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2011 東日本大震災 福島県いわき市 → 2018 西日本豪雨災害 岡山県総社市

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いわきから岡山へ 木造応急仮設住宅「7年目の旅」

2011年東日本大震災後に福島県いわき市で建てられ、7年の間被災者の方が仮住まいしていた板倉構法の木造応急仮設住宅。そのうち26棟52戸を、2018年7月の西日本豪雨災害で被災した岡山県総社市で再利用しようと、2018年8月から10月にかけて、解体および移設工事が実施されました。

いわき市の板倉仮設住宅群

「板倉」は、日本古来の神社や穀物倉庫を造ってきた優れた木造建築技術です。この構法で木造応急仮設住宅をつくることを提案し、実現したのはこの構法の普及をめざす「板倉協会」の代表理事の安藤邦廣筑波大名誉教授。柱と柱の間のスリットに厚板を落とし込んで建物の構造をつくる板倉構法は、木材のすぐれた特性を活かす構法のひとつ。板をたくさん使うので、木材資源の循環的利用にもつながります。

写真左:正倉院 写真右:伊勢神宮内宮(皇大神宮)

8月からいわきでの解体作業が始まり、第1期工事として8月中に11棟22戸、第2期工事として10月始めまでに15棟30戸が完成し、それまで避難所住まいを余儀なくされていた被災者の方たちが、入居しています。この解体移設工事に、木の家ネットの大工が17名、弟子や記録班を含めると総勢42名が参加しました。今回はその経緯と、参加した大工たちの声をお届けします。

【本人(+弟子や仲間)が参加】

宮城県:杉原 敬
埼玉県:綾部 孝司+弟子 野村昌也、今井 裕介、田代 幸弘、佐伯 建、後藤 悠平
岐阜県:各務 博紀+弟子 各務椋太、中村哲也
三重県:増田 拓史+弟子 今井 航希
三重県:丹羽 怜之
三重県:高橋 一浩
三重県:(池山 琢馬の弟子) 加藤 千香子
滋賀県:宮内 寿和+弟子 関岡 舞美
京都府:金田 克彦
京都府:高橋 憲人
兵庫県:藤田 大+弟子 加治屋 雄樹、福本 杜允
鳥取県:山下 大輔+弟子 丸山 芳弘、岡垣 建二
岡山県:山本 耕平+Jonathan Allan Stollenmeyer+(★弟子1名 名前確認中)
岡山県:和田 洋子(記録班)
広島県:(野島 英史の弟子)2名(★名前確認中)
山口県:宮村 樹
山口県:久良 大作+弟子 黒瀬 規公、沖本 克則
高知県:沖野 誠一+弟子 須賀 大輔
高知県:小松 匠+職人 笹岡 直樹
長崎県:(池上 算規の弟子) 3名(★名前確認中)

会員=大工 17名、記録 1名、弟子ほか=24名

「応急仮設住宅」といえば、鉄骨プレハブの、いわゆる工事現場や、学校や保育園、店舗などが建築工事中に仮営業するような建物をイメージされる方が多いと思います。ところが、東日本大震災後の福島や岩手では、今回ご報告する板倉構法によるものだけでなく、多くの木造応急仮設住宅が建設されました。

写真左:鉄骨プレハブ造の応急仮設住宅
写真右:いわき市内に建てられた木造の応急仮設住宅

福島県いわき市から岡山県総社市への板倉構法の木造応急仮設住宅の移転の話に入る前に、東日本大震災後に木造応急仮設住宅というものがでてきた経緯について、ご説明しましょう。

なぜ、応急仮設住宅のほとんどが 「鉄骨プレハブ」なのか?

そもそも、災害時の住む家を失くした人に対して、自治体はどのような対策をとるのでしょうか? まずは避難所を開設して、共同生活をしてもらうところからスタートするわけですが、そこ出て、世帯単位での生活をはじめるのが「応急仮設住宅」です。

公営住宅の空き住戸や、民間賃貸住宅を借り上げて「みなし仮設」とするといった既存ストックの活用でまかないきれない場合には、建設用地を確保して応急仮設住宅を建てることになります。そのほとんどは、鉄骨プレハブ製。いわゆる、工事の現場事務所や、建て替え中の学校の教室などに使われる、住宅というよりはあくまでも「仮設的な」雰囲気の建物です。

なぜこのような鉄骨プレハブが多いかというと、国が定める「災害救助法」で、一般社団法人プレハブ建築協会(以下、プレ協)が被災地都道府県からの要請に応じて、1万戸までを建設し、自治体へのリースまたは買取対応で、供給することになっているからです。プレ協では、災害に備えて、つねに一定以上の部材のストックを確保してます。

津波被害が東北の沿岸部の広範囲に及んだ東日本大震災では、岩手、宮城、福島の3県で、それぞれ1万戸を上回る仮設住宅が必要となりました。1万戸を越える住戸をどうするかという対応は、県ごとに異なりました。宮城県では、公営住宅の空き住戸やみなし仮設ではまかないきれない戸数分の仮設住宅を、プレ協に追加発注。岩手県、福島県でも不足する戸数をプレ協では供給しきれない事態に陥りました。

津波被害に原発事故が加わり、家そのものは失わずとも多くの人が自宅に住めなくなった福島県でも、1万4千戸の仮設住宅が必要となりました。4千戸を、別の方法でまかなわなければなりません。そこで、震災から31日後、福島県土木部建築住宅課は県内の工務店に、応急仮設住宅の提案の公募を開始しました。福島県が木材産地であること、県産材を活用した住宅建設に関わる業者のネットワークからの申し出がこの後押をしました。

応急仮設住宅における木造の割合 (林野庁のWebサイトより)

