活動・家づくりコラム
(一社)職人がつくる木の家ネット 第六期 京都総会報告
2024年11月16日(土)・17日(日)、京都で開催された「一般社団法人 職人がつくる木の家ネット 第六期総会」の様子をレポートします。
全国各地より99名(会員以外の方も含む)が参加されました。
1日目(16日)は総会・懇親会・分科会、2日目(17日)は京都ならではの見学ツアーを行いました。
時間軸に沿って写真を交えながらご紹介していきます。
1日目
総会
開会挨拶(大江忍代表理事)
「北海道から九州までたくさんの会員が集まりました。しっかり情報交換をして親睦を深め、2日間楽しんでいきましょう。どうぞよろしくお願いします」
新入会員自己紹介
六期では新たに9名の方が入会されました。自己紹介をしていただきました。
伊藤(田中) 紀子さん|正会員|兵庫県丹波市|設計士
「今まではプレカットの在来工法をやっていましたが、木の家ネットの大工さんと知り合ったのをきっかけに伝統構法を学びながら今は石場建ての新築の設計をやっています。よろしくお願いします」
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佐野 春仁さん|正会員|京都府京都市|教育・研究
「木の家ネットと関係の深い『緑の列島ネットワーク』には20年以上入っておりました。木の家ネットの総会の話を楽しそうだなと思って聞いていました。今回初めて参加させていただきます。よろしくお願いします」
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市来 元己さん|正会員|神奈川県横浜市|大工
「木の家ネットではいろいろ勉強させてもらったり、何かお役に立てることがあれば力になりたいと思っています。よろしくお願いします」
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森田 結一郎さん|正会員|東京都調布市|設計
「日本の木と森をどうやって建築に活かして使っていくかを考えて勉強して行きたいと思います。よろしくお願いします」
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坪井 猛さん|正会員|神奈川県平塚市|設計
「神奈川で町鳶をやっています。私で四代目になるのですが、先代までやっていた曳屋やよいとまけやの技術を復活させたいので、伝統構法を学んでいきたい思っております。よろしくお願いします」
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加藤 孝一さん|正会員|新潟県新潟市|大工
「わからないことだらけですが、一生懸命勉強していきたいと思います。よろしくお願いします」
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長谷川 博ーさん|正会員|新潟県新潟市|大工
「周りに伝統構法について聞く人がいないので、知識豊富な皆さんから色々と勉強させてもらいたいと思っています。よろしくお願いします」
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伊藤 松太郎さん|正会員|長野県諏訪郡|大工
「木の家ネットの会員だった父から事業継承をしました。まだ駆け出しでわからないことが多いので色々とアドバイスを頂けたら幸いです。よろしくお願いします」
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田中 恵さん|準会員|大阪府
「建築をやっている訳ではないのですが、『木の家の世界』全体の広報担当としてお力になれないだろうか。それをライフワークのしていきたいと思っています。今回の総会を通してそのビジョンの明確化ができたらいいなと思っています。よろしくお願いします」
ぜひプロフィールページをチェックしてみてください。それぞれのWEBサイトやSNSへのリンクもあります。
新入会員の皆さん、どうぞよろしくお願いします。
六期 決算報告・事業報告
大江代表理事より五期の決算報告と事業報告、および七期の事業計画・予算案について説明がありました。
部会報告
部会報告①:見積部会
見積り部会の活動について、金田克彦さん(京都府)から報告がありました。
