シモジキリから右側全体は、奥行きが40メートル近くもある、大きな土間空間だった。
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設計士・菊池憲夫さん(金ケ崎建築設計舎):古民家を住み継ぐ

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古民家を活かしながら、 今の家族に合った間取りを考える。

家はなんのための場所か?

プライバシーを大事にするために、古い民家に中廊下をもうけて改修した例。

古民家改修で多い要望は「台所や風呂などの設備、寒さ対策、そして間取り。」と菊地さんは言う。そして「中でも設計で一番大変なのは、古民家を活かしながら今の家族に合った間取りをどのように考えるか」だそうだ。

中ノ間から56.5畳もある広い座敷空間全体を見渡す。

現代の家を考える。食事をしたりくつろいだりする家族共同のスペースがあり、個々の部屋がある。それに台所、風呂、トイレ、収納スペース。そんな要素を頭におきながら古民家を見ると、間取りがまったくちがうのにあらためて驚く。

敷居が4本ついているので、障子を4枚とも片側に寄せることができる。大断面の柱でないと、こうはできない。

昔の鈴木家を例にとろう。家の右半分、つまり家の1/2は土間空間。今でいう台所も含むが、主に作業スペースだ。残りの座敷空間のうち、奥の4室は日常的には使われない、接客だけのための空間だ。4室あるのは、客の身分に応じた使い分けをするためだ。(ここまでしているのは鈴木家の格を物語っているのだが)この接客空間で平面全体の1/3。

ここより下の4枚は、胆沢農業振興公社のセミナーハウスとして生まれ変わった古民家。

家族が食事やだんらんをする休息する場所は、その残りの1/6にすぎない。鈴木家ほど広い家でも、一家団欒の空間はつつましい。現代で第一に考える「リビング」の占める重要度が、薄いのだ。家が家族の休息、寛ぎの場である以上に、生産や接客の場であったことが分かる。

個室はどこに?

曲がった梁が自然な形のままに使われている、木組み。

現代の生活では、一家団欒のリビングのほかに、子供部屋、書斎、夫婦寝室など「ひとりに」あるいは「夫婦だけに」なれる空間がある。ゆっくり本を呼んだり、隣室に気兼ねなく音楽を聞いたりできる「プライバシー」を保証してくれる空間だ。

セミナーハウスは新規就農者のためのトレーニング農場の施設として使われている。

古い民家では個に戻れるこの空間が、ない。しいていえば、寝室にあたる「ナンド」が、夫婦単位の部屋ではあるが、今で言う「納戸」とイメージがぴったりの、光の入らない、せまい空間。「寝る」だけの空間でしかない。

「嫁が姑に遠慮しながら暮らすのはあたりまえだった。明るいうちは外で、暗くなれば土間や囲炉裏端ではたらいて、ごはん食べて、寝る、それだけで精一杯。子どももプライバシーと言い出す年になる前に一人立ちしていた。今とは家族の形がまったく違うんです。」と菊地さんは言う。

最近では「共同スペースを通って個室に行く動線をつくった方がいい」「どこにいても家族の気配が感じられる間取り」という考えも出てきている。とはいえ、「ひとりになれる場所のまったくない家」は、思春期から家を出るまで10年近くも実家にいる現代のこどもたちには、なかなか居づらい。「古民家の骨格は活かしつつ、壁、中廊下をつくる、2階や別棟をもうけるなどして個室を確保するケースが多いですね。」

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土間空間と座敷空間とが、シモジキリとよばれる板戸で仕切られる。