敷地は熊本県葦北郡芦北町。中山間地の畑が多い地域であり、施主は林業と農業の両方を営む。木材は、施主が自分の山で伐採した木を、地元の製材所で加工して使用した。継手・仕口は手刻みで加工し、厚貫・差鴨居・足固めなどによる伝統的な軸組で構成している。

高温多湿な地域であるが、室内を構成する杉板、漆喰壁、藁畳、障子、木製建具、造作家具などはすべて吸湿材であり、風通しと吸湿で涼を得ることができる。夏季の卓越風に配慮して引込戸、室内欄間、床面換気口、高窓といった様々な窓を設け、風のとおりみちを確保している。

山の木は歩留まりが60%だが、残りの40%の廃材は暖房と給湯の燃料に使えばよい。

冬は建具を閉めて小さく住まい、薪ストーブに山の木をくべて暖を採る。給湯は薪ボイラーを使って湯を沸かす。山の木は針葉樹が主であるが、乾燥させてから使えば問題ない。 高気密高断熱の「省エネ住宅」ではないが、熊本の気候風土に適した「昔ながらのローテクでエネルギーを使わない住宅」である。

切妻の瓦屋根に板張りの外観は、中山間地の周囲の風景によく馴染む。
卓越風の向きを活かして、大小高低さまざまな窓や欄間を配置した。

建設地は久留米市郊外の東側、筑後川と南に標高600~800mの耳納連山との間の住宅地である。夏は南風が卓越しており、冬は雪が積もることはない地域である。

20年前に建築主の奥さんの実家を建設し、その御縁で親の敷地の一角に建てた30代の子世代の住まいである。伝統的構法での家づくりを若い世代に手が出る予算でとの思いで設計し、『現代の民家』となるよう田の字プランを基本とした明快な構造とした。準防火地域であり制約は大きかった。

久留米市の2016年の猛暑日は35日、真夏日は91日であった。夏期への対応として、南側の大きな窓から卓越風を取り入れ、引戸の建具による連続した空間や吹抜けを設けることで夜間の通風利用を促進している。南側と西側に深い軒を設け、日射遮蔽を図るとともに、土塗壁を雨から保護している。屋根は瓦葺きの断熱・通気構造とし、屋根からの輻射熱に対応している。冬期への対応として主には床下エアコンを用いているが、土塗壁や無垢の厚板の熱容量の大きさを利用し体感温度を緩和している。玄関に木製建具を用い、準防火地域に対応するためのシャッターを設置している。また、台風対策として雨戸のある多層構成の建具を採用している。

土地面積に制約がある敷地において、一体的な居間・食堂・台所、引戸の建具でつながる和室、吹抜けによって開放的で広がりのある空間構成とし、上下方向の風の流れに配慮している。

奥行きを持たせた開放的な室内空間。建具は柱材の切り落としから出た杉の源平板を利用。杉の床板は低温乾燥にて含水率を一度8%に落としている。浮造り仕上げとして床板につく傷を目立たなくすると同時に足ざわりを大事にしている。床に杉、建具の杉、しっくい壁にて調湿性能をあげる。

敷地は熊本市郊外。南には樹木が生い茂る小高い丘があり、その足下には小川が流れ、緑と水を介した涼しい風が敷地を抜ける。この風を南の大きな窓からよびこみ、風通しと吸湿材で涼を感じる。冬は多層構成の木製建具を閉めて小さく住まい、薪ストーブを焚き、土壁の蓄熱効果で暖かく過ごす。施主が造園業を営むため、仕事で廃棄する枝木が燃料となる。

建築の材料は主に木と土と竹と藁であり、瓦や設備機器以外のほとんどが熊本県産材である。床と天井の断熱材にも構造材の廃材である鉋屑を用いた。

石場建て+真壁構造は、被災時や白蟻被害時に、被害箇所の状況を把握し修繕方法を考えることが容易であり、建物の長期使用へとつながる。また、地域の自然素材と地域の職人による家づくりは、材料の生産・運搬などに関わる建設時のCO2排出量が小さい。さらに、役目を終えれば土か煙となるもので産業廃棄物は発生しない。ライフサイクルを通して環境負荷が極めて小さい住宅である。

高天井で構造材あらわしの内部空間。畳、土壁漆喰、杉板、木製戸、障子など建物を構成するほとんどの材料が吸湿材であり、熊本県産材でもある。

設計時のイメージスケッチ。敷地の南にある樹木と川を通った涼しい風が、建物全体を通り抜ける。

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