2024年11月16日(土)・17日(日)、京都で開催された「一般社団法人 職人がつくる木の家ネット 第六期総会」の様子をレポートします。
全国各地より99名(会員以外の方も含む)が参加されました。
1日目(16日)は総会・懇親会・分科会、2日目(17日)は京都ならではの見学ツアーを行いました。
時間軸に沿って写真を交えながらご紹介していきます。
「北海道から九州までたくさんの会員が集まりました。しっかり情報交換をして親睦を深め、2日間楽しんでいきましょう。どうぞよろしくお願いします」
六期では新たに9名の方が入会されました。自己紹介をしていただきました。
伊藤(田中) 紀子さん|正会員|兵庫県丹波市|設計士
「今まではプレカットの在来工法をやっていましたが、木の家ネットの大工さんと知り合ったのをきっかけに伝統構法を学びながら今は石場建ての新築の設計をやっています。よろしくお願いします」
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佐野 春仁さん|正会員|京都府京都市|教育・研究
「木の家ネットと関係の深い『緑の列島ネットワーク』には20年以上入っておりました。木の家ネットの総会の話を楽しそうだなと思って聞いていました。今回初めて参加させていただきます。よろしくお願いします」
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市来 元己さん|正会員|神奈川県横浜市|大工
「木の家ネットではいろいろ勉強させてもらったり、何かお役に立てることがあれば力になりたいと思っています。よろしくお願いします」
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森田 結一郎さん|正会員|東京都調布市|設計
「日本の木と森をどうやって建築に活かして使っていくかを考えて勉強して行きたいと思います。よろしくお願いします」
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坪井 猛さん|正会員|神奈川県平塚市|設計
「神奈川で町鳶をやっています。私で四代目になるのですが、先代までやっていた曳屋やよいとまけやの技術を復活させたいので、伝統構法を学んでいきたい思っております。よろしくお願いします」
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加藤 孝一さん|正会員|新潟県新潟市|大工
「わからないことだらけですが、一生懸命勉強していきたいと思います。よろしくお願いします」
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長谷川 博ーさん|正会員|新潟県新潟市|大工
「周りに伝統構法について聞く人がいないので、知識豊富な皆さんから色々と勉強させてもらいたいと思っています。よろしくお願いします」
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伊藤 松太郎さん|正会員|長野県諏訪郡|大工
「木の家ネットの会員だった父から事業継承をしました。まだ駆け出しでわからないことが多いので色々とアドバイスを頂けたら幸いです。よろしくお願いします」
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田中 恵さん|準会員|大阪府
「建築をやっている訳ではないのですが、『木の家の世界』全体の広報担当としてお力になれないだろうか。それをライフワークのしていきたいと思っています。今回の総会を通してそのビジョンの明確化ができたらいいなと思っています。よろしくお願いします」
ぜひプロフィールページをチェックしてみてください。それぞれのWEBサイトやSNSへのリンクもあります。
新入会員の皆さん、どうぞよろしくお願いします。
大江代表理事より五期の決算報告と事業報告、および七期の事業計画・予算案について説明がありました。
部会報告①:見積部会
見積り部会の活動について、金田克彦さん(京都府)から報告がありました。
金田さん「概算見積もりと詳細見積もりが連動した形で、誰がやっても同じにできるような「木の家ネットらしい」木工事の見積もりの作り方を、8人くらいのメンバーで月一回、考えて続けています。現場での作業と感覚的な数字とを比べながら検証していく段階になってきています。墨付けと刻みに関して結構いい形になってきました。続いて必要になってくる造作に関しても準備を進めています。詳しくは本日の分科会で発表させていただきます」
