生まれ育った集落を愛し一途に木の家をつくる 株式会社 すずきハウスプラン 代表 鈴木隆美(すずきたかみ 51)さん。秋田杉の樹皮から生まれた断熱材「フォレストボード」を販売する 株式会社 白神フォレストコーポレーション(以下 白神フォレスト) の椎名正人(しいなまさと 58)さん。
今回は秋田県で躍進する木の家ネット会員のお二人をご紹介します。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令中の5月中旬。本来は秋田まで飛び、2日掛かりで取材する予定でしたが、急遽オンラインで秋田・愛知・岡山をつなぎZoomインタビューを敢行。お二人と関係の深い加藤長光さん(木の家ネット前代表)にも登場していただき和やかな時間となりました。
鈴木さんの営む《すずきハウスプラン》は秋田県能代市二ツ井町小掛にある100軒ほどの集落にある。生まれ育ったこの町で18歳の時から大工仕事を続け、30代で稼業の鈴木工務店を引き継ぐ形ですずきハウスプランを立ち上げ、棟梁を務めてきた。同社には現在鈴木さんを含め4名が在籍している。
鈴木さんの手掛ける仕事のポリシーは 《「人に優しい家」づくり》。秋田杉など地元の木材や自然素材を使った温もりのある木の家を提案し続けている。
小掛地域は日本三大美林のひとつ天然秋田杉の原産地で、豊臣秀吉の伏見桃山城へ木材を拠出した歴史も持つが、意外にも伝統的な木の家づくりは衰退の一途を辿っているそうだ。他に墨付け・刻みからやっている大工さんは近くにはいないのだろうか。大工を取り巻く状況を伺った。
鈴木「今はほとんどいないと思います」
椎名「20軒くらいの工務店とお付き合いがありますが、小さい車庫くらいなら他でもやっているかも知れませんが、住宅丸ごと一棟となると鈴木さん以外知らないですね」
鈴木「田舎に限ってそういう状況が多いように感じますね。若い大工も居るには居るんです。しかししっかり育っていける環境に置かれている人となると、あまり居ないのかなと思います。せめて自分のところだけでも、墨付けや刻みという基本の基を次世代に残していきたいと考えています」
そう語る鈴木さんのもとでは息子の瑠圭(るか 24)さんも大工として精を出している。
鈴木「他の会社で修行するのもいいかと思ったんですが、この辺りの会社だと基本的なことを学べないなと感じました。うちだと墨付け・刻みを自分手でやっている。他で3〜4年過ごしても無駄な時間を過ごすんじゃないかなという想いで引き受けました」
加藤「地域性もあるとは思いますが、“弟子をとって技術を継承していく”という旧来の大工の形はすでに無くなっています。その中で父・忠(ただし 79)さん・隆美さん・瑠圭さんと親子三代で手刻みで大工を続けているというのは本当にすごいことだと思います」
鈴木「この辺りでも高気密高断熱の家を建てるケースが多く、昔ながらの木の家づくりはゼロに等しいです」
鈴木さんのところにも依頼はありますか?
鈴木「すずきハウスプランとしてはやはり手刻みで地元の秋田杉や自然素材を使った家づくりをしたいと思っています。自然と同じような考えのお客様から声をかけてもらうことが多くなっています。中には『そちらでは高気密高断熱はできないのか』と仰る方もいらっしゃいます。もちろんやってできないことはありませんが、自然素材の木の家の良さを伝えるようにしています。高気密高断熱の方が、自然素材の家より高度で難しいと思われがちなところがちょっと辛いですね」
加藤「見学会やオープンハウスを開催すると両者の違いが明確に解るので、お客さんも体感して納得されているようですね。鈴木さんは、すずきハウスプランとしての考え方やつくり方をブレることなく明確に謳っているので、お客さんが自然とついて来ているんです」
鈴木「先日も頑張りすぎちゃってたみたいで、加藤さんから『鬱っぽくなっててやばいよ』と言われました…」
加藤「本当に頑張りすぎるんだよ。鈴木さんは現場最優先で、対応の早さはピカイチ。それを地域の人たちはちゃんとみんな見ている。あくまで大工棟梁で居続けているんです。良い意味で社長になれない社長だな。現場を大事にしていると言うことは、人を大事にしていると言うこと。お客さん・職人さんなど関わる人みんなとの関係性を一番に考えているよね。そこが抜群の信頼度に繋がっていると思いますね。他はないね!(笑)」
鈴木「他はないですか!?(笑)」
