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「伝統木造のこれから」住宅瑕疵担保責任保険、伝統構法の扱いは?

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伝統構法は「想定外」の工法!?

以上、住まい手のみなさん向けに、住宅瑕疵担保責任保険の説明をしてきました。ここから先は、木の家づくりに関わる私たちつくり手から見たこの保険制度について語ります。

つくり手が国土交通省と保険法人とを招いた
これ木連の瑕疵保証勉強会

住宅瑕疵担保責任保険の義務化が決まって以来、国土交通省主催の説明会が全国で行われてきました。主催は国、参加対象強制加入者となる建設業者や宅建業者。内容は、これまでみなさんに読んできていただいたような、保険の必要性やしくみを説くものです。国主催の説明会と別に、各保険法人が開く説明会や、個々の加入対象者をまわっての営業活動もさかんなようです。

ところが、2009年5月14日(土)、伝統的な木造住宅をつくる複数の団体が集まって組織する「これ木連(これからの木造を考える連絡会)」が、国や保険会社を招いて「住宅瑕疵担保責任保険勉強会」が開催されました。いわばこれまでとは、主客が逆転した形です。会場には、定員を超える70名以上のつくり手が押しかけ、保険法人に事前に投げかけておいた質問事項への回答を聞き、疑問点や要望を申し入れました。

つくり手が勉強会を開いたのは、なぜでしょうか? そこでどのような疑問や要望をぶつけ、どのような回答を得たのでしょうか?

これ木連を構成する団体

着工前に申込、2回の検査を経て
ようやく保険契約成立

本題に入る前に、保険加入に至るまでの流れを説明します。


保険契約までのフロー図 出典:「よくわかる新法解説ガイド 住宅瑕疵担保履行法」p14

保険契約が実際に成立するのは竣工後ですが、保険申込は着工前にします。強制加入なので、保険申込をしなければ、着工できないわけですが、申込には必ず審査があります。申込を受理されなかったら、着工できず、大変困ったことになります。しかし、早速このような事態が起きているのです。

Q 工期がのびて引き渡しが施行日を越えてしまった場合は?
A 後から加入できる救済策を用意する予定。詳しくは国交省の瑕疵保証窓口や保険法人に相談を。

工事期間中に2度、保険法人による検査が入ります。建築基準法でも竣工直前の「完了検査」と、自治体によっては「中間検査」も義務づけられていますが、それとはまた別に、です。1回目は、基礎の配筋状況を、2回目は屋根が葺き上がった頃、躯体と防水関係の状況を見るそうで。2回目の検査は基準法で定められた中間検査と時期が重なります。前ページに載せた各保険法人の保険料の表のタイトルをよくご覧ください。「保険料(検査料を含む)」となっているのは、この2回の検査料が含まれるからです。

2回の検査が通らなければ、保険は成立せず、強制加入の保険に入れなければその建物自体が法律違反になってしまいます。では、検査では、何をみるのでしょうか? 検査にパスしないということもあり得るのでしょうか? 何が検査時の可否判定の基準となるのでしょうか?

保険法人の「設計施工基準」と基準法との
ダブルスタンダードに縛られるおそれ

住宅瑕疵担保責任保険の義務化が国会で決まった時、木の家のつくり手たちは「これは大変なことになった・・」と直感しました。過去にも似たケースで苦労してきたからです。というのは、今はなき「住宅金融公庫」(現フラット35)が存在していた頃、建築基準法はクリアできても、いわゆる「公庫仕様」の条項を満たせなければ融資を受けられず、融資のためにやむを得ず技術的には納得しにくい簡易な工法(接合部に接合金物を用いるなどといった)公庫仕様に合わせて施工するケースが結構あったのです。(公庫仕様の適用を除外するための3条申請という制度もありましたが、そこまですることは一般的ではありませんでした)

