何カ月、ときには何年もかけてじっくりと乾かされる天然乾燥材。木が持つ本来の温かみや色つやが損なわれない。
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林業が良くなっていくには、何が必要か

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どんな木が「良い木」なのだろう?

ミ 間伐材の話だけじゃなくて、最近は木の品質の見方がなんかおかしいんじゃないかって気がするんですけど。

よ どういうことだい?

木の乾燥

伐採したばかりの木には多く水分が含まれるが、大気中に木材を放置すると、徐々に乾いていって「気乾含水率(地域差があるが日本ではおよそ15%ぐらい)」といわれる平衡状態に達する。この過程に時間がかかるので、温風を吹きかけたり、電磁波を加えたりして乾燥を早めることを人工乾燥といい、そのように処理した木材を「人工乾燥材」(KD材。「KD」は「Kiln Dry」の略)という。含水率(工場出荷時)は「D20」(含水率20%以下)、「D15」(含水率15%以下)などと表示される。

工法と含水率

木組みをする大工は、KD材は「バサバサして刻みにくい」「内部割れが起きていることが多い」と言う。木組みの家に使われる木材は、内部がある程度しっとりして木組みが利きやすい状態であることが望ましいとされる。
ハウスメーカーの家など、大工の手で刻むのではなく、機械でプレカットされた材を短期間で組み上げる場合は、寸法安定性の高いKD材の方が向いている。

ミ 例えば、乾燥材っていうのも、人工乾燥材のことばかりですよね。含水率が15%だとか20%だとか、そんな基準だけが重視されるからだと思うんですけど、いくら早く乾かせるからといって、高温の蒸気や電子レンジみたいな高周波で人工的に乾かすのが本物の木にとって良いことなのかなって思うんです。

楠 まあ機械が木を刻むプレカットの場合は、木の個性や癖が読めないから、乾ききって動かない木がほしいってわけだよね。だから含水率を下げろってことになっちゃう。

よ でもそりゃあ、やっぱりおかしいわけさ。木をちょっといじったことがあれば、高温で乾かした木なんかは、いくら含水率が低くたってダメだってすぐわかるぜ。

ミ 実際はどういうところがダメなんでしょうか。

よ なんていうのかな、もうバサバサになっちゃってて、木組みを利かそうとしても、こりゃあヤバいぜって感じなんだよな。

楠 親方が言うのは、内部の品質のことさ。継手仕口の木組みは、木を削ったり彫ったりした部分で利かせるわけだから。

ミ あ、確かにそうですね。でも、その部分も乾いていた方が良いとはならないんですか。

よ いくら乾いてたって、木組みが利かないんじゃしょうがねえよ。ふつうの木造みたいに金物でがっちり固めようってことならいいかもしれねえが、こちとら大工にとっちゃ木だけで利かせるところに木組みの妙があるってのかな。要は木のねばりを生かそうってことなんだが、そのねばり自体がバサバサでなくなっちゃってる乾燥材ばかりが出回ってるんじゃないかな。

楠 プレカット材を金物で補強するっていうのが主流になっちゃってるもんね。同じ木造だって言われても、本来の木組みの家とはやっぱり違うよね。


「木組みの家づくりに良い木」の品質を
客観的にあらわせないか?

楠 ところでさ、親方たちがやってる木組みの家づくりに適した木の品質みたいなものを客観的な基準で言えるようにはならないかな。

木を読む

木の個性は1本1本異なり、それぞれがさまざまな特性を持つ。一本一本の木を吟味し、個性や特性を刻み、乾燥収縮後までの変化を見越して加工をすることを「木を読む」と言う。木の性質を分かってはじめてできる判断。

よ さあ、どうかな。それにオレたちは触ればわかるから、そんなもの必要ないよ。

楠 それはそうかもしれないけど、親方だって、ちゃんとした品質の本物の木が増えた方がいいと思うだろ。

よ そりゃあそうさ。

楠 親方がいつも仕入れてる製材工場や材木屋さんと、買い手である親方たちとは、たぶん「こういう品質なら」っていう共通の感覚があると思うんだよね。だから、取り引きが成り立ってるわけだろ。

よ あたりめえさ。

楠 でも、そういう顔の見える関係ばかりならいいけど、流通市場に出回ってる木も含めて全体の品質を良くするためには、客観的な基準も必要じゃないかと思うんだよね。

よ う〜ん、まあ、そうかもしれねえがな。

楠 今の基準は含水率だとか、強度だとか、数字で表わされる工業的な基準ばかりが重視されるようになってるよね。そこに問題があるんじゃないかな。もっと、木の本質的な良さが評価されるような基準が必要だと思うんだよな。

ミ でも、やっぱりそのへんのことは、長年の経験とかカンとかでいいような気がしますけど。私も父に付いて山を歩いていて、この木はこうだから良いんだっていう物差しがあればいいなって思うこともあるんですけど、結局、自然の木にはいろいろ個性があるので、自分が経験を重ねて見る目を養うしかないのかなって思います。

よ ミドリちゃん、わかってるじゃんか。がんばれよ。

ミ はい!

