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建具職人・有賀恵一さん(有賀建具店):ちがっているから、おもしろい

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建具・家具職人 有賀建具店 有賀恵一さん

1950年 長野県伊那谷に、建具職人の長男として生まれる 1968年 基督教独立学園高等学校卒業と同時に、父の元で建具の修業を始める 1978年 有賀建具店を継ぐ 2003年 森世紀工房にたちあげ時より参加

この色を見てください!

見てください、この木の、まっきっきな黄色! 「本ウルシ」。私の一番好きな木です。この赤は「チャンチン」、これも好きですねえ。別名「唐変木」。色はとっても個性的だけれど、性質はものすごく素直な木です。こうして並べてみると、ほんとにいろんな色があるでしょう? お客さんや設計士さんにはうちの木の見本をセットにしてさしあげるんですが「これ、着色してあるの?」と言われることも多いんです。「いいえ、無垢のままの色です」って言うとみなさん、びっくりされます。色だけじゃない。触った感じや、手に伝わる温度も、ほんとに木によってそれぞれです。

国産材はほんとにいろいろ。それぞれに個性がありますよ。いまや製材品となって入ってくるようになった外材と比べると、均一でないし、反ったりねじれたりも多く、安定しないんですけどね、なんともいえない表情がある。性能では計れない「よさ」があるんです。「申し分のない、いい子」というのでなく「だれかにとっては悪い子でも、私にとっては宝」という感じのものが多いんです。どうにも使いようがないと思われているクズの蔓だって、ひきだしの前板に使います。木は全部がちがう。だからおもしろい。多様であることのおもしろさですね。

「たくさんある中から優れた木を選ぶ事によって、良い仕事をする」「木のいい部分を使って、よくない部分は捨てる」という考え方もあるんですが、どうもそういう気になれないんです。多様で、クセもある木。それをどう、無駄なく活かそうかな、と考えるのがおもしろいんです。昔の建具を見ると、いい材料を使っていないことも多いんです。節のある材料もあたりまえに使っている。いいところだけ使ってあとは捨てる、ということなんかしていない。けれど、いい仕事をしている。いい材料を遠くから取り寄せるということもなく「そのへんにあるもの」を使ったんでしょうね。でもその中にすばらしい工夫や苦労の跡が見えるんです。「いろいろな木がある、さあ、どう使おうか!」そんな仕事が私にとってはおもしろいですね。

私のおすすめ本:大日本有用樹木効用

木の性質だけでなく、昔からの用い方などがいろいろ書いてあります。私の好きなウルシは漆塗りの原料としては知っていましたが、実からろうをとったり、若い葉を食べたりもできるということはこの本で初めて知りました。明治に出た本ですが、最近再版されたので、買い求めることができます。

昔の本ですから、索引が「50音順」でなくては「いろは順」でね。うるしの「う」を探すと「…うゐのおくやま けふこえて…」なんてところにあったりする。これに慣れるまでが結構大変なんです!

本文320頁 定価5,775円 (税込・送料別)

問合先:林業科学技術振興所  tel:03-3264-3005  fax : 03-3222-0797 e-mail : info@rinsin.or.jp 

埋もれていた大昔の木が、よみがえる

埋もれ木ってご存じですか? 大水や噴火で地中に埋もれた木を掘り出して使うんです。何百年、何千年と泥の中に埋まっていたのでその古さに敬意を表して「神代タモ」とか「神代クリ」などと呼びます。私がいろんな木が好きだということを聞き伝えに知った人から、ある日、電話がかかってきたんです。「阿賀野川の浚渫(しゅんせつ)工事をしているから、こんど埋もれ木が出るよ」って。それを聞いて、トラックで駆けつけましたよ。

埋もれ木。話には聞いていたし、北海道の火山灰に埋もれていたタモを使ってみたこともありましたが、実際に土砂の中から引き上げられたところへ取りに行くのは初めてでした。現場に行ってみて「こんなにいろんな種類の木が埋もれ木になっているんだ…」とびっくりしました。ナラ、クリ、タモ・・元の樹種が特定できないのもあります。大水がなにかで林が根こそぎやられ、流されて来て土砂に埋まったんですね。

