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大工・西澤政男さん(西澤工務店):きちんとつくってこそ、伝統構法

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社員寮は学びの場

加工場にあった、道具をしまうための棚。縦一列が一人分。

西澤工務店は30人の大工を抱える大所帯だ。「求人は出しませんが、働きたいという子は来ますよ。続くのは3分の2ぐらいでしょうか。やめていく子は三年以内でいなくなりますね。独立していくのは、実家の工務店を継ぐという事情のある者ぐらいで、それ以外はずっと、残っていきます。」

西澤さんの二男も和歌山の現場棟梁として活躍中だ。現場を任される棟梁はほかに7-8人いる。「20代の棟梁もいますよ。高卒すぐで始めれば、才能のある子はそれ位で棟梁をつとめるようになります。」

彦根に社員寮があるが、これは福利厚生のためだけではなく、研鑽の場でもある。西澤工務店の現場は近畿一円に散らばっている。ふだんは各地の現場近くに借り上げたアパートや飯場から現場に通うのだが、休みの日には帰って来て勉強できるよう、寮にはつねに部屋を確保しておいてあるというのだ。

「大きな居間があってね、みんなよく集まっているんですわ。そこで研ぎ物でもしながら先輩と後輩が話をしているようです。そういう時間に学ぶんですね。勤務時間の間だけが仕事、というのでは伸びませんわ。寝食を共にし、ひとつ屋根の下で語り合う。そこで身に付くことが多いんです。」

見えないところもきちんと。 それが伝統構法の命

広い工場には、乾かしてある材、刻んだ材などが出番を待っている。二棟続きのこの工場のほかに、もっと広い工場が別の場所にある。

箱の四方蟻組

板4枚だけで箱の枠をつくる時、直角のホゾで組むのでなく、ホゾに角度をつけることでしっかり組み合い、ばらばらにならない。角を引き寄せ合うようにしておさめるとすっと吸い付くように入る。賽銭箱などに用いる。

「うちの若い子たちには、見えないところであっても丁寧に施工することをとことん教えます。」金物に頼らず、木組みで家をつくろうとすれば、車知や込み栓が必要だ。ひとつの家で何千という数になるのを、手でカシの木を削って作る。「大変なようですが、たいしたことではない、とも言えます。ここを手を抜いてしまうといけないのです。」きちんと施工してこそ発揮されるのが伝統構法の力。丁寧さがその建物の寿命をも左右するのだ。

庫裡も案内していただいた。「このダイニングキッチンは洋間ですから、壁は最終的にはクロスで覆われて見えなくなってしまいます。それでも、窓の上下はきちんと太い差鴨居を入れます。見た目には、窓の上下に薄い板を貼るんでもかわりはない。それでも、きちんと施工する。そうすることで家に安定感が出るんです。」

「土壁が天井裏に突き出るところでも、小舞竹はびゃーっと伸びっぱなしにせず、壁止めの材料を入れてきちんと切り揃えるようにしています。見えなくなるからいい、んじゃないんです。伝統構法をやっている、というだけでは足りない。ちゃんとつくることが大事です。正しい技術は簡略化しないで用いてほしいものですね。」

加工機械で合理化も

技術の肝腎なところは簡略化してはいけないが、必要な合理化であれば積極的にする、というのも、西澤工務店が平成にまで続いて来たひとつの理由かもしれない。工場にはさまざまな大型機械が並ぶ。伝統構法というと、何から何まで手仕事、というイメージがあるかもしれないが、そうではない。「きちんとした仕事をする助けになる機械はどんどん使います。」

「これは長ホゾを加工する専用の機械です。ホゾは回転する丸い二枚の刃の間に材を入れてつくります。短ホゾであれば一つのモーターで二枚の刃をまわしたところに材をつっこんでもできます。でもそれだと、軸に材があたる分まで、つまり丸ノコの半径以上の長さのホゾはできない。この長ホゾ加工機は、モーターが二つついていて、それぞれが刃をまわしています。間に軸がなく、ぶつかるものがないから、いくらでも長いホゾを削ることができます。」

きちんとした伝統構法を実践するには、ホゾが長いことは大事なことだ。引き抜きの力に対して有効にはたらくし、ホゾが長いことで込み栓打ちはもちろん、車知引き、胴栓打ちもできる。「長ホゾは多用するので、その加工がどんどんできることは重要なことなんです。」

ランニングプレーナーもあった。普通のプレーナーでは材を機械の中に通して行くのだが、ランニングプレーナーは二本のレールの間に置いた材の上を、機械の方が移動していく。「寺社に使うような太い材の表面を削るために購入しました。あまり大きな木になると、重たくてそうやすやすとは材が動かせないですからね。材を動かす必要がないので、材の長さ分だけの空間で仕事ができるのも利点ですね。」

基本的な加工に手間どってしまって、本当に大事なところに手をかけられなくなってしまう。「こういう工夫はどんどんあっていいと思っています。」効率が優先される現代に丁寧な伝統構法が生き残って行くためには、必要なことなのだ。

伝統構法で家を建てる人がいてこそ

西澤さんは、木造建築の研究者やつくり手が集う「木の建築フォーラム」で、差鴨居を多く使った「伝統工法による現代住宅骨格模型」を展示した。骨格模型には木組の継手や仕口などがすべて忠実に再現されていた。これまでの建築基準法では構造的な要素として評価されてこなかった差鴨居の見直しの機運が構造学者の間でも高まっているところでの展示ということで、多くの研究者が西澤さんの模型を手でさわり、その揺るぎなさに感嘆の声をあげていた。

「これをつくった理由のひとつとして、自分のところの若い者に、住宅だってこうつくれるんだということを体験してほしい、ということもあるんです。」一般に、寺社建築と住宅づくりは「別世界」と思われている。たしかに宮大工の技術と住宅の技術とでは「発揮のしどころ」が違う。だが、基本となる「木のよさを生かしたつくりかた」に違いはない。

寺の庫裡などの例を除けば、天下の西澤工務店に住宅を依頼する人は少ない。寺社建築だけでも西澤工務店は十分に続いて行く。それでも、西澤さんは住まいづくりの選択肢のひとつとして「伝統構法による現代住宅」があり得るのだということをしらせていきたいと考えているのだ。模型には、廊下や子どもたちめいめいの個室など、現代の生活に欠かせない要素が盛り込まれていた。

「伝統構法の技術を先につなごう、といっても、技術を発揮できる仕事がなければ、技術はつないでいけないんです。だからこそ、寺社建築だけでなく、伝統構法の家もつくってもらい、住んでもらいたいですね。」伝統構法の家づくりでは、工期じゃ現代工法の家づくりよりは長い。予算の中に木材費や大工手間の占める割合が多少増える。「木をちゃんと生かせば、長く、気持ちよく住み続けることのできる家になります。一生に一度の家づくりですから、本当に大事なところを省略せず、いい家づくりをしていけば省資源にもつながると思いますよ。」

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下左/土壁。貫やホゾの端部が入るところは、藁を置いて塗り込め、割れが起きにくくする。下中/背割りを施した柱材。下右/瓦と銅製の雨樋が美しく調和している。