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工務店・和田勝利さん(和田工芸):古民家再生へのこだわり

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長谷川敬さんとの出会い

ちょうどその頃、この職人がつくる木の家ネットのたちあげにも関わられた設計士の長谷川敬さんと知り合ったのです。そして、カバ園長の自宅をご覧になった上で「埼玉県幸手市で、農家として続いて来た民家の再生なんだけれど、施工をお願いしたい」と依頼されたのです。図面をもらってみて、長谷川さんが何を考えているのか、その図面を書かれた過程が読みとれました。そして、これはまさに自分のやりたい方向性だな、と共感する部分を感じたのです。古民家そのものを大事にしよう。無垢材をあらわしで使おう。ずっと思って来たことが、そこには描かれていました。

長谷川さんとの仕事が掲載された住宅建築の紙面(クリックすると、和田工芸のWebサイトが開きます)

まずは増築されていたところを解体。次に昔からあった建物を曳家して、基礎を作り直した後で戻して周りに増築をしました。昔の大工の思いや考え、工夫が手に取るようにわかりました。それを組み直すにあたっては、阪神大震災の直後だったこともあり、長谷川さんなりの考えでの耐震補強もがっちりとしたことはとても勉強になりました。砂漆喰という、漆喰にわらと砂を混ぜてコテムラを見せたままに仕上げる方法もこの現場で学びました。塗りっぱなしなのですが、陰影が出てなんともいえない、ほっとするような感じがあるんです。ほかにも、風通しや温熱環境の工夫など、私と同じような志をもっていて、実際に実践しておられる長谷川さんの設計を通して、すごく勉強させてもらいました。長谷川アトリエの担当者とはさんざんやりあいましたけどね。「これじゃおさまんないだろう!」とかね。私にとっては、とても刺激的な現場でした。

めいっぱい頑張ってしまった
民家再生の現場

長谷川さんとやった仕事が完成して間もなく、その仕事を見ていた人が同じ幸手にある既存民家を解体し、その部材を再利用してに新築したい、という工事を依頼してきてくださいました。長谷川さんとの現場で学んだことを思いっきりやってみたい!ということで、とことんこだわった仕事をしました。

竹木舞を編み、土壁を塗り、漆喰で仕上げた壁。大工の技術の粋を注ぎこんだ入母屋風の外観。本物の無垢材を使った建具。そして、カバ園長の自宅では実現できなかったこととして、岩手県の松を、梁材、床材、階段材に利用しました。のめりこんだんですね。施主と約束した建築工事費よりも手間や材料にお金をかけてしまったために、莫大な借金をつくってしまいました。

大工としての本物の仕事が好きで、なるべく本物の仕事を、と志向して来たのが、長谷川さんとの仕事で情熱に火がついてしまったんですね。黙ってられない。こだわってしまった。のめりこんでしまった。とはいえ、材料や手間をかけてしまえば、職人にはそれ相応の支払いはしなければなりません。その手配先や仕事してくれた人に迷惑はかけらませんから。施主から「どうしてもそうしてくれ」と言われたものではないのですから、払うのは自分です。経営的には、それは大変なことでした。

けれど、そこまで夢中でこだわってやってみたことは、自分にとっての財産だし、勉強でした。あれだけのことをやって、よくできたな、という経験が自信につながったのです。そして、その建物が今の私の仕事につながる実績ともなったのです。

日本民家再生リサイクル協会に加わる。

ちょうどその頃、日本の住文化の象徴である民家が次々と壊され、失われようとしている流れに対して、民家を保存・再生・リサイクルするための運動をしようという全国規模の組織として「日本民家再生リサイクル協会(JMRA)」が誕生しました。発足に知り合いが関わっていて、誘われて、すぐに入会しました。

さまざまな分野の人がいて、古民家改修に火のついた私にはすばらしい人脈が一気にできました。50人ぐらいでのスタートだった会員数もすぐに100人、200人、300人と増えていき、一般の人だけでなく古民家を扱う研究者、設計者、施工者、大工、解体屋などといった、さまざまな職種の人たちも参加するようになってきました。私はいつしか、フォーラムで古民家改修施工の経験を話したり、事業者の組織として登録事業者制度をはじめたり、と運営の中心に携わることになっていき、今ではNPO第4期(2006年4月〜2008年3月)の副代表理事をつとめさせていただいています。

「JMRA民家バンク」という、さまざまな事情で手放される民家を、日本の住文化として引き継いでいくシステムもつくりました。これは、民家を譲りたい人から無償で民家の提供を受けて登録し、その情報を民家を欲しい人へ公開し、引き取り手を探すというシステムです。古民家に住みたい人は「民家バンク」で民家を探し、JMRAの基本精神と民家再生技術とをあわせもった「登録事業者」に施工を頼むという流れが、できつつあります。

今ではほとんどが古民家再生。

長谷川さんとの出会い。全力を注ぎ込んでやった民家再生。民家再生リサイクル協会の活動。そんな流れで年を重ね、いつしか和田工芸での仕事も「古民家再生」がメインになってきました。建てた物件を見に来た人や、ホームページで施工例を見た人が、連絡してくるのです。ひとつひとつの現場には苦労もありますが、胸を張って「これをつくりました」と言える現物があるというのは、心強いことです。

気心しれていて、私の考えをほぼ理解してくれ、図面に起こしてくれる和(やまと)設計さんとの共同作業も軌道にのってきています。私は大工出身ですから、専念できるのであれば、施工に気持ちを集中したい。「設計士を入れましょう」と言って入ってもらう現場の方が多いですし、その方がうまくいくように思います。

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