
ユンボで土を掘る。
そこへ石を並べ、落ち葉を敷き、炭をまく。
一見すると庭づくりのようですが、これは浄化槽排水工事の現場です。
千葉県印西市で建設中の石場建て住宅は、各地で活動する木の家ネットのつくり手たちが、この一軒のためにつながったプロジェクトです。
設計は有限会社綾部工務店、設計・監理協力は木の家設計室 アトリエ椿、建物の施工は風基建設株式会社、土壁をはじめとする左官工事は壁左匠しらいし株式会社が担当。それぞれが培ってきた専門性を持ち寄り、一つの住まいづくりを進めています。
一昨年の秋ごろから本格的な設計が始まり、昨年秋に着工。今年3月に上棟。そして今回行われたのが、冒頭で紹介した浄化槽排水工事です。
でも、ただ排水管を通すだけではありません。工事で土を掘ったり埋め戻したりすると、地面の状態はそれまでとは変わります。そこで今回は、排水管を通すと同時に、土の中に水や空気が巡る道をつくることにしました。
工事によって土地の環境を損なうのではなく、むしろ整えていく。雨水をできるだけ敷地の中で受け止め、土へ浸透させることで、水を一気に外へ流さない環境をつくっていこうという試みです。
こうした考え方は、自然が持つ機能を生かしながら、防災や環境づくりに役立てる「グリーンインフラ」とも重なります。
今回は、木の家ネットのつくり手たちが協働するこの現場から、建物だけでなく、その周囲にある土や水の流れまで考えた家づくりを紹介します。

内装工事が行われていた完成間近のI氏邸
土の中の、水と空気に目を向ける
2026年7月1日、ワークショップも兼ねた浄化槽排水工事が実施されました。
一般的な排水工事では、浄化槽から排水管を埋設し、土を埋め戻して工事を終えます。今回はそこに、土地の水や空気の流れを考える、もう一つの工夫を加えました。
排水管を埋設するために掘った経路に、石や炭、落ち葉などを組み合わせて施工するというものです。
今回の施工では、こうした土中の水や空気の動きに着目する「土中環境」の考え方が取り入れられています。土の中では、水や空気、植物の根、菌類やさまざまな土壌生物が互いに関わり合っています。そうした環境にも目を向けながら、雨水をただ敷地の外へ排出するだけではなく、その土地で受け止め、浸透させる方法を考えてみようという試みです。
排水溝に割栗石・燻炭・落ち葉を

作業手順を説明する稲村純一さん(中央)
では、この日行われた工事を、ざっと振り返ってみましょう。
施工を担当したのは造園家の稲村さん。稲村さんは、土中の水や空気の動きに着目した環境改善に取り組んできた千葉県の高田造園設計事務所で経験を積んだ後に独立。現在は個人住宅の庭づくりをはじめ、山林や公園の環境整備、市民教育の講師など、幅広く活動しています。
朝9時、稲村さんが参加者に工事手順を説明し、さあ、工事のスタートです。
まずは真っすぐな排水ルートを掘削するため、ユンボが動き始めました。稲村さん指導のもと、ワークショップ参加者が割栗石、燻炭、落ち葉などを「ネコ」と呼ばれる深型一輪車に積んで排水溝付近に運搬します。なかなかの力仕事ですが、なぜか足取りも軽く。

ワークショップ参加者らが割栗石をネコに積み込む
あっ、ユンボの動きが止まりました。溝の掘削が終わると、いよいよ土中の環境を意識した下地作業の始まりです。最初に稲村さんが手本を見せながら、竹炭・燻炭を撒いていきます。厚さは3㎝ほどでしょうか。

溝に竹炭・燻炭を敷き詰める
それが終わると、長さ約1mの焼き杭を使った杭打ちです。今回の施工では、杭を深く打ち込むことで、縦方向にも水や空気が動くきっかけをつくることを意図しています。同時に、杭の高さは、配管の勾配をきちんと出すための定規の役割も果たします。

炭化した焼き杭
「焼き杭で高さ調整をする。ホームセンターにも焼き杭は売っているけど、もう少し炭化させた方が良いかもしれない。ここまで炭化させたものを土中に打ち込むと微生物や菌糸が付きやすくなる。」(稲村さん)
次は、「グリグリ」と呼ばれる作業です。専用のバールを深さ30㎝ほど突き刺し、グリグリと動かして穴を開け、竹炭・燻炭を詰め込みます。

