みんなとなら 遠くへ行ける

山下建築株式会社
山下 大輔さん

今回ご紹介するのは鳥取県の山下大輔さん。ご本人と同年代の職人さんに囲まれ、大工・設計・薪ストーブ事業を手掛ける山下さんは、どんなことを考え、どんな仕事をしているのか、あれこれ聞いてきました。

山下大輔さん(やましただいすけ・43歳)プロフィール
1980年(昭和55年)鳥取県生まれ。山下建築株式会社代表取締役。京都の建築の専門学校を経て帰省。父親が経営していた山下建築を継承し2018年に法人化。大工職人としてスタートし現在は設計や薪ストーブ事業も手がけている。


自分が習ったことは次の世代へ

⎯⎯⎯ 山下建築の二代目でいらっしゃいますが、これまでの経歴を簡単に教えてください。

山下さん(以下敬称略)「建築士になりたかったので、高校卒業後に京都〇〇専門学校に入ったのですが、中退し鳥取に戻ってきました。そして父の知り合いだった重機関係の会社に入社しました」

⎯⎯⎯ 重機ですか!意外ですね。資格はいらないんですか?

「そこで“働くということ”を学び、資格もたくさん取らせてもらいました。その後に父のもとで大工修行を始めました」

⎯⎯⎯ 株式会社として法人化されたのはどういうタイミングだったのですか?

山下「2018年に父が病気で亡くなって急遽世代交代することになり、その機会に法人化しました。交代のタイミングは色々話し合って準備期間を設けていたんですが、突然だったので、数年間はバタバタでした」

⎯⎯⎯ それは大変でしたね。現在は何名くらいの方が働かれているんですか?

山下「法人化してすぐは3名でしたが今は若干増えて6名(大工5名、事務1名)です」

⎯⎯⎯ 順調に拡大されていますね。年齢層を教えてください。

山下「僕が一番上で、30〜40代の同世代ばかりです」

⎯⎯⎯ またまた意外!中心となって動ける職人さんが集まっていらっしゃる。お弟子さんの年齢層の空洞化で困っていらっしゃる会員さんも少なくありません。手塩にかけて育てた若い職人さんが、一人前になると巣立っていって… もちろん喜ばしいことではあるのですが、労働人口が少なくなってきているので、現実問題として厳しいという話をよく耳にします。

山下「そうなんですね。うちに来てくれているメンバーは今まで別の会社で働いていたり、個人でやっていたけど先を考えると不安だったりということで、声がかかることが多いです。僕自身は、父親と二人三脚で働いていた70代の方と父親に、大工仕事のほぼ全てを教えてもらいました。『おれは親方から習ったことをお前に伝える。お前は俺から習ったことを次の世代に伝えていってくれ。』と言われたのをよく覚えています。それをできるだけやろうと心がけています」

⎯⎯⎯ 求心力があるんですね。すごいことだと思います。

山下「いやいや。そんなことはないですよ」


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みんなとなら遠くへ行ける

⎯⎯⎯ 20年以上家づくりをされてきて、ターニングポイントになるような出来事があれば教えてください。

山下「“京都鴨川建築塾”ですね。仕事をはじめたばかりのころは怒られてばっかりで辞めたかったのですが、10年くらい経ってある程度現場を任せてもらえるようになって、設計に興味が出てきたんです。そこで、木造の設計や構造を深く教えてくれる“京都鴨川建築塾”に入塾して3〜4年通いました。そこから僕自身は設計や経営に力を入れて、大工仕事は大工さんに任せていくようなスタイルに変えていっています」

⎯⎯⎯ それはどんな理由からですか?

山下「他の地域はわからないですけど、鳥取だと工務店がまずあって、その仕事をする設計事務所がいて、大工がいるという分業の仕事が多いんです。そこを自分たちでトータルで行うことにより、施主様と近い距離でかつスピーディーにできると考えたんです」

⎯⎯⎯ 「大工さんに任せるスタイルに変えていっている」とのことですが、詳しく聞かせていただけますか?

山下「はい。現場ごとに担当の職人を決めて管理まで任せるようにしています。その方が意欲も責任感も出てきます。また、弟子を育成することはとても大切ですが、そこは施主様にとっては関係のないことなので、どれだけ仕事を上手に受けて、実際の仕事の中でやり方を覚えていってもらうというのが一番だと考えています。何でも自分でやれば早くできるかもしれませんが、近くまでしか行けれません。みんなとならゆっくりかもしれないけど、遠くへ行けると信じています」

作業場で墨付けをする大工の山口さん

⎯⎯⎯ なるほど。僕も一人で仕事をやっているのですごく響きました。では、施主様とのやりとりで気をつけていることはありますか?

山下「たとえば、断熱の方法ひとつとってもさまざまな考え方があるので、それぞれの施主様にとっての快適さ、イニシャルコストとランニングコストの配分など、実際に何十年もローンを支払う施主様の目線で深く考えるということを大切にしています」

⎯⎯⎯ ほかには何かありますか?

