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気候風土適応住宅のススメ

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省エネ計算プログラムの得意分野、不得意分野

建築物省エネ法の目的は、建築物の消費エネルギー性能を向上することにあります。ところが、実際に少ないエネルギーで暮らせるような住宅でも、この法律が定めている一次消費エネルギー使用量を設計段階で推定する計算プログラムに設計条件を代入すると、あまりよくない結果が出てしまうことがあります。

それは、現行の計算プログラムは「外皮性能を高めることで建物の消費エネルギーを低く抑える」ことを指向したものだからです。建物が断熱材などで「くるまれている」状態がそもそもなければ、いい数字は出ません。それゆえ、高気密高断熱タイプの建物の省エネ性能評価には、有効な計算プログラムではあるのですが、それでは建物の省エネ性能を正しく評価できないこともあります。

どのような家が、不得意分野か?

どういう建物が、この計算プログラムでは正しく評価されないのか。ひと言で言えば、断熱材を入れることを前提としない建物。日本の伝統的な木造住宅、大きな開口部をもった外界に開かれたデザインの住宅、ログハウスなどは、なかなか実際の消費エネルギー実態に沿った評価がされにくいのです。

そもそも「建物の断熱化を徹底することで、省エネ性能をアップしよう」というのは、ドイツや北欧をはじめとする、寒冷地の考え方です。日本でも北海道や東北の一部では有効な方法ですが、関東以南の暮らしにはそぐわないといってよいでしょう。

2016年1月に行われた京都フォーラムで、安藤邦廣先生が東アジアの建築史について興味深い講義をしてくださいました。「現在の建築物省エネ法で掲げている省エネ基準は『寒冷地型閉鎖系モデル』を前提としたものである。しかし、日本のほとんどの地域は温暖地であり、夏と冬とで外部環境への応じ方を柔軟に変化させる『温暖地型開放系モデル』で考えるべきだ」というのがおよその論旨です。 省エネ基準が、北海道などでの省エネの要請に端を発し、ドイツなどの省エネ基準に倣った形で誕生してきたこともあり、一次エネルギー消費量計算ソフトも寒冷地型の高気密高断熱住宅を前提としたものとなっているのです。

温暖地開放系 外皮設計モデル

寒冷地型閉鎖系:気密断熱をしっかりして、全館恒常暖冷房
温暖地型開放系:屋根はしっかり遮熱。縁側をもうけ、夏は風通しよく、冬は低い陽射しを取り込む。小さく仕切って断熱した空間を部分暖冷房(オンドルもこのタイプ)。作図:安藤邦廣

温暖地開放系モデルの特徴

○ 大きな屋根と深い軒:
屋根断熱。夏は軒庇で外壁と開口部の日射遮蔽。日照角度の深い冬は、陽射しの取り込み
○ 高床:
床下通気で耐久性を高める
○ 部分暖冷房:
外皮全体ではなく、住宅内の一部を囲い、部分的に暖冷房する
○ 縁側:
夏は広い開口部による通風。冬は外側のガラス戸と内側の障子との間に空気層をもうける

省エネ基準へのパブリックコメント
国会での附帯決議

改正省エネ法の要請でつくられた省エネ基準についてパブリックコメントが行われた時に、木の家ネットからも多く意見を寄せたことは皆様の記憶にも新しいことと思います。その中でも特に多かったのは「外皮性能の向上一辺倒の省エネ基準が義務化されたら、日本の伝統的な木造住宅がつくれなくなる」という意見でした。

外皮性能重視の省エネ基準を作成する一方で、国では日本の伝統的なスタイルの家を推奨し、「和の住まいのすすめ」という冊子も作成しています。2020年は建築物省エネ法の全面義務化の年でもあると同時に、東京オリンピックの開催年ともなります。「日本にしかない、日本らしい建築や街並」が、海外からの観光客からも期待されています。

そうした状況の中で、2015(平成27)年6月3日、第189回国会衆議院国土交通委員会では「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律案に対する附帯決議」がなされました。

委員会で質問する、民進党(当時 民主党)の小宮山議員。彼女の質問が、「地域の気候風土に対応した伝統的構法の建築物などの承継を可能とする仕組みを検討すること」という附帯決議に繋がりました。

