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鈴木祥之先生(立命館大学教授):伝統構法で使える耐震設計法を探る

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棟梁たちも実験を体験して、
建物を「動くもの」としてとらえるように。

「木造軸組建物の限界耐力計算による耐震設計マニュアル」をまとめるまでにも、それ以降も、限界耐力計算を用いた伝統構法の設計を考えるために数多くの実大実験をしてきました。実験に使う試験体ひとつつくるにも、木の組み方、仕口のつくり方など、土壁の塗り方など、大工棟梁のみなさんとのやりとりの積み重ねでようやくできるものです。大工の荒木正亘棟梁、西澤政男棟梁、望月昭棟梁、木村忠紀棟梁、左官の村上博親方をはじめ多くの方からいろいろなことを教えていただきました。

まさに「ともに実験をしてきた」大工棟梁のみなさんには、実験に必ず立ち会って、見ていただきます。棟梁さんたちは、みなさん「振動台実験をすると、仕口が分かる」と言ってくれます。いっしょに見て、意見を交わし合っている棟梁さんほど、いろんなことを考えられています。実験を体験することで「動くもの」として建物をとらえられるようになるんですね。図面上、解析上だけでなく、現象を見ることが大事で、そこから「四方差しだと断面欠損が大きいから高さをずらして」とか「ここは雇いを入れておかんと」ということが経験知としてでなく、必然としてでてくるんです。

見ることが大事と言いましたが、それだけではないですね。揺れる時のめりこみの音、壊れる時の音、これを聴くことも大事です。現場の大工さんたちにみんなに、五感全部を使って、体験していただきたい。そのためにも、多くの実験を公開してきました。

複雑なものを簡単に済まそうとしたら、
本質には迫れない

「限界耐力計算による耐震設計」は難しすぎて…と現場のみなさんによく言われます。たしかに、難しい要素がたくさんあります。しかし、動きにあった建物の挙動を正確にとらえるには、さまざまな要素を総合しないと総体をとらえきれないのであって、どうしても複雑になってしまうんです。それをいくら「簡単にしてください」と言われても、簡単にしすぎればものごとの本質がちがっていってしまうんです。だからそう簡単には「簡略化」はできないんです。

そもそも、日本各地にある木造文化は、その地域に独自なものなので、設計法としてある一律なものをつくってしまっては、地域性を生かせなくなってしまいます。そう考えると、設計法、計算法としてはフレキシブルなものが望ましい。フレキシブルということは、ひとつひとつのものにあたって、その条件に個別に対応するということですから、ある程度難しいということでもあるんです。

「簡単がいい」という罠にはまってはいけません。「簡単にしてくれ」ではみなさんが望んでいないはずの画一化に向かってしまいます。「ぼくらはちゃんと考えてこういうふうにするから、ある程度のフレキシブリティーを認めてよ」という主張をするべきです。地域によって、大工の考え方によってちがう技をどう生かしていくかということを本当に考えるのであれば。

限界耐力計算法の理論と現場との間を結ぶ。
ここが設計者のがんばりどころ!

伝統構法の耐震設計をするには、やさしいとはいえない限界耐力計算を習得していただかなくては、と申し上げました。その難しさをひとりひとりの大工さんに押し付けるわけにはいかないでしょうから、ここは設計者のみなさんにがんばっていただきたい。ある程度背伸びしてでも勉強して、この多少難しい限界耐力計算に取り組んで、現場との橋渡しをしていただきたいのです。理論の部分の解析はわれわれ研究者がやります。それを理解して実地に応用する部分は設計者が、理にかなった施工をきっちりする部分は現場の大工さんたちががんばる。そんな風に役割分担をして、協力しあいながら、安全性を確保した伝統構法を未来につなげませんか。

伝統構法をやってきた設計者は、これまでは細かいところは大工さんに「どういう風につくりますか?」と訊ねてきたかもしれません。けれど、しっかりと限界耐力計算を身につけられたら「仕口はこうで、こんな寸法で」というところまで、設計者の方から言えるようになるはずなんです。そこまでになってほしいのです。しかし、このような木造の構造ディテールの設計法は、まだ確立されていない。この基礎的な部分の構築は、われわれ研究者の役目で、現在、研究中です。

「耐震設計をする」とはどういうことかといいますと、まず、どの程度までの地震で、どこまでの変形を許容するかというラインを決めることから始まります。このくらいの地震力の入力が加えられた場合、こういう構造特性をもった建物は、これだけ変形する。それが理解できれば、設定した限界ラインをクリアできるようにするには、こういう設計にしよう、ということがいえる。これが耐震設計です。

棟梁さんたちに「なぜそういう仕口をつくるのですか」と訊くと、まず「親方からこう教わったから」という答がかえってきます。あるいは「こうすると、きれいに見えるから」「ぴしっとおさまるから」という答もあるでしょう。けれど、設計者としては、建物全体の揺れとしてここまでの変形を認めるのであれば、この部分にはこれくらいの力がかかるんだから、そこまで耐えるには、仕口はこうしましょう、という話ができるはずなんです。

デザインだけしているのでは、木造の設計者とはいえない。構造ディテールにおよぶ筋道をきちんともっていてはじめて、設計者の役割を果たしているといえるようになるのです。「これで大丈夫か」という問いに、きちんと自分で答を出せるようにならないと。設計者と大工が、それぞれの能力を生かしながら仕事するしくみをつくっていってほしいと思います。

