行雲流水

株式会社 ウッドベース
中西 豊さん

行雲流水とは、自然の成り行きに身を任せること。また、とどまることなく移り変わっていくこと。奈良県大淀町の製材・材木商「ウッドベース」社長である中西豊さんは、行雲流水の人だ。

「ウッドベース」は吉野産材を中心に扱う。吉野は日本三大人口美林のひとつで、日本最古の造林地、室町時代に人口植林が始まったといわれている。歴史ある産地ではとても珍しい新参入組で、15年前に立ち上げた。

変わりゆく時代の流れの中で「付き合いのある工務店さんの期待に応えたかっただけ」と謙遜しつつも、目利きや製材などの技能をこつこつと身に着け、初代として道を切り開いてきた。木の育ちや表情などひとつひとつの違いを「見ているのが楽しいし、その場所にあった木を選ぶ自信がある」と語る中西さんに、これまでの歩みや木を仕事とする喜びを聞いた。

奈良県にある「ウッドベース」事務所

初代として

奈良県生まれの中西さんだが、木との縁は最初からあったわけではなく、少しずつ、少しずつ導かれていった。

10代後半は家庭の事情で関東で過ごし、様々なアルバイトを経験した中のひとつが材木屋だった。19歳で奈良に戻った時、その経験を知った親戚の紹介で銘木市場で仕事を始めた。せりのたびに角材を担いで移動させる。肩は擦れ、手首も痛む力仕事だった。毎日木に触れ、木を見つめ、目利きを養っていった。

20代半ばで、市場から材木商として独立する仲間について行くことになり、市場を離れた。

その後33歳の時に自身も材木商として独立。所属していた材木商の在庫と設備を買い取り、「ウッドベース」が始まった。「お客さんが困らないように」「お客さんの期待に応えたい」。中西さんは繰り返す。

30代半ばで、材木商に加えて製材業もやるようになったのも、場所を借りていた製材所が閉めることになり、お客さんを思ってのことだった。

「地元の製材所の人には『こんな時に製材所始めるなんで、あほちゃうか』ってさんざん言われた」と振り返る。

しかし、吉野地域は製材の歴史がある分、製材所ごとに得意分野が細分化されており、「ひとつがやめてしまっても他に頼めばいいというわけではなく、困る人が出てくる」と考えた。製材の知識も経験もなかったが、中古の製材機を買い取った。地域で製材をしている仲間らが代わる代わる、技術を教えに来てくれて身に着けたという。

製材機は、今も現役で活躍している

独立当時からの付き合いがある大阪・羽根建築工房の羽根信一さんは、中西さんについて「昔から変わらないよ。裏表がなく、大げさに派手なこともしない。だから、信頼できるんだ」という。

ウッドベースが扱う木材はほとんどが吉野産。中西さんは「吉野材が色も形も一番美しいって思うし、地元の材を使うっていう考えは当然として自分の中にある。森に囲まれて育ったからかな」と話す。

ストックが積まれた製材所は、緑深い森に囲まれている

吉野産材は、吉野山の地形や雨の多い気候などといった自然の力に加え、「密植」「多間伐」という人間の作業が加わることによって完成する。吉野産材は、山に苗木を植える本数が1ヘクタール当たり8000-12000本。一般的には3000-5000本と言われているので、2倍以上の密度だ。その分間伐を多くする必要になり、手間がかかる。

間伐する林業家は「山守」と呼ばれ、丁寧に木を育てる伝統が現在に受け継がれている。

この方法で育てた材は、中西さんは地元産というひいき目をのぞいても「木目が均一ですえおちが少なく、本当に素晴らしいんだ」とほれ込む。 歴史が長いため80-100年産の間伐材も流通しているという。山の中には樹齢400年の木も現存している。

材木の入荷は、地元の原木市場だ。原木で作業場に運びこんで、その木材に最も適した製品にするために木取りをする。製材するとき、丸太からどのような大きさの材をとっていくか、どのような木目をとるかが職人の腕の見せ所となる。

天然乾燥させたあと、出荷する。納期でよっぽど急ぎの場合をのぞいて、機械乾燥はしない。機械ではなく天然乾燥にこだわるのは、割れが起こりにくいことに加え、油脂分を残すことで木の香りを楽しめたり、木が腐るのを防いだりすることができるためだという。

ウッドベースは700坪の敷地を確保し、中には製材スペースや中温の乾燥機を設置してある。材木のストックもあるが、この敷地だけでは足りず、500坪分の敷地と、倉庫が2つに保管してある。その数、「住宅だったら10軒分くらい(中西さん)」にも上る。