国交省で策定した
「気候風土適応住宅」ガイドライン

外皮性能は、連続的に外界と室内とを遮断していることによって達成されますから「外界と室内とを隔てず、ゆるくつながる」ような要素が、省エネ性能の中でもとりわけ外皮性能評価寄りにつくられている省エネ性能判定プログラムの不得意分野となります。

国交省では、これらを「気候風土適応住宅」として位置づけ、外皮性能の適用除外、省エネ性能判定プログラムの緩和措置をとることとしました。もちろん、単に「外皮性能が省エネ基準に満たない」というだけでなく、各地の気候風土に応じた、環境調整の工夫があり、少ないエネルギーで暮らす知恵や技術が認められることが条件となります。

気候風土適応住宅の認定は、日本全国各地でさまざまな気候風土があるため、直接国でするのではなく、全国各地の特定行政庁でそれぞれに認定基準をもうけることとし、国では認定基準策定のための「ガイドライン」をおおまかに示すのみにとどめています。

そのガイドラインをここに紹介しますが、まさに「和の住まいのすすめ」で推奨されているような建物をなす構成要素がずらっと並んでいます。

1. 縁側

屋外と畳敷の部屋とのあいだに設けられた通路状の板敷の空間をいう。
縁側と屋外のあいだ、縁側と畳敷の部屋とのあいだには、掃き出しの連続する建具が設けられるが、熱的境界の設定がはっきりしない領域であるために、断熱性の確保が困難になることがあると想定される。

縁側
写真:けやき建築設計 (越谷市) 提供 (個人住宅)
photo (c) KAWABEAkinobu

2. 小屋組現し、かつ、野地現し

小屋梁・敷梁・小屋束・母屋などの小屋組材を室内側から見えるように使う現しとし、かつ、野地を現し (化粧野地) とする構法である。
断熱材は野地の上面に施工できるが、断熱層の厚さが限られることがある。

小屋組現し・野地現し
写真:綾部工務店 (川越市) 提供 (個人住宅)

3. 土塗壁 (外壁両側を真壁としたもの、外壁片側を真壁としたもの、土蔵造りのもの)

土壁とは、小舞と呼ばれる竹や木で組んだ格子を縄で結わえて下地とし、土を塗り重ねた壁をいう。
真壁の土壁は、土壁を用いて、柱や梁などの構造材を表に見せるつくり方をした壁である。
外壁の両側を真壁とした土壁は、面として断熱層を構成することが困難である。
外壁の片側を真壁とした土壁とは、土壁の内側を真壁とし、外側を大壁とするものである。土壁と板壁などの外装材の間に断熱材を施工できるが、断熱層の厚さが限られることがある。
土蔵造りは、外壁の外側を土壁で大壁に仕上げたものであり、断熱層を構成することが困難である。

土塗壁外壁両側真壁 (左:外部、右:内部)

土塗壁外壁片側真壁 (左:外部、中:内部) 土蔵造り
写真上:大屋工務店 (市川市) 提供 (個人住宅)
写真下左:風基建設 (東京都) 提供 (個人住宅)
写真下右:アルセッド建築研究所 (東京都) 提供 (気多宮街なみ交流センター (福島県) )

4. 板壁 (落し込み板壁等) のうち、外壁両側を真壁としたもの

板壁 (落とし込み板壁) は、柱と横架材の内側に1寸程度の厚さの板をはめ込んで壁体を構成する、一種の壁式構造の構法である。
外壁に落とし込み板壁を用いる場合、一般的には外装材を設けて、板壁と外装材のあいだに断熱層が構成される。内部を落とし板現しとし、外部を真壁にする部分では、面として断熱層を構成することが困難である。

落とし込み板壁 (左:施工状況、右:内部)
写真:日本板倉建築協会 (つくば市) 提供

5. 土塗壁以外で、外壁両側を真壁としたもの

土塗壁を用いないで外壁両側を真壁とする構法である。例えば、屋外側をモルタル塗の真壁、室内側をラスボード下地漆喰塗の真壁とする。
断熱材は壁体内に充填施工するが、断熱層の厚さが限られることがある。