金田さん「概算見積もりと詳細見積もりが連動した形で、誰がやっても同じにできるような「木の家ネットらしい」木工事の見積もりの作り方を、8人くらいのメンバーで月一回、考えて続けています。現場での作業と感覚的な数字とを比べながら検証していく段階になってきています。墨付けと刻みに関して結構いい形になってきました。続いて必要になってくる造作に関しても準備を進めています。詳しくは本日の分科会で発表させていただきます」
部会報告②:仕口部会
仕口部会の活動について宮内寿和さん(滋賀県)から報告がありました。
宮内さん「みなさんに答えていただいたアンケートをもとに、来年度4月から関西を中心にヒアリングをすることが決まっています。各地を回って集計したデータをもとに構造実験に繋げていく形で動いています。詳細が決まり次第、報告させていただきます。
また、来年1月中旬から京都大学防災研究所にて、京町家をベースとした狭小地で建てられる建物の振動台実験を行うそうです。できれば皆さんをご案内したと考えております。ご参加・ご協力をよろしくお願いします」
部会報告③:マーケティング部会
マーケティング部会の活動について大江代表から報告がありました。
大江さん「今年度はホームページの見直しの話し合いを進めています。動作が早く見やすいページへのリニューアル目指して、コンテンツの精査も含め検討しています」
部会報告④:環境部会
環境部会の活動について綾部孝司さん(埼玉県)から活動報告がありました。
綾部さん「建築物省エネに関する国の動向としましては、2025年には建築物省エネ法基準に適合義務化、さらに遅くとも2030年にはZEHレベルにその基準を引き上げる方向で動いています。『省エネ』という合言葉のもと、それ自体が経済活動になってしまっています。もっと本質的なことを考えないといけないのじゃないか思います。環境部会では、気候風土に根差した形で多様性を認めていただけるような発信を続けていこうと考えています」
各部会に興味のある方は奮ってご参加ください。
セミナー「能登地震調査報告」講師:古川 保
会員の古川保さん(熊本県)に登壇いただき、能登地震の調査報告についてのセミナーが行なわれました。直接応援に訪れた古川さんから、どんな地震だったか、どんな被害があったのか、また伝統構法の建築物はどういう状況だったのかなどのレポートがありました。
発表「環境異変回避には省エネでなく省資源」金田 正夫
会員の金田正夫さん(東京都)より、「環境異変回避には省エネでなく省資源」と題して発表がありました。
金田さん「省エネ家電は運転エネルギーは省エネだとしてもそれ自体が省資源ではありません。資源枯渇・食糧難・気候異変などに向き合い、生きる環境を取り戻すためには、原因を見極め取り除く以外根本的な解決方法はありません。自然と向き合ってきた日本の民家は、調湿・通風・蓄熱など自然の法則と地場の材料を活かした素晴らしい解決方法です。多くの人に、自然界にもう一度目を向けていって欲しいです」
ホームページについて
木の家ネットのホームページの今後について、岡野康史さん(コンテンツ・WEB担当)より説明がありました。20年以上蓄積されてきたデータを整理して今年度中のリニューアルを予定してます。
リニューアル期間にはつくり手リストやギャラリーなどの操作ができなくなるなど、ご不便をおかけしますが、新しいサイトにご期待ください。
懇親会
総会の後は、皆さんお待ちかねの懇親会。
分科会
今年の分科会は 【①スミ・キザミ見積現場での検証続編・造作見積システム進捗報告】【②大工のお悩み相談】【③2025 基準法改正について】【④気候風土適応住宅を広めよう】の4つのテーマに別れて議論を交わしました。
分科会①【スミ・キザミ見積現場での検証続編・造作見積システム進捗報告】
「いつもながら活発な議論をしました。『大体システムが出来上がってんじゃないの』という声をいただけたり、新しいアイデアが出てきたりと随分盛り上がりました。今後も続けていくので、興味ある方はご連絡ください」(金田さん)
分科会②【大工のお悩み相談】
「人材育成などを考えると今の賃金のままでは辛い。若い職人のためにも活力を与えるようなことをしていかないといけない。マーケティングやブランディング、価格戦略などを今一度考えて、もう1ランク位もう2ランク上がっていけるような働きかけを木の家ネットとしてやっていかないといけないという話になりました。マーケティング部会を頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします」(宮内さん)
