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国産材時代到来か? 最新動向を検証


イラスト:持留匠

いま、国産材をめぐる状況が大きく変わり始めています。これまでは「不振」やら「低迷」やらといった言葉をとりあえず使っておけば、なんとなく現状を説明できたような気分でいられたものですが、あっちこっちから「国産材を使いたい」という声が上がるようになってきて、嘆き節ばかり言っているのではすまなくなってきました。なぜ国産材が注目されるようになってきたのか。実際にどんな使われ方をしているのか。知り合いの大工・よっちゃんを訪ねて語り合った…つもりで、まとめました。

上昇し始めた自給率、「2割以下」は過去のこと

楠 (楠)どうも久しぶり。

よ (よっちゃん)おう、きょうは何?取材?

楠 いやね、最近、国産材が売れるようになってきてるもんだからさ、親方のところはどうかと思ってね。

よ いまさら何言ってんの。ウチは鋸の挽き始めからこっち、ずっと国産材よ。よっくご存知でしょうが。

楠 まあね。でもさホント、最近は情勢が変わってきてるものだから、そのことで話したいと思ってさ。

よ また自給率2割のお話かい。

楠 いやいや。確かにまだ2割程度だってことは変わんないけど、このところは自給率も上向いてるんだよ。

よ へええ、俺はいまだに2割を切ってるのかと思ってたよ。

楠 それはちょっと前までの話。最近は3年連続で自給率もアップしていて、去年なんか22.1%にまで上がってるんだよ。

よ そいつあ恐れ入った。大したもんだよ22%と…、なんだ、まだそれっぽっちかよ。

楠 そう言うなって。これまでずっと右肩下がりできたんだから、ちょっとでも反転したってのは、まあニュースなわけですよ、われわれの立場からすると。

よ はあそうかね。で、なんでなの? 自給率が上がってるってのは。

楠 早く言えば、外材がこけたってこと。前は簡単にたくさん輸入できてたわけだけど、今はそうは行かなくなってんだよね。

よ そういやあ北洋アカマツのタルキとか、だいぶ手に入りづらくなってるとか聞くぜ。俺んところは関係ねえけどさ。

楠 だろうけどね。外材でやってきた人たちは大変なことになってるよ。

よ いままでおいしくやってきた報いじゃねえのか。だいたい、国ん中にこんだけ木がたくさんあるんだからさ、そっちを使えばいいのよ。2割なんて自給率は異常だぜ。

楠 確かにね。ただ、これからは確実に増えていくと思うよ、国産材は。

よ ふ〜ん。まあ増えることで、山とか製材とか、みんながよくなりゃあいいけどな。そのあたりはどうなんだよ。

楠 いろいろ微妙な問題はあるんだよね。そのへんの話も聞いてもらいたいとは思ってるんだ。

よ おう、聞いてやるよ。ちょうど一息入れようってとこだしよ。

新興木材消費国が台頭、外材の供給が不安定に

よ それで、何なのよ、外材がこけたってのは。そっから聞こうじゃねえか。

楠 いやさ、中国やらインドやらが経済発展してるでしょ。あと、原油の高騰で儲かってたまらない中東諸国とか、みんな木材をすごい勢いで買うようになってきてるんだよね。どの国も木材の国際市場では新顔なんだけど、今じゃあ主な産地国はアメリカでもカナダでも、みんなそっちばかり向いて商売してる感じだな。日本のバイヤーも太刀打ちできないみたい。

上海郊外に立てられたカナディアン2×4住宅のモデルハウス

よ てえと、前は日本に入ってたものが、中国とか他の国に流れ始めたってことかい。

楠 そういうこと。だってロシアの丸太なんかさ、日本の輸入量はせいぜい1年に500万m3くらいだけど、中国なんか2,500万m3も輸入してるって言うんだから。

よ なるほどね。それに今みたいに油が値上がりしてるんじゃあ、船で運ぼうにも油代がかさんでたまったもんじゃないだろうしな。

楠 スルドイ! まさにその通りなんだよね。

よ 馬鹿にするない。俺んところだってガソリン代が大変なのよ。そんくらい想像がつかあ。

楠 いやホント、この油代が高くつくというのは、輸送がつきものの商売にはきついよね。外材の船賃は軒並み上がってるというから、確かに輸入しづらくなってるわけで、これなんかは構造的な問題だから、国産材にとっては、まあ追い風と言えるかな。それに今言ったロシアなんかは、丸太の輸出にえらく高い関税をかけるなんて言い出したもんだから、この先はロシア材の丸太はほとんど入ってこなくなるんじゃないかな。

よ 関税をね。そりゃまた何でだい?