土塗壁を用いない外壁両側真壁 (左:外部、右:内部)
写真:創夢舎 (飯能市) 提供 (個人住宅)

6. 外壁両側を木材現しにしたもの (校倉 [あぜくら] ・丸太組構法等)

外壁両側を木材現しにした構法には校倉、丸太組構法などがある。 校倉は、断面が矩形の横木を井桁に積み重ねて壁をつくる構法である。
丸太組構法は、丸太材等を水平に積み上げて壁体を構成し、張間・桁行方向の壁相互の交差部分では丸太材をかみ合わせる一種の壁式構造の構法である。一般に丸太材等そのものの質感や形状を内外装の意匠として活用することが好まれ、その場合は外壁の両側を丸太材等現しにするために、面として断熱層を構成することが困難である。

丸太組構法 (外壁両側丸太組現し)
写真:芳賀沼製作 (川越市) 提供 (個人住宅)

7. 開放的な床下 (石場建て・足固め等)

石場建てとは礎石の上に直接柱を立てることをいう。礎石に丸形をした石を用いたものを玉石基礎という。石場建ての柱の足元を相互につなぐための横架材を足固めという。
石場建てを用いた床下空間は、布基礎に比べて開放的で通気性が高い (外部の気流が進入する) ので、床下が冬期には屋外と同等の低温になるおそれが高い。床の断熱措置を十分に講じない場合は、断熱性の確保が困難になると想定される。

石場建て・足固めによる開放的な床下
写真左:川端建築計画 (野洲市) 提供 (個人住宅)
写真右:綾部工務店 (川越市) 提供 (個人住宅)

8. せがい造り、はね木 (出し梁)

せがい造りは、建物外周の柱・桁を介して腕木を出し、その先端に桁を載せて、軒部分を構成する構法をいう。
はね木 (出し梁) は、梃子の原理を使って、入側桁から軒桁の上部を視点にして、はね出した鼻母屋や茅負を先端で支える構造部材をいう。
これらは軒の出を深くするため、軒先を豪華に見せるため、屋根に積もった雪の荷重に対応するために用いられる。
腕木やはね木が外皮を貫通することにより、取り合い部に隙間が生じ、断熱性の確保を困難にすると想定される。

はね木
図:小林一元・高橋昌巳・宮越喜彦・宮坂公啓編著『木造建築用語辞典』井上書院 (1997年3月発行)
写真左:いよぎん地域経済研究センター (松山市) 提供 (個人住宅)

9. 面戸板 [めんどいた] 現し

物と物との隙間、もしくは、その隙間を塞ぐ部材を面戸という。面戸板は、軒桁と屋根野地のあいだの隙間 (面戸) を塞ぐために垂木と垂木のあいだに挿入する板のことを指す。
面戸板を現しとして、これのみで桁と野地までの隙間を塞ぐ場合には、断熱層を構成することが困難になるとともに、面戸板と桁・野地・垂木の取り合い部に隙間が生じ、断熱性の確保を困難にすると想定される。

面戸板現し 下屋部分を化粧野地・面戸板現しにした例
図:小林盛太著『和風住宅の知識』彰国社 (1984年7月発行)
写真:アルセッド建築研究所 (東京都) 提供 (林芙美子記念館 (新宿区) )

10. 茅葺 [かやぶ] き屋根

茅で葺いた屋根をいう。茅は、屋根を葺く草の総称であり、ススキが最もよく使われるが、ヨシやイネ科の多年草や麦藁、稲藁も使われる。茅葺きを藁葺きということもある。
茅葺は、部位として隙間が多く、断熱構造化しても漏気が生じるために、断熱性の確保を困難にすると想定される。また、一般に簀子天井と組み合わされることが多く、天井に断熱層を構成することは困難である。

茅葺き屋根
図:安藤邦廣・乾尚彦・山下浩一著『住まいの伝統技術』建築資料研究社 (1995年3月発行)
写真:八多ふれあいのまちづくり協議会 (神戸市) 提供 (個人住宅)