燻炭のあとはグリグリで穴(深さ約30㎝)を数カ所開ける
続いて割栗石を敷き詰める作業が待っています。割栗石は、水と空気が通る隙間をつくる大切な材料です。石同士を点と点で支え合わせることで強度を保ちながら、石の間に水や空気が通る隙間ができるように組んでいきます。稲村さんは、慣れた手つきで次から次へと厚さ5㎝ほどの割栗石を素早く並べていきます。

割栗石を敷いた上に落ち葉をかけ、石の隙間に差し込む
最後に落ち葉の出番。落ち葉を石の間に入れながら、参加者が丁寧に敷き込んでいきます。落ち葉や炭といった有機物を組み合わせることで、菌類や土壌生物が活動する環境をつくることも、この施工で意図していることの一つです。
この工程を繰り返しながら、一本の排水経路が少しずつ形になっていきます。結局、この日のメインとなる作業は、3時間ほどかかりました。ワークショップに参加された皆さん、お疲れさまでした。
その後は設備業者が排水管とブロア配管を接続し、勾配を調整。埋め戻しと仕上げを行い、この日の工事は無事完了しました。
雨水を「流す」から「受け止める」へ
なぜ今、土の中の水や空気の流れに目を向けるのでしょうか。稲村さんは、昨今の気候変動にも触れました。
「とくに最近は大雨とか多いじゃないですか。昔は雨どいとかないし、きれいな水をうまく地中に届けることができた。すべてが一体になっていたんです。しかし、今は各々の家庭で出た水を排水管から外へ流している。結局、大雨が降ると、それが集まって川が氾濫する。それをやっぱり戻していかないといけない。水を機械で浄化すればいいじゃないかというと、そういうわけではない。水が土の中を通り、菌など自然の力を使って浄化することが大切ではないでしょうか」
水をできるだけ早く敷地の外へ排出するのではなく、その土地で受け止め、土の中へ戻していく。雨水をただ「排水する」ものとして扱うのではなく、土地を潤す水として生かしていくという発想です。
もちろん、雨水をどのように扱うかは、地形や地質、周辺環境によって異なります。ただ、建物だけでなく、その土地に降った水がどこへ流れ、どこへ浸み込んでいくのかまで考えることは、これからの住まいづくりにとって大切な視点の一つではないでしょうか。
現在の土木では、安定性や効率性を確保するために、コンクリートなどの人工的な材料が多く使われています。一方、今回の工事では、石や炭、落ち葉など、自然にある素材を組み合わせながら、土の中の水や空気の流れにも目を向けています。
自然を固定したり制御したりするだけではなく、その変化を受け入れながら、もともと土地が持っている働きを生かしていく。自然環境と共生しながら、土地を健全に保っていく土木、と言ったほうが分かりやすいかもしれません。
住まいから始まるグリーンインフラ
今回の住宅を設計した綾部工務店の綾部孝司さんは、伝統構法による木の家づくりに長年取り組んできました。
「土には本来、一定の水分を保ちながら環境を整える力があります。しかし、土に人工物が入ることで水や空気の流れが遮られてしまう。そのため、周囲に水や空気がスムーズに流れる道をつくる必要があるんです」
こうした土の中の水や空気の流れに目を向ける取り組みを、雨水を地域でどう受け止めるかという、もう少し広い視点から考えてみましょう。その一つの手がかりになるのが「グリーンインフラ」という考え方です。
「雨水は排除するのではなく、活用する。それがグリーンインフラの考え方です」(綾部さん)

木の家設計室アトリエ椿の笠原由希さん(左)と綾部工務店の綾部孝司さん(右)
今回の浄化槽排水工事も、単なる設備工事ではありません。排水管を通すために掘った一本の経路を生かし、敷地全体の水の流れまで考えた取り組みです。
建物をつくるだけでなく、土地の環境にも目を向ける――。今回の現場は、そんな住まいづくりの可能性を感じさせてくれました。
雨が降れば土に浸み込み、土の中を水と空気が巡り、木や草が育つ。本来あった土地の働きを、一軒の住まいから少しずつ取り戻していく。その積み重ねが、大雨のときにも水を一気に外へ流さない土地をつくり、地域の防災にもつながっていきます。
住まいから始める、小さなグリーンインフラ。この考え方が、日本各地の住まいづくりへ広がっていくことを期待したいと思います。

工事終了後に整地した様子
文・取材:T.Y./編集:木の家ネット編集部