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大工・宮内寿和さん(宮内建築):大工が挑戦する「水中乾燥」

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水中乾燥実験の 中間経過について

水槽の水中乾燥実験では、6mの水槽に木を入れ、定期的にphや重さの測定をしている。「水道水はph7.4ですが、それが木を浸けてたった一日で、phが6.3になる、つまり酸性に傾くんですわ。目で見ても、白太(辺材)の部分から鼻水のようなものが出ているのが分かる。その成分の分析結果を検証するのはまだこれからなんですが、木が水を含むことで木が細胞にためこんでいたものが出される、つまり樹液交換が行われているのはたしかです。これは大工の勘ですが、酸性雨の影響を受けたよくない物質も出て行ってるんでじゃないか。使っている道具が錆びるような酸性の木って最近ありますからね。」

貯水池実験では、宮内さんが甲賀森林組合から将来現場に使うために買った400本の杉を、池に入れた。池に入れる前に重量を測定しておき、その変化を記録していく。4ヶ月浸けた木を水から引き上げ、含水率を測ってみた。赤身とよばれる「心材」部分で70%、白太とよばれる「辺材」部分で200%。木の内部の樹液がある程度溶け出し、池の水が満杯に入った状態。「辺材は水を吸い上げていた仮導管が集まっているので、立ち木の時に水分を多く含んでいますが、ひとつひとつの細胞がストロー状の管になっているので、伐採後の水の抜けはわりといいんです。反対に仮導管として使われなくなった心材の細胞は、自らの繊維をふさいでしまうことで細胞の中身を守っています。つまり、つぶれたストローのような形状なので、なかなか中にたまった樹脂成分が抜けていかないんですね。高温乾燥にかかった材でも、心材の含水率が辺材より高いままでいるのはそのせいなんです。木を池に浸けていったん細胞を水浸しにすることで、心材のつぶれたストローが回復し、細胞内にため込まれていたものが吐き出されやすくなるのでは、と推論しています。」と定成先生は言う。つぶれたストローが回復すれば、外は乾いていても中に水がたまっている「ペットボトル状態」は改善されるだろう、という見通しだ。

水から引き上げた後、宮内さんの加工場の壁に丸太のまま20日間立てかけておいてから挽いてみた。 「杉のもっている本来の甘い匂いがぷーんとして、色もピンク色で、ああ、ええなあ、というのが第一印象。さっそく刻んでみました。含水率は20%やったけれど、高温乾燥のかかった含水率20%の木を刻んだ時のようなバサバサ、カサカサする感じはまったくなく、削りやすかったですね。繊維が破壊されていなくて、必要な樹液が適度に残っている感じです。これなら後からの割れも少ないやろうな、という感触です。」 宮内さんは水中乾燥した木を太陽の日差しと雨風を浴びせず部屋の湿度と室温を一定に保ちながらゆっくりと徐々に乾かしていくことを試みるために、現在自分の加工場に「自然乾燥室」を作っているところだ。(自然乾燥室について、宮内さんのブログでの報告はこちら)

一方で、水から引き上げた木の一部を、滋賀県の伊藤源材木店の釜で燻煙乾燥にかけてみる実験も並行して行っている。(燻煙乾燥について、宮内さんのブログでの報告はこちら)甲賀・水と森の会の事務局を務める設計士の川端さんから同会のブログに「燻煙処理直後30%以上だったものが1ヶ月の自然乾燥で15%前後に落ち着きました。水中乾燥材は確かに乾燥しやすいようです。割れも増えていませんし、色もきれいです。」という報告があがっている。定成先生も「通常では繊維飽和点にあたる含水率30%から先がなかなか落ちて行かず、グラフにするとそれまで右下がりの直線状に含水率が下がって行くのが繊維飽和点を越えると落ちにくくなるんですね。ところが、水中に浸けた木を引き上げて燻煙乾燥にかけ、自然乾燥させると、その下がり方がずっと直線のままで、水の抜けがいいように思います。」本格的なデータがでてくるのはこれからだ。今後の動きに期待したい。

水中乾燥へのトライアルを宮内さんが進めているのは「なにがなんでも水中乾燥がいちばんええんや、ということでなく、自分が琵琶湖のある滋賀県にいるから」なのだと言う。「琵琶湖はかつて、北陸から京都や大阪への水運がさかんだったところで、昔の写真を見ると、琵琶湖に流れ込む川の上流で伐った木が川や湖に浮かんでいた。そんな地域性を取り戻せたらという思いがあるんです。」

宮内さんは、以前、自分のWebサイトに次のような文章を載せていた。「身土不二(しんどふじ)といって四里四方で採れたものが、一番ふさわしいという考え方で、その土地の気候風土に馴染んでいるからだといいます。私は、この土地に生まれたこと、大工職人の家系に生まれたこと、そして施主に恵まれ木造の住まいを作らせていただいていることを、誇りに思っています。先人たちに恥じない技術を継承し、木の住まいの良さを追及していくことが、私に課せられた使命。ことに私たちの住む土地には琵琶湖があり、水を守るということからも、山を木を育てて生かすことが必要なのです。」

地元の木を使うということをさらにもう一歩押し進め、琵琶湖上流の川で伐った木を、琵琶湖に流れ込む水に浸けてから製材する。そのことによって、自然でかつ乾燥状態のよい材が得られる。「琵琶湖のある滋賀県ならではの付加価値のある材ができ、琵琶湖の林業の活性化につながると思うんですわ。」なんとも夢のある話だ。

