左から大工の都倉さん、左官の江原さん、建具職人の新井さんに、林美樹さん
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設計士・林美樹さん(ストゥディオ・プラナ):職人がつくる木と土壁の家

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2013年11月、完成間近の「吉祥寺の家」に、美樹さんチームの施工現場を訪ねました。

吉祥寺東町の家

美樹さん (林美樹さん) 自分で設計事務所始めて良かったなあと思うのは「仕事してくれる人を、自分で選んで声かけできる」ということ。すごい特典だと思ってます!

ヨハナ 美樹さん、なんだか、バンドのリーダーみたいですね。

美樹さん ところが、一般的には、設計者は工務店に下職の手配まで含めて依頼してしまうことが多いんですよ。勿論、工務店さんとしてはいつもの下職さんの方が仕事しやすいということはあるけれど、そういうやり方だと設計者と各職種の人とは、直接につながれませんし、直接打ち合せも出来ません。

ヨハナ 元請けとなる工務店から下請けに出す各職方さんのことを「下職」と言う、その言い方からして、いかにも、つながらない感じですよね。上から下に仕事が流れていくやり方だと、下流部分は辻褄合わせをさせられる形になりがちです。

美樹さん 工務店さんにもよるかもしれませんが、通常は各職種に仕事を振る。振られた方は「ここ、やりにくいけど、ま、こう納めておくか」という感じで仕事をするわけです。それでも成り立つかもしれないけれど、仕事する方も自分の仕事に誇りをもてて、最終的に喜んでもらえる方がうれしいじゃないですか!

ヨハナ 「本当はこうじゃない方がいいんだけど」の「本当は」の部分から、いっしょに考えよう、むしろ、お互いができるベストを持ち寄ろう!というのが、美樹さんのスタイルなんですね。

美樹さん ひとりひとりが知恵や技能を持っているプロなわけだから、建て主さんと話して、プランがまとまってきたら、私が考えたことをみんなにまずオープンにして「どうやったら、これ、できる?」と訊いてしまうことにしています。

ヨハナ バンドでいえば、パートを演奏してもらうのでなく、曲づくりから一緒に手がける感じですね。基本設計の時期からチームを召集しておくと、スケジュール調整もしやすいですよね?

左から、大工棟梁の都倉孝治さん(町家大工 都倉)、左官職の江原久紀さん(江原官塑)、建具職の新井正さん(杢正)、

美樹さん いつ頃まで刻みで、建前でそのあと、小舞をいつ編んで、土つけて・・と、お互いの予定が有機的にからんできますから、スケジュールは早めから擦り合わせできているに越したことはありません。ほかにどんな仕事がいつ頃入ってくるというような状況も分かれば、融通し合ったりと、気心も通じますしね。お金の面でも、予算調整するのに、たとえば土壁の一部おとすとしたら、どこをどうしようか、などという相談などもしやすいです。

ヨハナ やりたいことを積み上げていけば予算は膨らむ一方だから、そこを現実におさめていくための調整や工夫は、大切な工程ですよね。

美樹さん 基本プランの段階で何を大事にするか、優先順位をつけながら、実現可能性やよりよくするための工夫を、いっしょに考えてもらいます。あ、これはもちろんお施主さんも含めての話ですけど。

吉祥寺東町の家の内観。階段ホールの壁や、玄関の大津磨きなど、左官仕事の見せ場が多い。

ヨハナ 最初から決まっていることを「やってくれ」というより、よりよい方向にまとまりそうです。

美樹さん 楽しいのは、それぞれの職人さんには、私のもっていないノウハウや発想があるということです。それをなるべく生かす方向で、よりよくしていくことが、自分のための勉強にもなっているんです。

ヨハナ メンバーそれぞれがアイデアや技量をフルに発揮できて、かつ、それがお互いの蓄積にもなっていく現場って、楽しいでしょうね。

美樹さん イヤな人とはシゴトしたくないのは当然。かといって、指定どおりにちゃんとしたシゴトをしてもらえれば、それでいいの? と思うんですよ。やってくれる職人さんひとりひとりがもっと主体的に楽しんでくれれば、よりよい結果が生まれるはずでしょ?

