杣人の技と心を胸に挑戦し続ける:浜中材木店 浜中英治さん


今回訪れたのは東京都西多摩郡日の出町。『浜中材木店』を営まれている浜中英治さん(69)と、長男の康一さん(38)にお話を伺った。

浜中材木店は、1950年に先代の作一さんが創業し、高度経済成長と共に成長。今では30代〜60代までの幅広い年齢層の社員12名が、それぞれの経験を伸ばしながら、そして活かしながら、木の家づくりを支えている。浜中材木店が特徴的なのは単に製材業に留まることなく、建築業やペレットストーブの販売などにも力を注いでいる点だ。多摩産材のモデルハウスやペレットストーブのショールームをオープンさせるなど、事業を発展させ続けている。


到着するまでの道中、とても緑が豊かだなだと感じたのだが、それもそのはず。意外に感じることだが、東京都の総面積の4割弱は森林で、その森林面積のうち約7割がここ西多摩地域に集中している。

まずは、その豊かな森林と共に成長してきた製材事業について語ってもらった。


杣人(そまうど)の技と心

高度経済成長期以降、経済や利便性を重視した生き方・働き方に傾きがちな我々日本人。住宅を建てることに関しても、外材をプレカットして安く短納期で仕上げることが日常的になっているが、果たしてそれでよいのだろうか。木を長年扱ってきた浜中さんが大事にしている『杣人(そまうど)の技と心』という言葉に触れながら考えてみたい。

杣人(そまうど)とは、山の樹を伐ったり運び出したりする、いわゆる『きこり』のことだ。時代と共に技術が進歩し、現代では斧やノコギリで切り倒すことは流石にないが、たとえ使う機械の性能が良くなっても、よい家をつくるためには山や樹の性質を見極める職人の『木をみる目』と技、そして心が必要不可欠だということだ。

かつて、浜中さんが行っていた原木の仕入れは、今では専務の長男・康一さん(38)の『木を見る目』に託されている。また、製材する工場内では、ベテランの職人さんはもちろんのこと、若い職人さんも日々木と向き合いながら的確な判断がつくようになっている。

「早く挽いても不良品が多いのでは意味がありません。きちんとした品質を維持するために、無理にスピードを上げるのではなく、とにかく木をよく見るように言っています。」(英治さん)

真剣な眼差しで作業する社員さん

「昔の家づくりは大工さんが一から十まで刻んで建てていましたが、今の家はコストダウン・短納期を実現するために、ご存知の通りプレカットに代表されるような機械化を導入し、木材は安い外材を使って建てる方向に業界全体が動いてます。そういった家は耐用年数が20〜30年程しかなく、長期的に見て果たして本当にそれがコストダウンなのかどうか疑問に感じています。じゃあ、外材に頼らなくても、西多摩という地域は森林が多くスギやヒノキのなどの樹木の育成に適した場所なのだから、すくすくと育てて評価を上げていけばよいのではないかと思われるかも知れません。しかしながら、今は木材価格が非常に低迷しているので、そういった事に対する作業費を捻出できないのが第一関門としてあります。手入れをしたくてもできないというジレンマがあるのが現実です。


合板や新建材でできた家は、昔ながらの木の家とは違い、建てた時が一番で、後は劣化していくだけ。将来的に手直しすることが容易ではありません。もちろん思い切ってやればできないこともないですが、安心して暮らせる保証のある家というものには程遠いですね。そういった事も考えて、単に建てる時にこれなら○○○○万円で、ここに手を加えると○○○万円アップですよ。といった目先の損得ではなく、もう少し広く長期的な目線で、家づくりを捉えてもらいたいなと思います。また、資金がなくても打ち合わせを何回も重ねて関係者が理解し合って、長持ちするより良い『本当の家』をつくっていけるような流れにできないかなと考えています。」(英治さん)


「近年、木の使われ方は工業製品化されつつあります。木を大量に使えるということに関しては間違いではないと思いますが、本来木が持っている良さは失われてしまう部分もあります。原点回帰ではないですが、それぞれの木が持っている味わいや優れているところを最大限に活かせるよう、“木を見る目”を養い、それのともしびを消さないようにしていくのが自分たちの努めだと思っています。大量に生産することは難しいので、少数でも自然な形の木の家を求めるお客さんに巡り会えれば、その人たちのために真心を込めて、楽しみながら仕事ができるかなと思っています。」(康一さん)

リングバーカーという専用の機械で皮を剥く。どんどん剥かれていく光景は圧巻だ。

次の工程へと運ばれていく

左:割れが広がらないようにコの字型の鎹(かすがい)で抑えている / 右:桟積みされた材木たち


設計に携わることで製材所の強みを100%引き出せる

単に材木を製材して工務店などに納めるということに止まらず、その先の家づくりや住まう人の事にまで気を配る浜中さん。その想いから近年では建築事業にも着手。2013年には次男の賢治さん(35)が二級建築士の免許を取得し、積極的に木の家づくりに携わるようになっている。
工場のほど近くにモデルハウスを案内してもらった。

(写真提供:浜中材木店)

