胆江日々新聞での連載をまとめた「岩手の古民家建築」。頒値は2000円。お問い合わせは、金ヶ崎設計舎 0197-44-3162 まで。
1 2 3

設計士・菊池憲夫さん(金ケ崎建築設計舎):古民家を住み継ぐ

Pocket

つぶしてしまうのは一瞬、元には戻らない。 どうもならんことない、民家はかなり直せる。

地域の顔がある家

セミナーハウスとして生まれ変わった高橋家のもとの姿。

「この地域にはこの地域にしかない、家の顔があった。そこの気候やなりわい、地域に独特の職人技術があって、それが文化だったと思うんです。でも今の家ってね、どこでもいっしょでしょう? つまらないです。」

「民家はくず家ではない」と、菊地さん。

建築設計の仕事に携わり始めた時には、今のような古民家再生に携わるとは思ってはいなかった。新しくつくる家の設計をしながら、昔の家がどんどん壊され、どこでも同じような家が立ち並ぶにつれて「こんなんでいいのかな・・」という想いが強くなっていった。

新聞連載で多くの古民家に触れて

改修工事時の高橋家。黒光した、立派な柱と梁。

1998年、地元の胆江日日新聞社から「なにか書いてみないか?」ともちかれられた。古民家が壊されていくのはもったいない、しのびない、価値をみんなに知ってもらえれば、という想いで、岩手県内の民家を調査する連載を提案した。調査した民家は70余軒、岩手県全域にわたり、そのすべてを自分で実測した。「調査しながら分かっていったこと、身になっていったことがたくさんあります。」

沈んでいる部分のジャッキアップ。

数多くの古民家に触れてた経験が、民家を維持するために「してはいけないこと」と「するべきこと」を判断できる素地をつくった。落ち込んだ柱をジャッキアップしたり、傷んだ柱を交換したりと「するべきこと」をして整えた骨格の中に、新しい生活の要素をどのように盛り込むかを考える。内装の雰囲気が合っていても、設備が便利で使いやすいものになっても、その家の寿命を縮める「してはいけない」改修ではなにもならない。「そのへんはもっとも気を使いますね。」

民家は「くず家」ではない

改修後。背筋がしゃんと伸びた感じ。

連載記事を一冊にまとめた「岩手の古民家建築」の序文に菊地さんはこう書いた。「私たちの祖先が柱を建て、壁を塗り、屋根を葺き、そして住み続けて来た民家にも文化があり、歴史がある。(中略)茅葺き屋根の民家を私たちは自嘲気味に『くず家』とよんでいる。長大な梁、年月を経た風格のある太い柱。現在では手に入れようとしても困難な用材が、ガラクタのように投げすてられている。私たちの祖先が、心身ともに汗水を流して建て、そして住み続けて来た民家が『くず』やガラクタであろうはずはない。」

水沢市内の武家屋敷にもご案内いただいた。土間に続く板の間で火を囲む。板戸の向こうが座敷空間。

「『こんな家じゃあ、どうにもならん』と思い込んでいる人が多いですね。住まい手側でそういうイメージが先行してしまってる。なにも、つぶしてしまわなくても解決できることも多いです。新築で、と始まった話を再生で、と考えてもらえるようになるまで、何年かかかったケースもあります。」一度つぶしてしまえば、もうそれは戻らない。つぶされるのでなく、住み続けられる民家が一軒でも増えるように、菊地さんは今日もがんばっている。

Pocket

1 2 3
座敷空間に切られた炉。