だが、実現するためにたちはだかるのは、木を貯めておく水場の問題だ。河川は県ではなく、国土交通省の管轄で、利用が厳しく制限されている。農業用水の貯水池や田んぼには可能性があるが、直接に木材や建築とは関係のない、農業者である地主を巻き込んでいかなくてはならない。貯水池や田んぼを利用する場合には、原木を入れたり出したりするために大型トラックや重機が寄り付けるだけの道路が備わっていることも条件となる。

大津の森の木で家を建てよう!プロジェクトのセミナーにパネリストとして参加する宮内さん

「多くの人や行政をまきこんでいかなくてはできないことですが、実現不可能なことではないと思います。滋賀県らしい地域おこしの運動ととらえれば、大勢の人にできることを通して関わってもらうことはかえってよいのかもしれません。国が関わる河川法についても、行政特区のような形で例外を認めてもらう道が拓けなくもないでしょう。」定成先生は、明るい希望をもっている。

宮内さんにはひとつ、実現してみたいと思っていることがある。それは、琵琶湖博物館で「地域で暮らしていく家づくりとは何か」を学ぶことのできる展示をすることだ。「家づくりをする人が考えるきっかけをつくりたいんです。木造、2×4、鉄骨、RC・・いろいろな家づくりが並んでいる中、それぞれの家づくりの中身を公平に比較できる、宣伝のためでない情報が集まっているところがない。で、結局みんな、宣伝にのっかる形でなんとなく家づくりをしてしまっている。できれば予算や表面的なかっここよさ、設備の便利さだけでなく、環境のことにまで目を向けてもらいたい。そんなきっかけとなる展示ができたら。」と。そして、そういった展示が公共の場所で、小学生が遠足に行くような場所で行われていることが大事なのだ、と宮内さんは力説する。水中乾燥を軸とした琵琶湖らしさの回復という壮大なストーリーに、同館の学芸員も興味を示し始めているという。この先の展開が楽しみだ。

工務店主導でがんばっていく

大工でありながら、木材の乾燥に関わって行く宮内さんの活動を紹介してきた。だが、じつはそれは宮内さんの活動のほんの一部に過ぎない。

「いい木を使いたい、という気持ちもいつもありますけど、地元の山の木を使うということを考えていくと、まさに今、伐期を迎えている木からとれる四寸角材の利用を押し進めなくてはいけない。伝統構法での家づくりでは、四寸角は細くて使いにくい、でも伝統構法の技術を新しく活かした使い方がないものかと、こんな組み方を考えてます。」と見せてくれたのは、四寸角で束を両側からはさみこんで足固めとし、がっちりとした木のフレームをつくる「四寸角挟み梁工法」だ。

「甲賀・森と水の会をいっしょにやっている設計士の川端さんといっしょに考え、昨年の間伐材利用コンテストにも応募してみました。」結果は、「四寸角材は間伐材とはいえない、中径木材であるので」ということで審査にあがらなかったという。より長伐期の林業を見据える宮内さんにとっては、間伐ととらえていたのだが。

「四寸角挟み梁工法の可能性は、それがいかにも伝統構法らしい和風の家とはかけはなれたモダンなデザインができるということにあるんです。田の字プランに吹抜け、梁がどーんと見えて・・という家を好む層の人たちだけを相手にしていたのでは、無垢の木の家づくりはほんの一部の人の趣味にとどまってしまう。それでは山を守ることはできんのです。」宮内さんは、「イームズチェア」で有名なアメリカのデザイナーを尊敬している。「イームズはすぐれたデザインを一般の人の手の届く手軽さ、気軽さで提供した人です。おしゃれであって、高価でない。イームズは自邸をつくる時に鉄骨でフレームをつくり、開口部はうんと広く、自由度をもたせた。そのフレームを伝統構法の仕口を活かして木で組めないか、というのが発想の原点にあるんです。」

大工が主体となって、木の乾燥のことや林業を考える。設計士に提案をしていく。自分の仕事を「木を加工して家づくりをする」というところにとどめない、広いレンジと行動力におどろかされるが、宮内さんはこう言う。「ひとり大工は別として、施主の建築工事を一括して請け負う工務店は、いちばん大きなお金を動かす主体でもあるんやから、その分、リーダーシップも発揮していかなあかんのやろか。山側に自然乾燥材をストックしておくリスクを押し付けるんでなく、工務店が木をストックして製材所に賃挽きしてもらう、色あせない意匠や構造計算の面でサポートしてもらえるいいパートナーとなる設計士との出会いを求める、いなければ育てて行く。工務店が主導権を握って行くことで、いい形のリスク分散やチームワークができると思ってます。」

宮内さんの話には、「こういう木しか入ってこないからダメなんや」とか「だから、設計士とは組みたくない!」というような否定的なボキャブラリーがない。思わしくない現状であれば、自ら切り拓いて行く。その明るさとパワーは、他の業種との出会いを生み、大工だけも他の業種だけでも実現できないことを実現可能にしていくのだ。宮内さんのテーマカラーは赤。靴もトレーナーも、いつも赤だ。鮮やかで力強い赤がとってもよく似合う宮内さんが切り拓いていく明るい未来に、期待したい。

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