部会報告②:仕口部会
仕口部会の活動について宮内寿和さん(滋賀県)から報告がありました。
宮内さん「みなさんに答えていただいたアンケートをもとに、来年度4月から関西を中心にヒアリングをすることが決まっています。各地を回って集計したデータをもとに構造実験に繋げていく形で動いています。詳細が決まり次第、報告させていただきます。
また、来年1月中旬から京都大学防災研究所にて、京町家をベースとした狭小地で建てられる建物の振動台実験を行うそうです。できれば皆さんをご案内したと考えております。ご参加・ご協力をよろしくお願いします」
部会報告③:マーケティング部会
マーケティング部会の活動について大江代表から報告がありました。
大江さん「今年度はホームページの見直しの話し合いを進めています。動作が早く見やすいページへのリニューアル目指して、コンテンツの精査も含め検討しています」
部会報告④:環境部会
環境部会の活動について綾部孝司さん(埼玉県)から活動報告がありました。
綾部さん「建築物省エネに関する国の動向としましては、2025年には建築物省エネ法基準に適合義務化、さらに遅くとも2030年にはZEHレベルにその基準を引き上げる方向で動いています。『省エネ』という合言葉のもと、それ自体が経済活動になってしまっています。もっと本質的なことを考えないといけないのじゃないか思います。環境部会では、気候風土に根差した形で多様性を認めていただけるような発信を続けていこうと考えています」
各部会に興味のある方は奮ってご参加ください。
セミナー「能登地震調査報告」講師:古川 保
会員の古川保さん(熊本県)に登壇いただき、能登地震の調査報告についてのセミナーが行なわれました。直接応援に訪れた古川さんから、どんな地震だったか、どんな被害があったのか、また伝統構法の建築物はどういう状況だったのかなどのレポートがありました。
発表「環境異変回避には省エネでなく省資源」金田 正夫
会員の金田正夫さん(東京都)より、「環境異変回避には省エネでなく省資源」と題して発表がありました。
金田さん「省エネ家電は運転エネルギーは省エネだとしてもそれ自体が省資源ではありません。資源枯渇・食糧難・気候異変などに向き合い、生きる環境を取り戻すためには、原因を見極め取り除く以外根本的な解決方法はありません。自然と向き合ってきた日本の民家は、調湿・通風・蓄熱など自然の法則と地場の材料を活かした素晴らしい解決方法です。多くの人に、自然界にもう一度目を向けていって欲しいです」
ホームページについて
木の家ネットのホームページの今後について、岡野康史さん(コンテンツ・WEB担当)より説明がありました。20年以上蓄積されてきたデータを整理して今年度中のリニューアルを予定してます。
リニューアル期間にはつくり手リストやギャラリーなどの操作ができなくなるなど、ご不便をおかけしますが、新しいサイトにご期待ください。
総会の後は、皆さんお待ちかねの懇親会。
今年の分科会は 【①スミ・キザミ見積現場での検証続編・造作見積システム進捗報告】【②大工のお悩み相談】【③2025 基準法改正について】【④気候風土適応住宅を広めよう】の4つのテーマに別れて議論を交わしました。
分科会①【スミ・キザミ見積現場での検証続編・造作見積システム進捗報告】
「いつもながら活発な議論をしました。『大体システムが出来上がってんじゃないの』という声をいただけたり、新しいアイデアが出てきたりと随分盛り上がりました。今後も続けていくので、興味ある方はご連絡ください」(金田さん)
分科会②【大工のお悩み相談】
「人材育成などを考えると今の賃金のままでは辛い。若い職人のためにも活力を与えるようなことをしていかないといけない。マーケティングやブランディング、価格戦略などを今一度考えて、もう1ランク位もう2ランク上がっていけるような働きかけを木の家ネットとしてやっていかないといけないという話になりました。マーケティング部会を頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします」(宮内さん)
分科会③【2025 基準法改正について】
