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大工・沖野誠一さん(沖野建築):土佐の大工が土佐の素材でつくる家!

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つくり手:沖野誠一さん(沖野建築)

聞き手:持留ヨハナエリザベート

沖野建築の沖野誠一さんと和賀子さんご夫妻に会いに、2月の連休に、高知に行ってきました。もうすでに水仙の花盛りを迎え、早いところでは梅が花開いていました。高知市内の民家再生の現場と南国市内の新築の現場を取材させていただいた後、沖野さんご夫妻のお計らいで、県西部の四万十川上流の山奥にあって「環境モデル都市」を実現している梼原町、県の真東の室戸岬近くにあって土佐漆喰の街並が残る吉良川町にも連れていっていただきました。高知大学の学生 井上将太君や、オランダ人の紙漉職人 ロギールさんなど、沖野さんと同じ想いをいだく方たちに、たくさんのお話を聞かせていただき、沖野さんが考える「高知の大工として生きる」ことの意味やルーツ、そして広がりに触れる旅でもありました。

まず始めに、沖野さんが「大工として高知で生きていく」ことをどうとらえているのか、お伺いした話をまとめ、高知市内の再生民家の現場、南国市の新築の現場をご紹介します。

高知県産まれのものばっかりでの家づくり

ヨハナ高知県は、太平洋に面していて「海の県」という印象をもっていたのですが、実際に来てみると、ほとんどが山なんですね。地図を見ると、スペアリブのような形をしている高知県の骨にあたる、わずかな海沿いの部分に、人口が集中していて、分厚い肉の部分が山!

高知県。緑がとても多い土地だということがわかる。

沖野高知県の森林率は、じつに84%。有数の木材産地でもあります。高知県の西の四万十川流域は、檜の森林蓄積が日本一と言われていますし、東の馬路村周辺は、魚梁瀬という杉の良材で有名です。私は、この地元の高知県の木を使って、伝えられて来た大工技術で手刻み、高知県の気候風土に合った木組みの家をつくっています。

ヨハナ高知県の気候風土というと、温暖な気候でありながら、台風の通り道にもなる土地柄ですよね。

沖野家を台風から守るために、木の家の壁を土佐漆喰で塗る左官技術、どっしりした瓦を屋根に載せて風雨から家をしっかり守るといった伝統があり、それが、高知本来の原風景を作っています。

ヨハナ吉良川町でそのような街並を見せていただきました。土佐漆喰の真っ白い壁と黒い瓦のコントラスト、屋根だけでなく、壁の側面に埋め込んだ水切り壁、石を混ぜ込んだ塀など、家を守るための工夫が、美しい街並や風景を作っていました。

吉良川町の街並。特徴的な土佐漆喰の壁が続く。左の写真に写っている戸袋も左官仕上げ。

沖野ところが、こうした本来の高知らしい街並が、少なくなっていて、新建材のハウスメーカーの家にどんどん置き換えられていってしまっています。昔ながらのそのままではないにせよ、せっかくある高知の木、土佐漆喰、瓦を使った家づくりをしたいと心がけ、実践しています。

ヨハナ木も左官材料も瓦も地元高知で調達できるということですから、沖野さんのされている家づくりは、地域経済の循環にもつながるんですね。

沖野その気になれば、地域の素材だけで、家ができる。逆にいえば、大工だけいても、できない。家づくりにつながるたくさんの職種がみんなが元気でこそなりたつのが、高知の家づくりなんです。県産の素材としてもうひとつ大事なのは、土佐和紙です。障子や襖、壁、照明など、家の内装に和紙を使っていくことにも取り組んでいます。

ヨハナ和紙の原料となる楮から育てるところから自分で手がけ、伝統的な土佐和紙の製法を実践しているオランダ人のロギールさんという人がいます。彼の工房がある高岡郡檮原(ゆすはら)町を案内してもらい、手間をかけてつくられる貴重な和紙の製造現場も見せていただきました。落ち着いた風合いや、やわらかい光の反射は、手漉き和紙ならではと感じました。

梼原町に工房を構える和紙職人のロギールさん。詳しくは次のページで。

沖野力強い木、雨風から家を守りつつ高知の青空に真っ白に映える土佐漆喰、和紙など、地元の風景は、地元の素材で形作られてきました。派手ではないですが、落ち着いた、心和む空間ができます。また、作って20年もすれば建て替えるようなサイクルでいたんでくる新建材の家と違って、気候風土に合った素材の家は長持ちし、年月を経た分、味わいも増します。

ヨハナ地域の気候風土に合った家は、景観になじみ、落ち着いた住空間をつくり、地域の経済を支える。しかも長持ち!そのことをもっともっと知ってもらいたいですね。

「山しかない・・・」から「山がある!」へ
84はちよんプロジェクト

沖野ところが、この84%という高知県の森林率は「高知県ってほんと、山しかないよね」という数字としてしかとらえられていませんでした。しかも65%が人工林です。だからこそ、木を使わないと山は荒れていきます。せっかくあるのに眠っている状態の森林資源を、地域のプラスの宝としてとらえて、どんどん木を使っていこう、そのことによって、高知県の山に元気になってもらおうという「84プロジェクト」が、農林水産業を元気にするためのデザインにこだわる土佐山田在住のグラフィックデザイナーの梅原眞さんを中心にたちあがりました。

84プロジェクトのWebサイト

ヨハナ沖野さんが普段実践していることと、つながる発想ですね!

