国府市場は吉備高原と瀬戸内海に挟まれた岡山平野に位置する。地名が表すようにかつて備前国の中枢だった地域で、今も古代条里制の名残をとどめている田園地域だが、近年は宅地開発が進み農地と住宅地が混在している。降雨量は非常に少なく、夏は高温多湿で真夏日や熱帯夜が多い。
敷地は代々住み継いだ土地で、生活道路が交差する角地にあたる。近くに小学校やこども園があり、周囲は新しい住宅が建ち並んでいる。子育てを終えて再び二人暮らしをされているご夫妻は、敷地に隣接する自家農園で野菜や花の栽培を楽しんでいる。
家を建て替えるにあたり、住み慣れた土地の長所短所をよく知るご夫妻は、湿気対策として石場建て伝統構法を希望された。長年地域の景観となってきた庭の樹木は可能な限り残し、既存のコンクリートブロック塀を撤去し、生活道路側は以前の家で基礎として使われていた長石と植栽で緩く仕切った。南は自家農園、西は息子さんの家に接しているが、いずれも緩く繋がっている。敷地の広さを活かして周囲に圧迫感を与えない平屋建てにし、外壁には地域で今も汎用的に用いられている焼杉材を使用し、地域景観に配慮した。