楠 丸太ばっかり売ってたら、国内での経済効果は知れてるからね。それよりも丸太を合板とか製材とかに加工してから売れば、その分、人を雇えるし、売り値も高くなるでしょ。だから関税をかけて丸太のままでは出にくくしちゃえというわけ。

よ な〜るほど。で、何%くらいになるの、その関税は。

楠 少しずつ引き上げてくんだけど、来年の年初めには80%にするって言ってる。

よ 80%? そりゃあえらいことだな。実質、もう輸出はしないって宣言してるようなもんじゃんか。普通、そこまでドラスティックなことはできないけど、お国柄かねえ。

楠 まあ、これまで同じようなことはあったんだよね、インドネシアやマレーシアとか。みんな自分の国の工業化を進めようとして、丸太の禁輸かそれに近いことをやってきた結果、現実にインドネシアもマレーシアも今では合板の主要生産国になってるわけだし。

よ だけど、ロシア材を挽いてる製材工場は大変だろうな。

楠 急な話だからね。工場を閉鎖してるところもあるよ。あとは丸太を大割りした半製品を輸入して、そいつを細かく製材してタルキなんかをつくる再割り製材にシフトしたり、中にはスギの製材に乗り換えようというところもあるみたい。

北洋材工場の中には再割り製材に特化するところも出てきた

国産材利用を増やしているのは、実は合板業界

よ しかし、国産材が伸びてるって言ったってよ、山が活気づいたなんて話はあんまし聞かねえぞ。こないだも知り合いの林業家と一杯やったんだが、そんなに景気が良さそうでもなかったしな。

楠 親方が付き合ってる林業家って、自分たちが育てた木を無垢で使ってほしいって人たちでしょ。だったらそうかもしれない。

よ そりゃどういうことだい。

楠 国産材が使われるようになったっていっても、無垢の柱とか梁とかが増えてるわけじゃないんだよね。一番伸びてるのは合板なんだよ。

よ なんだ、そうなのかい。どうりで、あいつ、浮かねえ顔してたぜ。

楠 だろうね。結局、合板業界の動きがさっき言った自給率上昇とも大きく係わってるってわけ。昔は合板って言えば、東南アジア産のラワンが通り相場で、直径が大人の背くらいもある丸太をじゃんじゃん輸入して合板をつくってたでしょ。だけど、資源が減っちゃったし、熱帯林保護とかの環境問題がいろいろ言われるようになって、合板業界もがらっと対応を変えてきてるというのは知ってるよね?

よ 俺んところじゃ合板は使わんけどさ。でも、ラワン合板といやあ木目がなかったけど、最近あっちこっちで見かけるのは変わった木目のやつが増えてるもんな。針葉樹合板ってやつだろ、あれが。

楠 そう。環境問題のからみや、さっき言ったようにインドネシアやマレーシアとか、もともとの丸太産地がもう丸太は出さないで、自分のところで合板をつくります、と方針転換したりしたから、合板業界では原料の針葉樹化をずっと進めてきたんだよね。最初はニュージーランドのラジアータパインなんかもけっこう使ったんだけど、途中からはロシアのカラマツがメーンになってるな。

よ ロシアカラマツか。ラーチってやつだな。

楠 それそれ。だけど、針葉樹なら国内にスギもカラマツもあるじゃんかということで、林野庁がいろいろ働きかけた結果、この5、6年で合板業界が国産材の使用量を一気に増やしてきてるんだよね。

よ ほ〜。

楠 これは本当にすごくてさ、合板に使われる丸太ってだいたい1年に400〜500万m3くらいで、そのうち国産材なんて4、5年前までは1割もなかったんだけど、おととしには114万m3、去年は163万m3と一気に増えて、国産材の割合が去年は3割を超えたんだから。知ってた?

よ それが自給率を押し上げてるってわけだな。

楠 彼らも背に腹は変えられないからね。原油価格や為替相場みたいな不確定要因がある上に、他の消費国がばんばん買うようになって供給が不安定な外材ばかりには頼ってられないって判断したんだと思うな。じゃあどうするかってなったとき、身近なところに資源があるじゃんかって気づいたわけだよね。

よ となると、ロシアの関税問題とやらでラーチがこの先わかんないわけだから、国産材の利用がもっと増えるな。

楠 そうなると思う。 いまの100万m3くらいなんていうのは、ほんの過渡期で、合板業界では300万m3まで国産材の利用を増やすって言ってるし、それくらいはすぐ行くだろうな。現実に最大手メーカーのセイホクが、岐阜の中津川に国産材だけを使う合板工場を建設する計画を発表してる。地元の林業界と協力してやるんだけど、スギやカラマツといった国産材丸太の消費量は年間10万m3だって。

よ 10万m3かい。ちょっとピンと来ねえが…

楠 製材工場で10万m3っていったら、かなりの規模になるよ。2〜3万m3もやれば製材では大手って言われるんだから。でも合板工場だと、年間10万m3というのは稼働率を確保するために最低限必要な量なんだって。

よ へええ。そんな大どころの業界が国産材を本気で使い始めるとなると、製材業界もうかうかとしてられねえな。

楠 必要な丸太を確保するのが難しくなるかもしれないからね。そのあたりのことも後で話そうと思ってるんだ。


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ずらりと並んだ国産材の山。この全てが間伐材