保険は多くの人から保険料を集め、それぞれの人の「万一の場合」に保険金を支払うしくみですが、保険法人としては当然、支払う保険金をできるだけ少なくしたいと考えます。そこで、瑕疵があらかじめ起きることのないように「こういう風につくってください」という「設計施工基準」を用意し、どういう場合には支払いませんという「免責事項」をもうけて保険対象を限定します。これが基準法とは別のダブルスタンダードになるのでは?と、つくり手たちは危惧したわけです。

住宅瑕疵担保責任保険そのものは品確法の頃から任意保険としてあったものであり、その既存の設計施工基準や免責事項を引き継ぐ性格をもつことが予測されました。そしてその設計施工基準は、伝統的な木の家づくりとはなじまない点が多いのです。「建築基準法での確認はおりても、保険の申込や検査で引っかかるのでは?」という懸念をつくり手たちは説明会や保険の営業マンにぶつけたのですが、明確な回答は得られないまま、不安で納得のできない状況におかれつづけました。

新建材を用いた在来工法をベースとした
保険法人の設計施工基準

いったい保険法人の設計施工基準と、伝統的な木の家づくりとは、どうなじまないのでしょうか? ここに(財)住宅保証機構の設計施工基準の目次をあげます。

第2章 木造住宅

第1節 地盤調査及び基礎 第4条 地盤調査等
  第5条 地盤補強及び地業
第6条 基礎
第2節 雨水の浸入を防止する部分
第7条 屋根の防水
第8条 バルコニーの防水
第9条 外壁の防水
第10条 乾式の外壁仕上げ
第11条 湿式の外壁仕上げ

設計施工基準の全文をPDFとして通読していただけるようにしておきますが、文章がかたくて読みづらいという方はこちらの「設計内容確認シート」をご覧ください。およその要点はこれでつかむことができます。

「下葺き材はアスファルトルーフィングフェルト」「下葺きの軒先部は防水テープを用い軒先の雨押さえ金物に密着」「バルコニーには防水材」「通気構法以外の場合は、透湿防水シートではなくアスファルトルーフィングフェルトを」「外壁開口部には防水テープを」などこの設計施工基準がどういう建物を想定しているのかが、それがどれだけ伝統木造の建物とかけはなれているかというイメージがよく分かります。

国土交通省発行のちらしに「このくらいの事項を明記して保険申込をしてください」という説明の参考図としてあがっている建物の立面図をご覧ください。ごく一般的な、在来工法の建物です。外壁はサイディングとよばれる新建材で、屋根の軒の出もほとんどありません。



保険申込時に必要となる「(2)外壁、屋根、バルコニーの防水措置の状況がわかる資料」の参考例(クリックで拡大)
出典:国土交通省、住宅瑕疵担保履行法特設コーナー
住宅瑕疵担保責任保険申込み時に必要となる設計図書に関する考え方について」のページより

「基礎の立ち上がりは300以上とする」との項目もあります。基準法そのままの規定なので一般的にはこれでカバーできるですが、今、伝統的構法の設計法構築において大きな焦点となっている「石場立て工法」は対象外です。設計施工基準の最後には「べた基礎配筋表」なるものも添付されています。基礎の検査で使われものと思われます。保険法人としてはリスクを回避したいから安全寄りの基準をつくるのでしょうが、建築基準法と比べると「過剰設計なのでは?」と思わざるを得ないような基準です。


現行の施行設計基準には載っていないA、B(伝統木造)と、設計施工基準にのっとったC(在来工法)
(伝統木造と在来工法の素材の違いに注目!クリックして開く画面で詳しい説明をご覧ください)

設計施工基準はいずれも建築基準法にプラスアルファして「縛りを増やすもの」となっています。特に防水関係は「もともと基準法ではカバーしてこなかった分野」ということで、かなり詳細に基準を定めています。ある程度信頼性のある具体的な仕様を示すことで保険事故を防止しようという保険法人の意図は理解できますが、基準法以上に縛りの強い基準をつくられてしまっては、建築の自由度がせばめられてしまいます。まして伝統木造はそのせばめられた枠の外にあり、「想定外」の工法とされてしまうのです。

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