ヨハナ なるほどね〜

美樹さん そうなんです。私が描く基本の図面に記されていないことって、たくさんあるんですよ。各部の取り合い、納まりもそうですが、材質をどうするか、色味は、仕上げは・・と無数の選択肢が実際には、ある。私の方で指定しきってしまうよりは、ぼんやりと「こう思ってるんだけど、どうかな」と投げかけた方が、私の想像を越えた、より面白い答が出てくるんですよね、このメンバーだと。

木部と左官の納まり。大工の都倉さんと左官の江原さんとで前もってキッチリ打合せしているからこその、この仕上がり。

ヨハナ 木の家ネットのある設計士さんが「そうかあ。美樹さんを見習って、細かいところまで描くのやめよう!」と言っていましたヨ

美樹さん もちろん、私だって、一生懸命、考えているんですよ!すべてお任せにしている訳ではないです。けれど、その自分の考えにこだわりすぎない。よりよいものが出れば、そちらを採用する。そのへんを楽しむのが、私の現場との付き合い方かな。

ヨハナ 意外な答えが出て来たり?

美樹さん 江原さんの左官の問題について、大工の都倉さんから提案があったり、そっちでそうするんだったら、こっちでもこうしよう、みたいな連携するアイデアが出たり。お互いがお互いの持ち味や技量を分かっているからこそですね。

ヨハナ 刺激的ですね〜

ヨハナ 図面上では同じようであっても、そういった素材や仕上げの選定で、出来上がりの表情や雰囲気がガラッとが変わるんでしょうね。

美樹さん この現場では、和室の天井の竿縁をどうしようかというのが、決まらなくて。一応、桜材で、と決めていたのですが、良い材料が見つからず、しかもなんか現場が気乗りしていなくて。(笑)その時、「ウェンジ材(黒檀のような茶褐色の南洋材)でどうでしょう」と提案してくれたのは、新井さんでした。「それだったら、床柱も素材を合わせて、丸でなくて角柱でいきますか。」と都倉さんからも提案があり、天井の竿縁の間に貼る和紙は私が選び、左官仕上げが決まり、襖の色がきまるといった具合でした。

新井さん提案の和室の竿縁と揃えた、ウエンジ材の床柱。一本ものに見せるための新井さんの隠し技が。

美樹さん じつは、このメンバーは、みんなお茶を習っているんですよ。

ヨハナ へえ。それは、それは!

美樹さん 理屈ではなく、感覚的なところがありますからね。ルールやしきたりに縛られるのでなく、ある美学に則った取り合わせの妙の感覚を養うのに、お茶は役に立ちますよ。出来上がりを真・行・草のどのあたりに設定するのかなどといった、共通の見方をみんなが持っているのも、強みかもしれません。

ヨハナ いやあ、楽しんでいますね!

最近は現場に「職人がつくる、木と土の家」という看板を立てるようにしている。

メンバー紹介

都倉さんは、私が独立して最初に手がけた住宅を施工してくれた大工さん。私が書いた図面が貫工法で、請け負った工務店出入りの大工さんが、「自分じゃこれはできないから」ということで、東京の若い大工さんの会(匠技能研究会)の代表をしていた都倉さんを紹介したというのが馴れ初めです。すばらしいシゴトしてくださったので、それ以来、木工事は都倉さんを指名したり、最近では元請けになって頂いています。

都倉さんと鉄骨屋さんとでコラボレーションしたスチールの手摺のディテール
太鼓梁もさりげなく。ひとつひとつの材料を丁寧に組みあげる都倉さんの仕事。
掘り炬燵の櫓。指物もこんな具合に。建具屋さんの作業場で仕事することも。