分科会③【2025 基準法改正について】
「来年の基準法の改正について、①構造、②書類の増大、③区域外の確認が必要、という3つのポイントについて議論しました。全国の会員で情報交換をしていきたいと思っています」(古川さん)
分科会④【気候風土適応住宅を広めよう】
「気候風土適応住宅を広げていくにあたって、各地域で問題になっていることは何なのか意見交換を行いました。問題点を解決していくためには行政に働きかけていかなければなりません。そしてそれができるのは全国の木の家ネットのメンバーなんです。現場の実情を伝えていくことが大事だということで締め括りました」(綾部さん)
2日目
見学
2日目は京都ならではの見学に出かけました。午前中は「① 片波 芦生杉(アシウスギ)」「② 原田銘木店」「③ 石川商店」「④ 中西林業」の4カ所に分かれて見学。お昼は「⑤ 北山杉の里」。午後はオプションの京町家見学スペシャルツアーで「⑥ Fi邸京町家改修現場」「⑦ 京都建築専門学校 よしやまち町家校舎」「⑧ 釜座町町家京町家作事組事務局」「⑨ もみじの小路 あけびわ路地」をそれぞれ見学しました。
① 片波 芦生杉(アシウスギ)
芦生杉は日本海側の杉の品種で、京都府天然記念物に指定されており、西日本屈指の巨大杉の群落として知られています。ひとつの株に数本の幹を育てる杉を台杉といい、その台杉が巨大に成長したものがこの伏条台杉です。この巨大杉群落の森がある片波川源流域一帯は、古くから御杣御料(皇室の御料地)として守られてきた地です。明治に入り民間に払い下げられましたが、南北朝時代から放置された台杉は、伐採の手から逃れたため巨大な状態で残ったと言われています。その樹齢はなんと700年〜1000年を越えるといわれてます。普段は訪れることができない貴重な場所です。
「雄大な自然と先人たちの努力に心から感動しました。芦生大杉は、まるで時の流れを物語るかのような荘厳な姿をしており、その一本一本に歴史と生命の重みを感じました。木々の幹の太さや独特な形状は、自然の力強さと神秘を象徴しています。
また、地域の人々が代々この森を守り続けてきたという事実に深く胸を打たれました。自然を単なる資源ではなく、共に生きるものとして大切にするその姿勢は、現代の私たちにとっても大きな教訓となります。歩く道々で、地元の方々の丁寧な手入れの跡や、森を大切にする心意気が感じられました。
本当に貴重な体験でした。自然の中に身を置くことで、日常生活の喧騒から離れ、心をリセットする素晴らしい時間となりました。このような素晴らしい自然を未来へと引き継ぐために、自分にできることを考え、大切にしていきたいと思います」(レポート・写真:袋田 琢己さん)
② 原田銘木店
栗材の専門店でありながら、釿(ちょうな)で木の表面を加工する「名栗加工」を親子四代に渡り継承してきた銘木店です。腕一振りによって生み出される、「ちょうなハツり」の技術を見学・体験しました。
「私は職人さんの日常が気になりました。京都京北の里山の静かな場所にある常にシンと静まり返っている作業場の中で、一つの材料と向き合い無心で手斧ではつるのですから、腰も手も痛くなるだろう。と代表の原田さんにお話しを伺うと『腰を痛めて引退される職人さんも少なくない。自分も手の皮が5回めくれるぐらいでようやく技術が習得できるようになった。10年はかかる』とのことでした。大変なお仕事です。京名栗の圧巻の美しさは卓越した職人技から生まれていることに感動しました。この豊かな技法が現代の住まいにも彩を加えてくれることは間違いないです」(レポート:柴田亜希子さん)
③ 石川商店
京都府の木に選定されている「北山杉」から作られる磨丸太を主体に各種銘木からDIY製品まで幅広く取り揃えている材木店です。育苗・植林から木にこだわり、伐採・製造・乾燥まで一貫して独自の生産システムを構築しており、伝統工芸品「北山杉」の美を追及されています。
「天然出絞丸太は1本の突然変異からできている、いわばクローンのようなものと言うのは驚きでした。またストックの多さもさることながら、代表の石川さんは、表情が違う丸太一本一本がどこにあるか、おおよそ把握していると聞いてさらにびっくりしました。商売ではあるものの、仕事に対する情熱、何より北山杉に対する誇りと愛情がビンビン伝わってきました」(レポート・写真:剱持大輔さん)