刻み
木組みの家づくりでは、木を利かせる部分の品質が問われる。

山、製材工場、大工で「よい品質」を
共有することが、突破口に

グリーン材

水分を多く含んだままの未乾燥の材。生材ともいう。あとから乾燥が進むに従って、曲がったり反ったりすることが多い。

楠 いや、それは本当にその通りだと思うんだけど、今のように顔の見える関係で成り立つ取り引きだけだと、結局、市場の縮小に歯止めがかからないんじゃないかって気がするんだよね。例えば天然乾燥材もそうだと思うんだけど、本当に良い天然乾燥材がどれだけあるかっていうのは、わからないよね。明確な基準もないわけだし。結局、全然乾いてないグリーン材と、どう違うのかってことがあいまいで、それが天然乾燥材の評価が一定しない原因になってるんじゃないかな。

よ 確かにさ、昨日までは山で立っててカラスが止まってました、それを今日製材して持ってきました、なんてインスタントな話じゃ困るわけだ。でもオレたちは、見て触れば良い物かどうかわかるぜ。それだけじゃダメなのかい。

楠 そりゃあ親方は良いかもしれないけど、供給する側にとっては、親方たちからどういう品質が求められてるのかがはっきりすれば、もっとつくりやすいと思うんだよね。そうすれば、そういう材料をつくろうという工場も増えるんじゃないかな。

ミ 山の立場で言うと、木の良さを生かしてくれる工場が増えてほしいという思いはあります。ウチはおじさんのところがきちんとした材木にしてくれるからいいんですけど、まわりでどんどん製材工場が減ってるので、先々どうなるのかなって不安なんですよね。

楠 だったら、どんな品質が良いのかのターゲットがはっきりしてる方がいいと思わない? そういう材をつくって頑張ろうっていう工場が増えるかもしれないじゃんか。

ミ そうですね。

よ まあ、お前さんたちの言うこともわかるけど、実際問題として、そんなことできるのかな。

楠 だから、親方たちみたいな大工と製材業界とで、もっと意思疎通してほしいんだよ。今度、そういう場をつくろうか。

よ ま、こっちも材木の品質に関しちゃ、いろいろ言いたいこともあるからな。そんな場を用意してくれるんなら、喜んで乗り込むぜ。

ミ 私も行ってもいいですか。

楠 もちろん、山の関係者にもどんどん参加してほしいな。

ミ おじにも声かけておきますよ!


木組みの大工さんが頑張ってくれることが
山にとってのやり甲斐につながる

ミ さっき親方さんに聞かれた、山を継ぐのに不安がないのかということなんですけど…

木質系材料

木を製材したまま使うのでなく、丸太をカツラ剥きのように剥いた薄い板を接着剤で貼り合わせた合板や、薄い板を積層接着した集成材などの工業製品を木質系材料と呼ぶ。均質性は高いが、接着剤が使われているので自然素材としては扱われない。木質系材料に対して、製材を「無垢材」とも呼ぶ。

よ ああ、あれね。バサバサの乾燥材の話じゃないけど、接着剤で貼り合わせたような木を使ったペラペラの家ばかりが建ってるんじゃ、それこそ山をやる甲斐がないんじゃないかなって思ったんだよ。

ミ 父が大工さんに頑張ってほしいと言ってるのは、その意味もあると思うんです。木の個性と向き合ってくれるし、それを生かした家を建ててくれる。そういう家が増えないと、木を育てる意欲が保てないと思うんです。

よ だから、今みたいな時代は林業を継ぐってのは、よくよくの覚悟がいるよなって思ったわけさ。

楠 親方、みどりちゃんは親方たちに頑張ってほしいって言ってるんだよ。みんなが林業をやりたくなるくらい、大工さんたちで盛り上げてよ。

よ そりゃあ、そうしたいのはやまやまさ。だけど今の制度を見ろよ。本格的な木の家づくりには逆風だぜ。どうにかしてほしいよ。

長期優良住宅(200年住宅)

長持ちする家づくりを推進するため、政府では一定の条件を満たした住宅(長期優良住宅)に補助金を出したり、税金や住宅ローンを優遇する住宅政策を導入している。しかし、実際には、要求される性能がハウスメーカー仕様で、伝統木造の家づくりでは制度を利用しづらい。

ミ 最近は200年住宅なんていうのが政策的に推進されてますよね。正式には長期優良住宅と言うのかしら。いろいろ優遇措置もあるようですよね。でも、何か大手ハウスメーカーばかりに有利な話のように見えるんですけど。

よ 実際そうなんだから、たまらねえや。

楠 でも、真面目に木造をやってる工務店とかで、長期優良住宅に対応してるところもあるよね。

よ そりゃあ、あるだろ。だけど、伝統構法とか、それに近いやり方にこだわってると、そうはいかねえ。いちいち制約が多すぎらあ。

ミ 長期優良住宅って、金物や合板に頼った仕様にしないと認定条件をクリアしづらいって言われてますよね。

楠 正確に言えば、そういうものを使った方が対応しやすいってことかな。

よ 同じことだよ。だいたいさ、言わせてもらえば、オレたちがつくってる木の家ってのは、ずっと昔から長持ちし続けてるやり方を生かして建ててるわけさ。それこそ200年以上持ってる家だってある。木をちゃんと生かしてやれば、それくらいは軽く持つんだよ。それなのにそういう家づくりを無視しやがって、金物や合板でがちがちに固める家だけが長期優良だなんて、ちゃんちゃらおかしいや。ヘソが茶を沸かすぜ、まったく。

ミ ヘソ、ですか?

楠 馬鹿なことを言うなって意味だよ。

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木の良さを生かしてくれる工場にがんばってほしい。