「来年の基準法の改正について、①構造、②書類の増大、③区域外の確認が必要、という3つのポイントについて議論しました。全国の会員で情報交換をしていきたいと思っています」(古川さん)
分科会④【気候風土適応住宅を広めよう】
「気候風土適応住宅を広げていくにあたって、各地域で問題になっていることは何なのか意見交換を行いました。問題点を解決していくためには行政に働きかけていかなければなりません。そしてそれができるのは全国の木の家ネットのメンバーなんです。現場の実情を伝えていくことが大事だということで締め括りました」(綾部さん)
2日目は京都ならではの見学に出かけました。午前中は「① 片波 芦生杉(アシウスギ)」「② 原田銘木店」「③ 石川商店」「④ 中西林業」の4カ所に分かれて見学。お昼は「⑤ 北山杉の里」。午後はオプションの京町家見学スペシャルツアーで「⑥ Fi邸京町家改修現場」「⑦ 京都建築専門学校 よしやまち町家校舎」「⑧ 釜座町町家京町家作事組事務局」「⑨ もみじの小路 あけびわ路地」をそれぞれ見学しました。
芦生杉は日本海側の杉の品種で、京都府天然記念物に指定されており、西日本屈指の巨大杉の群落として知られています。ひとつの株に数本の幹を育てる杉を台杉といい、その台杉が巨大に成長したものがこの伏条台杉です。この巨大杉群落の森がある片波川源流域一帯は、古くから御杣御料(皇室の御料地)として守られてきた地です。明治に入り民間に払い下げられましたが、南北朝時代から放置された台杉は、伐採の手から逃れたため巨大な状態で残ったと言われています。その樹齢はなんと700年〜1000年を越えるといわれてます。普段は訪れることができない貴重な場所です。
「雄大な自然と先人たちの努力に心から感動しました。芦生大杉は、まるで時の流れを物語るかのような荘厳な姿をしており、その一本一本に歴史と生命の重みを感じました。木々の幹の太さや独特な形状は、自然の力強さと神秘を象徴しています。
また、地域の人々が代々この森を守り続けてきたという事実に深く胸を打たれました。自然を単なる資源ではなく、共に生きるものとして大切にするその姿勢は、現代の私たちにとっても大きな教訓となります。歩く道々で、地元の方々の丁寧な手入れの跡や、森を大切にする心意気が感じられました。
本当に貴重な体験でした。自然の中に身を置くことで、日常生活の喧騒から離れ、心をリセットする素晴らしい時間となりました。このような素晴らしい自然を未来へと引き継ぐために、自分にできることを考え、大切にしていきたいと思います」(レポート・写真:袋田 琢己さん)
栗材の専門店でありながら、釿(ちょうな)で木の表面を加工する「名栗加工」を親子四代に渡り継承してきた銘木店です。腕一振りによって生み出される、「ちょうなハツり」の技術を見学・体験しました。
「私は職人さんの日常が気になりました。京都京北の里山の静かな場所にある常にシンと静まり返っている作業場の中で、一つの材料と向き合い無心で手斧ではつるのですから、腰も手も痛くなるだろう。と代表の原田さんにお話しを伺うと『腰を痛めて引退される職人さんも少なくない。自分も手の皮が5回めくれるぐらいでようやく技術が習得できるようになった。10年はかかる』とのことでした。大変なお仕事です。京名栗の圧巻の美しさは卓越した職人技から生まれていることに感動しました。この豊かな技法が現代の住まいにも彩を加えてくれることは間違いないです」(レポート:柴田亜希子さん)
京都府の木に選定されている「北山杉」から作られる磨丸太を主体に各種銘木からDIY製品まで幅広く取り揃えている材木店です。育苗・植林から木にこだわり、伐採・製造・乾燥まで一貫して独自の生産システムを構築しており、伝統工芸品「北山杉」の美を追及されています。
「天然出絞丸太は1本の突然変異からできている、いわばクローンのようなものと言うのは驚きでした。またストックの多さもさることながら、代表の石川さんは、表情が違う丸太一本一本がどこにあるか、おおよそ把握していると聞いてさらにびっくりしました。商売ではあるものの、仕事に対する情熱、何より北山杉に対する誇りと愛情がビンビン伝わってきました」(レポート・写真:剱持大輔さん)
京都市北区中川の北山杉発祥の地で代々北山丸太業を営み、育林・製造・加工から全国に向けての販売まで一貫した経営をされています。
