の中心で止まる。ヒビを嫌う人は背割りといって初めから柱に割れをいれる。乾燥ヒビや背割れは、強度にはほとんど影響しない。危ないのは貫通割れである。中心を越えてヒビがはいることである。乾燥ヒビか、貫通割れかを判断するには、割れ目に針金を入れてみるとよい。深さが、柱の半分以下か以上かで判断できる。

6月13日(月)

被災物の中でのライブ
目先の合理化が、いざという時の対応力を奪う

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昨日の雨、「瑞鷹」酒造の中で、ライブがあった。入場料は「酒を1本購入」だった。いたるところにビニールシートがかかっているが、平常では大丈夫だ。が、これからの梅雨、台風をどう乗り切るかである。東日本の経験があっても、ブルーシートの在庫があっても、瓦があっても、足場材があっても、マニュアルがあっても、助言があっても、職人が居なければことは進まない。近年の合理化とは職人減らしの技術である。手間が高いからだそうだ。熊本の平均年収は400万円ぐらいだ。高いと思う人は、自分で修理をしてほしい。

6月11日(土)

漆喰施工
きっと、うまく塗れる

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「見える被害」で書いたように漆喰壁は硬い。震度5強ぐらいで、ヒビがはいる。表面だけの被害の家が多い。浮いた漆喰を採って塗ればよいが技術が要る。補修までは1年以上かかると予想するので、日曜大工程度の作業で、自分でとりあえずの施工が出来る人はやってほしい。弊社で設計した施主の方には、コテと材料を差し上げるので取りに来て下さい。うまくいかないかもしれないがとりあえずの応急処置と思ってほしい。

6月10日(金)

建築相談
フリーダイヤルで申し込みを

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建築士としての職能でなにか出来ることはないかと「熊本地震被災住宅の建築無料相談会」を開催することにした。職人不足は否めないが、何かの手助けができないものかと企画したものだ。希望のかたは、フリーダイヤルで申し込みのこと。

6月9日(木)

見えない被害
見えなければ対策できない

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最近は大壁が多い。中の構造は屋外からも室内からも全く見えない。表面のサイデングやクロスの亀裂が入っていれば被害が確認できるが、筋交いが折れたり、仕口が欠落している現象の確認は難しい。最近の超高気密高断熱の家(6月4日の記事)では、付加断熱仕様が更に困難にしている。布団の上から聴診器を当てるようなものである。鉄筋コンクリート造の場合、鉄筋の存在をレントゲンで確認するようなことをしなければならないが、そこまでやるひとはいない。表面的被害の確認だけで「安全」の太鼓判を押すのは疑問である。表面に少しの被害が出ていれば中はすごい被害とみたが良い。り災判定で、「被害なし」が実は「半壊」だったは、ありうる話。

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6月8日(水)

見える被害
見えれば対策できる

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真壁造りの家は構造がはっきり見える。壁の僅かなヒビ、接合部の緩みまで目視できる。見えすぎるので建て主は不安がる。はたして見えない方が良いのだろうか。見えれば修理方法がわかり、対策が打てる。土壁真壁の場合は、漆喰・砂漆喰・中塗り・土壁・貫、梁・柱の順番で被害を受ける。漆喰の被害を受け砂漆喰が大丈夫だったら、中塗り下の構造体はほぼ大丈夫である。砂漆喰の被害をうけ中塗りが大丈夫だったら土壁以下の構造はほぼ大丈夫だ。中が柔らかく、外部が固いからだ。修理費用は外部が安く、中が高い。良くでききている。合理的な被災受け入れ態勢だ。

漆喰は1/90(大体柱の上端で30ミリ程度)傾いたらヒビが入る。少しの地震でヒビがはいるのは想定内である。見えない被害の方が怖い。


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