金田さんと息子の太一君
1 2 3

大工・金田克彦さん(大┛(だいかね)建築):幸せをつくる大工


施主もつくり手も幸せになれる、 そんな家づくりができた時は、何より嬉しいです。

家のことをうれしそうに話す西山さん。

京都府綾部市に工務店 大」(だいかね) 建築を主宰する大工の金田克彦さんを訪ねた現場レポートをお届けします。

みんなが幸せになれる家

座敷から玄関を見る。2階にあがる急な階段は、西山さんのおじいさんがつくってものを残した。

「古くなってたけど、おじいちゃんが建てくれた家だから潰す気になれなくて…」金田さんに改修を頼んだ農家の西山さんは、生まれた時からこの家に住む。「ここまでよくなるとは、想像できなかった。すべてに満足です」この家のご主人が亡くなって、一年が経つ。取材に同行した金田さんはまず、ご主人の位牌に手を合わせた。「少しの間でしたけど、新しくなったこの家にいられて、ほんとに嬉しそうでしたよ」と奥さん。

西山さんが子どもだった頃の落書きも、そのまま。

どんな家づくりを心がけているの?と金田さんに訊くと「みんなが幸せになれること」という答が返って来た。「この家で一番気に入っているところは?」と訊くと、西山さんも息子さんも「全部!」と笑う。この家を建てたおじいさん、ずっと住んで来た西山さん、改築したこの家が亡くなる前の束の間の終の住処となったご主人、そしてお父さんの跡を継いで農業をする息子さん。今ここにいる人も、すでに世を去った人も、人の一生よりも長い寿命をもつこの木の家に関わるすべての人と魂が、よろこんでいる。それが伝わってくる家だ。

「家は大工だけでつくるもんやない」

糊を加えた壁土だと10年位で糊が劣化し、ぽろぽろと崩れ始めるが「水ごね」の壁土にはその心配がない。「水ごね」は技術的にむずかしく、手がける職人が少ない。

金田さんがいつも組む綾部の左官屋さんは、壁土をつくるつなぎに糊を加えることなく、水と土だけでこねる「水ごね」の仕事をする腕のいい職人。部屋ごとに微妙に表情を変えてある。「浄化槽を掘ったところからでた赤土を見て、左官屋さんが『これ、使える!』と言ってくれてね」聚落に似た淡路のの土と混ぜ合わせると深い山吹色になり、寝室に落ち着いた雰囲気を醸し出した。

玄関上の天井の黒谷和紙。一枚一枚の陰影がちがっていて、美しい。

障子には、綾部の伝統工芸である「黒谷和紙」を漉く若い職人ハタノワタルさんの和紙を使った。光がやわらかく散乱し、落ち着いた雰囲気を醸し出す。玄関ホールと2階の屋根裏の部屋の壁も、ハタノさんの和紙を貼って、仕上げた。色は部屋の主となる息子さんの好みに染めて漉いたものだ。

つくる人とつながっているからこそ

黒谷和紙は、こうぞを煮るところから手作り。絶妙な割付けの建具で、紙の質感が生きる。

「自然素材を使っている」というだけでは言い足りていない。金田さんの家づくりの特徴は、金田さんが自然素材を「つくる」人とつながっていることにある。「素材生産者とつながっていると、その家の暮らしぶりに合わせて『どうしようか』という所からいっしょに考えられるので、表現にうんと自由度が出るんです。『こんな感じにしたいんやけど』ともちかけると『じゃあ、こうしようか』って、どんどん工夫が生まれる」

建具で仕切りの強さを変えている。玄関とのつながりの強さは 1)左の座敷、2)正面の台所(締めれば台所からだけ見える)、3)右の書斎(締切)という順。こうした工夫には、京都の経験が生きる。

ひとつひとつの現場が、新たな可能性を探る場になり、金田さんたちチームのボキャブラリーを豊かにしていく。家づくりは住まい手だけでなく、金田さんとまわりのつくり手にとっても、技術を発揮できる「幸せの場」なのだ。「大工は木で仕事をするかぎり、構造を含めきっちり木を活かした仕事をするのが根本。その上で、まわりの職方と知恵を出し合いながら、互いの仕事の可能性を引き出す。それをまとめるのも大工やと思ってます」


1 2 3
農家の跡継ぎとなった息子さんと西山さん。