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設計士・岩波正さん(三和総合設計):なんで木の家がいいのか、とことん考える

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三和総合設計株式会社 岩波正さん

昭和31年 滋賀県大津市生まれ 昭和59年 設計事務所勤務を経て独立。岩波建築設計事務所を設立。 昭和61年 三和総合設計株式会社と改称 平成10年 木考塾をはじめる 平成13年 ひとときネット設立

琵琶湖のほとり
大津の三和総合設計

三和綜合設計のマークと、事務所前の電柱に掛けられている看板

生まれも育ちも琵琶湖のほとりの大津です。比叡山のお膝元の坂本はすぐそこだし、京都も近い。伝統構法による家づくりが特殊なことではない土地柄ですから、いい職人さんとの出会いには恵まれていますね。長ホゾ込み栓、金輪継ぎなど、地元の工務店の仕事でも、ちゃんとしていますよ。

父親が自営業だったので、「雇われるのでなく、独立してできる仕事をしたい」という気持ちが強かったです。大学で建築科に進んだのも、そのためです。思い返してみれば、技術家庭などで木工するのは好きでしたが、進路を決める時には「木の家」とまではイメージしてなかったですね。まずは大手の設計事務所に就職。大きな役所の建物などつくっていました。

4年8ヶ月でやめて事務所を構え、2年後に株式会社にしました。建築設計、土木設計、測量という異業種が3人集まってつくった会社だったので「三和総合設計」と名付けました。今ではほかの2人は独立していますが、「三和とは、お施主さん、設計、職人さんの和です」と説明できなくもないですね(笑)。創業当初は「代願」といって、もうプランは決まってしまっている家の図面を申請のためだけに描くぐらいしか仕事がありませんでしたが、それでもまずは知り合いの家からはじめて、自分でもぼちぼち木造の注文住宅のプランニングをしていくようになりました。

なにがいいのか? 考えるようになって
木の家がいいと思えてきた

はじめから木の家、伝統構法とこだわっていたわけでもないんです。でも仕事を通して素材に触れるようになってくると、だんだんに「これは見た目はいいけど、実はいいものとはいえない」という、ものの区別が分かってくるようになって、そうなるうちに「木がいいな」と思えてきたんです。

たとえば、新建材。あれは住む人のことを考えてできたんじゃなくて、大量生産できて安いとか、工業製品だからきれいに揃っていて扱いやすいといったつくる側の「都合」で出てきたんだな、というようなことが分かってくるわけです。そうなると、プレハブみたいに「都合」ばっかり組み合わさってできているものはイヤやな、と思えてくる。

木に気持ちが向かうとこんどは、木のことをいろいろ知るようになる。すると、ここでもまた「みんな米マツがいいから米マツを使っているんじゃなくて、防腐剤漬けで外国から来るものであっても、安いから、手に入りやすいから使うんだな」と分かってくる。住む人の本当の幸せのためではない「都合」が見えてくる。ここまで来ると、もう、とことん考えるしかないんです。「これがいい、あれがいいって言うけど、ほんとうはどれがいいの?」「いいと言われているものは、なんでいいの?」

阪神大震災後に
木考塾をたちあげた

全ページ手書きの木考塾のパンフレット「私たちが伝えたいこと」

総合的に考えて「そうか。木の家や」と思ってから、自分なりに勉強したり、大工さんの話を聞いたり、経験を積んだりして木の家をつくってきました。「木の家はだいたい、こんなことでええのかな」と思えるようになってきたかな、というところに、阪神大震災が起きたのです。ショックでしたね。経験だけでは太刀打ちできないことがある。だったら、もういっぺん木の家づくりを一からちゃんと考えよう。そんな気持ちで、知り合いの大工さんや工務店さんに声をかけてはじめた勉強会が「木考塾」です。

高い木造技術があるはずの土地柄なのに「木の仕事がない」と大工さんが言っているのを聞いたのもきっかけになりました。たしかにこのあたりは京阪神の通勤圏で、すごい勢いでプレハブ住宅が増えていました。木の家づくりの技術があるにもかかわらず、その技術を発揮しなくていいシステムになっているから、大工さんは腕をふるえないんやな、と思ったのです。

木の家がプレハブ住宅に劣っているはすはない。だのになぜ、プレハブ住宅に負けてしまうんだろう? そこを考えてみたのです。設計者は木のことを知らないで図面を描く。大工さんの話を聞かない。大工さんは設計士がけむたい。そんなバラバラな状態でいる限り、同じ会社に設計部があって、技術者もいて、営業マンもいるプレハブ住宅に太刀打ちできないんじゃないか。

もっとお互いの得意分野とする知恵を出し合って協力していけば、ちゃんとした木の家づくりができるはず・・・。こう言うとあたりまえに聞こえますが、実際には設計事務所って、自分が描いた図面をどこの工務店に施工してもらうか、合い見積もりをとって少しでも安いところに決めるのが仕事、と思っているのが普通。ほんとうに協力し合おう、となあなあでなく手を結ぶ、というのは意外と画期的なことなんですよ。

それぞれの得意分野を持ち寄って
自分にないものを相手から学んでいく

自然素材生活

木考塾の活動記録。密度の濃い内容が5年間びっしり並んでいる。木の家ネットのメンバーの名前もたくさんあります。(クリックで拡大)

最初は知り合い十数人に声をかけて、平成10年の7月から始まった木考塾。毎月1回、テーマを決めて講演会や実験、体験などをします。特に拡げようとしてきたわけでもないけれど、今では100人ほどになりました。林業関係の「木のフェア」なんかで子ども向けの簡単な木工のブースを出展したり、木考塾主宰としてパネラーとして呼ばれたり。そんな折りに声をかけてきて入ってくれるケースが多いですね。設計、工務店の経営の人、職人さん、左官屋さん、塗装屋さん、木材関係、教職など職種はいろいろです。

一回ごとに会費を払ってその都度参加するネット会員と、年間12,000円を払って毎回来る常連の会員とがいて、ホームページもあります。理屈だけでなく、自分にないものを勉強して相手のことを理解する。そして最終的には、協力しながらいっしょに仕事していくことをめざしています。設計者が継手をつくってみる、近江八幡の「ポリテクカレッジ」で継手の曲げ実験をする、左官をやってみる、間伐など内容はさまざま。会員さんの作業場や山が会場になることもあります。最近はあんまり室内でやってないなあ。

忙しい中で事務局をやっていくの大変だけれど、設計の仕事に追われている時にこそ馬力を出して木考塾のパンフレットつくったり、なんとか続けていますよ。

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