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大工・池上算規さん(大工 池上):長崎県産材100%の家ができるまで

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「野菜だって、家に使う木だって、
身土不二がいい」(野田)

野田さん

私は、神戸で震災に遭っているんです。だから、家にお金かけても地震でつぶれてしまうんではしかたない、地震に遭っても住み続けられる家でないと、という気持ちがありました。たまたま四国の木の家の設計をしてる友達がいて、相談にのってもらったら「ほんとに地震に強いのは、木を竹かごのように組んでつくった、伝統的な木の家なんだよ」ということをはじめて聞いたんです。

仕事で産直野菜の宅配をしているので、普段から生産者との顔の見える関係とか、なるべく地元で穫れたものを大事にする「身土不二」という感覚があるので、「木の家を建てるんでも、地元の木材がいいよね」と思い至りました。でも、そういう家づくりを、どこに頼めばいいの?となると、どうしていいか、まったく分からないんですね。

どこかにそういう人がいたとしても、どうやったらそういう人が見つかるか分からないし、伝統的な木の家をつくってる大工さんなんてほんのちょっとしかいないんだろうし、いたとしても頑固そうで、私たち庶民には手の届かないような高い家になるんだろうな・・・と漠然と思ってました。そんな時、たまたま買った「チルチンびと」に載っていた池上さんの記事を見たんです。

大村市に建つ野田邸。前ページの池上さんの作業場の、すぐ近くに位置する。第十回長崎県木造住宅コンクール優秀賞受賞。

「うわ、四国の友達が言ってたのとおんなじこと言ってる!、しかも長崎にいる!」というのがまず驚きでした。どうしよう・・夫婦で話し合いました。そして、「なんぼ高くても、頑固な人だとしても、いちどは会わないかん、かなわないことならば納得して諦めればいいんだから」という決意で、池上さんに連絡してみたんです。お会いしてみたら・・想像とちがって、とっても話しやすい方で、驚きました。野菜のたとえでいえば「なにがなんでも完全無農薬でないとダメ」というようなキビシイ感じの人ではない。話しているうちにだんだんに完全無農薬、という方向に行きはするんだけれど、お金のことなんかも柔軟に考えて、できるところは譲歩しながら、現実に実現できることをいっしょに考えられる人。で、迷わず、池上さんとの家づくりを決断しました。

「すべて長崎県産材でまかなうのに
ルートづくりから入りました。」(池上)

「近くの山の木で」という希望は、まさにぼく自身が手がけていきたいことでした。それまでつくってきた新築の家は、小江原の家に現場近くに棄ててあった材を一部使った以外は、ぼくが師を仰いでいる徳島の和田さんの杉をずっと使ってきていたんです。「地元の木を」という気持ちはあったけれど、具体的にはまだその一歩を踏み出してはいなかったんですね。

和田さんが長年の努力を経て切り拓いて来られた、山の杉を建築に直接使えるようなルートは、長崎にはまだないんです。野田さんとの家づくりは「ツテはないけれど、地元の木を使う方向を切り拓いていこう」という冒険になりました。

まず、山の近くにある製材所にあたってみたんですが「できない」と断られました。「跡継ぎもいないし、やめようと思ってる」と言うんです。そんなに深刻な情況なんか。自分たち大工が使っていかな、とびっくりしました。で、かえって、県産材を使うルートをつくろう、という想いが強くなったんです。

ようやく木を伐って、出してくれる方とめぐりあえたんですが、その方はもう70代、現役を退かれたOB、定年後の仕事としてたまに伐るぐらいだ、っというんです。その方が亡くなられたら、その後どうなるの? と思うとね、山仕事をする方が急激にいなくなっていく危機を感じましたよ。ぼくらが使っていく以外、解決策はないんですよね。

伐り出しの現場での記念写真。後列左が池上さん、あとは森林組合の人たち。

木を伐るところも野田さんご家族と一緒に見に行きました。長崎にはめずらしく、吹雪の日でね。ずっと大工をやってきて、木の伐採を自分の目で見るのは初めてのことだったんです。50年生きて来た木が目の前で倒れていくのを見て、「このいのちをいただくんだから、無駄にしちゃいかん」と心底思いましたよ。その木を使った家に住むご家族といっしょにその場にいられたことも、とてもよかったし、山主さんもよろこんでくれました。

