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大工・宮内寿和さん(宮内建築):大工が挑戦する「水中乾燥」

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大工棟梁 宮内工務店 宮内寿和さん

1967 滋賀県大津市の大工職人の長男として生まれる 1972 5歳。将来大工になると決める 1983 中学卒業後、夜は定時制高校に通い父親の元宮内建築で大工修行に入る 1998 木孝塾(木造在来工法住宅を考える会)に参加 2001 県産材を中心とした家造りを始める 2003 水中乾燥の取り組みを始める  2006 NPO法人甲賀・森と水の会発足、副代表に就任

インタビュー:2005年11月3日、2006年4月2日 取材執筆:持留ヨハナエリザベート

「木の家ネットの大工たちに檄を!」2004年11月、滋賀県大津市で開催された総会の帰り際、滋賀の大工、宮内寿和さんはそう言った。一年後の2005年11月、あらためて大津に宮内さんを訪ねた。さらに年が明けて2006年4月「まだ話し尽くせていない!」と、今度は宮内さんが山梨まで、木の家ネット事務局を訪ねて、熱く語ってくれた。2回にわたり、多岐に広がった話の中から、「水中乾燥」の話題を中心にまとめた。

誰のための家づくりなんや!

「いったい、誰のための家づくりなんや、ということをもう一度考え直さなあかんと思うんですわ。木組みとか伝統構法とか、自分の大工としてのこだわりを満足させるためだけの家づくりじゃ、あかん。自分を頼って家をつくってくれと言ってきてくれはったお施主さんに満足してもらうことをまず第一に考えなあかんのです。」

宮内さんはかつて、欠陥住宅の調査に関わったことがある。手抜き工事やずさんな監理といった例だけでなく、伝統構法でつくられた「欠陥住宅」もあった。「そこまで頼んでへん、というところまで大工の方でこだわっている。それでいて、施主が要望したことをかなえてないんです。」大工の頭の中が大工技術のことだけでいっぱいになっていてはいけない。目の前の木と向き合うことだけに満足していてはいけない。自分が大工として生きて行けるのは、施主があってのこと。だから、施主の幸福を第一に考えなくては。

聞けばなんということはない、あたりまえの話のようだ。だが、宮内さんはそこからさらに深く、突っ込んでいく。「天然乾燥材にこだわる、後から梁に割れが入る、それを自然素材だからしかたない、と説明して済ましててええんやろか?」「木組みの家って、デザインがある程度、決まりきっている。もっとモダンでかっこいいものがあってもええんやないか?」「使いやすい、いい木を選んで使うだけでなく、地域の山からいちばん多く出て来る木を使っていかなあかん。」

自らへの鋭い問いかけに答をみつけようと、宮内さんは行動を開始する。自然でしかも品質のいい乾燥方法を追求して木をいったん水に浸けて引き上げてから自然乾燥させる乾燥方法を試みる実験へ。地元の山の四寸角材を伝統構法の技術で組みあげたモダンな架構の提案へ。日々の現場での家づくりの精力的に活動する宮内さんを駆り立てる気持ちの大もとは「お施主さんに満足してもらえるものづくり」をめざすことにある。ひとつひとつの取り組みについて、訊いてみた。

割れてしまっては、 やっぱりあかんのです

「刻みも上棟もうまくいった。きれいにおさまった。でも、竣工後何ヶ月かしてお邪魔すると、梁のいっちばんええところに割れが入ってる! もう、ほんとに、あっちゃー、という感じですわ。お客さんは理解してくれてはります、木は生きてるんだからしかたないんやって」無垢の木の家づくりでは、「木が後から割れることがある」ということは施主さんには十分に説明してあり、承知してもらっていることなので、クレームの対象になるわけではない。

「でも、その梁は後から取り替えるわけにはいかない、お施主さんはずーっとそれを見ながら住んでいかなあかん。」それは施主の満足とはいえないだろう、と宮内さんは言うのだ。「大工としても、思いますよ。どんなにきれいに仕上げても、あとから割れてしまうんじゃあね。木材の乾燥具合に自分の仕事の良し悪しが結果的に左右されてしまうなんて、悔しいやないか。」大工としての道を全うするには、木材の乾燥の問題は避けて通れない。自分なりの答を出したい。宮内さんは強くそう思うのだ。

割れが入るのはなぜか?

含水率1%あたりの収縮率


接線方向

半径方向

繊維方向
0.3%
0.15%
0.015%

生きている木は多くの水を含んでいる。水をたくさん含んだ状態で伐採された木は、丸太から製材され、建築現場へと運ばれるまでの過程で、次第に乾燥していく。木材の乾燥度合いは「含水率(木材の水分以外の重量に対する、水分量の割合)」であらわされるが、立ち木では含水率が100%を越える、つまり、重量の半分以上が水、という状態であることが多い。

伐採した木をそのままおいておくと、まずは、細胞と細胞の間に入っている「自由水」が抜けていく。「自由水」が抜けきるポイントを「繊維飽和点」といい、この時点で含水率は30%ぐらいにまで落ちている。「自由水」がなくなると、今度は細胞の中にある「結合水」が抜けていき、最終的にその木材の置かれた環境の温度・湿度に応じた平衡状態に達する。季節やその地域の気候によって違うが、平均するとおよそ含水率15%がこの平衡状態とされており、これを「気乾含水率」とよぶ。