基準法で要求されているのはミニマムな基準や書類上の話であって、設計者としては、もっとレベルアップしたことまで考えなくてはいけません。特に200年住宅という考え方がでてきたからには、設計においてもつくり方においても基準法ぎりぎりではなく「余裕をもって」対応できるよう、上をめざしてがんばってください。

「京町家の耐震補強と新しい京町家をつくる」

京町家の調査研究も進めています。町家再生に関する団体がたくさんあり、そのいくつかの団体から誘われて少しずつはやっていたんですが、京都市にも「ちゃんとした設計法、耐震補強方法をしなければ京町家は残っていきませんよ」とはたらきかけて京町家30棟の耐震調査を行い、京町家の耐震設計法や耐震補強設計法を提案してきました。

それができあがる頃、文部科学省の大都市大震災軽減化特別プロジェクトで、兵庫県三木市にあるE-ディフェンス(実大建物を揺らすことのできる巨大な震動台装置を備えた実験施設)で実大建物を実験する機会がありました。そこで、「京町家震動台実験研究会」を組織して、移築と新築の京町家2棟を揺らす実験をし、移築京町家では耐震補強設計法を、新築京町家では耐震設計法を検証しました。

京町家の密集する地域全体の防災性を高めることを考え、京町家に合った安価な耐震補強として「はしごフレーム」を提案し、その効果を計ることも実験に折り込みました。これは、既存の京町家に新たな耐力壁を付け加えるのは実際の住まい勝手としてむずかしいので、壁によらず軸組を補強する方法です。このように、建築基準法の仕様規定どおりのやりかたによらず、伝統的な建物に合ったやり方で耐震性をアップすることを考えていくことができれば、町家の家並みや町家での暮らし方を損なうことなく防災性を高めることができ、安心して住み続けることができます。

耐力壁をもうけずに軸組を補強して耐震性をアップする「はしごフレーム」

耐震改修は既存の町家が対象ですが、実際にはこれから新しく京町家をつくることもできなければ、片手落ちで、まちなみを守ることはできません。もちろん、急ぐのは既存の建物の補強ですが、修繕だけでなく新しくつくり続けていける力を養わないと、京都自体が景観を守り継いでいくポテンシャルが下がってしまいます。新築もできることをめざそうという想いをこめて、報告書には「京町家の耐震補強と新しい京町家をつくる」というタイトルをつけました。

なにしろ、町家の調査をしてみると、新しいものでも建築年代が昭和ひとけたなんです。裏を返せば、それ以来京町家はつくられていない、ということなんですよ。これからは、古くなった京町家が解体されても、そのあとに再度、京町家がたてられように、さらに景観を破壊しているビルをこわして、もういちど京町家をつくろう、ということまでできるような情況になっていってほしいと思うんです。景観を再生する力を、取り戻したいですね。

伝統構法を未来につなげるために
現実に役立てるための学問。

やはり伝統構法のつくり方は合理的で、いいものだと思います。阪神大震災が起きて、木造の被害が大きかったために木造全般が悪いように言われ、在来工法でも伝統構法でもひとからげに仕様規定が強化されていきました。いまの耐震診断や耐震改修のやり方では、伝統構法のよさは損なわれてしまいます。伝統構法のよさをそこなわない設計法を早急に編み出さないと、伝統構法を未来に残せなくなってしまいます。

京町家振動台実験

京町家らしさを損なわない形での耐震補強・耐震設計を考えるために実験です。移築・補強した京町家と、新築の京町家との2棟を揺らしました。
2005年10〜11月@兵庫県三木市E-ディフェンス
報告書 頒価3,990円(実験映像CD付)
注文は大龍堂書店 販売部

伝統構法木造建物振動台実験研究会

石場立ての柱脚のすべり、屋根荷重や壁の偏芯の影響など、伝統構法の未解明な課題を構造力学的に明らかにするための実験です。
2007年1〜2月@兵庫県三木市E-ディフェンス
報告書 頒価3,990円(実験映像CD付)
注文は大龍堂書店 販売部



耐震工学の研究者でありながら、木造は専門でなかった私が、今はこうして伝統構法を未来につなげるための仕事をしています。それは、ずっと京都に居て、社寺や町家といった伝統構法の木造建築が身近にあり、その魅力を知っていたからです。このまま基準法上で伝統構法ができなくなっていくことを見過ごすわけにはいきませんでした。

これまでの業績をなげうって木造に転向するのは、研究者として大きなリスクでした。けれど、このままでは伝統建築がなくなってしまうのならば、もうやるしかない、だったらやろう、ということで、ここまできました。

社会的な応用ができるまでには、まだまだやるべきことがたくさんあります。けれど、研究と実務との関係というものは「ぜんぶ分かってからしか、発表しません」では、間に合わないものです。ですから、あえて途中段階であっても、発表してきました。これからも練り上げていかなければならないことがたくさんあります。そのために、実務者と研究者の連携も必要ですし、現場と理論の間を埋めることのできる設計者にも育ってもらわないとなりません。

「これならば大丈夫」そう胸を張って言える伝統構法の建物をつくりましょう。そのためにそれぞれの役割を担いながら、協力し合ってやっていきましょう。二度と建物の下敷きになって命を落とされる方が出ないように。伝統構法の美しい建物を、町並みを未来に残せるように。

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