仕事を共にする息子の和田歩さんと
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工務店・和田勝利さん(和田工芸):古民家再生へのこだわり

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情報を発信することによって、理解し合える施主が増えてきた。

ホームページで発信するようになってから、私の考えや仕事をある程度理解して頼んでこられる施主が増えて、楽になりました。それでも、しばらくつき合って、何度も何度も打合せを重ねて、相手が何を考えているか、その人のしたい生活はどんなものなのか、をつかんでからしか仕事には入りません。あせって早々と図面をまとめて、見積もりまでして「さよなら」ということになってしまうより、「合わない人とはやらない」というぐらいに無理のない構えでいた方がお互いのためです。インターネットを通じてやたら知識が豊富な人、あっちこっち展示場めぐりしてくる人はむずかしい。「いいとこどり」でやってほしい、というわりに、要求に見合った予算がなかったりしますから。そういった見極めのためにも、スタートに時間をかけることは大切にしています。

埼玉あたりで高気密住宅はいらないと考えています。クーラーはいらない、扇風機だけでいい。そのためには、四方から風が抜け、風の通る家にすることが大事です。梁をあらわし、真壁にし、開口部をとる。昔の民家のつくり方に結局近いんです。土壁までの予算がとれなくて、プラスターボードに漆喰を塗るケースが多いですが、本当は土壁もやりたいですね。新築民家(現代の民家)ももっと手がけていきたいと思います。今、残っているいい民家を見て「昔の大工はすごいな」と感動するのと同じように、100年経って「壊してはもったいない、いい古民家」と思ってもらえるようなのを自分でもつくりたいですよ。

今進行中の、おもしろい現場があります。里山環境などについて学生に教えておられる宇都宮大学の佐々木和也先生が、茅葺き民家を買って、現地再生しているという物件です。先生のご家族は今、マンションの9階に住んでおられるのですが、奥様が「もうマンションはいや!」とおっしゃったことがきっかけに、またこどもさんたちも小さいので、こども時代にさまざまな経験ができることも考えて、古民家再生という希望をもちはじめられたのです。

まずは、うちのホームページをご覧になって「いい民家の物件がありませんか?」という相談を受けていたのです。なかなか条件の合うものがでてこなくて話がそのままになっていたのですが、そのうちに先生から「ひとつ見つかったので、再生可能かどうか見てもらえませんか?」と連絡がありました。寄せ棟の茅葺きの上に入母屋のトタン屋根がかぶせてある小ぶりの民家でした。「できないことはありませんよ」と申し上げて、再生への計画が動き始めました。

かけられる予算からいって、「屋根はあきらめよう」というところからはじまりました。設計もシンプルに、こまごまと部屋を分けない。暗さ対策として屋根に煙出しをつけて、半分は天井は張らずにはしごで上がるロフトにして採光しよう。畑での野菜の自給自足、裏山での山菜採りなど、里山的な暮らしを実現するために土間は広いままに活かそう。土間は三和土(たたき)に、壁は土壁にして、ワークショップ形式で学生たちと楽しく作業しよう・・そんな風にはじまって進んで行くうちに、「茅葺きもワークショップ形式でやり直そう」ということにまでなっていきました。一連の経過報告が佐々木先生のWebサイトに載っていますので、ぜひご覧ください。

ずっとこだわってやってきた結果として、こういう楽しい仕事に出会えるのは幸せなことです。やはりどんなにお金だけ儲けたところで、やりがいのある仕事ができなくては、おもしろくないのです。こだわり過ぎて損をするようなことがあっても、それは経験として、必ず自分の財産となります。今、仕事がとても楽しいです。それはこれまで初心を変えずにやってきたから、そしてそれを支えてくれる職人や家族があったからと感謝しています。

古民家再生がしにくくなる?