「中西林業さんが所有する山から北山丸太が生産される過程を見学しました。木肌に傷がつかないよう多くの作業を人力で行う様子や、漂白剤に頼らず自然な色合いを大切にして乾燥させていく工程など、非常に丁寧で細やかな仕事ぶりを拝見しました。工夫や苦労話など普段知ることのない生産者の目線を知ることができてよかったです」(レポート・写真:丹羽怜之さん)
北山杉・北山丸太の生産地である北山林業地域の振興を目的としたパブリック施設です。様々な北山丸太の展示や、北山杉にまつわる製品や小物の販売などが行われています。
今回は実際に裏手にある山に案内していただきました。北山杉の歴史や、天然出絞丸太が突然変異の苗木をクローンのように育てていくこと、人造絞丸太の作り方など、丁寧に説明していただきました。食い入るように見学している会員のみなさんの表情が印象的でした。
明治26年普請の西陣織屋建て町家。改変された屋根の形状を元に戻すとともに、構造の健全化をはじめ設備インフラや設えまで全面的に見直し、家族の住まいが出来るように改修中の工事現場です。
「京町家は毎年約800軒滅失し空き家も増加し続けている状況だそうです。ここのお施主さんは、祖母が暮らし終え、空き家になっていた町家を改修をして東京から引っ越して来られるそうで、設計者の末川さんは『そんなご夫婦を応援したい』と設計料を破格の100万円で引き受けたそうです。小路に面した外部は足場とシートで見ることができませんでしたが、構造体については特にしっかりと健全化の工事のをしている真っ最中でした。隣家と共有の柱は、丁寧に根継ぎされていました」(レポート・写真:剱持大輔さん)
1999年に京都建築専門学校が購入し、伝統教材学校施設として改修した建物。大正元年上棟と記した棟札があり、全体は南隣の所有者の借家として建てられたものだそうです。裏手の長屋を解体撤去した場所には工作ヤードがあり、耐震実験をしたモデルが置かれていました。
「佐野先生の軽快なユーモアのあるご説明で、その時代の作り手の意図や住まい手の動きなどがイメージできる楽しい時間でした。奥には土台柱梁の実験装置もあり、この建物が伝統建築の研究と広報の役割を担っている様子も分かり、有意義な見学会でした」(レポート:柴田亜希子さん)
空き家となった釜座町(かまんざちょう)町内会の会所としての町家(ちょういえ)を、京町家作事組の事務所として借り、京都の町屋の再生を目的として改修した建物。京町家棟梁塾の塾生たちも実習として改修作業に加わったとのことです。
大下尚平さんのつくり手インタビューでも登場しています。
「改修された建物には、他の町家からの転用材なども使用されており、改修箇所が分からないほど自然な佇まいでした。隣家が隣接する中での歪み直しの大変さなど京町家ならではの話も新鮮でした。
wallstatによる京町家の倒壊シミュレーションは視覚的にもとてもわかりやすく、作り手だけでなく住まい手の方にとってもメリットが大きいように感じました」(レポート・写真:丹羽怜之さん)
「もみじの小路(9軒)」と「あけびわ路地(6軒)」は通りを挟んで隣り合う町家再生プロジェクト。所有者ご夫妻の依頼で2014年から2022年まで京町家再生研究会が携わったもので、京都でも「袋路再生」として注目されたそうです。
こちらも大下尚平さんのつくり手インタビューでも登場しています。
「京町家の再生工事により、伝統的な趣を残しながらカフェや店舗として新たな命が吹き込まれていました。歴史と現代が調和し、訪れる人々に特別な魅力を感じさせる空間が生まれたことに感動しました」
久しぶりに顔を合わせ、意見や情報を交換し、それぞれが刺激に満ちた京都ならではの2日間となりました。ありがとうございました。
来年は千葉でお会いしましょう!
取材・執筆・写真:岡野康史 (OKAY DESIGNING)
三重県志摩市、海と太陽がまぶしいこの地域で、120年あまり大工を営んできた東原建築工房。四代目の達也さんと五代目の大地さんは、受け継がれてきた手刻み・石場建てなどの伝統構法を活かし、現代のエッセンスを加えている。修行中の大地さんが初めて棟梁を努めた「いかだ丸太の家」が各種の建築賞を受賞。風土に根ざし、施主や地域住民と共に進める家づくりは、志摩の自然に寄り添う豊かな暮らしを実現している。
達也さんによると、地元の志摩市阿児町立神には「立神大工(たてがみだいく)」という言葉があり、古くから職人の里であったと伝えられている。江戸時代から多くの職人が活躍し神戸や大阪にも進出、大和の国長谷寺にも携わったといわれている。