市場で買い付けたものだけでなく、製材所を整理したり閉めたりする時に集まってくるものもあるという。「一番若造だから、気にかけてもらっている」と感謝する。

出荷先については、地元にこだわらず、吉野産をいいと思ってくれる人に届けたいと考えている。現に、ウッドベースは材木の大半を、工務店を通して兵庫、大阪、京都などの県外に出荷している。

木の奥深さを伝える

ウッドベースは現在、製材など材木作業は取締役の2人とパートで行い、中西さんは受注や配達、見積りなどの社長業をこなしている。あとは事務担当のパートと、計6人体制だ。

事務所の2階が事務作業スペース

独立から15年を経て、「最初は原木の良しあしも、製材のうまいやり方もわからなかったけど、数こなしてようやく覚えられたかな」と駆け抜けた日々を振り返る。

ここ3年ほどで感じる変化は、使う側の変化だ。今までは工務店に出荷して終わりだったが、県外から設計士さんや施主さんが少人数のグループで、山や製材の様子をみにくるようになったという。

住む側、使う側とのコミュニケーションは「少人数でじっくり話せるととても楽しい。どんどん提案したくなる」と中西さん。

説明用に手作りした木取り図

「その時間が本当に楽しい。自分の目利きには自信がある」という。ほれ込んだ木は抱いて寝られるほどだと冗談めかして笑う。

ひっそりと保管された「銘木」の数々

中西さんは、日々材木を見つめ、木に触れる中で、ひとつとして同じ表情の木はないことをしみじみと感じている。その木が一番落ち着く、しっくりくる場所で役目を果たせるように、という気持ちを持って、業務に向かっている。

長い目で山と向き合う

2020年からの新型コロナウイルス発生により、材木業界にも影響が出てきた。ウッドショックだ。木の家ネットYoutubeチャンネルでも話題になっていたが、米松やレッドウッドなどのアメリカから輸入している集成材の価格が高騰している。アメリカの住宅需要の高まりやコンテナ不足をはじめさまざまな要因があると考えられる。

日本の住宅も輸入材が占める割合は高いため、輸入材の高騰により代替品として国産材の人気が高まり、数が少なくなったり価格も同調して上がってしまったりという状況がある。日刊木材新聞によると、「杉KD(人工乾燥)柱角」の材料価格は半年で1・5倍にまで膨れ上がってきた。

ウッドベースではほとんどの材料を自分で製材し、足りない分は他の製材所から購入している。その購
入分の価格が「信じられないくらい高くなった。独立しての時のように自分で製材をやらずに材木商だけだったら、とても立ち行かなかったと思う」という。

丁寧に製材した材料たち

今後、国産材のニーズが高まっていくことが懸念されるが「山仕事は人手不足や高齢化で、すぐに対応は難しい」とも考えている。「ころころと対応を変えずに、もっと長い目で山と向き合っていかないと」と前を見据える。

木は自分が生まれる前から何十年も生きてきて、木材に加工され、家となることでさらに何十年も生き、残っていく。そのような大きな流れの中で「自分はその一瞬を支えているだけ」というのが、中西さんの持論だ。

思えば、中西さんが銘木市場で働いたのちに独立した時、ふしがなく整った銘木ばかり見てきたので、建築材にもなるようなふしの入った材に魅力を感じなかったという。しかし、今では「不思議とふしのある木も好きになった。個性的でおもしろいんだ。ふしがなければいいってわけでもない」と実感する。

その理由を、毎日見て、触れていくにつれ、愛着がわいていった。木という同じ素材を見続けたからこそ、個性やそれぞれの良さに気づけたのだという。「この木はひくとどんなかな、どうひいたらきれいかなって考えるときりがない」と魅力を語る。

製材を始めたきっかけも、産地で吉野産材を守ってきたという歴史を止めてしまうことへの残念な気持ちがあった。先代、先々代が植えた木が、山で、活躍の時を待っている。今の状況、今の気持ちだけで判断することはできなかったのだ。

製材で出たおがくずは、豚舎で再利用されるなど、循環体制も模索中だ

木の良さの理解や、目利きや製材の技術は、一朝一夕には身につかない。
そこからつながる山の良さや木のすばらしさも、時間をかけることで、その身に染みわたっていく。

流れゆく時代の中で、長い目で見るという視点は、木に向き合い続けている中西さんだから身についた。木で仕事をする人間としての心構えでもある。「自分はそんな大それたことはできない」と中西さんは謙遜しつつも、「そういう気持ちで家を建てたり住んだりすると、人も木も幸せでいられると思う」とうなずいた。

ウッドベース 中西豊さん(つくり手リスト)

取材・執筆・撮影:丹羽智佳子

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