ところで、今年の6/20に施行された「改正建築基準法」により、古民家の再生がしにくいような状態になっています。新築や増築の際には、役所に「こういう工事をします」ということを申請しなければならないのですが(これは確認申請といって、都市計画外地域では必要のない申請です)、増築や改築をする時に既存の建物の部分の構造計算書の添付が必要となりました。

筋交いや合板だけの基準である、現行建築基準法の「壁量」という判定があります。壁量とは、耐力壁の長さのことで、壁の多い建物ならば満たせる「壁量」も、古い民家の開放的な間取りでは満たせないケースの方が多いのです。だからといって、現行建築基準法では耐力不足と判定が出た古民家が構造的に弱いのかというと、一概にそうとはいえません。充分に太い柱や梁を使っていて、きちんと施工され、メンテナンスされていれば、強い地震にも耐えうることが分かっています。しかし、壁量計算ではそれを証明できないため、特別なむずかしい計算方法を使い、個別に証明していかなければなりません。

建物の実測をし、材の状態や地盤の状態を調べ、それを限界耐力計算法という高度な計算法で解いて・・という手順が必要で、しかも今度の法改正で、膨大な量の資料を添付しなければならなくなり、その作成費用と申請費用は、家1軒の木材費用に相当するくらいになりました。それが施主負担となるのですから「そんなに面倒くさいことになるなら、壊して建て替えてしまえ」という風潮が強くなりやしないかと、心配です。

日本に昔からある木の家が 法律に置き去りにされている!

戦後、外国から入ってきた筋交いや合板の構造を証明するのには、「壁量」という足し算で済むような簡単な計算でよいのに、日本に昔から存在する家のつくり方である貫や足固め構造をなぜ、家1軒の木材相当の費用をかけて証明しなければならないのでしょうか。

構造的なチェックをきちんと通ったものでなければ、確認申請を通さない、というのが、姉歯事件で明るみに出た違反建築問題を防ぐための政策であることはよく分かります。ただし、それが古民家再生のように、今の建築基準法には載りにくい建物にもおしなべて制限を加えたり、半分以上の面積を増改築する場合には、古い部分も新基準法に合わせなさいということになると、古民家再生が非常にやりにくくなるのです。役所の別の部署では、古い、よい建物を登録文化財にして次世代に残しましょう、と言っているのが空しく感じられてしまいます。

CO2を削減するためには、再生可能な資源である木材を使って、長年住み継ぐことは環境にとってとてもよいことです。また先人の建てたすぐれた建物を次世代に残して行くことは、文化的にも大切なことです。その意義は、国の方たちも認めてくださっていることです。だが、かなしいかな、私たちのような木の家づくりや古民家再生に携わる者は、住宅産業の中ではほんの一部であり、法律改正の際に置き去りにされがちな面もあります。

自分たちの手で未来を切り拓いていこう!

これから、職人がつくる木の家ネットと民家再生リサイクル協会とが力を合わせて、こうした問題について、建築基準法を決める国土交通省の方たちとともに考え、話し合える場をつくっていきたいと思っています。まじめに木の家づくりに取り組んでいる、あるいは壊されようとしている古民家を住み継いでいけるように努力している人たちの仕事が「法律違反」ということになってしまうのでは、あまりに報われません。昔から日本に受け継がれて来た建築技術が建築基準法で定めている今の簡単な家づくりのしかたと違うのだとしたら、今どきの普通の家づくりとは違った枠があってもいいのではないでしょうか。

私のような職人タイプの人間にとっては、申請ごとはややこしくて、やりたくないことです。代願申請といって、図面だけは設計士に書いてもらうという大工も大勢います。申請に費やすエネルギーがより多く求められることになれば、設計士だって安易に確認申請の代願の仕事を受けてはくれなくなります。結果的に、まじめにコツコツとものづくりしている大工たちにしわ寄せがいかないかと心配です。それを考えると、そのために時間やエネルギーを割くことになっても、国土交通省の方たちとどうしていったらよいのかという方向性を探る努力は惜しむわけにはいきません。

木の家ネットのニュース欄や今後の特集で、そうした動きについてのお知らせが出てくるでしょうから、木の家づくりやよい民家を残して行くことのできる、環境や文化を本当に大事にできる社会になるための動きに、みなさんにも注目し、応援していただけたら幸いです。

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