山下「もうひとつ転機となったことがあります。それは2017年に初めて自分で設計して建てた“賀露の家”です。施主様が求めていることと、僕がしたいこととがすごくマッチしたので、とても記憶に残っています」


賀露の家
ターニングポイントとなった思い入れのある住宅を案内していただいた。

上記2点 写真提供:山下さん


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自分で可能性を狭めない

⎯⎯⎯ 家づくりをする上でどんなことを大切にされていますか?

山下「お客さんと近いところで、密に仕事をするように心がけています。それから、あまりこだわりすぎて、自分の可能性を狭めないように気をつけています。もちろん何かを突き詰めていくことは素晴らしいことなんですが、“これしかない”とか“絶対これじゃないだめ”というスタンスだと、自分で可能性の間口を狭めている気がするんです。いろんなことに対して自分の中の判断基準や尺度は持ちながら、できる限りお客さんの要望に応えられる方がいいなと思っています。

ここだけは譲れないというボーダーラインは現場現場で決めているんですが、そこに至るまでの選択肢はなるべく多く提案できるように努めています。どのプランのどこがよくて、どこがイマイチなのか。そこをしっかりお客さんに説明できるようにしたい。そのためには自分自身もしっかり掘り下げて勉強することも欠かせません。そうすればどういう形であれ大工という仕事は残っていくと思っています」

⎯⎯⎯ ボーダーラインは具体的にはどんなことでしょうか?

山下「木の家ネットの会員の方々は当たり前のことだと思いますが、天然乾燥材を手で刻むこと。あとは断熱材にはエコボードを使用するというあたりですかね」


隼福の家
築約40年の住宅兼事務所を住宅として改築中の現場。活かせる柱や構造材は残しほぼスケルトンになっていた。ここからどうなるのか楽しみだ。

左:この現場の責任者は大工の田村さん/右:断熱材にはエコボードを使う

既存の構造材を活かし新しい柱を継いでいる

左:40年前の面影を残す棟札(むなふだ)/右:7月には完成予定とのこと


南吉成の家
外壁は鳥取の土を使ったオリジナルの左官壁。

右:写真提供:山下さん


吉方町の家
更地ではなく木が生えていた土地に木を活かしながら新築の住宅を建てていく。外壁はGUTEX社のエコボードに左官材料を塗り直接塗装している。

左:吹き抜けの開放的なリビング/右:「破風(はふ)シャープに見せるように工夫しています」と山下さん

左:ここの責任者は大工の丸山さん/右:林の中に家が出来上がっていく


国府の家
平屋のような二階建て。

上記3点 写真提供:山下さん


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写真提供:山下さん

鋼板製ストーブで地域内循環を目指す

⎯⎯⎯ 話が変わるのですが、目の前にある薪ストーブが気になっています。代理店をされているんですか?

山下「はい。スペインのPANADERO(パナデロ)というメーカーのストーブで、国内ディーラーであるPANADERO JAPANの鳥取での販売店になっています」

⎯⎯⎯ 結構採用されているんですか?

山下「新築の場合は結構採用していただいていますし、商品自体の問い合わせも多いですね」

⎯⎯⎯ ガラス張りが特徴的ですね。どんなストーブなんですか?

山下「普段みなさんがよく目にするストーブは鋳物製だと思うんですが、これは鋼板製なんです。鋳物のストーブの場合は割高な広葉樹の薪が必要になりますが、これは日本中にある針葉樹を広葉樹のようにじっくり燃やせる薪ストーブなんです」

⎯⎯⎯ それはメリットが大きいですね。欲しくなってきました。薪の手配はどうされているんですか?

山下「林業の方とタイアップして手配しています。ここ鳥取もですが、日本中に杉や檜などの針葉樹がたくさんありますよね。林業の方がこの木を切る時に、根本1mくらいの曲がったり太さが均一でないタンコロと呼ばれる部分が出てきます。このタンコロは価値がないということで、通常は山に放置してくるんです。それを薪としてアップサイクルしようという試みです。
この針葉樹の薪を少しでも多く使ってもらえたら、お客さんにとっては安価で燃料を入手できることになるし、林業にもプラスに作用して山も整備されてくる。そんな地域内循環ができたらいいなと思っています」


⎯⎯⎯ これからのどんなことに力を入れていきたいですか?

山下「働きやすい職場づくりをしていきたいです。職人さんは基本的に社員として採用して、しっかり福利厚生や保障を充実させて、家族含めてみんなが安心できる会社にしたいです」

⎯⎯⎯ ありがとうございます。最後の質問です。山下さんにとって家づくりとは?

山下「家をつくるということは、誰かの一生に一度の大イベント。そこには大きな責任があるので、より深くより真剣に考えて作り上げていくことが一番大切だと考えています。そしてその責任を全うすること。それに尽きるのではないでしょうか」

人と人。人と自然。目の前にある関係を真っ直ぐに見つめ、実直に答え導き出そうとする山下さん。
その一言一言から、静かながら熱い想いが伝わってきました。


山下建築株式会社 山下大輔さん(つくり手リスト)
取材・執筆・写真:岡野康史(OKAY DESIGNING)

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