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設計士・寺川千佳子さん(恒河舎):お母さんは無垢の木の家のゴールキーパー

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住まい手:片岡寿子さん
子どもたちが通った「ももの木保育園」理事をつとめるなど、人とのつながりの中でさまざまな活動をこなす、パワフルな肝っ玉お母さん。3人の子どもは末っ子がこの春大学生となり、巣立っていきました。ご主人は大型動物専門の獣医さん。

つくり手:寺川千佳子さん
木の家ネットの女性設計士。無垢の木、自然素材を使った自然住宅に長く取り組んできました。女性ならではの視点での暮らしやすい家づくりが得意。障害者施設なども手がけてきました。

聞き手:持留ヨハナエリザベート
木の家ネットのつくり手が建てた住まいを訪ねてみたい!ということで新企画をはじめました。木の家でのステキな暮らしぶりが伝わればいいな。




アプローチ

切り妻の大きな屋根が印象的な片岡さんのお宅。家の前には表の道路と家とを隔てる門や塀はなく、割り石が地面に敷き詰められた、オープンエアの駐車場になっています。家の手前左手には薪小屋があり、これから割る薪も山と積まれています。町なかでありながら、外部とのつながりが開放的で、自然で親しみやすい雰囲気が感じられます。

玄関と外物置

家の正面から長い庇が伸び、平入の玄関となっています。玄関左脇には、土足のまま出入りできる物置。ここには、牛や馬といった大型動物の獣医をしている片岡さんのご主人が往診の時に持ち出す仕事道具が並んでいます。玄関を入ると数段の階段があるのは、ここが手前が低く、奥が高い階段状の敷地だから。居住スペースと玄関との段差を利用した物置は人が立って歩くほどの高さはありませんが、スキー用具やキャンプ用品など、かさばるものが収納されています。

廊下からリビングへ

玄関土間から数段の階段をあがると、広めの廊下につながります。アップライトのピアノが置かれ、2階へとのぼる階段もついたやや暗めの廊下を歩いていくと、視界の先にリビングの丸柱が、どーんと大きな木の幹のようにあらわれます。一歩リビングに足を踏み入れると、胎内くぐりの産道をポーンと抜けたかのように、明るい視界が広がります。光が燦々と降り注ぐ五角形の吹き抜け。正面のガラス戸の向こうに広がるウッドデッキと庭。視界のダイナミックな変化が魅力的です。深い森の中、灌木の茂みをかきわけて進むと、その先に、ゆったりと枝を張った大木を中心にぽっかりとあいた日だまりがあった・・そんなステキな場所に誘われた感じのするような、片岡家の中心部です。

南に角度を振ったリビング

リビングは、廊下のつきあたりの入り口から見て、ちょうどトンビが左右に羽根を広げたように、西側のウィングとそれより羽根の長い東側のウィングにわかれた変形スペースとなっています。このような形になったのには、わけがあります。片岡さんのお宅の敷地は道路に取り付く側が北東に面した、うなぎの寝床のように細長い敷地。敷地の南方向には溜め池とそれを囲む緑地というすばらしい借景となるランドスケープがあります。となると、リビングは南向きに取りたい…。ということで、リビングまでは敷地のままの形状に沿ってつくり、リビングから先を角度を45度振って、南向きにしたのです。

リビングの西ウィング:ストーブコーナー

リビングの西側のウィングは、大きな木のような丸柱を背に五角形の吹き抜けになっていて、広さとしては東側のウィングよりせまいものの、高さがある分、広がりのある空間となっています。このウィングの主役はなんといっても大きな丸柱を背にした薪ストーブ。訪問した3月半ばにはちろちろと薪が燃えていました。ストーブのそばには、漆喰の壁の前にソファーの置かれたくつろぎコーナーがあります。芹沢銈介の版画が、白い漆喰の壁によく映えます。

リビングの東ウィング:ダイニングスペース

東側のウィングは、横長のダイニングスペース。幅1メートル、長さ4メートルもの巨大な木のテーブルがどーんと空間を占領しています。テーブルの奥側の3分の1は、一段高くなった畳コーナー。ごろりと寝転んでテレビを見ることのできるスペースになっています。大テーブルの背後にはテーブルと平行にキッチンカウンターがあり、カウンターの裏は大テーブルに座った人と対面できるキッチンとなっています。学校から帰った子が大テーブルで宿題をし、お母さんはその子と話でもしながらご飯をつくっている、そんな光景が目に浮かんできます。

客間・書斎/トイレ・バス・家事ライン

もういちど玄関に戻りましょう。リビングへと続く廊下の両側に、家族の食事や団らんとは別の性格をもった部屋が配置されています。まず、廊下の右手には和室の客間と、ご主人が獣医さんの事務仕事をする洋間。部屋同士は引き戸で連続的につながっています。一方、廊下の左手には、トイレ、脱衣場、風呂場、洗濯と下着収納スペース、お母さんの事務スペースを経由して台所に至る、家事する場所を一つのラインに並べた「裏動線」が連続しています。

2Fの個室群

1階がみんなのスペースであるのと対照的に、廊下にある階段をあがった2階は、家族のひとりひとりがプライベートな時間を過ごす個室や夫婦の寝室になっています。リビングに立つ「大きな木」が上の方で枝分かれして、それぞれの枝にそれぞれがとまっている、といった風です。それでも個室から廊下へ出れば、リビングの真上の吹き抜け空間に顔を出すことができます。階段をのぼりおりしなくとも上と下とで会話ができるし、「ご飯よ〜」とお母さんが叫べばみんなそれぞれの枝からおりてきそうです。

台所に立った時に見える風景がいちばん好きです

この家でいちばん気に入っている景色を教えてください

片岡 台所に立ったポジションから、ガラス戸越に見える外の景色ですね。芽吹きの新緑の美しい春先、緑が茂る真夏、木の本数はたいして多くはないですが、少しは紅葉もする秋など、季節ごとの風景を楽しみながら家事ができるのがなんともいえず、いいです。しいてひとつ好きな情景をあげるとしたら、秋口の10時〜12時頃かな。木漏れ日が入るんです。リビングにその影がゆらゆらと落ちて、ほんとにきもちいい〜

寺川 ここのダイニングってそんなに広いわけじゃないんです。カウンターからガラス戸までの距離はたったの一間半(270センチ)大テーブルといすでいっぱいいっぱいなんですけれど、ガラス戸の向こうがそのままウッドデッキのテラスへ、そして庭へとつながっているので、広がりが感じられるんですね。

片岡 カーテン、好きじゃないので、つけてないんです。つけると、向こうとこっちを仕切ってしまうでしょう? 庭の緑、そしてため池と緑地の借景という自然につながるこのせっかくの一体感を、途切れさせるなんて、もったいな〜い! 外から見られないように、という閉じている感じも好きじゃない。むしろ、白熱灯のあかりが外にもれて見える、ああ、あったかくて幸せそうな家だなって見えるのも、いい感じじゃないですか? 引っ越して来た当時、ため池の周囲をぐるっと木が取り囲んでいたんです。ある日それが伐られてしまって、とってもかなしかった。一本だけは残してください!ってお願いして、それがあの木です。

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