各工務店からのプロポーザルを経て、地元27業者が採択され、当初目標とした4千戸を上回る6819戸がこの公募で建設されました。「板倉構法」による木造応急仮設住宅、いわき市高久第十応急仮設住宅(76棟162戸)、会津若松市城北小学校北応急仮設住宅(17棟36戸)は、この地元公募で採用された佐久間建設工業が、福島県産材が使って建てたものです。木の香りのする木造応急仮設住宅は、鉄骨プレハブ製にはないあたたかみ、ぬくもり、住み心地のよさがあり、入居者からが「気持ちがやすらぐ」と評判です。

写真左:日本ログハウス協会東北支部 施工の木造仮設 写真右:三春町復興住宅つくる会 施工の木造仮設
(共に福島県作成のPDF「応急仮設住宅の建設にかかる 対応状況等報告会」より)

地元材・地元工務店による仮設住宅は 地域の雇用を生む

多くの住戸が失われた場合、そのすべてを木造で供給することは、工期やコスト、供給できる数量といった面で現実的ではないかもしれません。それでも、東日本大震災後の福島県では、1万戸を越える6819戸が地元工務店の公募による建設の対象となり、そのうち6319戸が木造。つまり、福島県全体の応急仮設住宅の3分の1以上が木造で実現したわけです。住み心地のよい木造応急仮設住宅を多く供給できたことは、被災者のみなさんにとって好ましいことであったといえるでしょう。

コスト面や工期で、プレ協が供給する鉄骨プレハブにはかなわない面もあるにせよ、地元の林業地、製材業、工務店の雇用創出になったことはたしかでしょう。災害後の仮設住宅建設需要の一部を、地域の住宅・木材産業雇用の機会とした福島県の決断は、評価されてよいことでしょう。

板倉仮設住宅完成後、大工100人が屋根の上に載って記念撮影

プレ協が各都道府県と「災害発生時には、一万戸を迅速にリースする」内容の協定を順々に締結していったのは、阪神大震災以降のこと。それにならう形で、福島や岩手で今回実現したこの木造応急仮設住宅建設を、人材や資材の確保という面から可能にする体制を今後つくっていこうと、いうことで、東日本大震災後から半年後の2011年9月、一般社団法人工務店サポートセンター(JBN)と全国建設労働組合総連合(全建総連)という、地域大工・工務店2団体が、一般社団法人全国木造建設事業協会(全木協)を設立しました。2018年6月現在、33の都道府県が全木協と災害協定を締結しています。

一般社団法人 全国木造建設事業協会(全木協)と災害協定を締結している都道府県
全木協のWebサイトより)

また、各都道府県の建設業協会が、それぞれの自治体と独自の災害協定を締結する例も増えてきているようです。地域木材、地域工務店による木造応急仮設住宅の供給体制は、少しずつ整備されつつあるのです。

応急仮設住宅のうち、自治体が買い取ったものについては、供与期間を経過したところで、払い下げたり譲与したりするしくみも、各地でできてきているようです。地元公募で6810棟の木造応急仮設を建設した福島県では、木造応急仮設住宅の多くが、そのまま現地で、あるいは別の場所へ移築して、復興住宅として再利用されています。住宅として再利用するとなれば、鉄骨プレハブより、木造であるメリットは、大きいといえるでしょう。

応急仮設住宅における再利用の方向性
(福島県土木部建築住宅課作成の「福島県応急仮設住宅の再利用に関する手引き」より)

応急仮設住宅の再利用プラン(案)
(福島県土木部建築住宅課作成の「福島県応急仮設住宅の再利用に関する手引き」より)

東日本大震災での経験や反省を踏まえて2013年に国交省が作成した「応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ」では「“応急仮設住宅を建設すること”ありきでない、被災者の居住確保に向けた別のアプローチも可能」と記しています。被災直後に仮住まいとしての応急仮設住居を建設する時点ですでに、被災後の恒久的な住宅を確保することまでを想定した選択肢を用意するという意味で「木造応急仮設住宅」も十分あり得ることが示されました。

被災後の恒久的な住宅確保までのフローイメージ
(国土交通省住宅局住宅生産課 作成の「応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ」より)

参考資料

平成20年:応急仮設住宅設置に関するガイドライン 日本赤十字社

必要量の把握、供給、入居、生活支援、解消、撤去・再利用までのガイドラインが示されています。各自治体でマニュアルをつくるべきと結んでいます。
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/oukyuu_guideline.pdf

平成24年:応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ 国交省

東日本大震災後の反省を踏まえ、自治体が応急仮設住宅建設マニュアルをつくっていくために国が提示した骨子。これをもとに応急仮設住宅の建設主体となる各県の担当者と、国土交通省等で今回の応急仮設住宅の建設において生じた課題等について、今後の災害に備えた検証を実施するワーキンググループが開催され、各都道府県でのマニュアルづくりにつながりました。
https://www.mlit.go.jp/common/000211741.pdf

平成23年:応急仮設住宅建設にかかる対応報告会資料 福島県

再利用まで見据えた、福島県での応急仮設住宅の供給実態をレポートしています。プレ協での供給がむずかしいと分かり、県内の工務店に依頼した経緯などが分かります。
https://www.mlit.go.jp/common/000170083.pdf

各都道府県でのマニュアルの例:長野県(平成29年改訂版)

(一社)全国木造建設事業協会及び(一社)長野県建設業協会と締結した「災害時における応急仮設木造住宅の建設に関する協定」に基づき、応急仮設木造住宅の標準仕様も新たに作成した。
https://www.pref.nagano.lg.jp/kenchiku/kurashi/sumai/tokei/jutaku/documents/170130manual00.pdf
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