11. 木製建具のうち、地場で製作されるもの

サッシに木材を用いた木製建具は、地場の建具職人によって現場製作されるものと、建具メーカーによる工場生産品とがある。
現場製作される木製建具において、木枠のしゃくり、合い欠きなどによる召し合せ (2枚建具の突合せ部分の隙間防止) が講じられていない場合は、隙間が生じやすく、断熱性の確保を困難にすると想定される。

現場製作による木製建具
写真左:アルセッド建築研究所 (東京都) 提供 (個人住宅)
写真右:アルセッド建築研究所 (東京都) 提供 (日向市歴史民俗資料館)

12. 下地窓、無双 [むそう] 窓

下地窓は、土壁の一部を塗り残して木舞下地を現した窓の形式である。茶室や数寄屋造に用いられる下地窓は、皮付きの葭を組み合わせて、意匠的な風情を出す。
無双窓は、一定間隔で幅広の連子板を竪に取付け、その内側に付けた同形式の連子の引き戸を左右に移動させて開閉する窓の形式である。
下地窓、無双窓ともその形式上隙間が大きく、断熱性の確保を困難にすると想定される。

下地窓 無双窓 (引戸上の欄間部)
写真左:『新・和風デザインハンドブック』エクスナレッジ (2011年9月発行)
写真右:アルセッド建築研究所 (東京都) 提供 (環境共生モデル住宅 (水俣市) )

13. 竿縁 [さおぶち] 天井、網代 [あじろ] 天井、簀子 [すのこ] 天井

竿縁天井は、竿縁と呼ばれる細長い材を並べ、その上に天井板を乗せたものをいう。
簀子天井は、細長い材や竹を目透しで並べて留め付けた天井をいう。
網代天井は、葦、竹、杉や檜の薄板などを、斜めまたは縦横に組んで、手織り風に編んだものをいう。 これらの形式の天井は、断熱材の施工が難しい。また、当該部位・構成材に隙間があり、断熱性の確保を困難にすると想定される。

竿縁天井 (上図、写真)

網代
図:木造建築研究フォラム編『図説・木造建築事典』学芸出版社 (1995年3月発行) 写真上:橋本建設 (広島市) 提供 (個人住宅)
写真下:竹平商店 (京都市) 提供 (網代)

14. 土間 (三和土 [たたき] )

屋内において、土のままあるいは三和土 (土と石灰とにがりを混ぜてたたき固めたもの) で仕上げられ、板の張っていない床をいう。
土間と屋外のあいだ、土間と部屋のあいだは、熱的境界の設定がはっきりしない領域であるために、断熱性の確保が困難になることがあると想定される。

玄関土間 土間
写真左:けやき建築設計 (越谷市) 提供 (個人住宅)
photo (c) KAWABE Akinobu
写真右:かわかみ建築設計室 (松本市) 提供 (個人住宅)

15. 床板張り仕上げのうち、下地材を用いず単層床板張りとしたもの

床板には、縁甲板 [えんこういた] と呼ばれる幅6〜12cm、厚さ12〜15mmで、ヒノキ・マツなどの主として針葉樹の床材が、縁側・廊下などに用いられる。通常は木端面に本実加工がしてあり、釘で根太に留め付ける。
合板などの捨て張りをせず、根太に直接張り上げる場合や、木端面を本実や相じゃくりとしないで突付けとする場合は、取り合い部に隙間が生じやすく、断熱性の確保を困難にすると想定される。

床板張り仕上げ (下地なし)
図:木造建築研究フォラム編『図説・木造建築事典』学芸出版社 (1995年3月発行)

一般社団法人 日本サステナブル建築協会 刊 「気候風土適応住宅の認定のガイドライン・同解説書」を元に制作

まさに、木の家ネットのつくり手が実践する家づくりの要素が並んでいますね!