「木も竹も土も身近にある、あるもので家をつくるという考え方は当たり前にある」と達也さん。同時に、この地は台風など自然災害も多く、自然を敬う姿勢も身についてきた。
現在は親子で、木の家を中心に設計・施工を行っている。
木組み土壁の住宅を、手刻みの石場建てで建てる。さらに増改築や修繕などを丁寧にこなす日々だ。
自宅脇に構えた作業場は、先代の實さん(三代目)の代から増築を重ねてきた。それでも手狭で、小屋組み材などは作業場横の屋外で加工することもあるというダイナミックさ。太陽と雨風を得て天然乾燥材となって行くそうだ。裏山にある竹林は、土壁の竹小舞にも使われている。
先代の實さんは、地元で大工修行の後、大阪に出て夜間は専門学校で学び、建築士免許を取得したという努力家。帰ってきてすぐに伊勢湾台風(1959年)があり、「災害復旧にも尽力し、丁寧にやってくれたと、今でも地元の方に言ってもらえています」(達也さん)。
その背中を見てきた達也さんも大地さんも、志摩市で育ち、大学時代を関東で過ごした後、Uターンして大工となった。父親は家族であり、親方でもあるという環境。ふたりとも口を揃えて「小さいころから大工になると自然に感じていた」という。
都市への人口流出が進み、市外に働きに行く大工職人も多くなった昨今、地域で、手刻みの大工仕事をしている東原親子は、稀有な存在だ。大地さんに至っては「携わった新築はすべて手刻みの石場建て、施主さんに恵まれています」と話す。
親子での役割分担は特になく、設計も施工も、打ち合わせも2人で相談しながら進めていく。達也さんだけが指導するのではなく、刻みや建前など仕事に合わせて先輩職人を招いてその仕事を学び、木の家ネットの仲間の現場に参加するなど、大地さんはさまざまなやり方を吸収している。
二人とも穏やかな性格だからか、「ぶつかることはほとんどない」という関係性だ。
達也さんは「今まで取り組んだことのない仕事でも、見たり触れたり調べたりして『こんな感じやな』と、工夫して自分の手でかたちにできるのが、職人の醍醐味」と笑う。
大地さんは「施主さん家族も職人さんも、ご近所の方も、みんなで家づくりができるってのが楽しいですし、そういうやり方を続けていきたいです」と話す。
在学時には技能五輪への出場や、木の家ネットメンバーの綾部工務店でインターンシップの経験を積み、木造の伝統構法を学んできた。木造BIMや限界耐力計算についても学びを深めている。「もちろん大工の腕も磨きながら、親父ができない分野も頑張りたいという気持ちもあります。それに、どんな勉強も普段の大工仕事に必ずつながってきますから」という。
大地さんは小学校3年生の誕生日に大工道具をねだり、工業高校3年生の時、地元の薬師堂再建で初めて、実際の墨付けをしたという。薬師堂は、夏に毎年盆踊りが開かれる場所で、平成22年に火事により燃えてしまったお堂を、3坪程に小さく再建することになったものだ。
この小さな薬師堂が、今取り組んでいる「みんなで家づくり」の大きなきっかけとなった。地元の人たちと一緒に、石場建ての地盤を固めるヨイトマケを行い、土壁の竹小舞や荒壁土は地山のものを使っている。大学進学を機に一度志摩を離れた大地さんも、夏休みなどを活かし地元の小学生たちと一緒に汗を流した。木の家ネットの仲間の池山さんや高橋さんに学んだワークショップが活かされている。
みんなの場所を、みんなでつくる。
志摩の自然を拝借し、生かしていく。
そんな家づくりの心地よさが受け入れられたのか、当時の小学生の親御さんや地域の住民、観光協会の職員などが、その後、施主さんとなり、新築の石場建てを依頼するようになった。
これまで手掛けた石場建ての家は、3坪から18坪とコンパクトなものが多い。達也さんは「施主さんは、予算はもちろんありますがそれよりも『薬師堂みたいな家がいい』『自分や家族でつくりたい』などの要望を優先することが多いかもしれませんね。大工にとってもやりがいのある仕事なんで、本当にありがたい」と話す。
達也さんは、大学時代に都会の先進的な建物にも触れる中、卒論では「志摩地域の風土と建築」をテーマに取り組んだ。「新しいものだけが本当に良いものなのか、地域で育まれた住まいや暮らしに関心があった」と振り返る。
そんな思いを抱えて大工をする中で、一人の施主さんとの出会いがあった。竹内さんの新築物件「いかだ丸太の家」(2020年竣工)を、国土交通省のサステナブル建築物等先導事業(気候風土適応型)として申請。達也さんは「これまで自分の感じていたものを、一つの形にすることが出来た」と言う。