④ 中西林業
京都市北区中川の北山杉発祥の地で代々北山丸太業を営み、育林・製造・加工から全国に向けての販売まで一貫した経営をされています。
「中西林業さんが所有する山から北山丸太が生産される過程を見学しました。木肌に傷がつかないよう多くの作業を人力で行う様子や、漂白剤に頼らず自然な色合いを大切にして乾燥させていく工程など、非常に丁寧で細やかな仕事ぶりを拝見しました。工夫や苦労話など普段知ることのない生産者の目線を知ることができてよかったです」(レポート・写真:丹羽怜之さん)
⑤ 北山杉の里
北山杉・北山丸太の生産地である北山林業地域の振興を目的としたパブリック施設です。様々な北山丸太の展示や、北山杉にまつわる製品や小物の販売などが行われています。
今回は実際に裏手にある山に案内していただきました。北山杉の歴史や、天然出絞丸太が突然変異の苗木をクローンのように育てていくこと、人造絞丸太の作り方など、丁寧に説明していただきました。食い入るように見学している会員のみなさんの表情が印象的でした。
京町家見学スペシャルツアー
⑥ Fi邸京町家改修現場
明治26年普請の西陣織屋建て町家。改変された屋根の形状を元に戻すとともに、構造の健全化をはじめ設備インフラや設えまで全面的に見直し、家族の住まいが出来るように改修中の工事現場です。
「京町家は毎年約800軒滅失し空き家も増加し続けている状況だそうです。ここのお施主さんは、祖母が暮らし終え、空き家になっていた町家を改修をして東京から引っ越して来られるそうで、設計者の末川さんは『そんなご夫婦を応援したい』と設計料を破格の100万円で引き受けたそうです。小路に面した外部は足場とシートで見ることができませんでしたが、構造体については特にしっかりと健全化の工事のをしている真っ最中でした。隣家と共有の柱は、丁寧に根継ぎされていました」(レポート・写真:剱持大輔さん)
⑦ 京都建築専門学校 よしやまち町家校舎
1999年に京都建築専門学校が購入し、伝統教材学校施設として改修した建物。大正元年上棟と記した棟札があり、全体は南隣の所有者の借家として建てられたものだそうです。裏手の長屋を解体撤去した場所には工作ヤードがあり、耐震実験をしたモデルが置かれていました。
「佐野先生の軽快なユーモアのあるご説明で、その時代の作り手の意図や住まい手の動きなどがイメージできる楽しい時間でした。奥には土台柱梁の実験装置もあり、この建物が伝統建築の研究と広報の役割を担っている様子も分かり、有意義な見学会でした」(レポート:柴田亜希子さん)
⑧ 釜座町町家京町家作事組事務局
空き家となった釜座町(かまんざちょう)町内会の会所としての町家(ちょういえ)を、京町家作事組の事務所として借り、京都の町屋の再生を目的として改修した建物。京町家棟梁塾の塾生たちも実習として改修作業に加わったとのことです。
大下尚平さんのつくり手インタビューでも登場しています。
「改修された建物には、他の町家からの転用材なども使用されており、改修箇所が分からないほど自然な佇まいでした。隣家が隣接する中での歪み直しの大変さなど京町家ならではの話も新鮮でした。
wallstatによる京町家の倒壊シミュレーションは視覚的にもとてもわかりやすく、作り手だけでなく住まい手の方にとってもメリットが大きいように感じました」(レポート・写真:丹羽怜之さん)
⑨ もみじの小路 あけびわ路地
「もみじの小路(9軒)」と「あけびわ路地(6軒)」は通りを挟んで隣り合う町家再生プロジェクト。所有者ご夫妻の依頼で2014年から2022年まで京町家再生研究会が携わったもので、京都でも「袋路再生」として注目されたそうです。
こちらも大下尚平さんのつくり手インタビューでも登場しています。
「京町家の再生工事により、伝統的な趣を残しながらカフェや店舗として新たな命が吹き込まれていました。歴史と現代が調和し、訪れる人々に特別な魅力を感じさせる空間が生まれたことに感動しました」
2日間ありがとうございました。
久しぶりに顔を合わせ、意見や情報を交換し、それぞれが刺激に満ちた京都ならではの2日間となりました。ありがとうございました。
来年は千葉でお会いしましょう!