古い家を揚家(ジャッキアップ)し、下に木材をかませておいて、基礎まわりを直したあとで、再びおろす。こんなことができるなんて!
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このまちにずっと残っていてほしいあの家も「既存不適格」?

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増築はしたいけれど、耐震改修まではできない/したくない

「増築をするのだったら、その機会に耐震改修をしませんか?」というのと、「耐震改修をした上でないと、増築をしてはいけません」というのとでは、大きく違う。本人が望むかどうかにかかわらず、耐震改修はしなくてはいけないのだ。そこに本人の選択肢も自由もない。

本人が耐震改修を望まない場合にはさまざまな理由がある。「耐震改修はした方がいいと思う。けれど、莫大なお金がかかるから、できない」「このままでは耐震性が低いのは分かっているけれど、先行き長くもないのだから、当面暮らしよくなるというだけでいい」「増築する部分だけはしっかりとつくる。地震が起きたらそっちで身を守ればいい。全体までは無理」「そもそも、この家は古いけれど、しっかりしている。今のやり方で耐震改修する意味を感じない」家主のさまざまな財政事情、判断、思いがある。ところが選択肢は「増築するなら、必ず耐震改修」しかない。「それだったら、増築もあきらめなければなるまいか・・」という声が聞こえてきそうだ。


(左)壁量をかせぐために、土壁をおとして構造用合板を貼ったところ(右)足固めをボルトで引っ張って補強。

結構お金のかかる、耐震改修

そもそも、耐震改修にはどれくらいのお金がかかるのだろうか? あなたが「既存不適格」な家に住んでいるとしよう。子どもも大きくなってきたから、今住んでいるところはそのままいじらずに、庭に張り出してもう一部屋つくりたいと思った。増築したい子供部屋の面積は20平米、もとの家の面積は150平米だ。既存部分の1/20以上、1/2未満の増築にあたるので、既存部分まで耐震改修しなければならない。子供部屋をつくるだけの費用を捻出する心づもりでいたところ、全体の耐震改修となると、それではすまなくなる。

使い勝手の上でしたい増築や改修工事をするのと、求められる耐震改修工事までするのとでは、費用が大きく違ってくる。『オーナーの希望項目の増改築だけであれば200〜300万で済むところが全体の耐震性を求められるレベルまであげるために900万以上かかる例もある。壁の耐力をあげるのに外壁の補強だけで済まなければ、部屋の内装をはがし、構造用合板を貼り、また内装をし直さなければならないし、屋根が重すぎるような例では瓦をおろして葺き直す必要がでてくる。構造までいじるとなれば、どうしても大工事になる』


上) せまくて暗かった既存の台所。

中) 元の台所の外に増築することに。工事の無事を祈る神主さん。おばあちゃんの部屋として、巾1.5間×奥行き4間分下屋を張り出した。

下) 広々としたアイランドキッチンの左はリビング、右奥はおばあちゃんの部屋。少しの増築で、住み心地はずいぶんと変わる。

耐震改修は、するとなれば、増改築の機会をとらえてすることが多い。資金に余裕があれば、耐震的に危ない部分を改めた方がよいに決まっている。ただし、そこまで費用をなかなか出せないのも現実だ。「1/20以上の増築は、定める耐震改修とセット」なったために、改修費用が出せなければ、増築は諦めざるを得なくなったのだ。

阪神大震災後に制定された「耐震改修促進法」により、耐震診断や耐震補強工事に補助金をつけている自治体も多い。
「耐震補強工事. 木造住宅の耐震補強工事に対して、30万円の補助金を受けられます。 高齢者のみの世帯等に対しては、20万円の割増もあります(静岡県)」
「1)無料の耐震診断 2)耐震改修費の補助 3)無利子の貸付制度 (横浜市)」

ところが、求められる耐震改修後の結果が「現行基準法並」と設定されると、耐震工事費の額が大きくなり、耐震改修補助費があったとしても、相当な資金力がないと実現はむずかしい。『資金が潤沢にあれば、既存不適格の増築にかかる制限もクリアできます。問題はお金のない人の増築。ほとんどがそう。だから、諦めざるを得ない』とあるつくり手は言う。

増築だと耐震改修まで要求されるならば、いっそのこと、増築しなくて済む範囲の改修工事をおさめておこう、という判断もある。『なるべく増築面積が10平米以下か減築とし、建築基準法上、確認申請が不要な工事としています』と回答しているつくり手も多かった。

老夫婦二人の余生何年かの介護生活のための増築例

ひとつの事例があるつくり手から寄せられている。子や孫に受け継がれる見通しもなく、今代限りであることの分かっている家の「あと何年か」のために、人に頼らないで出せる自分たちのささやかな貯金の範囲で使いやすく増築したい、というありそうなケースだ。

『小さな一軒家に、老夫婦が住んでおられましたが、ご主人の体の具合が悪くなり介護しやすくするために、既設トイレと風呂を壊し、間取りを変えて、新しいトイレなどを増築しました。その工事は、増築部分が10平米以下であったので、確認申請はせずに工事に取りかかったのですが、このような場合であっても、10平米を越える(あるいは準防火地域での)工事であれば、既存部分の耐震性を証明できなければ確認申請は受け付けられない、ということになります。随分昔の建物で、基礎も無筋。もちろん全てを耐震改修すれば安全であることは、誰にでもわかることですが、かなりの大ごとで、実際には費用的に不可能です。「大きな地震があれば、我が家は危ないかもしれない、それでも普段の生活を営んでいく」というのが、おおかたの人々の現実ではないでしょうか?あと何年生きられるかわからない老夫婦にとっては、建て替えなど考えられないこと。しかし、その家を少しでも使いやすくする権利はあるのではないでしょうか。ところが、耐震改修の義務づけが阻んで、改修ができない。耐震性の低い家に住んでいる人は、増築せずにそのまま住み続けていなさい、ということなのでしょうか?人が自分で、自分が選択したとおりに生きていく自由を奪うような法律を作ってしまうほど、私たちは幼い人間になってしまったのでしょうか?』

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(下)パワーショベルで壊してしまうのは、ほんの一瞬。まだ直せたかもしれない。が、もう元には戻らない。