静岡県周智郡森町にある有限会社アマノ。取材は写真左のゲストハウスで行われた。
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静岡会員物語


木の家ネットは10月から第16期を迎え、恒例の総会を開催します。今年の開催地は静岡の掛川。開催地幹事をつとめる静岡の会員に会ってインタビューしてきました。

会員が集まったのは、静岡県掛川市の北に位置する、周知郡森町にある、天然乾燥にこだわる製材所「アマノ」のゲストハウス。天然乾燥の天竜杉をふんだんに使った気持ちのいい空間に迎えてくださったのは、有限会社アマノの営業担当の山口好則さん。

集まったのは、牧之原市の大工 中川孟さん、沼津市の大工 北山一幸さん、地元森町の大工 松村寛さん、そして静岡市の設計士 山本康二朗さん。静岡県と一概に言っても、東西に広く、お互いによく知っている同士もあり、初めて会うという人もありました。

静岡の「お母さん」的存在の、浜松市の設計士 寺川千佳子さんが作って来てくださったキーマカレーをお昼に一緒に食べ、午後から夜にかけて、木のこと、家づくりのこと、まちづくりのことなどの話に花を咲かせました。

それぞれの仕事へのこだわりやお人柄の一端をここにご紹介します。

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山口 好則さん
有限会社アマノ(静岡県周智郡森町)

材木屋として「いい材」と思える
そんな材を売りたい

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アマノの先代社長と、現 若社長

天竜杉を材木に加工し、販売しているアマノの営業の山口です。最近、アマノでは、社長が先代から若社長に変わりましたが「天然乾燥」にこだわっていくという基本方針は変わりません。

その理由はただひとつ、材木屋として「これはいい材だ」と自信を持って言える材だけを売りたいからです。

「いい材」の基準は、年輪がしっかりと詰まっていること、色艶や香りがよく、美しいこと。木を見せる家づくりに、ぜひ使ってもらいたいと、自信を持って薦められる材です。

クレーム防止に傾いて
「いい材」を作らなくなっている

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ところが、今の材木流通の中で評価されるのは、こうした「いい材」ではなく「クレームの少ない材」なんです。材木のクレームでもっとも多いのは「表面割れ」。これは、材木が乾燥し、収縮していく過程で出る現象で、高温乾燥にかけて強制的に水分を排出させれば出現率を少なく抑えることができます。

しかし、高温乾燥すると、表面割れは少なくなるのですが、見えないところで内部割れが起きることが多いのです。木と木を金物接合する場合は、内部割れがあっても支障がないのですが、仕口・継手を加工して木組みをする場合は、接合部分を弱くするおそれのある内部割れは致命的です。

そして何より、高温乾燥すると、材木屋が「いい材」と胸を張って言える、木が本来もっているよさである色や艶、香りといった美しさが、損なわれてしまうのです。本来、もっと美しいものであるはずの材が、高温乾燥をかけることでその魅力を失う。それは、材木屋ならば、みんな分かっていることなのですが。

クレームというリスクがないことと引換えに、失うものがあることを、誰も言わないのです。天然乾燥にこだわるのは、胸を張って「いい材です」と言える材を提供したいからなのです。

「ほったらかし乾燥」でなく
低温乾燥との併用で良材を

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自社開発の低温乾燥室。乾燥室内は廃材の燃焼熱を利用した蒸気が満ちていて、サウナのよう

木をあらわしにしてつくる家づくりなら、木は本来もっている美しさをなるべくそのまま見せたい。木組みでするなら、内部割れは致命的。だから、木の家ネットの大工さんたちは、天然乾燥材を選んでくれるのです。

せっかく選んでくれるのですから、そのことに応えたい。天然乾燥を守りながら、表面割れを抑える方法はないものか。そういう問題意識で編み出したのが、アマノ流の「低温乾燥+天然乾燥」というやり方です。自然乾燥といっても製材してから桟積みしておくだけの「ほったらかし」乾燥ではなく、挽いた直後に1〜2週間ほど、低温乾燥室に入れるのです。

低温乾燥室は自分たちで造りました。高温乾燥は、重油で焚いた火でより高い温度でするのが普通ですが、アマノでは、廃材を焚く熱程度で、夏場なら40度、冬場なら50度ぐらいにまでしか温度はあげません。1〜2週間、毎日、夕方に燃料になる廃材を焚き、それが燃え尽きるまでそのままにしておき、また次の日の夕方に焚く、という間欠的なサイクルで乾燥をさせます。また、焚いている間、急激に乾燥しすぎないよう、上からシャワーをかけます。いわば「スチームサウナ」のような状態を作るのです。乾燥室から出したあとは、3ヶ月以上、桟積みにして自然乾燥させてから出荷します。

この方法を編み出してから、木が本来もっている美しさは活かしつつ、表面割れをはじめ、あとから木が「暴れる」ことは大分減りました。

リスクを含めて
理解してくれる人に使ってほしい

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それでも、天然乾燥材のリスクはゼロではありません。だからこそ、そのよさとリスクとの両方を分かる大工さんにこそ、使ってほしいのです。

国でも、含水率が低く、ヤング係数の高い高温乾燥材を奨励する政策を進めています。リスクは少ないかもしれませんが、材の本当のよさを引き出すという点からいえば、間違った政策だと思います。とはいえ、リスクも呑み込んだ上で使う良材は、使う人を選ぶので、誰が使っても間違いがない、という安全性を選ぶとそうなるんでしょうね。