沖野実は8年前から「84はちよんプロジェクト」の理事たちと環境の森を作ろうと活動してきました。高知県が全国に先駆けて森林環境税を導入したこともあり梅原真さんと県民が身近に森を感じる場所を作りたいねぇと意気投合して「町に森をつくろう」と話は膨らんでいきました。私たちは「NPO牧野の森」と「伝統構造法を学ぶ会」を立ち上げることに。梅原さんは豊かな高知県をひとことで表す、あたらしいコミュケーションとして「84はちよんプロジェクト」を誕生させてくれました。

ヨハナ具体的な活動としては、どのようなことをしているのですか?

沖野高知県の木を使ったありとあらゆるものは「84はちよんブランド」ということで、共通のロゴを使っています。缶づめ、炭、木のスプーン、土佐てぬぐいなどの小物、今ある家のドア一枚、窓枠ひとつから、キッチンやウッドデッキなど、新築は無理でも、木でリフォームしませんか?という「84はちよんドアプロジェクト」そして、私たちがつくる「84はちよん大工の家」まで、森林資源を活かしたさまざまなものに「84はちよん」のロゴが使われています。CO2のカンヅメ、木のスプーンなどの商品は共に活動してきた仲間の作品なんです。

「84はちよんブランド」の商品の数々。(「84プロジェクト」のWebサイトより)

ヨハナ「84はちよん」という共通の名称や共通のロゴを使うことで、こんなにたくさん高知の山の木を使ってできることがあるんだ!ということを知ってもらおうということですね。

沖野2010年の84はちよん会議は「森と大工」。大工棟梁して木の家の模型を持参して出演して来ましたよ。昨年の12月の会議には、さまざまな事業体、行政、学生など、255名もの人が参加していました。現在は、個々の大工が独自のスタイルでロゴを使用しています。それぞれが「84はちよん」を広める活動をしていけば、大きなパワーになる可能性はあります。ぼくら大工も「84はちよん大工」と名乗って、積極的にかかわっていこうと思っています。

左:「84プロジェクト」のWebサイトにある、「84はちよん大工」のページ。沖野さんが紹介されている。
右:現場に掲げられた「84はちよん大工の家」の垂れ幕

「84はちよん大工」として
高知県産材の家を広めていく

ヨハナ取材でおうかがいした新築現場のT邸にも、足場がはずれるまでは、「84はちよん大工の家」という緑色の幕がさげられていましたね。

沖野経済指標はビリ、森林率84%をほこるニッポンイチの森の国。高知県民は家を建てる時は地元の木で建てるらしいで」それが高知の「豊かさの軸」や。『幸せ』とは「モノがたくさんあること」ではない。梅原さんは「84%の山」に着目し、「豊かさ」のスイッチを入れようとしている。伝統構造法を学ぶ会と気持ちは一緒だと感じました。

ヨハナ伝統構造法を学ぶ会はどのようなメンバーで活動されているのですか?

沖野大工職人、設計士、学識者、県職員、学生など約50名で構成されています。土壁や継ぎ手・仕口の強度実験や県内外への視察やメンバーが講師になる勉強会を毎月行って来ました。昨年12月には伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験 検討委員会キャラバンツアー「知恵と工夫の設計-伝統建築に学ぶ」の高知講演会を開催することができました。

ヨハナ民家再生の現場としておうかがいした入交邸の奥様は高知県庁の方で、行政の立場から84はちよんプロジェクトに理事として関わられているとおうかがいしました。

沖野高知県の持続可能な森林経営をしている山の材を、構造材等に70%以上使った新築やリフォームには、県から上限150万の助成金がでる「こうちの木の住まいづくり助成事業」制度があります。ぼくらが実践する家づくりで使える制度です。

ヨハナ84はちよんプロジェクトを通して、高知県の山の木を使うという発想が広まり、県の助成制度なども使いながら、木の家を建てる人が増えていくといいですね!

若い人もがんばっています!
森と建築とをつなぐ学生団体「FAN」

沖野高知大学の学生でありながら、この84はちよんプロジェクト立ち上げ時から、理事として活躍している井上将太君をご紹介します。

沖野さんと話す井上将太さん(右)。この春から神奈川の材木商社に就職し、愛知県に赴任してます。

井上さん高知県安芸市の大工の家に生まれました。沖野さんと同じく、父は木造の大工をしています。祖父は木こりの仕事もしていました。高校の時に、林学を学びたいと思い立ち、高知大学では林学部で森林科学を学びました。森林は、山菜や木の実、薪や木炭、そして建築材料と、昔から、人々にさまざまな恵みをもたらしてきた場所です。ところが、現在では、山に木があるのに活用されない、人の手が入らなくなったことで人の手が入ってこそ循環がまわっていた森林が荒廃しはじめ、山村の地域経済も破綻しはじめています。林学を学んだり、インターンシップで嶺北地域の製材所で働かせていただいたりして見えて来たのは、森と建築をつなぐことの大切さです

