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「伝統木造のこれから」大橋好光教授の展望は?

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これ木連主催の第二回公開フォーラム
「伝統構法を検証する時代が始まった
 伝統構法の家が『つくれない!』から『つくるために』へ」

2009年3月15日、新宿の工学院大学で「伝統構法を検証する時代が始まったー伝統構法の家が「つくれない!」から「つくるために」へ」というタイトルでこれから木造住宅を考える連絡会(これ木連)が主催する第二回公開フォーラムが開催されました。

フォーラムは第一部が土壁の家造りに自ら挑戦されているジャーナリストの中島健一郎さんの講演、第二部が2008年暮れにE-ディフェンスで行われた「伝統的木造軸組構法の実物大住宅性能検証振動台実験」の中心的人物である大橋好光教授(武蔵工業大学建築学科)による報告会の二本立てで行われました。報告会は、財団法人日本住宅・木材技術センター(通称・住木センター)から2008年の12月25日に公表された「伝統的木造構法の実物大性能検証実験結果」をもとに行われました。

黒性能検証実験そのものについては、同じ実験結果や実際に実験を体験・見聞してきた木の家ネットの仲間たちの発言をもとに2009年1月末公開コンテンツとしてまとめ、木の家ネットでご紹介しました。重複する内容が多いので、詳しい内容については、そのコンテンツに譲りますが、今回の報告会であらたに知り得たこと、今後に向けて大橋先生がどう展望しているかなどを、レポートします。

見学場所からでは見えなかった視点で実験を追体験

今回の実験報告会の大きな収穫として、実験当日、見学者あるいは関係者席からの視点では見ることのできなかった、多角的で詳細な映像を見る機会となりました。大橋先生がプレゼンされたDVDでは、各実験ごとに、さまざまな方向から全体を見ることのできる映像と、CCDカメラによるいくつもの観測点をアップでとらえた映像が編集されており、それぞれマルチ画像であるいは単独で見ることができるので、建物の挙動をつぶさに、そして総合的にとらえることができます。

たとえば、建物の足元を撮った映像。実験棟は2棟とも、柱の足元が水平方向には動かないように固定されていたものの、垂直方向にはフリーになっていました。離れた見学場所からは「柱が浮き上がった」というところまでしか見えなかったのが、脚部のアップの映像には、柱が浮き上がり、また元に戻った衝撃で土台を割り裂き、柱脚そのものも割れたりしている様子が生々しく映っていました。地震動の力で浮き上がった建物全体の重みが衝撃としてのしかかるという圧倒的な破壊力を、脚部の挙動から実感しました。

また、実験棟の1階の室内中心に取り付けられたカメラはまさに「もしこの建物の中に自分がいるとしたら…」という視点での映像をとらえていました。太い柱と梁が平行四辺形状に一方にかしげてはまた逆に戻り、という往復運動。そして建物全体がねじれながらまわる、ちょうど船酔いのような感じが臨場感をもって迫ってきました。実験棟を外から見た時には「揺れても戻った」と元に近い状態に復元した姿が印象的だったのですが、内部の映像を見ることでそこに至るまでに「どれだけ揺れたのか」ということが分かり、ふだんは動かない建物が大きな力に翻弄されるさまを実感しました。実際に揺れている時間はわずか1分程度なのに、とてつもなく長い時間に思えました。実際に震災で被災された方たちはもっとそうだったはずです。映像ではありましたが擬似的に体験することができました。ここではその映像を読者のみなさんに公開できないのがとても残念です。(住木センターより公式に映像が提供されると聞いています)

中島健一郎さんによる土壁の家づくりのお話

「これからの時代、経済成長より地元の資源を使った自然と調和した暮らしを志向することが一人ひとりの幸せにつながる」という中島さん(元 毎日新聞社会部長)は、職人に学びながらセルフビルドで土壁の家づくりを手がけています。木にも土にも素材選びからこだわり、新たな土壁の可能性を探るために東大の生産技術研で強度試験まで行っています。さらにモロッコにまで土壁の家の視察に行くなどと驚くべき行動力で、深く広く土壁の家づくりを追求されている様子は「月刊さかん」にも好評連載中!

質疑応答の中から見えて来た大橋先生の考え

実験報告の後、会場からの質問事項を寄せる時間をとりました。集まった質問は休憩時間中に 1) 実験方法 2) 足元の固定/フリー 3) 壁 4) 床構面 5) 柱・梁 6) 貫 7) 既存耐震 8) 小屋組 9) 木材素材 10) 伝統構法の定義 というキーワードに振り分けられ、それぞれについて司会の松井郁夫さんの進行により、大橋先生からの回答がありました。回答の中からは、この3カ年の性能検証実験や伝統木造の設計法構築に取り組んでいるスタンス、今後の展望といった大橋先生の見解が大分見えてきました。内容は専門的すぎる部分もあるので、質疑応答のひとつひとつの詳細は割愛させていただきますが、大橋先生の応答を綴り合わせることで、大橋先生がどう考えているのかを浮き上がらせてみたいと思います。
    [ 構成:持留ヨハナエリザベート(木の家ネット)]

伝統構法の建物は強いのか?弱いのか?

そもそも、伝統っていったい、何でしょうか? どこまでさかのぼりますか? 法隆寺の頃、鎌倉時代、江戸時代以降といくつか転換点があり、どれも「昔からある」からとはいっても、それぞれに違った技術であり「伝統構法」とひとくくりにはできないはずです。

また「伝統構法は地域によって、大工の技量によって、木といっても材種や乾燥方法によって、土の種類によって、土の寝かせ方によって、左官の技能によって違うんだ、だから設計法でひとつにされても困る」というご意見をいただきます。「要素があまりにもたくさんからんでいて複雑だ。それをまとめることなど到底無理で、ほとんど絶望的なことなように思えるがどう思うか?」という質問もありますね。おっしゃる通りです。しかし、だからといって「まとめることなんかできない」というところに実務者のみなさんがとどまってしまって、よいのでしょうか? そんなはずは、ないと思います。みなさんで、地域でのプロトタイプをつくってみるなり、なにか整理する試みができないものでしょうか?

今回の実験棟についても「あんなのは伝統構法じゃない!」という声もきこえてきます。だったら、どんな建物で実験するのがよいのか。そもそもあの実験棟のような総2階の建物は伝統的な構法にはほどんどありません。でも、敷地や予算といった限定条件のある一般住宅として、伝統的な要素を生かしながら現代のニーズに答えるには、あの実験棟のような間取りをもつ、現代の標準的な家をどう実現するかも考えなくてはならないと思うんです。

実験の後、富山の島崎棟梁は「俺だったらこうするのに」という提案をさっそく送ってこられたそうです。「あんなんじゃだめだ」ではなく、「俺だったらこういう部材寸法、こういう架構、こういう納まりでやるよ」ということを皆さんにも提案していただきたい。「あんなのは違う」の先にある「こうがいいんだ」という提案をぜひ聞かせてください。お願いします。

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