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大工たちによる「家戻し」の記録

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これは、熊本地震で「動いた」家を、熊本の大工5人+職人がつくる木の家ネットのメンバー10人で元に戻した「家戻し」の記録です。

大工たちの手で 「家戻し」をしよう!

地震でずれた家を戻してほしいという依頼

熊本地震発生からおよそ一ヶ月後。木の家ネットの熊本の会員を通じて、二度の強い地震に見舞われて最大7センチ動いた住宅を「元に戻してほしい」との依頼がありました。ほとんどが石場建てですが、玄関と風呂・トイレまわりにコンクリートの立ち上がり部分のある、現代的な要素が混在する伝統的な建物とのこと。

それを「大工たちの手で戻そう」という呼びかけが木の家ネットのメーリングリスト上で流れました。そして、5月17日、必要な資材を持ち寄った大工たちが全国から熊本に集結しました。

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一番遠い鎌倉の日高さんは、熊本まで片道1200キロ!を車で往復しました。
メンバー

古民家改修や石場建ての施工経験が生きる

集まったのは、古い民家の修復や石場建ての施工に携わって来た、技術や経験のある大工たちばかり。建物ごと持ち上げる(揚げ前)、引っ張ったり押したりして位置を戻す(曳き家)、軸組に残留変形があれば傾きを直す(よろび直し、転び直し)など、昔から伝わる「ずれた家を、戻す」という知恵は持っています。

とはいえ、実際に地震で動いた建物を「戻す」のは誰にとっても初めてのこと。それでも「こうすれば、いけるはず!」という勘は、鋭くはたらきます。事前に大工同士でやりとりをして、必要なものを揃え、軽トラックや乗用車で現地入りしました。

集合写真_熊本&木の家
熊本の川尻六工匠の大工たち(左手前から:内村圭貴、榊浩一、榊良太、板崎義則)と、熊本に到着した木の家ネットメンバー(右手前から左奥へ:宮内寿和、日高保、山本耕平、ジョナサン・ストレンマイヤー、トニー、増田拓史、金田克彦、北山一幸、松村寛生、宮本繁雄) 長時間の車移動で、ややお疲れの表情。

その家の施工に関わった熊本の川尻六工匠の大工たちともすぐに打ち解け、息の合った作業、現場での数々の工夫、臨機応変な対応で乗り切り、大掛かりな重機などを使うこともなく、15人工×実働一日で家は元に戻りました。

大工たちの作戦と
資材の準備

家をもちあげ、すべらせて正しい位置に移動し、元に戻す。下見ができない状況の中で手順をシミュレーションし、次のような作戦を立て、工具や資材を準備しました。

作戦1:もちあげる(揚げ前)

柱同士が足固めでつながれているので、足固めにジャッキをかければ、家全体を持ち上げることができるだろう。

大黒柱ジャッキアップ中

家に負担をかけないようにするには、なるべく多くのジャッキを使って、少しずつ持ち上げたい。ある限りのジャッキを持ち寄ろう。

作戦2:滑りやすい材料を差しはさむ

家の総重量は40トン。摩擦係数の小さい=「滑りのいい」材料を柱と礎石との間にはさめば、より小さな力で動かせる。E-ディフェンスでの実大振動台実験で石場建ての試験体を元に戻す時に、摩擦係数が小さい材料ということで使った「テフロンシート」を使おう。テフロンシート同士の摩擦係数は0.04。理論的には、40トンの家が、1.6トンの力で動くはず。

テフロンセット

柱とテフロンシートとの間には家の重量が均等に乗るように鉄板を、テフロンシートと礎石との間には、テフロンシートがよれないようにコンパネをセットする。

作戦3:移動する(曳き家)

バネ秤で簡単に実験をしたところ、テフロンセットの上に置いた10kgの水入りバケツが2kgの力で動いた。この理論値である摩擦係数0.04よりはるかに大きいこの実験値(摩擦係数0.2)に基づいても、8トン以上の力をかければ40トンの家でも動くはず。

柱にワイヤーをかけ、レバーブロックで引っ張れば、動かすことはできるだろう。それだけでは動きにくければ、ジャッキで押すことも考えよう。

レバーブロックで引く

引くにしても押すにしても、それだけ大きな力をかけるのに、どこかに反力をとる支点を確保する必要がある。反力を、どこで取れるか。現地の状況を見て、臨機応変に考えるとして、使えそうな資材は用意しておこう。

以上の作戦にもとづいて、各自が現場に持ち込んだ資材・工具を、次の表にまとめました。

機材一覧
表作成:金田 克彦

「家戻し」をした家の
仕様と被災後の状況

木の家ネットに「家戻し」の依頼があったこの家の仕様と、被災後の状況を記します。

床下の状況

  • 柱を立てる礎石は御影石。鉄筋コンクリート製の独立基礎の上に据えられている。
  • 礎石と柱の間に25mm厚の御影石のパッキン (柱の木口にボンドで接着)
  • 礎石が立つ独立基礎以外の部分には、50mm厚の土間コンクリートを打設(シロアリ早期発見のため) F邸_足元周り
  • 玄関、風呂トイレまわりは、建物は立ち上げたコンクリートの上にのっている。 F邸_一部基礎立ち上がり
  • 石場建て部分の柱同士は、足固めでつながれている。 足固め

※石場建てでは、すべてこのような仕様であるということではありません。

被災後の状況

  • 二度の強震を受け、パッキンは割れたものが多い。柱は無傷。
  • 柱の移動量は最大で7センチ
  • 足固めで連結されていたため、柱それぞれの移動量や方向に多少の違いはあっても、家全体が一体となって動いた。 F邸_床下状況
  • 床下の設備配管は、長さに余裕があったり、フレキ管を用いたりしており、破損箇所はなし。 F邸_配管
石場_土台

石場建てとは?

自然石、コンクリートなどの礎石の上に直接柱を立てるやり方。民家や神社によく見られる。現在は次の土台敷きを用いるのが一般的。

土台とは?

柱脚部の移動を拘束し、柱からの荷重を基礎に伝える横架材。建築基準法の仕様規定により、現在、一般に、布基礎にアンカーボルトでよって緊結される。

イラスト:和田 洋子
出典:木造建築用語辞典より抜粋
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全国から集まったジャッキの数々