History
木の家ネットの歴史
一般社団法人化後 2020年〜
任意団体 2019年まで
「建物と基礎とはアンカーボルトで緊結する」と規定している建築基準法では、「石場建て」は法的な位置付けが与えられていません。そこで現在では、限界耐力計算を用いて構造安全性を証明し、構造適合性判定を受けなければなりません。個人の住宅としてはかなり高いこのハードルを下げ、建てやすくするために、伝統的構法の科学的な研究にもとづいた、立法が必要です。そのために伝統的構法の設計法構築とそのための性能検証実験を国交省に求めてきました。
国交省の補助事業「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会(第1期委員長=坂本功、第2期委員長=鈴木祥之)に、多くの会員が実務者として協力。さらに会員の何人かが実務者委員として、設計法チームや材料チームの活動に携わりました。また、実大震動台実験前後の大工たちによる損傷観察などに、多くの会員が参加しました。
国土交通大臣認定構造計算ソフトウエアの計算結果を改ざんした構造計算書偽装を、行政が見抜けなかった「耐震偽装事件」に端を発し、2005年、運用を厳格化した「改正建築基準法」が公布されました。これにより、耐震偽装事件で用いられたのと同じ限界耐力計算で構造安全性を証明し「性能規定」で建ててきた伝統的構法も、かなり建てにくい状況に追い込まれてしまいました。
建築基準法の運用の厳格化で伝統的構法のハードルがあがるのは、そもそも建築基準法が伝統的構法をまっとうに位置付けてこなかったからではないか? という想定のもとに、会員のみならず職人がつくる木の家ネットWebサイトでも公開アンケートを実施。その集計結果をまとめ、Webで公開したほか、国土交通省副大臣にも提出しました。
建築物の省エネを「外皮性能の強化」で実現しようとする省エネ基準では、壁の内部に断熱材を入れられない土壁や、自然素材を使った断熱材は、低い評価しか与えられません。このような基準のままで適合義務化となれば、土壁をはじめとする「和の住まい」的な住宅は新築できなくなってしまいます。
土壁や自然素材を多用した家に住む世帯の外皮性能と一次エネルギー消費量との関係性を生活実態から把握するために、JIA環境部会や建築研究所が行なった調査に、土壁の家づくりを実践する会員が事例を提供。外皮性能は基準に適合していなくても、低いエネルギーで暮らしている、省エネをリードしている実態が判明しました。この事実が省エネ基準の適用除外となる「気候風土適応住宅」を、全国各地の行政主導で定義していけるようになる端緒をひらきました。
2009年「住宅瑕疵担保責任履行法」施行により、新築住宅において完成後10年間は、施工者が瑕疵担保責任を負うべく、住宅瑕疵担保責任保険への加入が義務付けられました。この義務付けの際に、内外土壁の伝統構法は、雨水の侵入リスクから、保険会社が保険加入時に示す「設計施工基準」には乗らず、保険の対象外になりかねない状況に置かれました。
関連諸団体に呼びかけて「これ木連」として、国と保険会社とを招聘した勉強会を開催。土壁など、伝統的な構法において、雨水侵入に配慮した設計仕様モデルを実務者側から具体的に提示しました。これにより設計施工基準外の事例に適用される「3条申請」において、無責ではなく、適用除外としての位置付けを得ることができました。
福島県いわき市で7年間住まわれ、役目を終えた板倉仮設住宅を、豪雨被害を受けた岡山県総社市に移設するプロジェクトに、職人がつくる木の家ネットから弟子や仲間を含め40名以上が「応援大工」として参加。現地の大工との協力関係、解体再利用できるつくりかたで仮設住宅をつくる意味、材のストックなど、動いている中で見えて来たさまざまな課題を、日本板倉建築協会の安藤邦廣さんや、いわきで板倉仮設住宅建設を指揮した現場監督さんを交えてふりかえり、3部作のコンテンツとして公開。
被災2週間後に現地入りしての調査報告。瓦屋根や土壁の崩落が与えるマイナスイメージ、地盤による被害の大きさの違い、新耐震基準以前と以後の建物の被害の比較、石場建て建物の挙動などの論点を実務者がレポート。地震で足元が「動いた」石場建ての建物を元に戻す「家戻し」にも、全国から大工たちが馳せ参じた様子も、参加した大工による解説を交えた写真レポートとして公開。
現地会員への支援物資を搬送。震災から半年後には、現地幹事からの「今だからこそ来てほしい」との希望で、震災前から石巻で予定していた総会を、開催。津波被害のあとに残った建築物の残骸、避難所からプレハブ仮設住宅を経て、本設住宅に住み始めるまでの長いプロセス、地域コミュニティーの力など、さまざまな課題や動きを取材、会員からの声も織り交ぜて発信しました。
調査隊を栃尾市半蔵金に派遣。伝統的な民家にあとからコンクリート打ちの浴室や台所を増築した接点部分で被害が大きいことが報告されました。その7年後の修復状況のレポートも。
選定保存技術として文化庁が認定した職人だけでなく、家大工や伝統建築をめざす若者までを含めてユネスコ無形文化遺産「伝統建築工匠の技」に包含することを求めて運動してきた「伝統を未来につなげる会」の呼びかけに応えての「職人宣言」活動に協力してきました。
「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」を掲げる伝統木造技術文化遺産準備会が2014年に開催したキックオフフォーラムでは、若い職人20数名がひとりひとり生声で語る「職人宣言」を実施。続けて「伝統を未来につなげる会」が2018年に開催し、明治大学に1000人を超える人が集まった普請文化フォーラムでは、「職人100人が登壇しての職人宣言」をめざし、職人がつくる木の家ネットメンバーを中心に実現。その後、SNSでこの運動をさらに拡散し、多くの職人や、職人をめざす建築専門学校の学生など総勢657人(2019年4月21日 現在)が、動画で生き生きと「職人宣言」を実施しました。そのインパクトは、NHKの情報番組「シブ5時」でも紹介されました。
プレカットが主流となり、手刻みをする工務店が著しく減少していく中で、手刻みの工程に欠かせない電動工具である「込栓角ノミ」が廃番となってしまいました。これ以外にも、すでに廃番となり中古品を求めるしかない、廃番のおそれが極めて高い電動工具もありますし、鉋(かんな)、鋸(のこぎり)、鑿(のみ)などの手道具をつくる鍛治職人も激減しています。
伝統建築のためのすぐれた電動工具を製作し続け、開発企画を募集している伊勢の松井鉄工所に「込栓角ノミ」復活をお願いする署名をネット上で募集、会員以外からも多くの署名が集まりました。その後、試作機完成時に大工たちが松井鉄工所を訪れ、使用感をフィードバックするなど、やりとりを続行。本機完成後には、木の家ネットの総会に出席してお披露目をしていただきました。