一生勉強:伝統建築施工 有限会社 大西伸工務店 大西伸之さん



多くの神社仏閣や京町家が残る歴史深い街、京都。この地で熟練の技術と豊富な知識をもって、国産無垢材と自然素材にこだわり、住宅から社寺・数寄屋まで一手に手がける大西伸之さんをご紹介します。

大西伸之(おおにしのぶゆき・65歳)さんプロフィール
1956年(昭和31年)岡山県新見市生まれ。伝統建築施工 有限会社 大西伸工務店 代表取締役。中学校の時に工務店を営む両親の仕事の関係で京都へ。学校時代から大工の父親についてたびたび現場へ。一般企業に就職し数年勤め、結婚を機に22歳で本格的に大工の道へ。以来40年以上に渡り、民家・町屋・社寺・数寄屋など、様々な木造建築の新築・改修を担ってきた。


教わらない。目で盗む。切磋琢磨。

訪れたのは京都市北区。路地に面した2階建ての住宅が完成を迎えようとしていた。ちょうど翌日引き渡しという絶好のタイミングで見学させてもらいながらお話を伺った。

⎯⎯⎯ 木の家・大工という職業との出会いについて教えてください。
「若い頃に大工の親父について現場に行っていたので、建築について全く知らないという訳ではありませんでした。大工になってからは親父の下で修行というよりは、親父と二人三脚で仕事を進めていくという感覚でしたね。最終的には親父を使うようになっていました(笑)」 

北区 冠木門のある家にて

⎯⎯⎯ 修行や弟子入りしていたわけではないとのことですが、社寺や数寄屋など様々なものを手掛けられてきたと思いますが、どこで技術を磨かれたのですか?
「具体的に誰かに教えてもらうのではなく、行く先々の現場で目で盗んで覚えていきました。恵まれたことに、周りに同じような仕事をしている仲間が結構いたので切磋琢磨して良い刺激になりました。知恵を絞り合いながら技術を磨いてきました」


優れた技術と豊富な知識、そして質のいい材木があって初めて実現する木の家。その要となる継ぎ手のサンプルを見せてもらった。「継ぎ手という継ぎ手のサンプルは作っていて山ほどあります。全て丸太から自分で作ります」と大西さん。

サンプルに使われている北山杉。とても目が細かい。

まるでパズルか知恵の輪のようにがっちりと組まれている。

⎯⎯⎯ 建てられる時に気を配っていることなどはありますか?
「基本的に外材は使いません。桧と杉ばかりですね。化学物質は極力使いたくないので、本物の無垢の木を使用してます。建具もできる限り木製にしています。ここは準防火地域なのでサッシを入れています」

⎯⎯⎯ 大西さんの元に依頼が来るときには、お施主さん自身も自然素材や木造住宅に対する知識を既に持っていらっしゃるんですか?
「そうですね。その場合がほとんどです。この家のお施主さんは、私が昔建てたアトピー専門の病院の患者さんなんです。いろんな工務店の門を叩いたそうなんですが、建材のサンプルがすべてアウトだったようで、『大西さんしかいないんちゃう?』ということで紹介していただきました。他にもそういう事例が多いです」

細かいところにまで粋なあしらいが施されている。

左:一階には杉と桧を使う。 / 右:二階は杉のみ。

左:家具も大西さんの手によるもの。 / 右:洗濯物を室内に干すため、通気を考え収納の扉は普段は使わないパンチングの合板を使用している。


100%完璧はない。一生勉強。


⎯⎯⎯ 様々なお仕事をされていると思いますがメインはどういったものでしょうか?
「住宅もお寺もその時々でいろいろです。営業を一切しないので、いろんな方から回り回って声をかけて頂いて、仕事をいただいています。例えば今日ご案内する《華開院》では知り合いの工務店が檀家で居はるんですよね。その工務店の専門外で私ができる部分をお手伝いさせてもらいました」

⎯⎯⎯ なるほど。営業しないからこそミスマッチが起こらないんですね。40年の間にいろいろなことがあったと思いますが、どんなターニングポイントや転機がありましたか?
「それはもう毎回ありますね。仕事をやる上で100%完璧はないんで、まだまだ勉強しながらやっています。ゴールはないんです。一生勉強ですね」

⎯⎯⎯ 今後の展望などを教えてください。
「実はそろそろ引退したいんですけど、お声が掛かるんで、お声が掛かる限りは続けていきたいですね」

「最近までずっと若い子を採っていたんですけど今は一人で動いています。棟上げの時なんかは兄貴や仲間に手伝いに来てもらっていますが、お施主さんとの打ち合わせはもちろん、業者の段取り、現場の監督から、最後に蜜蝋ワックスを塗るところまで、全部一人でやっています。何でも屋です(笑)。時間はかかりますが丁寧にきちんと仕事をしたいんです」

次に会話に出てきた《華開院》など、近年手掛けられてきた建物を案内してもらった。



◎上京区 華開院(けかいいん)
浄土宗の寺院で、通称 五辻御所(いつつごしょ)とも言われている。室町時代には皇室との関係が深く、公家たちの墓が今も移し葬られている。

檀家に知人の工務店の人がいたことから紹介してもらい、2009年に書院の修復を、2011年に門の修復を手掛けた。


上:白く見えている部分は、膠(にかわ)と胡粉(ごふん・貝殻を原料とする白色顔料)を混ぜて塗ってある。 / 下:一回バラして組み直したという門。傷んだ柱は根継ぎしてある。


◎北区 冠木門のある家
2013年に完成した住宅で、すべて京都府内産の木材を使用している。細やかな職人技の積み重ねによって全体の品格に結びついている。


左:杉皮の外塀 / 右:細やかな遊びを取り入れている。「あんまりやるといやらしいので塩梅が難しい」と大西さん

「ケラバ(外壁から出っ張っている瓦の下の部分)は通常漆喰にしますが、この家は木でやりました。職人さん泣かせですが」と大西さん。他にも細かい意匠が光る。

門をよく見ると、隙間は同幅にしつつ木の太さを少しずつ変えて配してある。この絶妙なグラデーションがすっきりとした印象を与えている。


◎向日市 H邸
築120年の住宅を2017年に改修。母屋の他に納屋なども手がけている。



天井一面に敷き詰められた葦と、「とても立派だったので天井を外してあらわしにしました」という梁が印象的だ。

下駄箱と縁側の天井は竹の網代。

「ここまで上がって来られたお客さんはみなさん気に入ってくださいます」とお施主さん。



40年以上にわたり培ってきた職人技と、100%の満足はないという直向きで真摯な姿勢を併せ持つ大西さん。
まったく営業をしないという彼の元には、彼にしかできない仕事・彼にしか建てられない家を求めて、いつも人が集まってくる。


大西伸工務店 大西 伸之(つくり手リスト)
取材・執筆・写真:岡野康史 (OKAY DESIGNING)