三百三十石すべて長崎産材で揃え、使い切りました。九州の木は徳島の木と比べると成長が早い部分、年輪の感覚が太く、性状がやわやわなんじゃないか、という不安も当初は少し、ありました。和田さんのアドバイスもあって、植林でなく実生で育った目の詰まった木は構造材に、挿し木で育ったものは床板など内装材に、と適材適所で組み合わせることで、その不安も解消できました。

これから家づくりをする人たちには、山の木や伐採現場など、「近くの山の木」のこと、もっと見てもらいたいですね。「木のいのちをいただいて、建てる家なんだから、大切に長く住み続けたい。」という実感を持つ人が増えれば、山も家づくりもよくなっていくんじゃないかと思いますよ。

「池上さんと知恵を出し合って なんとか予算内におさめました!」(野田)

プランを決める際の野田さんの工夫。カレンダーの裏に優先順位をつけて家の各要素についての希望を書き出していったり、同じ縮尺で四畳半や三畳といった大きさの紙片をつくり、間取りを検討した。

いろいろなところで池上さんと知恵を出し合って、コスト調整はしましたよ。本当は外も漆喰の壁にしたかったんですが、予算が足りなくてモルタルでも仕方ないかな、とあきらめかけいたら、池上さんから「焼き杉でいきましょう」というアイデアが出てね。焼き杉を外壁に使うのは昔からあるやり方で、表面が炭化する事で腐食しにくいんだそうです。敷地の土で泥団子をつくって、それを積んで竃(おくど)さんをつくって、ごーっと焼きました。自分たちで焼いたし、焼き杉の部分には塗料代もかからないので、けっこう大きなコストダウンになりましたが、それだけでなく、自分たちができる作業を通して家づくりに直接かかわれるのもうれしかったです。

あと、お風呂は木でなくてユニットバス、屋根は瓦屋根でなくガリバリウム鋼板にしました。あとは、台所の食器棚なんかも、ただの棚にして戸はあとからつけよう、ということにしたり。主人が「1Fと2F、両方にトイレが欲しい」とこだわったのをあきらめてもらったというのもありましたね。「お金ないのに!外でしろ〜」「いや、絶対つくる。つくって、おれしかせえへん!」なんて張り合ったのも、今では笑い話のような思い出です。

「冷暖房をあまり使わないで済む家です。」

暖房は、薪ストーブに憧れていたんですが、実際におくとなると曲がり煙突にならざるをえないし、費用もかかるのでやめました。実際に住んでみると、日当りはいいし、無垢の床材はいつもぽかぽかしていて、ほとんどいらなかったですね。「いらんって言ったばい?」と夫婦でつっこみあったりしてます。

「ひとくちに木の家づくりといっても、一般の人の目から見ればカナダの輸入住宅の木の家も、ツーバイフォーの木の家も、近くの山の木で職人がつくる木の家も、違いは分かりにくいんです。これこそ本当の木の家づくり、という家づくりを池上さんと一緒にできたことは、とても幸運でした。我が家のことを通して、こういう本当の木の家づくりがあること、そしてそれが『できないこと』でないことを、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいです。」 (野田)

木の家は、「一年中同じ気温で快適」っていう管理された快適さとは違います。冬は冬である程度寒いし、夏も暑くないことはない、季節でめりはりがある感じです。けど、前にマンションにいた頃のような「何か空調をつけないと快適でない」とか、床や壁が熱くなりすぎたり冷えすぎたりすることがなくなりました。冷暖房を使わない日が多いですよ。夏の暑さに関していていえば、家の周囲をコンクリートにしなかったのも正解だったかもしれません。「犬走りがないだけでも随分ちがいますよ」と池上さんに言われてそうしました。草取りは増えますが、照り返しで暑いのとくらべたらなんてことはないです。もともと草もそんなに神経質にならない性格ですしね!

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