エネルギー消費量の実態調査

ところで、このようなガイドラインが策定される裏付けとなったのが、木の家ネットでもたびたび報告してきた「伝統木造住宅の温熱環境調査」です。JIAや建築研究所などで実施し、木の家ネットメンバーの施工例やその家に住まわれている御家族の暮らしの実態についてのデータを提供してきました。

省エネの計算プログラムでは「設計値」と「基準値」を比べ、設計値が基準値を下回らなければ、適合性判定でNGになります。ここでいう「設計値」も「基準値」も机上で計算したエネルギー消費量に過ぎないので、実際に年間のエネルギー使用量がどうなっているのか、住まい手の暮らしぶりやその中での温熱感はどのようなものなのかを、住まい手の協力を得て行ったのが「温熱環境調査」です。

その中で見えてきたのは「計算値ではNGだが、実態調査では優秀」という家が大半を占めている、という現実でした。実態と合っていない計算プログラムのために、日本の気候風土に合った家づくりができなくなるとは、おかしなこと。なんとかしなければ!ということで、JIAや日本建築士会といった建築関係の大きな組織が、伝統木造を守るために立ち上がってくれたのは、とてもありがたいことでした。

気候風土適応住宅

これまで述べてたような下地があって、省エネ基準の適合確認方法のもうひとつの道として「気候風土適応住宅」という枠組が2016年3月にできました。具体的には「地域の気候及び風土に応じた住宅であることにより外皮基準に適合させることが困難であると認めるもの」といいます。

2020年の新築住宅全戸について省エネ基準への適応義務化に先立って各地域の特定行政庁で認定基準をつくり、それに沿って建築主が特定行政庁に認定申請をし、認定がおりれば、次のような特典を得ることができます。

特典

  • 外皮基準の適用除外
  • 一次エネルギー消費量の適合確認について気候風土型を採用

方法

認定基準:地域の特定行政庁で、2019年までに作成

  • 国のガイドラインの技術的助言や他地域を参考に
  • 気候風土に合わせて
  • 外皮基準に適合させることが困難な要素

気候風土適応住宅の適用例

川越の綾部工務店 綾部孝司さんの設計施工事例をもとに、具体的に説明します。

次に示すのは、川越市内のある住宅です。真壁づくりの木組み土壁の家で、土壁ですから壁には断熱材が入りません。通常の省エネ基準判定プログラムではNGがでますが、気候風土型用プログラムを使うとOKとなりました。

綾部工務店 施工による川越のKM邸

計算例(KM邸)

通常の計算。基準値<設計値でNG 「NG」
気候風土型で計算。基準値が2倍に増えたため 基準値>設計値となり、OK

綾部さんの話

綾部さん外皮以外ではがんばっていますよ。給湯、照明など、省エネに配慮した設備機器を選んでいます。省エネ意識が「ザル」では、達成はきびしいですよ!

このお宅では、生活実態調査も行っていましたが、その結果を見てみると、計算プログラムがはじきだした設計一次エネルギー使用量の、なんと4分の1のエネルギーしか使っていないという実態が分かります。

公益社団法人 日本建築士連合会 2016 !!月号に綾部さんが寄稿した 「施工者からみた認定に関する課題と対応」より。事例1がKM邸。実際に光熱費のレシート等から計算した実エネスギー使用量は、基準値の半分、計算プログラムによる設計値の1/4以下。

綾部さんの話

綾部さん計算プログラムで実態と大きなズレがでるのは、計算プログラムでは「室温を全体的に20度で維持すること」を前提条件にして、それに必要なエネルギーを基準エネルギー消費量としているからなんです。「20度ないといけない」というのは、そもそも個人の感覚です。実際の暮らしぶりを見ていると無暖房で「寒いな」と感じ始めるのは16度ぐらいではないかと私は思います。空気暖房であるエアコンと比べ、針葉樹フローリングなど肌触りの良い床材や輻射型の暖房を使っていれば、室温低めでもあたたかいと感じる傾向が強いようです。

実際に暮らしているお施主さんのお話もうかがいました。

住まい手の声

土壁の調湿性能のおかげで、夏は涼しくさらりとした空気。エアコンの使用頻度は真夏の暑い盛りの数日間に間欠的につける程度で、ごく低いです。 冬は、外からの日射を直接受ける部分の土壁がじんわりあたたまり、夕方以降、ある程度ペレットストーブの温風暖房を入れることで、十分快適に過ごせます。冬場の暖房室温は16度程度です。

気候風土適応住宅の運用方法

「気候風土」という言葉からも分かるように、国がガイドラインまでは示しても、実際の認定基準の策定や運用は、地域にまかされます。ガイドラインをもとに、官民が連携して、各地での基準をつくっていくのです。