埋もれているうちに色が変わってしまって、元が何の木だか分からなくなってしまうのも多いんですが、不思議なことに、何百年、何千年埋まってても、木の性質は変わりません。クリはクリ、ナラはナラの性質をそのままにもっています。製材すれば、今伐ったばかりの木と同じようにちゃんと割れたり、反ったりするんですよ。生きているんだなあ、と感心します。でも、色は新しい木と、ちがう。元の木肌が土砂を吸って、なんともいえない、深い色合いになっています。古い家に木製建具を新調する時などに活躍してくれます。山梨の築80年の家の屋根裏に二重ガラス戸を入れたんですが、その木枠には「神代タモ」を使いました。

「木好き」が高じて、家具に

いろいろな木のお話をしましたが、本来、建具屋が扱う樹種ってそう多くないんです。家具と違って建具は動かすものですし、安定した三角形ではなく、建具はほとんど四角形でできてますから、変形しやすい。そこへもってきて、夏には湿気でふくらみ、冬には乾燥してやせる。だから、樹種として安定していて、曲がらず、直線が素直に出やすい針葉樹がいいんです。最近でこそ杉はよく使いますが、このあたりには昔からスギってないんです。ヒノキをよく使っていましたね。戦後、信州に多く植林されたカラマツは、狂いやすいので建具には向きません。

昔はひとくちに大工以外の木工の職といっても、戸や障子の枠は建具屋、婚礼ダンスなどは家具屋、小引き出しや机といったこまかい木の調度品は指物屋、襖に紙を貼るのは経師屋と、職種がこまかに分かれていました。うちは建具屋。それぞれにちがった技術があり、道具があるんです。

いろいろな木のお話をしましたが、本来、建具屋が扱う樹種ってそう多くないんです。家具と違って建具は動かすものですし、安定した三角形ではなく、建具はほとんど四角形でできてますから、変形しやすい。そこへもってきて、夏には湿気でふくらみ、冬には乾燥してやせる。だから、樹種として安定していて、曲がらず、直線が素直に出やすい針葉樹がいいんです。最近でこそ杉はよく使いますが、このあたりには昔からスギってないんです。ヒノキをよく使っていましたね。戦後、信州に多く植林されたカラマツは、狂いやすいので建具には向きません。

昔はひとくちに大工以外の木工の職といっても、戸や障子の枠は建具屋、婚礼ダンスなどは家具屋、小引き出しや机といったこまかい木の調度品は指物屋、襖に紙を貼るのは経師屋と、職種がこまかに分かれていました。うちは建具屋。それぞれにちがった技術があり、道具があるんです。

けれど、私は生来いろいろな木が好きだったので、建具屋になった当初から「いつか、いろいろな木を使える家具を手がけてみたい」と思っていたんですね。建具は平面的な仕事ですが、家具は立体でしょう? その面白さもあるし。すぐ近くに住む従兄がやっている「有賀製材所」が建築請負業もしているので、その現場の建具は父の代から手がけていました。そこでまずは、有賀製材の現場で、台所や衣類の収納などのつくりつけ家具にはじまり、下駄箱、洗面台などと広げていって、今では、いろいろな家具もつくっています。

色いろ箪笥。引き出しの前板のひとつひとつが、ちがう木でできている。有賀さんらしい作品だ。

有賀建具店ではたらきたい、と行って来る若い人には、伊那にある技術専門校で家具を教える木工科出身の人が多いんです。そんなこともあって、家具の仕事は広がりつつあります。今では、売上では建具と家具と半々になりました。かかる時間は家具の方が多いですけれどね。

最近の家具の人は「ひとりひとりが作家さん」という雰囲気があって、凝ったデザインのものが多いんですが、私のところのはそういう風ではないですね。シンプルに、木そのもの、木それぞれのよさを見せることに徹しています。最近では長野県のカラマツ利用促進プロジェクトから生まれた「森世紀工房」の一員として、田中康夫長野県知事の「ガラス張りの知事室」で使う椅子の製作もしましたよ。(詳しくは次のページへ!)

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