含水率が30%ぐらいの繊維飽和点を過ぎて結合水が抜け始めるあたりから「収縮」が起こるのだが、その収縮度合いが左の表に示したように木の繊維の方向によって異なる。そのひずみによる応力が割れや裂け生させてしまうのだ。

「どんな木でも、繊維飽和点まではたやすく行くんです。でもその先で、みんな苦労している。」宮内さんと共同で水中乾燥の実験に取り組む(独)雇用・能力開発機構ポリテクカレッジ滋賀の定成政憲先生は言う。「特に杉は水が抜けにくく、乾燥がむずかしい樹種です。雨ざらしの自然乾燥で一年間放って置いておいても、気乾含水率まで落ちて行かない。中の方はいつまでも湿ったままなのです。」

乾燥方法のいろいろ

なかなか水が抜けていかない木を、材木として使うには、乾燥させなければならない。昔は伐採した木を丸太のまま雨ざらしにして置いておく、あるいは材木に挽いてから風通しのいいように桟積みしておくなど、時間をかけることで乾燥させていた。これを「天然乾燥(自然乾燥)」という。以前、徳島の和田善行さんのインタビューで紹介した伐採した「葉枯らし乾燥(伐採後、葉をつけたままの木をしばらくその場に置き、葉から水分を蒸散させてから玉切りする)」も天然乾燥に入る。和田さんのところで出している材木は葉枯らしで夏場では3〜5ヶ月、冬場2〜3ヶ月おき、製材してからも製材してからも数カ月〜半年くらい桟積みをして乾かしている。それだけの時間がかかるのだ。

「伐採した木をもっと早く材として出せないものか?」 ということで大手の製材工場ではじめたのが、人工乾燥だ。ひとくちに人工乾燥といっても、100℃以上の高温で乾燥させる「高温乾燥」、80℃程度の「中温乾燥」、40℃ほどで除湿させる「低温乾燥」などがある。温度が高いほど乾燥期間は短くなり、高温乾燥なら1週間程度で含水率を20%以下にまで落とすことも可能だ。ただ、高温乾燥の場合は機械設備などの初期投資が2000万円ほども必要になる場合があるため、その投資や回収ができる規模の製材所でないと、備えることができない。しかし、最近は高温で表面を固めて割れを防止する方法が開発されたこともあり、高温乾燥が採用されるケースが増えている。

宮内さんは地元の木を使うという信条のもとに「甲賀森林組合」から木をとっているが、そこでは中温乾燥の機械を備えている。現場に入って来る木は、どの程度乾燥しているのだろうか?「含水率30%ぐらいですね。でも、中の方はもっともっと湿っている、50%ぐらいはある感じ。表面は乾いていても中に水を保っているペットボトルのような状態ですわ。」含水率30%といえば、これから結合水が抜けていって、まさにこれから割れや裂けが発生しやすくなる段階だ。「あ、これはあとで割れるな、というのが、悔しいけど、分かりますよ。」

高温乾燥材を使いたくないわけ

乾燥が十分でない材を使えば、どうしても施工後に寸法変化を生じてしまう。であれば、十分に乾燥させた木を使えばいいのではないか? JAS規格では乾燥の度合いに応じた木材のランクづけをしている。含水率25%以下の木にはD25、20%以下の木にはD20、15%以下の木にはD15、というシールが貼られ、含水率が低いことがその木材の「後から狂いの出にくい優秀な木材」としての商品価値となる。住宅金融公庫融資住宅の木造住宅共通仕様書や住宅の性能表示においても、構造材には含水率20%以下の乾燥材の使用が前提となる。

だが、宮内さんはそこまでの乾燥材を使おうとはしない。なぜなのか? 「工場出荷時に含水率20%以下を実現するには、今のところ機械で高温乾燥にかけるしかないんですけど、高温乾燥だと木のよさが死んでしまう。木であって木でない。だから使わないんです。木の魅力が失われている。」木のもつ色や艶、香りなど、木に備わっているさまざまな性質が、高温をかけることによって失われてしまうのだ。「刻んでもなんか、バサバサ、ガサガサしているしね。」宮内さんだけでなく、木の家ネットの多くの大工が同様のことを口にする

ホームセンターで売っている2×4材。均一でつるんとしていて工業製品のようだ。

定成先生もこう言う。「高温乾燥した木材と自然に乾燥させた木材とを並べてみれば、ちがいは一目瞭然です。高温乾燥の木はのっぺりとしていて、みんな一様で、優秀な工業製品という感じ。でも、なにか大切なものが失われている。」だが、木の家に住みたいと人が望む時に選んでいるのは、実は高温乾燥で失われるその「なにか」なのではないか。それは含水率という数字では測れない、感覚的なものではあるのだが。「私も木材の乾燥を専門にやってきていますから、高温乾燥にかけて含水率を落とす技術の進歩はずっと見て来ています。めざましい成果だと思いますよ。でもそれはあくまでも木の自然な性質や個性を人間が制御していくことで、均一な工業製品としての『エンジニアリングウッド』をつくりだす、そういった方向での成果なんですね。」

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