実務者や関係者の様々なのはたらきが、この「気候風土適応住宅」を生み出す原動力となりました。連合会では、各都道府県の建築士会の中に小委員会をつくって、その地域における気候風土住宅のあり方を検討したり、行政と合同の勉強会や見学会の開催を推奨しています。8/2には、日本建築士会連合会 関東ブロックでの勉強会が予定されています。

国交省でも、認定基準づくりをバックアップするために、省エネ基準検討委員会の中に一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が事務局となって「省エネ基準 行政庁認定指針検討SWG」を発足、先進的に取り組むことになった特定行政庁と関係団体等から協力委員が参加して、各地の認定指針づくりのための委員会を開催しています。

地域の気候及び風土に応じた住宅に特徴付けられる要素の例

観点区分要素の例
1) 様式・形態・空間構成内部内部空間続き間
縁側
土縁 [つちえん・どえん]
玄関 (風除室)
高天井
吹抜け
建具引戸形式の内部建具
欄間
内外境界部屋根・軒深い軒庇
越屋根
開口部大きな窓 (掃出し、連窓、引込み形式、多層構成の建具等)
地窓
高窓、天窓
外部外部床 (照り返しを抑制する素材)
中庭等
屋敷林
2) 構工法構造部分構造部材無垢材である製材の使用
断面が大きな構造材の使用
部材現し (軸組、床組、たるき、小屋組等)
軸組・耐震要素貫・差鴨居 [さしがもい] 等の軸組
土塗壁
板壁 (落とし込み板壁等)
土塗壁以外で、外壁両側を真壁としたもの
外壁両側を木材現しにしたもの (校倉 [あぜくら]・丸太組構法等)
開放的な床下 (石場建て・足固め等)
小屋組・軒構法和小屋組 (多重梁)
さす構造、たるき構造、登り梁
せがい造り、はね木 (出し梁)
面戸板 [めんどいた] 現し
接合方式・加工法金物類の非使用
手刻みによる加工、伝統的な継手仕口
非構造部分 (外部)屋根瓦屋根
茅葺 [かやぶ] き屋根
板葺き、樹皮葺き
荒板による屋根野地
屋根通気ブロック
板張り壁
樹皮張り
雁木 [がんき]
高基礎壁
花ブロック
開口部木製建具
下地窓、無双 [むそう] 窓
雨戸
紙障子
格子
非構造部分 (内部) 内壁・内天井塗壁 (漆喰塗、珪藻土塗)
板張り壁
竿縁 [さおぶち] 天井、網代 [あじろ] 天井、簀子 [すのこ] 天井
内部床土間 (三和土 [たたき] )
畳 (稲わら畳床)
床板張り仕上げ
建材等自然材料系断熱材
調湿材
古色塗り、漆 [うるし] 塗り等
3) 材料・生産体制地域材料の使用地域産の木材の使用
地域産の自然素材の使用
地域で生産される建材の使用
地域に根ざした生産・維持管理の体制技術の伝承
地域の住宅生産者が主導する体制
地域の大工、建築職人の登用
4) 景観形成景観の維持・形成地域に根ざす建物形態・材料の使用
周囲と調和・連担した外構、緑化計画
緑・生態系の維持地域の植生を活用した緑化
緑の連担による生物の生息環境の保全
5) 住まい方設備に頼らない暮らし日常生活空間の縮小化
季節に応じた生活習慣 (建具の入れ替え、打ち水、風鈴等)
季節ごとの衣類の着脱の工夫 (冬期の厚着、夏期の薄着等)
局所的な採暖器具の利用 (囲炉裏 [いろり] 、炬燵等 [こたつ] )
気象要素を制御・活用する暮らし窓・雨戸の開け閉めの励行
すだれ・よしずの利用
雪囲いの利用

一般社団法人 日本サステナブル建築協会 刊 「気候風土適応住宅の認定のガイドライン・同解説書」を元に制作

国はどういった住宅が「気候風土適応住宅」たりうるのか?ということについて、ガイドラインとして、この表に網羅される要素を例示しています。そして「気候風土適応住宅」の次のような15の要素は、建築物省エネ法で定める「外皮基準」において、通常の住宅には適合性を求める外皮性能を満たすことができないのは、その性質上無理もない、ということを認めています。「外皮基準に適合させることが困難と想定される」ゆえ、基準一次エネルギー消費量の上限値を緩和することにしたのです。