“環の家”と名付けられたこのモデルハウスは、100%東京の木で建てられた家で、2010年に有志で意見を出し合い設計・建設したものだ。

建て主にとっては図面だけではイメージが膨らみにくい部分、例えば樹種の違いや節のありなしでどう変わるかなどを実際に見てもらい納得してもらうために、こうしてモデルハウスを作って公開しているという。ハウスメーカーのような大々的なものではないが、あることに意味がある。

(写真提供:浜中材木店)

左:杉の天然絞り丸太は職人のこだわりの一品 / 中:お客さんが見る機会が少ない、実際に使用した手板を残している / 右:洗面所には椹(さわら)が使われている。古くから風呂桶などに使われてきた水に強い木材だ。

大工が設計をすることや、設計士が木を刻むこと、または工務店が製材も行うことなどは、時折目にするが、製材所が設計士事務所の資格を有しているというのは、なかなか珍しいケースだろう。そのメリットや強みについて訪ねた。

「木材の製造販売だけでなく、最終的な利用方法にまで踏み込んでお客さんの要望に応えられるようになってきたので、非常によかったなと思っています。家づくりの川上から川下まで関われるのは喜びを感じるところですね。」(英治さん)

「私たち自身が設計に携わることで、製材所の強みを100%引き出せると思っています。語弊を恐れず言うならば“木を選んで使える”というのが、一番の強みだと考えています。もちろん一般に出荷する製品の品質にも妥協はありませんが、自社で設計する木の家に対しては、木を扱う人間なら分かるこだわりや品質をギュッと詰め込められるので、非常に内容の濃いものを創り上げることができます。また、同じ会社内でやりくりするので、妥協することなくタイムロスを最小限に減らす事ができるというメリットもあります。最近はプランが固まってから施工の時間が極端に短いというのが、どこの現場でも悩みの種だと思いますが、弊社では自社完結できるので柔軟な対応が可能です。」(康一さん)


「ただ、今は職人が減りつつある時代。高齢になった工務店さんに声をかけても「もうやめとくよ」という返事が返ってくるような状況がどんどん出てきています。このままではいくらこちらが製造しても販路がないので困ってしまいまいますよね。なので、職人さんを確保し、まとめていくためには、やはり昔を知る人間が自ら行動して行かないとならないと感じています。」(英治さん)

浜中親子の会話からは、新しいことに取り組むことへの充実感とともに、将来に向けられた責任感も滲み出ていた。


ペレットストーブの普及に力を注ぐ


モデルルーム内に入るとストーブが目に入る。よく目にするストーブと何か違う印象を受ける。そう、煙突がないのだ。これが“ペレットストーブ”で、煙突がない環境でも使用でき、耐熱ガラスを敷くことで通常の床の上に設置できる。薪ストーブや暖炉よりも導入費用や手間がかからないのが特長だ。

燃料の“木質ペレット”は、自社の製材過程でどうしても出てくる端材・おが粉・かんな屑などを有効活用し、第三者機関によって委託製造されている。

このペレットストーブと木質ペレットの販売を手がけるために“東京ペレット”という会社を2003年に立ち上げ、今日まで粛々と普及活動を進めてきたそうで、ちょうど取材に伺った数日前に立川にショールームをオープンさせたばかりだ。

「認知度アップのために人の集まる場所で見てもらいたかった」との想いから、多摩地区の中心地である立川を選んだといい、今後のさらなる発展に期待を寄せている。

ショールームの様子(写真提供:東京ペレット)


木について考え、様々な分野に活かす。

モデルハウスのすぐ横に製材所とは違う作業場がある。実はここでは木製遊具の制作をしているとのことで少し見学させてもらった。

遊具制作は、5年ほど前にスタートして以来、コンスタントに受注制作を続けているという。ちょうど制作中だったのは屋内施設に設置する予定の“滑り台”と“キッチン”。滑り台の“曲げ木”が見所だ。




チームワークで、“杣人の技と心”を磨く

様々な分野に挑戦する浜中さんたち。仕事に取り組むそれぞれの真剣な眼差しが印象的だった。

「社員が一丸となって動いた方向で成果が出た瞬間は嬉しいものですね。逆に万が一それが失敗であっても、各々の記憶に残れば次のステップがあるので、挑戦する社員に『ああするな、こうするな』ということは言いません。遠回しに投げかけることはありますが(笑)。あとはみんなが笑顔でいられるのが一番です。」(英治さん)


「若い社員に対しては、日々の仕事の中で、木を一本いっぽん大事に扱うことの大切さを伝えるようにしています。そうすることで、仕事により楽しみが増えると思います。僕自身が“飽きない仕事”だと思っていますし、やりがいや面白みはいくらでもあるので、従業員も同じような気持ちで取り組んでもらえたらいいなと思っています。」(康一さん)

浜中さん親子、そして浜中材木店の社員さんたちは、チームワークで、“杣人の技と心”を磨き続け、今日も様々な分野に挑戦し続けている。



有限会社 浜中材木店 浜中英治 (つくり手リスト)
取材・執筆・写真:岡野康史 (OKAY DESIGNING)