「省エネ法改正が進む中、法の「気候風土適応住宅」の制度は、地域の木の家づくりに大きな意味をもっている。それは国が定めた基準を満たせない物件への救済措置だけではなく、地域が育ててきた自然と共生する住み方暮らし方といった建築文化に通じています」と話す。
竹内さんの家は、6坪の三和土土間の団らんスペースを中心に、両脇にそれぞれ6坪の居間、4坪のダイニングなどを配した設計だ。設計は愛知県の六浦基晴(m5_architecte)さんが担当した。
東原さんは設計の六浦さんや施主の竹内さんと話すうち、「志摩らしい建物を建てたい」という思いを共有する。浮かんだのは、地元では当たり前の存在である「いかだ丸太」だった。いかだ丸太とは、志摩でさかんな真珠の養殖いかだに使われる材木のことで、県産のひのきの間伐材を丸太のままで使う。気候風土適応住宅への親和性も感じた。
この丸太を、「シザーストラス」として小屋組みに用いた。建築家アントニン・レーモンドが好んだ構造で、この建物の特徴の一つとなっている。レーモンド事務所で学んだ建築家・津端修一さんが自邸に採用した方式で、達也さんは「施主さんの恩師でもある津端さんの自然な暮らしを大切にする姿を重ね合わせ、レーモンドスタイルを提案しました」と振り返る。
断熱材には、志摩産のもみ殻を用いた。竹内さん夫妻が知り合いの農家から分けてもらったもみ殻を、ドラム缶で燻炭とし、袋詰めして床下に敷き詰めた。天井には、乾燥したもみ殻を充填し突き固めた。すべて手作業だったという。
建具は、雨戸、よしずを張った網戸、木製ガラス戸、障子の4層すべてに古建具を再利用した。夫妻が解体される家を回って100枚近く集めた中から厳選したという。それぞれの建具は状態が異なるので、大工は調整に苦労したという。
また、家の中心にある竹内さん夫妻が愛情をこめて叩きに叩いた土間は、夏は南北の掃き出し窓を開け放つことで心地よい風が吹き抜ける。三和土(たたき)には地元の海水を使い、志摩特産の真珠の貝殻も埋め込み、さらに志摩らしさをあらわした。片隅には薪ストーブを置き、冬の暖を確保する。普段の煮炊きも薪ストーブが活躍する。
アートに精通し自らも油絵などを描く竹内さんは「志摩クリエイターズオフィス」というアーティスト集団を主催、この空間がその仲間と語らう場となっている。
仲間らは建設時から、土壁塗りや三和土(たたき)などのワークショップに訪れ、一緒に汗を流した。その数はなんと50人以上にも上ったという。竹内さんは「この家はひとつの作品。来る人来る人に、こんな暮らしいいね、憧れだねとうらやましがられるの」と微笑む。
達也さんは、「こういうワークショップ形式の建て方や自然と共に丁寧に暮らす住まい方は、確かに手間ひまがかかりますが、人の心を豊かにしてくれます。物質的な豊かさとは、また違いますよね」と実感する。
この家は、第40回三重県建築賞に加え、ウッドデザイン賞2021、第53回中部建築賞の受賞など、多くの評価を得ることとなった。
竹内さんは、この「いかだ丸太の家」の前に、敷地内にある築80年の平屋の古民家の改修を東原さんに依頼していた。先代の實さんと達也さん、学生の大地さんと三代で取り組んだ。この建物は日本各地で要職を歴任した猪子氏の終の棲家で、昭和時代に何度かリフォームがされていたが、空き家となり廃墟となりかけていた。壊れたサッシを木製建具に戻したり、朽ちたシステムキッチンを外して土間を復活させたりと「建築当時の復元」を念頭に進めていった。
竹内さんは東原さんを、「住む人のことを思って、要望に必ず応えてくれるすごい大工さん。特に猪子邸の改修は、設計図もないのに美しく復元してくれて、その技量に驚きました。本当に、よう作ってくれました」と話す。
その言葉に達也さんは「いやいや、よう任せてくれました」と笑顔で応える。
2つの物件がある敷地は、なだらかな起伏の土地にツバキや栗など四季を感じられる木々が並ぶ自然林だ。緑が太陽の光をやわらげ、小鳥のさえずりが耳に心地よい。時折、海風も届き、豊かな自然を存分に味わえる。
大地さんは、「職人と施主さん、家族や仲間とみんなでつくる家づくりは、本当にやりがいがあります。つくるのは家ですが、人と人の間で動くことを大切に、大工をしていきたいです」と、まっすぐに未来を見つめていた。
取材・執筆・写真:丹羽智佳子(一部写真、岩咲滋雨、六浦基晴(m5_architecte)、朴の木写真室)