松井鉄工所 本社工場前
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込み栓角ノミ 復活!松井鉄工所訪問記

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手刻みで木組の家づくりをする大工にとって、なくてはならない電動工具のひとつ「込み栓角ノミ」。その製造元であったリョービ社が製造を中止して早8年。その復活を求めて木の家ネットのサイト上で集めた署名に応えて、三重県伊勢市の松井鉄工所が「込み栓角ノミ」を復活、2016年7月から発売を開始しています。

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2014年末から2015年にかけて、木の家ネットで署名を集めていた画面

松井鉄工所版「込み栓角ノミ」の試作機ができたとの連絡を受け、4月12日に、木の家ネットの大工たち12名が、松井鉄工所を訪れました。その訪問記とその後の製品化に至るまでの経緯について、お届けします。

「木と木を、木でつなぐ」
木組みの仕事

木組みでの家づくりでは、男木(おぎ)とよばれる、先端を凸型に加工した材を、その凸を受ける女木(めぎ)のホゾ穴に差し込んで木を組みます。そして、組んだ両方の材を「つなぐ」のにも、楔、込み栓、鼻栓といった双方を貫く小さな木のパーツを使います。

現代工法では、木と木は金物で接合することが多いのですが、手刻みで木組みをする大工たちは「木と木は、木で接合する」ことを選びます。力が加わった時の動きにも木同士の方が無理がなく、金物が経年劣化で錆びたり、それによって木が腐蝕したりするおそれもないからです。

「込み栓角ノミ」の出番は?

「込栓」は、土台に長ホゾの柱を差したり、柱と梁を組んだりした時に、双方の材を貫通させるようにして打つ栓です。

栓の形状には「丸栓」と「角栓」があります。丸栓は部材同士を組んだ状態で、両材を貫くように電動ドリルで穴をあけて打ち込みますが、角栓を使う場合は、刻みの段階で、込栓を打ち込むための四角い穴を彫っておかなければなりません。この穴をあける電動工具が「込み栓角ノミ」です。回転するドリルが材に穴をあけつつ、その周囲四方を、角ノミの刃が、四角く削り取る仕事をしてくれます。

込み栓施工の実際
追掛大栓継における込み栓施工の実際

刻み作業の際、大工は組み合う双方の材に、込み栓を打ち込む位置に墨付けをし、穴をあけるのですが、この時にちょっとした工夫をしています。それは、材と材とがピッタリと合う位置よりもほんの数ミリ、穴の位置を、組み上げた時に「きつめ」になる方向にずらすのです。そうすることで、込み栓を打ち込んだ時に、材と材とが「引き寄せ」合い、しっかりと組み上がるのです。これは、組んだあとからドリルで穴をあける「丸栓」ではできないことです。角栓を用いる大工が、刻む手間はかけても角栓を採用する理由は、ここにあります。

一棟につき、あける穴は
数百個にも!

ある大工が、30坪ほどの2階建ての木組みの家に打ち込まれる込み栓の本数を数えたところ、300〜400本だったそうです。となると、あける穴はその倍。ドリルであらかじめ穴をあけておき、手鑿で四角く削ることもできなくはないですが、手作業では大変な時間がかかってしまいます。

以前は「穴彫り」専門の職人が居て、刻みで忙しい作業場をまわっていたそうですが、「込み栓角ノミ」の登場により穴彫りは、電動工具の仕事となり、省力化に貢献しました。

角栓の穴をあけるなら「込み栓角ノミ」。大量の穴掘りを電動工具でこなすのがあたりまえになった今や、コスト面で手作業には後戻りはできません。といって、引き寄せきれない丸栓は使いたくない…そういう大工にとって「必須の電動工具」と言われるのはそのためです。

リョービ社製の
「込み栓角ノミ」が廃番に

「込み栓角ノミ」は、リョービ社から発売されていました。ところが、8年前、これが廃番に。今では、それぞれの工務店で所有しているもの、手放されたのが中古品となって出回っているものだけになってしまっています。

最近では希少価値が高くなった分、オークションなどでもその価格は上がっているようです。「競り落とそうと値を吊り上げ合っている相手は、もしかして木の家ネットの仲間だったりして?」という冗談のような本当の話?が木の家ネットのメーリングリストで流れるようになってきました。

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廃番になったリョービ社の「込み栓角ノミ」

復活を求める署名を
松井鉄工所に届ける

木組み仕事の作業性を底辺で支える心強い道具でありながら、廃番となっている「込み栓角ノミ」。その復活を求める署名を木の家ネットのサイト上で集めはじめたのが、2014年11月のこと。その署名を届ける先として大工たちが選んだのは、三重県伊勢市にある「松井鉄工所」でした。「無垢材・手刻みの仕事に必要なニッチな道具を継続的に作ってくれている」と評判の会社だからです。

集まった賛同署名は、158名分。実際に大工仕事に携わっている73名のほか、設計者、木材関係者ほか、一般の建て主さんからの応援の声も多くあり、これを松井鉄工所に届けたのが、2015年の7月のことでした。

松井鉄工所版「込み栓角ノミ」
2016年7月から発売を開始!

この要望にこたえる形で、ついに松井鉄工所が、込み栓角ノミの復活に取り組むこととなり、完成間近の試作機ができたという連絡を受けたのが3月のこと。そして4月19日、木の家ネットの大工の有志13名が松井鉄工所を訪問することになりました。

集まったのは、滋賀の大津から宮内寿和と弟子たち、京都の綾部から金田克彦、愛知の名古屋から中村武司、同じく愛知の蒲郡から小田貴士と大工仲間の望月さん、地元三重の池山琢馬と弟子、それに増田拓史、高橋一浩、東原達也の総勢13人の大工と、山梨から木の家ネット事務局の2人。

また、木の家ネットのサイトでこの署名のことを知り、松井鉄工所と木の家ネットとの仲介をしてくださった伊勢市出身でNPO法人 環境共棲住宅「地球の会」の理事をつとめる佐藤善秀さん、元・伊勢市長 森下隆生さんも同席してくださいました。

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NPO法人 環境共棲住宅「地球の会」理事の佐藤善秀さん(左)、元・伊勢市長 森下隆生さん

松井鉄工所の工場を見学し、電動工具シリーズを手がけはじめた経緯やこれまで発表してきたラインナップについて話を聞き、試作機を実際に使ってみて意見交換をし…と、あっという間に予定の4時間が経ちました。

今回は試作機ができあがり、発売も決まった時点でようやく訪問が実現しましたが、大工たちとしては、署名を集めはじめた当初から、開発段階での意見交換を望んでいました。電動工具を使う大工たちと、その工具をつくる松井鉄工所の人たちとが顔を合わせてこそ、より使いやすく、求めやすいものができるからです。今回の松井鉄工所と大工たちとの交流が「これからの始まり」の第一歩となることを願いつつ「試作機完成訪問記とその後」のレポートをお届けします。

次ページでは、松井鉄工所の電動工具シリーズの誕生の経緯をお伝えします

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