ITで伝統建築をみんなのものに:一級建築士事務所 山田屋 山田健太郎さん


コロナでデジタル化が加速する昨今、伝統建築の改修でBIMをはじめとしたITを導入し、可能性を見出している設計士がいる。福井県の「一級建築士事務所山田屋」を営む山田健太郎さんだ。「複雑で手間がかかる伝統工法こそ、ITを利用した見える化がとても効果的」と手ごたえを感じている。山田さんの緻密かつわくわくが感じられる仕事ぶりと、BIMを学び始めた三重県の若手大工の対談から、「IT×伝統建築」という新しい風を読む。

山田さんが座るパソコンの画面上に、現場の立体モデルが浮かび上がる。山田さんは、野帳はタブレットのノートアプリに書き込み、ドローンや360度カメラでの撮影、3Dスキャナを活用した点群データなどを資料に、スケッチアップやVectorworksというBIMの設計アプリケーションを駆使して設計立案をするスタイルで、木造住宅や古民家・文化財などの改修設計を行っている。

Vectorworksで作成したモデル(左)と野帳のアプリ(右)
ドローンを活用しての撮影

BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略で、コンピューター上に建物の3次元モデルを再現し、設計する。「目の前に現場があるような感じ。こんな建物ができるのかって、圧倒的にわかりやすい」と山田さん。設計された部材パーツには幅や奥行き、高さなどのデータが盛り込め、またそのデータはクリックひとつで伸ばしたり縮めたりできる。設計図の中の柱を太くする(または細くする)、間口を広くする(または狭くする)動作も短時間ででき、それによって室内のイメージがどう変わるかも明瞭に伝えられる。

この手法が確立した背景について山田さんは、これまでの設計の表現の手法は「建築の二次元的な表現を紙の上に手で書いてコピーして配る」ことから、それを「コンピューターの中で二次元で書いてプリントして配る」よう進化してきたが、「21世紀に入りコンピューターゲームの爆発的発達によって立体データを高速に処理・表示できるようになり、その応用として建築を三次元的に表現し、そこから半自動的に二次元表現を作成するBIMとよばれる技術が立ち上がった」と話す。

BIMの「最初から立体で設計する」手法は、これまでの建築製図とは全く異なり、「図面間の整合性の高さ」「直感的なわかりやすさ」「新しい図面表現」といった利点があると山田さんは考える。

まだ伝統建築の分野では利用は一般的ではないが、国土交通省が建設現場でICTや3次元データを活用した作業時間短縮、生産力向上を目指す「i-Construction」というビジョンにも適応した“これからの”設計手法といえるだろう。

山田さんはBIMを導入して約6年、愛用のVectorworksは10年目だ。昨年から勉強を始めた三重県の大工・東原大地さんと、BIMのおもしろさについて語り合った動画を紹介する。

大地さんは木の家ネットメンバーの東原達也さんの息子で、まさに“これからの”大工だ。

建設現場での情報共有ツールとしての有効性が光るBIM。単純に「おもしろい」というわくわくも詰まっている。活用方法は幅広いが、その中から山田さんが使っている①3次元モデルからの図面起こし②部分改修の色分けの2点を動画で紹介する。

①3次元モデルからの図面作成

福井県の発心寺本堂の6年にわたる大改修工事では、山田さんを含むプロジェクトチームがBIMで作った3次元モデルから改修案を提示。モデルから図面を起こし、職人に渡したという。

動画にはないが、断熱材などの資材を入れる場合のシュミレーションもでき、そのシュミレーションから資材のサイズや規模のデータを取り出すこともできる。

②部分改修の色分け

鐘楼の改修設計の際、折れてしまった屋根の構造材をどのように分解し、どのように改修するか、色分けして職人に示した。黄色く塗られた部分を解体し、赤は新しい木材に付け替え、緑は補修、といった具合で、設計者の意図を正確に施工者に伝えたいという目的があるという。

山田さんは3次元モデリングに欠かせないのが、「現況調査をきちんと行うこと」と強調する。3次元モデルを作成し、その上に、丁寧な調査から得た現状の情報を重ねていくことで、その建物が抱えている問題が見えてくるという。解決方法も提示できるのだ。「ちゃんと検査しないで、いきなり開腹手術をする先生はいませんよね」と説いている。

現場だけでなく、施主さんにとってのメリットももちろんある。線だけで書かれた図面は、毎日設計図に触れることのない人には完成予想をイメージすることは難しい。山田さんは「3次元モデルなら施主さんと設計の段階から完成イメージを共有できる。納得感が得られ、信頼関係も築けるでしょう」とみている。

得意分野と建築が重なった瞬間

ITを使いこなす山田さん。幼いころの愛読書は「百科事典」だったという好奇心旺盛な性格だ。高校時代はコンピュータープログラミングにのめりこみ、「家に機械がなかったから、毎日学校帰りに電気屋によっていじらせてもらっていた」と振り返る。

