海を望むお風呂。静岡の一級建築士事務所 恒河舎の設計

家にお風呂が入るまで

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「お風呂が家にある」あたりまえなことのようですが、その歴史はそう深くはありません。それ以前は、お風呂は銭湯や共同浴場に「入りに行くもの」でした。

そういえば「お風呂をごちそうになる」と古い言い回しが残っています。今のように蛇口をひねれば水が出て来るわけでもなく、井戸や水場から汲んできた水を、薪で火をおこさなければならなかった時代の名残でしょうね。

今回は、木の家ネットのつくり手メンバーがつくったお風呂場をのぞきみしながら「お風呂が家にある」以前のことを少しふりかえってみましょう。

日本人にとって
お風呂ってなんでしょう??

今の生活におけるお風呂といえば・・裸になり、一日活動したことによる汗や汚れを石けんをつけてこすり、シャワーで洗い流してから、お湯を張った浴槽に身を横たえて、あたたまる。そんな空間ですね。

身体を清潔にして、衛生状態を維持することは、病気の予防に役立ちます。けれど、とってもお風呂好きの日本人、お風呂に清潔以上の何か!を求めているように思えます。

機能的にいえば「シャワーだけでいいじゃん?」と言えなくもないところ、やっぱり、湯船に浸かってゆったりする時間があってこそ、疲れも取れて、明日への活力を養える!という感覚があるのではないでしょうか。

飯道山を臨む眺めのよいお風呂。滋賀の川端建築計画の設計、宮内建築の施工

悪いものを祓い
心身を清める「みそぎ」

そもそも日本人にとって水は、自身を清く保つために大事な役割をしてきたようです。「みそぎぞ夏のしるしなりけり」という百人一首の歌がありますが、ここで歌われているのは、夏越の禊(なごしのはらえ)。毎年六月三十日には河原などの水で上半期の穢れや罪を祓ったのだそうです。

ほかにも水垢離(みずごり)、滝に打たれる業など、物理的な汚れだけでなく、罪障を祓う、心身を浄化するという宗教的な感覚も日本人は持ち合わせてきました。今でも、神社やお寺に行くと、水で口をすすぎ、手を洗う「手水舎」が必ずありますよね。

琺瑯(ほうろう)の風呂桶と、タイル張りの浴室 (愛媛県のAA STUDIO設計の浴室)

まずは蒸し風呂から

最初にできたお風呂は、水を焚いた蒸気で身体を蒸して垢をとる、今でいうと「サウナ」のような「蒸し風呂」のことを指していたそうです。薬草を入れたりすることもありました。お寺やお金持ちの家で、蒸し風呂に人を招いて開放する「施浴」が行われることもあったようです。

安土桃山時代から江戸時代にかけて普及していった銭湯も、蒸し風呂が主流でしたが、やがて蒸し風呂の一種「戸棚風呂」が登場しました。これは、膝ぐらいまでお湯をためて下半身を浸し、上半身は湯気で蒸すというものです。そのお湯をためる部分が次第に多くなっていき「入り風呂」「水風呂」という、今の銭湯スタイルになっていったのです。

「うちのお風呂」のはじまり

各人の家に、お湯に浸かれるお風呂があるようになったのは、早いところでは江戸中期から。木の桶に、薪を突っ込んだ鉄の筒を入れて湯をわかす「木桶風呂」、鉄の釜の下で薪を焚き、木のスノコを入れて入る「五右衛門風呂」などがあり、屋外や別棟にあることも多かったそうです。

木桶風呂:上の写真のものは二重構造の釜に浴槽内の水を対流循環させる、現在の追い焚き型の風呂沸かし器と同じ構造になっている比較的新しいタイプのもので、原型は浴槽内に沈めた金属筒に火のついた薪や炭を入れて湯を加温するものであった。(wikipediaより

銭湯に行くのとは別に、夏場はそれぞれの家の庭先でよく「行水」をしていました。たらいに水を張って、しぼった手ぬぐいで身体を拭く場面が、浮世絵にもよく描かれています。

洗い場で手桶やシャワーで身体を洗ってきれいにしてから、お湯を張った浴槽に身を横たえるという現在のお風呂の入り方は、それ以前の「みそぎ・行水スタイル」と「蒸し風呂→入り風呂スタイル」とが合体したものだといえそうです。

橋口五葉  ゆあみ 1915年 (wikipediaより

各家庭に普及したのは
たかだか50〜60年前のこと

ただし、火事の多かった江戸では、庶民は風呂をもつことは禁止されていました。家風呂を持てたのは、武家屋敷や一部の豪農に限られていたようですし、それも「毎日入る」ものではありませんでした。

一般家庭にお風呂が普及したのは、高度経済成長期以降。たかだか50〜60年前のこと。古民家を住み継いできている事例で、お風呂場だけ基礎コンクリートを打ってあったりして「あとからお風呂を増築したんだな」と分かることがあります。

次号予告:
水のリスクに
どう対処するのか!

木の家の長い歴史より、うんと歴史の浅い「お風呂とのつきあい」。今でこそお風呂を焚く「火」の部分はボイラーやガス、電気などの「閉じた熱源」のおかげでリスクは低くなりました。しかし、木は水がかかってそのままになっていると、いたんでいきます。家の中に大量の「水」を使うことは、木部が腐蝕する危険性をもはらんでいるのです。

木の風呂桶。お湯につかった時の心地よさは抜群。神奈川のきらくなたてものやの設計

「家のいたみは水回りから」と言われます。特に台所やトイレと比べると、お湯を使うお風呂場では、水がかかるだけではなく、お風呂から出るあたたかい湯気が腐朽菌にとって繁殖しやすい環境を作ったりもします。

つくり手からすると「お風呂をつくることは水リスクとの戦い」ですし、住まい手としても「水リスクを回避する使い方」を知り、日々実践することで家を長持ちさせることができるのです。

次号では、木の家ネットのつくり手メンバーから聞いた話をもとに、そんな話題をお届けします!

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タイルによる世界でただ一つのお風呂。千葉の村上建築工房による