冗談交じりの二人のやりとりからもしっかりと信頼関係が感じられた。
鈴木さんと加藤さんとは20年来の仲。実は加藤さんとの出会いが鈴木さんにとって大きなターニングポイントになったそうだ。鈴木さんに詳しく聞いた。
「30歳くらいで、丁度すずきハウスプランを始めた頃の話です。当時は高気密高断熱住宅を主とした流行りの住宅をやっていて、若手ながらけっこう仕事も回って調子に乗っている時期でした。ある日、飲みの席で偶然カウンターで加藤さんの隣に座る事になり仕事の話をしました。加藤さんは父の事を知っているようで、徐々にお酒も入りかなり喧嘩腰の討論になったんです」
「加藤さんから『大工と言うのは木を生かした建物を基本とし墨付け・ノミ・鉋などで仕事をするものだ』と言われ、当時やっていた仕事とは180°違っていたので、噛みついてしまったのを今でも覚えています」
「今考えると当たり前の事を言われていたのです。あの日加藤さんに出会わなければ、まさしく《社長》になってしまうところでした」
では、どうやって今のような信頼関係が築かれたのだろうか。
「ある日、加藤さんから『伝統構法の仕事をやってみないか』と声をかけられたんです。余裕でこなせると舐めていたのですが、蓋を開けてみるととても苦労しました。当時否定していた昔ながらの父の大工仕事が、本当は凄いことなんだと気付くことにもなります。実際その仕事でも父に助けられ、大工と言うものに対する考え方がかなり変わりました。加藤さんから声をかけてもらわなければ、今の私はなかったと断言できます」
素晴らしいドラマの延長線上に今の二人の関係がある。
特に心に残っている仕事や思い入れのある仕事があれば教えてください。
「具体的にこの家と言う訳ではないのですが、二回り目の依頼をしてくれたお施主さんが3名いらっしゃいます。大工を33年以上やってきて、こういったお客さんに恵まれたことは本当に嬉しいことです。先ほどの話にもありましたが、当時建てていたのは木の家ばかりではありませんでした。その頃のお客さんが、今自分が建てている家やこだわりにも共感して戻って来てくれているということは、『単純に新しい家が欲しい』ということではなく、一緒に成長しているようでもありますし『ずっと私の家づくりや姿勢を見てくれていていたんだなぁ』と感動しています」
真面目で地域での信頼感も抜群の鈴木さん。そのルーツを垣間見えるエピソードがあった。
「参考までに見てください」と渡された鈴木さんを紹介している10数年前の新聞記事(2007年2月27日付 読売新聞 秋田版)に目を通していると、父・忠さんについてこう書かれていた。
《小掛地区に建つ約100軒の家のうち30軒を手がけた。感謝の気持ちを込めてか、いまだに採れたてのの野菜を玄関先に置いていく。》
これは紛れもなく父・忠さんの信頼感と人間性、そして大工としての匠の技の賜物だろう。鈴木さんもまた同じ道を歩んでいる。鈴木さんの自宅・会社の周辺には、自身の手がけた木の家々が増えていっており《たかみ集落》の景観が整いつつあるのだ。
「渓谷をつくろうと思っています」と笑いながら語る鈴木さんだが、その目は真剣だ。
「小掛地域を《木の家の町並み》にし、様々な店舗が出店したいと思うくらいの魅力あるものにしていきたいです。そして小掛の発展を全国に発信していくのが夢ですね」
鈴木さんは未来へと歩み続ける。
時代は移ろい、家づくりを取り巻く環境・素材・道具・法律などもどんどん変わってゆく。その変化に柔軟に対応しながら、信頼を得続けるためには、芯となる人間性と卓越した技術が益々必要不可欠になってくるのではないだろうか。
そして今、父・忠さんから受け継いだ志は、息子・瑠圭さんへと繋がっていこうとしている。
「瑠圭から直接聞いてはいないのですが、友達の両親には『仕事が面白い』と言っているみたいですし、朝早くても夜遅くて文句ひとつ言わず打ち込んでいます。大工が好きなんでしょうね。僕ももちろん好きでやってますし、親父もそうだったので自然とそうなったのかなと思います。その気持ちを忘れず生涯大工でいて欲しいですね。大工を愛し、自分を愛し、そして瑠圭を好きでいてくれる人に出会い、自分の城を築いていってもらいたいと願っています」
鈴木さん・瑠圭さんの今後の活躍に目が離せない。
さらに次の世代へ、木の家の良さをもっと知ってもらいたいと、鈴木さんはこんな活動も行なっている。