沖野無垢の木の家づくりは、山の木をたくさん使いますからね。

井上さんそこで、これから建築を志す学生や若い設計者に山の木と山の木を使うことの意味について、知ってもらう活動をしようということで、大学2年の時に森(Forest)と建築(Architectural)をつなぐネットワーク(Network)「FAN」という学生団体 をおこし、森林の面積の多い嶺北地域の本山町にある廃校に寝泊まりして、山のこと、木のこと、木造建築のことを学ぶセミナー「森の未来に出会う旅」を夏に主宰しています。2007年から毎年開催して、2012年の夏で6回目になりました。

井上さん山の木を伐るところから、それを製材して、建築材料となった木が上棟されるまでの、いわゆる「川上から川下まで」のひととおりの流れ、そして、木そのものが素材としてもっている性質や、地域産材の家づくりに登場する漆喰など、木以外の自然素材について知ってもらうことをしています。講師に、土佐派の設計士として有名な山本長水さん、土佐漆喰の松本勉さん、土佐和紙の宮地亀好さんなどをお招きしています。そして、大工技術については、沖野さんにお願いしています。

FANのセミナー「森の未来に出会う旅」(写真はFANのWebサイトより)

沖野国産材を利用した木造建築がもっと広がって行くためには、家を建てる建築士が森のこと・木材のこと・木造建築のことを知らなければならないのですが、残念ながら、大学教育ではそれを教えない。そこを井上君たちが学生セミナーを通してつなげようとしてくれているんです。「最近の若者は・・」などと言われますが、きちんと未来を見据えてやってくれていて、頼もしいですよ。

井上さんぼくらの世代にも、今までのような、地域経済が疲弊していくばかりのシステムを変えていかないと立ち行かないという危機感をもつ者、地元を見直そうという意識の若者もいます。ブログやツイッターなど、インターネットを通じてつながりを作るという面では、同じ問題意識をもつ者がつながりやすいという面もあります。そういった利点を活かして、地域が元気になることを通して明るい未来を築いていきたいというのが、ぼくの思いです。

森本さんぼくは、井上さんの後輩で、FANの学生セミナーを開催していた廃校跡のある本山町の近くの土佐町の出身です。実家が林業関係で、高校で進路のことを考えていた頃、高校にFANの案内が来て、参加しました。その出会いを通じて、林学を志し、高知大学に進学しそのままFANの運営にも関わるようになりました。昨年からは、井上さんが引退して、ぼくが実行委員長を勤めています。林業地域で開催するので、参加者が山や製材所を見に行ったりもしますし、廃校跡の教室や校長室で寝泊まりして、炊き出ししながらの合宿なので、町でやるセミナーより、お互いの気心が通じやすく、仲間づくりがしやすい面もあります。FANの活動を通じて、将来、元気な山村を作っていくためのつながりができていくといいなと思っています。

井上さん普段、沖野さんや父がしているような家づくりが、山の循環につながること、そのような建築があるんだということを、これから建築を手がけていく学生に知ってもらう機会ができて、よかったと思っています。県外からの参加者がほとんどだったので、もっと県内の学生にも参加してもらえるようになったらいいなと思っています。

ヨハナ学生セミナーを運営していくこと自体が、これから先のつながりを生んでいくのでしょうね!卒業される井上さんはどのような進路に進まれるのですか?

井上さん神奈川の材木商社で3年間は修業して、いろいろな産地の方との出会いや、そこから学ぶものに期待しています。高知に帰ってきたら、高知の山を元気にしたいと考えているさまざまな立場の方といっしょに、高知の山の森林資源が活用されていくように「84はちよんプロジェクト」をさらに推進していきたいと思っています。

檮原町に行ってきました!

沖野和賀子さん。沖野建築の企画・情報発信担当です。

和賀子84はちよんプロジェクトの発想の根っこにあるのは、高知の森林資源の見直しですが、その根っこには「田舎って豊かだよね」という発想があるんです。そして、美しいまち、美しい風景、美しい土佐の森を育てる。それを早くから実践してきたこの檮原(ゆすはら)町には、ぜひお連れしたかったんです!

隈研吾さん設計の木造の町役場町。町そのものが、木造での大規模建築に地域材を活用する需要を生み出しています。

地域資源の見直しの動きをすでに実現している町、四万十川源流の檮原町に連れていっていただきました。「環境モデル都市」として、公共建築への地域材の活用、地域の景観に配慮した改修への助成、風力・水力・太陽光といった地域での自然エネルギー自給にも積極的に取り組んでいます。

和賀子檮原町には、坂本龍一さんが中心となって持続可能な森林を認証する「more trees の森 第一号」があるんですよ。坂本龍一さんを招いて環境イベントをしようという計画を進めています。

戦後すぐに移築された木造の劇場ゆすはら座。ここでイベントができたらいいな!
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沖野誠一さんと、「84はちよんプロジェクト」デザイナーの梅原真さん