外皮基準に適合させることが困難と想定される要素の例

観点区分要素の例
1) 様式・形態・空間構成内部1縁側
2) 構工法構造部材2小屋組現し、かつ、野地現し
軸組・耐震要素3土塗壁 (外壁両側を真壁としたもの、外壁片側を真壁としたもの、土蔵造りのもの)
4板壁 (落とし込み板壁等) のうち、外壁両側を真壁としたもの
5土塗壁以外で、外壁両側を真壁としたもの
6外壁両側を木材現しにしたもの (校倉 [あぜくら] ・丸太組構法等)
7開放的な床下 (石場建て・足固め等)
小屋組・軒構法8せがい造り、はね木 (出し梁)
9面戸板 [めんどいた] 現し
屋根10茅葺 [かやぶ] き屋根
開口部11木製建具のうち、地場で製作されるもの
12下地窓、無双 [むそう] 窓
内壁・内天井13竿縁 [さおぶち] 天井、網代 [あじろ] 天井、簀子 [すのこ] 天井
内部床14土間 (三和土 [たたき] )
15床板張り仕上げのうち、下地板を用いず単層床板張りとしたもの

一般社団法人 日本サステナブル建築協会 刊 「気候風土適応住宅の認定のガイドライン・同解説書」を元に制作

気候風土適応住宅 認定基準づくりに向けて

各地での認定基準づくりについては、建築士会が行政とのパイプになっているが多いようですが、建築士会の会員以外でも、はたらきかけをすることができます。木の家ネットのメンバーであり、かつ建築士会員でもあるという人も動いていますし、建築士会員以外で、この動きに参加している人もいます。

木の家ネットのつくり手メンバーはその地における「気候風土適応住宅」をつくり続けて来たという実績をもっています。各地の特定行政庁に実務者の経験や知恵を伝え、その地に気候風土や歴史、暮らし方にあった認定基準ができるよう、積極的な関わりをしていきましょう!

すでに動き始めている、木の家ネットの会員からの報告です。

埼玉:県や特定行政庁の省エネ担当の方々を木の家ネットメンバーの現場に招き、勉強会・見学会を行ったほか、今年度より建築士会の中に気候風土適応住宅研究小委員会を立ち上げ、話し合いが始まりました。

岡山:今年度から特定行政庁(県と7市)の各担当者と建築士会の担当委員会が一緒に気候風土適応住宅について勉強会を始めます。第1回を7/11に開催し、今後の進め方などについて話し合う予定です。木の家ネットからは和田洋子さんと山本耕平さんが担当委員として参加します。

愛知:5/19に、木の家ネット会員の宇野勇治さん、大江忍さん、丹羽明人さんと愛知建築士会の事務局と有志会員、県の建築課の担当者で愛知建築士会の事務所に集まり、今後の愛知県版の気候風土適応住宅についての勉強会をしていくことになりました。次回は、8月の予定です。

山梨:地元の建築士会のメンバーと恊働して気候風土適応住宅についての勉強会を開催することを当面の目標です。まずは川越での勉強会に参加して刺激を受けた木の家ネットの横山潤一さんが、自身で設計施工した住宅について省エネ基準の計算をし、そのプロセスや結果を周囲の仲間とシェアすることから始めようとしています。

熊本:熊本での気候風土適応住宅認定基準を提案するために建築士会で「調査委員会」をつくり、温暖地である熊本に相応しい省エネ達成評価の方法を探っています。2017年3月には、国のガイドラインにある諸要素を点数性で評価し、その総和が一定以上であれば気候風土住宅として認めるという熊本型気候風土住宅認定基準を作成し、行政に提出しました。