地元の福井大学建築学科に進学したものの、エネルギーは引き続きプログラミングの勉強と、アマチュア演劇に注ぎ込む日々。建築とは距離を置いた青春だったという。

しかしある時、膨大な時間をかけてプログラミングした結果がフロッピー1枚に収まってしまうことにむなしさを感じ、並行して学んできた「大きくて広がってなくならない空間=建築」の道に進むことを決心した。劇団では照明担当だったこともあり「演出された空間へのこだわりはあった」という。

卒業後は岐阜の設計事務所に就職。デザイン性の高い設計を手書きで学んだ。その後福井に戻り、公共工事などを手掛ける事務所で働いた後、2002年に独立した。

福井では大学時代の恩師の手伝いをする機会もあり、プログラミングが得意だったことから2003年の地元イベント「わかさ路博」にデジタル展示する三重塔のモデリングを頼まれた。そこから、建築とITの道が重なり、BIM設計など現在の仕事につながってきた。

三重塔のモデリング

ただ、仕事として職人さん達と関わる中で「伝統木造建築の奥深さに触れ、学びの必要性と重要性を感じた」と実感。20代の頃に参加した市民団体「ふくい・木と建築の会」で得た横のつながりを通して、大学の恩師の手伝いや社寺を手掛ける職人さんから学ぶとともに、木組のデザインゼミナール、ヘリテージマネージャー講習会、JIA文化財修復塾などにも積極的に参加した。月に1回は勉強会のため県外に出向いた。さらには大阪のMOKスクール、住宅医協会で学び「住宅医」の資格も取得した。

積み重ねた知識に、自身のコンピュータスキルをプラスし3次元モデルを作る。そうすることで「あ、この建物はこうなってるんだって理解が深まり、自信が生まれた」と山田さん。職人さんへの提案や施主さんの要望整理など、仕事の質が高まったという。

古民家改修のモデリングと、解体してあらわになった軸組。

ITは建築をみんなにわかりやすくするツール

「伝統建築にこそ相性がいいのが3次元モデルだ」と山田さんは言い切る。

社寺や古民家など改修のスパンが長く、たくさんの設計士や職人がかかわる現場では、それぞれが描く完成予想図が完全に一致していないことも多い。わずかな違いであっても仕上がりに影響は出てくるし、すりあわせの労苦は現場の士気や全体のスムースな進捗に響く。3次元モデルで共通解を提示することは建物が実際に立つ前に、問題を見つけ、解消することにも結び付く。

山田さんは、物件ごとに同じBIMアプリを使う設計士とチームを組み、作業分担をすることが多い。先述した発心寺の大改修は規模が大きく設計も複雑だったため、5人のチーム編成で取り組んだ。福井県外のメンバーもいたため情報共有はzoomやDropboxを活用。3次元モデルによるわかりやすさも手伝い、トラブルなく作業を終えられたという。

そして、職人のすごさを改めて実感している。山田さんは現場にノートブックとモニターを持ち込んで説明すると、大工棟梁はモニターに映る3Dの軸組を見て、「ここはもう少し下がっていると思う」「ここの組み方はちょっと違うと思う」など指摘し、判断を即座にしてくれた。「経験値の高い職人の目にはすばらしいものがある。それは、2Dでは伝えきれない情報を表現できるBIMのすごさでもある」と強調する。

ITの活用により、限られた条件の中で良い設計をして良い現場ができる、と山田さんは考えている。職人はそのぶん正確な刻みと納まりに心を配り、設計士も勉強して正確に意図を伝え、協働してよりよい建築を目指すビジョンを思い描く。

また、伝統建築をはじめ長く伝えられてきた建物には、建てた人、住んだ人、訪れた人、維持補修に関わってきた人など、たくさんの人の愛着が詰まっている。改修の際は「お預かりした建物をよく観察してきちんと改修して次の世代にお渡しするということの大切さが、身にしみている」と山田さん。

かやぶき屋根の古民家改修にもBIMを活用した

これまで改修した物件について、次の大改修への取り組みは数十年後。きっと、その間にもITは革新していく。「どんどんアップデートされる中で1人で勉強するのは大変だから、みんなで勉強しあったらいいんじゃないかな」と山田さん。自身もBIMは友人と一緒に学んだことでモチベーションを保ち、伝統建築は勉強会に参加することで多くの刺激をもらったという。

その先には、次の時代の改修に直面した人たちに建物の価値を理解してもらい、改修してさらに未来へとつないでいこうと再び決意してもらえるように、という希望がある。そして、ITにそれをかなえる光を、見出している。

一級建築士事務所 山田屋 山田健太郎(つくり手リスト)

取材・執筆:丹羽智佳子、動画編集・写真提供:山田健太郎

● 取 材 後 記 ●

木の家ネットではこれまでもいくつかの動画を紹介してきましたが、今回は初の“対談”形式。楽しんでいただけましたか?発案は山田さんご自身で「若い人の意見を聞いてみたい」というご指名。まず、そのアイデアに驚かされました。対談中、言い方を変え動画を交えながらお話しする知識の深さと、わかりやすく伝える努力を惜しまない姿勢に頭が下がりました。新しい世界は、面白い。改めて気づけた時間でした。