すずきハウスプランで昨年の8月に開催した木工教室。地域の子供たちに木に触れてもらおうと企画したイベントだ。内容は鈴木さんと瑠圭さんが、子供たちの夏休みの自由研究のお手伝いをするというもの。
「木と触れ合い、親子で一緒に作業し、木の家の町並みを見る。その時間の中で何か得られるものがあれば嬉しいです」と鈴木さん。
100軒ほどの小さなコミュニティだが、親子共々親戚のような気のおけない間柄だそうだ。ちなみにすずきハウスプランはこのチームのスポンサーにもなっていてる。
子供たちの感性が光る力作揃い
「関心するような工作の発想をしたり、無理難題を普通に言ってきたりして面白いですね。それをどうにか対応するのが腕の見せ所です。自分がまっすぐに接していると、暴れん坊も、照れ屋さんも、みんなまっすぐ接してくれます。そこが楽しいです。自分自身の人への接し方や関係性を再認識する機会にもなっています。イベントを通じて、自分の方が子供たちから勉強させてもらっていますね」
この鈴木さんの姿勢や、人との関係性の持ち方こそが、《抜群の信頼度》に繋がっているのだと強く感じた。
次に椎名さんのご紹介。その存在は鈴木さんの家づくりにも欠かせない。
冒頭でも触れたが、椎名さんの務める白神フォレストでは、秋田杉の樹皮から生まれた断熱材「フォレストボード」を販売している他、秋田県内の製材所とのネットワークで材木のストックヤードとして仕分け・検査・デリバリーを行っている。
このストックヤード業は元々、加藤さんが代表理事を務めていた《モクネット事業協同組合》によって規格化された秋田杉の材木などを扱っていたそうだ。
椎名さんと鈴木さんの仕事での関わりは?
鈴木「僕が顧客ですね。材木の手配もいつもお願いしています」
椎名「鈴木さんは秋田県内では一番の大得意です。それから『他の所にない材を探して来い』と無理難題を一番言ってくるのも鈴木さんです(笑)」
鈴木「でも椎名さんは絶対探して来るんです。ありがたいです。床の断熱材にはフォレストボードを使っています」
加藤「フォレストボードは木の家ネットメンバー内で広まっていった思い入れのあるものなので、もっと発展していってもらいたいな」
大江「以前は炭化コルクの断熱材を使っていましたが、私も全部フォレストボードに切り替えました。これからの時代は環境に配慮したものでなくてはならない。間違いなくグラスウールではなくフォレストボードに勝機があると思いますよ。」
環境にも人体にも優しいフォレストボードだが、まだ施工性などで課題も残されている。実はフォレストボードという商品ができた時に、県内で最初に使ったのが当時まだ他の会社に在籍していた椎名さんだった。
椎名「その時の第一印象は『使いづらいなぁ』という感じでした。今は逆に売る立場になり同様に『施工時に粉塵が多く出て、使う人には優しくない』とお叱りの言葉をいただくこともあります。こういった施工時のマイナス面は克服し、プラス面はもっと認めてもらえる施作を考えているところです」
具体的にはどんなことを計画しているのか、話せる範囲で聞かせてください。
椎名「数年前から希望サイズにカットした状態で納品できるようになりました。しかしもっと使いやすいものにしていきたいので、本実加工(ほんざねかこう:板の側面に凸凹の溝を設けてぴったりとくっつけられるように加工したもの)を施したフローリング材に裏張りするなど、施工性が上がらないかテストをしたり、使い方を示す仕様書を提供できるように話を進めている最中です」
大江「本実にできれば扱いやすいですね。海外では似たような商品で本実加工をしたものがあります。しかし規格が違うので日本国内で使うとなると結局切ったりしなければならないのでこちらも扱いづらいですね。」
椎名「この記事をご覧のみなさんも、いいアイデアがあれば教えてください」
ポテンシャルが高く、まだまだ発展を見込めるフォレストボード。より良いの製品へのアイデアを募集している。
人のため。環境のため。みんなに優しいより良い住まいを実現したい。鈴木さんと椎名さんは分野こそ違うが、同じ未来を見つめ守っていくべきこと、変わっていくべきことを見極め、日々家づくりに向き合っている。
私たちもこれからの生活がどうあるべきかを見つめ直し、暮らしの中で何を選択するかを考えて行かなくてはならない時が来ている。
株式会社 すずきハウスプラン 鈴木 隆美(つくり手リスト)
株式会社 白神フォレストコーポレーション 椎名 正人(つくり手リスト)
取材・執筆:岡野康史 (OKAY DESIGNING)