気候風土適応住宅の積極的な位置づけを

さいごに、気候風土適応住宅の位置づけについて、大事なポイントを確認しておきたいと思います。

「外皮性能がダメだから適用除外」「まあ、ゲタをはかせてOKになるようにしてあげましょう」ということにならないように。「和の住まい」の啓蒙広報活動とも連携しながら、日本の建築文化が育んで来たすぐれて低エネルギー、エコな暮らし方として「気候風土適応住宅って、いいね!」という価値観を広めていきたいですね。

「どんな建物が気候風土適応住宅といえるの?」という具体的なイメージを伝えるために、昨年度、国交省から木活協のへの委託の補助事業として、サスティナブル先導事業の枠枠組みの中で「気候風土型住宅」の募集がありました。今年度は一般社団法人 環境共生住宅推進協議会(kkj)が委託先として募集があります。

求められているのは、外皮性能以外のところでの省エネ努力が十分になされ、かつ、気候風土適応住宅らしい要素とを調和させた「気候風土適応住宅」の具体的な事例です。図面や写真とともに、省エネ計算を添付します。

平成28年度には3回募集があり、採択事例には、木の家ネットの会員やゆかりのある人の名前も並んでいます。採択となると、補助金が100万円でます。省エネ基準に適合性判定のための計算がまだ義務化されていない中で努力して計算をする苦労はありますが、2020年以降には、誰もがしなくてはならなくなる計算を先取りして行う苦労、買って損はないです。しかも、自身の設計事例が、気候風土適応住宅のこれからの形を確立していく礎となれば、喜ばしいことですよね!

綾部工務店による「雑木の庭に建つ石場建ての家」

応募時期と着工・竣工時期、応募書類の多さなど、簡単にとはいえない部分もありますが、すでに採択となった木の家ネットの仲間の知恵を借り、アドバイスを受けながら、ぜひ活用してくださいね。

木を活かす建築推進協議会で募集しているサステナブル先導事業(気候風土適応型)の補助金交付申請ページ

また、気候風土型住宅については、通常ルートの省エネ基準とは別の評価軸(評価表示)が必要になってくるでしょう。BELSの★の数で「★少ないね」と言われてしまうのではなく「気候風土適応マークがついているんだね!」ということが価値となるような表示方法を木活協やサスティナブル協会あたりで創設してもらうことも、一般の方への周知という意味では必要かもしれません。

以上、駆け足で気候風土適応住宅について見てきましたが、最後に綾部さんからひと言エールと、次号予告を!

綾部さん気候風土適応住宅という道は、拓けています。あとは、各地域で実務者のがんばり次第。それぞれの地域の気候風土に合った認定基準が策定されるよう、行政に提案していってもらえればと思います。

綾部さんまずは、自分の事例を計算してみてください。見積りを自分でしている人にはそう難しいものではありません! 一次エネルギーの計算は、面積の拾い出しができ、使う素材や機器の仕様がわかれば、後は外皮のプログラムとエネルギーのプログラムに入力するだけですから!

綾部さん一度計算をしてみた上で、周りの実務者や行政関係者と地域での気候風土適応住宅の姿について、勉強会という形で対話を進めていくことをお勧めします。

この特集の続編として、次回は山梨の横山潤一さん(潤建築)が、風光明媚で夏は涼しく、冬は寒さが厳しい八ヶ岳での施工例を実際に計算してみる、というプロセスをコンテンツとしてルポします。

日常の業務に加えて初めての計算に取り組むのは、なかなか大変なことです。同じ大工であり、省エネ計算の先輩である綾部さんに手ほどきを受けながら慣れない計算に取り組む横山さんの苦労話は、きっとみなさんにも役に立つはずです。

ほんとは計算そのものが目的ではありません。エネルギー消費量を抑えて、自然と調和した豊かで健康な暮らしを実現できるような家づくりこそが、真の目的です。計算をし、その結果を計画や設計にフィードバックするという行為を通して、家づくりはよりよくなっていくはず!・・苦労だけれど、楽しみ!ですね。

2ページ目のまとめ

  • 日本建築の知恵はほとんど省エネ計算からこぼれおちてしまう
  • 外皮性能重視以外でも、低エネな住まいは達成できる
  • 日本のほとんどの地域は南方型開放型。外皮性能重視ではない
  • 「気候風土適応住宅」という枠組みができた
  • 各地域での基準づくりに積極的に関わるべし
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