江原さんとは、父の前橋の現場を担当した、群馬の名左官職人、高木さんのところで修業していた時に知り合いました。後から話を聞くと、左官になりたい!と言って、私の父に弟子入り先を紹介してもらったらしいです。江原さんは、高木親方譲りで研究心旺盛。新しいことにトライする心をもっています。「できない」とは絶対に言わない人です。いずれいっしょに仕事したいなあ、と思っていたところ、独立して土壁の仕事もやっていると聞き、早速声をかけました。

顔料を調合して、大津壁の準備中
取材当日、江原さんは玄関に仕上げる大津壁の色見本をつくっていた。

新井さんは、江原さんが「なかなかの建具屋がいるんです」と行って、連れて来てくれたのですが、左官屋さんが建具屋さんを紹介するっていうこと自体が、おもしろいでしょう? 新井さんも研究熱心ですよ。ひとつ質問すると答えが10くらい還って来ます。建具職人ならぬ、建具博士と呼びたくなります。左官や大工との調整をとことんして、様々な工夫をし、提案をしてくれます。決して主張しすぎず、それでいて存在感のある、空間に調和する魅力的な建具を黙っていてもつくってくれる方です。

鴨居のない引戸を受ける金具。引戸の天端が、この小さな金具の間をスーッと通っていくという納まり。都倉さんと新井さんの工夫で実現。

メンバーより

都倉さん (都倉さん) 設計者、大工、左官、建具。誰が上、ということがない互いの技を尊重しながら進められます。

江原さん (江原さん) 美樹さんの仕事は自由度が高いから、いくらでも工夫の余地がある。「こんなの、どうですか?」って、思い切った提案しても、けっこう採用されたりして。おもしろいでですよ!

新井さん (新井さん)建具屋って、大概、最後に声がかかるものですが、基本設計の段階から声をかけてもらえるから、決まってないところは知恵を出し合って練り上げていく楽しさがありますね。

美樹さん 家づくりのチームは、この3人と私だけでなく、他の様々な職人さんや建て主さんも加えて初めて成り立っています。建て主さんがお金を払っているのだから立場が上ということもなければ、私たちがプロで建て主さんは素人なんだから、ということもなく、関係性は対等です。お互いに思うこと、やれること、できないことなどを出し合って、よりよい家づくりを目指したいと思っています。

取材後記

現場を取材中、気になったのが、三人が持っていた三人三様の道具箱。現場でよく使うものをコンパクトに収納できる、それぞれの自作のものです。似ているんだけれど、それぞれがちょっとずつ、違う。

都倉さんの道具箱(左)は側面に磁石で差金を貼り付けられるようになっている。江原さんの道具箱(中)はコテが入りやすいよう中板の間隔や角度が調整されている。新井さんの(右)はカンナを立てて挿すことができるよう、側面に穴が空いている。

最初、都倉さんが自作の道具箱を使っていたのをみて、江原さんと新井さんがそれぞれ自分なりに工夫してつくったそうです。そのようにして出来上がった江原さんの道具箱を見た都倉さんが、「あ、それいいなあ」と言ったら、実はもっと改良したかった江原さんは、惜しげもなく都倉さんに譲ってしまいました。そして、次のバージョンの制作。譲り受けた都倉さんも、自分流にアレンジ。

「せまい現場でもひょいと持っていける道具箱」というザックリした用途は一緒でも、使う道具の種類、こだわるポイント、好みなどで、少しずつ違う。そして、機能的なだけでなく、どれも美しい! 三人がそれぞれの「用の美」を追求している感じが、楽しいです。

伝統構法の家づくりの真髄は「手づくり」「その現場現場に応じる工夫」にあります。建て主さん家族のために、その場所や素材を生かすために、ひとつひとつが「一点もの」です。それを生むのは、ひとりひとりの職人さんの心意気と手の技。頭を使い、手をかけてする仕事にあらわれる、閃きや冴えが、その家にしかない価値を生み出します。メンバーが楽しく力を発揮できるような形にまとめている美樹さんがいてこそのチームであり、この三人の仕事があってこそ、美樹さんの作る家だなということを実感しました。

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