だからこそ、リスクを含めて、天然乾燥の良材を使いこなす知恵を、使う人たち同士の仲間内で広めてほしい。そう思っています。私たちがいくら宣伝するよりも、使う人同士が実際の話をした方が説得力もあるし、確実に伝わるからです。

材木を売る側がお客さんを選ぶなんて、一般的にはおかしなことかもしれません。それでも、含水率やヤング係数といった数字でなく、木そのもののよさを見て、それを活かしてくれる人に使ってもらうのが、木にとっても、手塩にかけて山の木を育てている人にとっても、いいことだと思うのです。

北山アマノさんの材は天然乾燥材でも表面割れのない、状態がいいものが多いよね。天竜杉独特の黒みがかった赤色も独特。

中川アマノの材がいいのはもちろんだけれど、作業場に納品されてからは、材木の質の管理は大工の責任だと思ってる。

山口理解して使ってもらえているのは、ありがたいこと。みなさんの期待に応えられるよう、今後もがんばります。

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中川 孟さん
中川建築(静岡県牧ノ原市)

木の良さを感じられるような
今の時代に合った作り方を

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紅林邸

御前崎で大工をしています。代々、家大工として地元で工務店を営み100年以上経っていて、昔ながらの手刻みでコツコツと地域の住宅を作っています。日々生活している中で、木の良さを感じられるような家づくりを心がけています。あたりまえのようなことですが、今の木造住宅では、木がほとんど見えてすらいない。

木のよさを見せる。それが本来の木造住宅の姿だと思っています。今、この時代に木を見せる住宅を作るには、伝統的な技術で昔ながらのやり方で作るだけでなく、見せ方を工夫する必要があると感じています。たとえば、木組みの小屋裏をそのまま見せるような空間の作り方は、以前のあたりまえの和風住宅にはなかったことですし、あまり「和風」になりすぎないような空間をつくることも大事です。

そのような意識から、自分なりに建築士の資格をとる前から、デザインの勉強しています。またそのような空間を作るために、大工として梁の飛ばし方や寸法、差し口はどうしたらいいのかなど、手探りで、また、大工同士のつながりの中で学んでいます。

家族経営の工務店の四代目
嫁さんも大工!

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中川猛さんの奥様。一級建築士であり、一級施工監理士であり、一級技能士であり、一児の母

うちは、父も弟も、亡くなった祖父も大工という家族経営の工務店ですが、嫁さんも大工です。職業訓練校で知り合い、その後、宮大工の工務店で仕事をしていた彼女と結婚しました。嫁さんも、一級建築士、一級施工監理士、一級技能士の資格をもっています。仕事の正確さ、早さともに頼りになる存在です。

ですから、すべての物件が設計施工です。嫁さんが施主さんの奥さんと打合せをするので、棚の仕様、開口部の位置、ドアの開き勝手など、細かい部分までよく調整がとれて、うまくいっています。

施工件数は新築で年2軒ぐらいですが、墨付けに2ヶ月、刻みに1ヶ月、建前から竣工まで3〜4ヶ月というサイクルでまわしています。最近は、その合間にリフォームの仕事が入ることも多いです。30年前ぐらいに父が建てた家が直す時期に来ているからです。

材料の良さも大事だけれど
大工の適切な管理も必要

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木をあらわすつくりかたをしますから、材料には気をつかいます。アマノのスギは、色や艶も美しく、満足しています。かんなをかけても、しっとりと削りやすく、仕上りもきれいです。年輪の目もしっかりと詰まっていて、満足しています。

どんなにいい材料でも、大工が管理しなければ反ったり割れたりするものだと思っています。だから、山口さんの言う「リスク」については、クレームの対象とはとらえていません。材が納品されてからの管理は、当然、大工の責任だと思っています。化粧で見せる面に割れが出ないように背割れを入れる、木の上下や表裏など基本的な使い方に気を遣うなど、大工としてあたりまえのことだと思っています。

地震、津波、原発
リスクのある地での家づくりは?

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木挽鋸(こびきのこ)を挽く中川孟さん

御前崎は、東海地震で津波を受けるおそれも高く、浜岡原発もすぐ近くにあるという、リスクの高い地域です。そんな中で、家づくりがどうあるべきか、ということは差し迫った課題です。家が人を殺すことがあってはならない、家が傾いたとしても「いのちは守ってくれた」ということは絶対に必要な条件だと思っています。

また、リフォーム物件も多いので、昔ながらのつくりの家をどの程度、どのように直せばいいか、ということもよく考えます。そのような問題について、総会で意見交換できたらと思います。

山口材料は、それを使いこなせる人の手にかかってこそ価値を発揮します。大工さん同士の間で、用い方についての情報交換がなされるといいな。

北山嫁さんが大工だなんて、すごい!最強の家族だね!ずっと一人でやってきた自分とは大違い・・総会に是非、連れて来てよ!

松村北さんや俺みたいに、自分の代で大工を始めるのと比べ、加工場があったり、親の代からのつながりや地域密着の人間関係とかあって、同じ大工でも仕事の仕方が随分違うんだろうな。

次ページでは、北山さんの施主参加の家づくりに、松村さんの共に高め合う関係の中での家づくり、山本さんのファームビレッジ構想などをご紹介します


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山口好則さんの奥様のカレーのレシピを元に、寺川千佳子さんがつくってきてくれたキーマカレー。全員でいただきました。